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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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 六層を抜けるとそこは七層だった。

 いや当たり前だが、目的の一つである七層にたどり着いた。メインミッションはこれで一つクリアだ。


 七層に入った俺を待ち受けていたのは大小複数のテントと屋台……屋台?


 そういえば、七層には持ち込み製造OKの焼肉屋台があるって話があったな。本当の事だったらしい。


 焼肉屋台以外にも野菜炒めの屋台があったり、ちょっとした縁日じみた風景が、サバンナの風景に見事にミスマッチしている。


「どうです? 妙な所でしょう? 」


 リーダーである新浜さんが案内をしてくれる。若干小柄だが、さっきの動きを見る感じ戦う事に向いてないとかそういう感じではないらしい。胸当てについている傷がこれまでの苦労を物語る。


 焼肉屋台を覗いてみると、ウルフ肉・ボア肉・オーク肉……オーク肉も選べるのか! ただお値段はかなりするな。財布の中身が少なめの今日の俺には厳しい出費になるな。自分で取れるときまでオアズケにしておこう。持ち込みでも良いらしいが、一応料金は取られる。いつか食ってみせるぞオーク肉。


 一つ、やたら大きいテントがある。テントと言うよりモンゴルのゲルに近いイメージか。


「あのやたらでかいテントは何でしょう? 」


 新浜さんが説明を添えてくれる。


「あれはダンジョン庁関係以外立ち入り禁止のテントです。ここは官民共同利用なので、あちらは官専用のテントになってます」

「なるほど。だからしっかり作ってあるんですね」


 目印としてもとても分かりやすい大きさになっている。一般人立ち入り禁止か。ぜひ中を拝見してみたいところだが。


「えぇ、周りの小さめのテントが各パーティーが各々好きな位置で建てる感じになってますが。それと一応この六層階段周辺、それと八層階段周辺は露店販売用の土地みたいになってるんです」

「階段周りは屋台用、ですか」

「たとえば、言ってしまえばウ〇コ用の処理用品が足りなくなった時用に、わざわざここまで持ち込んで観光地価格で販売してたりとか、水とか食品とか」


 富士山の八合目以降みたいなものか。しかし五百ミリリットル一本七百円はちょっとぼりすぎじゃないか。


「あ~、いざ来てみたらアレが足りないこれが足りないみたいな」

「それを狙った店もありますね。基本何でもそろいますが、それなりの金額になるとは覚悟しておけばいいですね」

「小西ダンジョンじゃこんな商売できないだろうなぁ」

「あ~……まぁ、清州の七層ぐらい栄えてるところは国内でもあと二つ三つぐらいじゃないでしょうか」


 人口密度が高くないと商売も成り立たない。むしろ良く人が来るところだからこそ成り立つということか。勉強になる。


「あったとしても高くつきそうですね」

「そんなわけで、パーティーメンバーを分けて内部宿泊班と買い出し班で分けて、わざわざ買い出しに行ったりもするんですよ。平田君が今回その担当で」

「それであんなに大荷物を」


 平田さんの背中の大荷物を確認する。多分半分ぐらいは水なのだろう。


「水は特に一番高くつきますからね。手洗うにも喉を潤すにも、水は必要不可欠です」

「水を運んで売るだけでそれなりの価格」

「帰りは嵩張るドロップ品を代理買い取りして、地上で査定換金するという一連の流れが出来てます」


 往復するだけで儲けを出す。商売の基本だな。


「それだけで商売が成り立ってるんですね」

「えぇ、商売人は本当によく考えていますよ」

「そんなわけで、商売で行ったり来たりするだけの探索者がたまに居るんですわ」

「それでもワイルドボアの群れを一人で捌ける腕と足と荷物を背負う能力があるって事ですからね」

「それはそうですが、その能力で探索したほうが稼げるのでは? 」


 ここで商売するためにDランクまで上げてわざわざ来てる根性には恐れ入る。これ、保管庫スキル使えば相当に稼げるな。やるつもりは今のところないが。


「それじゃ、適当なところを見繕ってテント張ってみようかと思います」

「適当な所と言わず、我々のテントの横でどうです」

「お邪魔じゃなければそこで」

「邪魔なもんですか。表面的とはいえ荷運びの手伝いしてもらったようなもんですし、一期一会とも言いますし。遠慮なさらずにどうぞ」


 スキルの都合上遠慮したいところだが、テントを張れば視線は切れるな。使えないことも無い。近くにご厄介になろう。


 新浜パーティーのテントへ移動する。四人用ぐらいのテントが二つ、それと一人用が一つ張られているようだ。一人用は新浜さんのだろうか。テントの前には【新浜軍団現在離席中。御用の方は六層階段まで】と書かれている。おいおい防犯的に全員留守にしていていいのか。


