959:そういえば、久しぶり、かも
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
家の近くのコンビニで必要そうな材料を追加購入、ついでにミルコのおやつも補充。店にある一通りのお菓子はミルコに提供した気がするので、今度は昔食べた中でリクエストがあれば応える、という形で聞いてみるのも有りか。
芽生さんは適当に雑誌をかごに放り込んでいる。多分俺の保管庫の中に入れておく奴を見繕っているんだろう。古い雑誌の整理も家に帰ったらやるか。もう読まないであろう雑誌を放り込んだままにされておくのも、悪いことではないが整理整頓はキッチリしないとな。
普段読んでる雑誌は最近買ったので、こち亀のコンビニ本で新しいのがないか確認。無かったのでパス。保管庫を眺めながらカップラーメンを選別するふり。最近は何かをしているふりをしながら保管庫を覗くという行為に慣れてきたと思う。何もない所に向かって指をスワイプしたり、という事も無くなった。
買う物は買った。材料は足りなければまた買いに来ればいい。梅干しも