「一応官テントの中には正式な警察官も居りますので、何かあった場合にはすぐに駆け付けてくれるはずです。おかげで治安もそんなに悪くなくむしろ安全で」

「それにしても全員出向くのはちょっと安心しすぎかと」

「大丈夫ですよ。何かやらかしても逃げ場無いですし、周り全員屈強な探索者ですし。下手な事しでかすより正面からお願いするほうが手間もコストも省けるってもんです」

「そういうものなんですねぇ」

「そういうものなんですよ。お互い様精神を忘れないって事で」


 思った以上に七層の治安は良いらしい。一番治安が悪いのは俺の脳内だった。


「ははっ、この間も店主に金額が高すぎるって詰め寄ってた探索者がボコボコにされてましたよ」


 前言撤回。そこまで治安が良いわけでもなかった。義理人情のまかり通る世界だった。


「とりあえず、我々のテントへ行きましょう」

「手狭なところですが」

「お気軽にどうぞ」


 と、順番に挨拶されつつ何故だか丁重にもてなされている。そこまでの事をしたんだろうか。


「なんだかえらく歓迎されている気がするんですが」

「それはあれですわ、一部のファンの間では安村さん有名ですから」

「一部の……ファン……? 」

「御恥ずかしながら、私がファンでして」


 新浜さんが照れながら白状する。


「あそこまでスライム退治に熱意をかけられるその情熱。そしてあの速度。熊手を使って確実に核をつかみ取る正確さと技量と合理性。すごいとしか言えないですよ」

「私Dランクになったばっかの新人ですよ? 」

「ランクは関係ないんです! 大事なのは尊敬できるかどうかです! 」


 鼻息を荒くしながら新浜さんが語る。そこまで言う事か?


「ご質問があります。安村さんあの日だけでいくら稼ぎました? 」

「ろ、六万円ぐらい? 」


 熱意に押されてつい正直に金額を話してしまう。


「スライムだけでそんなに稼いだ事ある人他に居ませんよ絶対」

「そうなの……かなぁ」


 言われてみればそうかもしれない。スライムだけでそこまで稼げるならグレイウルフならもっと稼げるはずだからな。


「そうなのですよ。倒したモンスターの強さを競っても良いし、稼いだ金額を競っても良いなら、倒したモンスター数で競っても良いんです。競って勝てない相手には敬意をもって接するべきだと私は思っています。だから私にとって安村さんは尊敬するべき人なんです」


 押しが強い人だな。でも言ってる事はまっとうに聞こえる。


「えっと、ありがとうございます。素直に受け取っときます」

「ぜひそうしてください。我が家だと思ってテントも使ってください。あ、タオル要ります?平田君お茶入れてお茶」


 もう一回言おう、新浜さんの熱意に押されっぱなしだ。


「えーと、一応ソロキャンプの練習として来ているので、ほどほどでお願いします」

「解りました。何かあったらいつでもどうぞ。今日は荷物整理が終わったら半日休憩してから下層へ潜るので、その間はみんな居ますのでどうぞ使ってやってください。あ、平田君お茶はいいや。え、もう淹れた? じゃみんなで飲もう」


 いきなりお茶会が始まった。新浜さんは自分の興味ある事となると夢中になってしまうようだ。この人がリーダーで大丈夫なのか。


「あんなんですが、リーダーやってるだけの腕と素質はあるんですわ。ただ若干脱線傾向があるだけで」

「あんなん扱いするのもどうかと思いますが、納得しておきます」


 さて、大分脱線した気がするが、メインミッション第二部だ。自分のテントを立てよう。

 簡易テントをバッグから取り出し、放り投げる。テントは自立した。


 メインミッション第二部完!


 後は椅子立てて、中にエアクッション敷いて、テントの前に簡易バーナー置けばソロキャンプ目標の九割は達成だ。


 簡易バーナーの上にスキレットをのせて、火をつける準備は完璧だ。さて、時刻は……まだ昼の三時か。一日中明るいせいで時間感覚が失われるな。


 遅い昼飯でも作ってひと眠りするか、一段落したら疲れた気がしてきたぞ。


 簡易バーナーに火をつけてスキレットを上に乗せる。温まってきたところで、さっき手に入れたボア肉をいきなり焼き始める。弱火でトロトロ焼きでもいけるだろう。


 食あたりの心配が無いので、何ならレアで食ってやってもいいしな。その辺はダンジョン産食品ありがとうと言いたい。


 じっくり焼けていく音を聞いてゆっくりする。風も吹かなければ雨も降らないので、人が居なければ無音なんだろうな。余所のパーティーの会話や談笑が仄かに聞こえてくる。


 ……ゆったりとした時間だけが流れる。


「お、早速料理ですか」

「えぇ、落ち着いたらお腹空いてきたもんで」

「ボア肉のタタキ、なかなかいけますよ」

「タタキかぁ……半分ぐらいタタキにして食おうかな。あ、でも醤油ないや」

「こっちにありますからよろしければどうぞ」

「じゃ、お言葉に甘えます」


 ボア肉のタタキを半分食べて、残りはじっくり焼くことになった。まな板が無いのでスキレットの上で切り分けよう。


 次回はまな板を忘れないようにしよう。さすがに小盾の上で切り分けるわけにはいくまい。


 紙皿にラップを敷いてその上に切り分けたタタキをのせて、お隣で借りたお醤油をちょっと垂らす。


 更にミックススパイスを極少量振りかける。焼けた表面の熱が香りとともに鼻腔をくすぐる。


 何か急にキャンプらしくなってきたぞ。良い感じだ、良い感じに俺の世界に入り込んでいる。


 隣に借りたお醤油を返して、お礼にボア肉を一パック渡す。お礼にしては多すぎると言われたが、お世話になった量のほうが多いからと半ば押し付ける感じで置いてきた。今の俺にはもう一パックあるからな。


 今日の収入がゼロに近づいていくが、それよりも大事な経験値を今積んでいる最中なのだ。このぐらいは許容範囲だ。


 さて、タタキをいただこう。豚肉に近いものを生で食べるのはやはり少し抵抗があるが、食あたりの心配がないからとチャレンジする。何事も経験だ。


 生の食感と焼けた食感が同時に口の中に広がる。醤油の香りが良い感じに柔らかく包み込んでくれる。


 美味い。


 タタキを選択させてもらったのは正解だった。いくらでも入る。これで米があれば完ぺきだった。しかし今回米は置いてきた。パックの奴を持ってくればよかったな。ストイックにソロキャンプをする予定だったから、この場で肉を焼いて醤油まで借りてタタキを食すなんてことは完全に想定外だった。次回に生かそう。


 さて、タタキを味わっているうちに残りの肉が焼きあがってきた。ミックススパイスで味付けしてそのまま食う。


 こっちのほうがよりシンプルな食べ方だが、脂の感じがちょうどいい。スキレットに残った脂で野菜を炒めてしまおう。


 若干猫舌だから焼きたてを味わいづらいのがつらいところだが、その間に熱したスキレットにパック野菜を投入してワイルドボアの脂で下味付けをする。赤野菜と緑野菜で栄養バランスも完璧だ。


 じゃじゃっと一分程度炒めると、まとめてラップを敷いた皿に移す。よし、ワシワシ食うぞ。


 しかし、米を忘れたのは大きな失点だったな。今度忘れずに保管庫に入れておこう。


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 家にあるものは大体入れておけば良いんじゃ無いかな…。
[一言] まともな倫理観のある人間は「一般人立ち入り禁止」と政府関係が指定しているのを見ると「見てみたいけど諦めよう」となります。これが犯罪者予備軍だと「是非中を見てみたい」となります。好奇心は猫を殺…
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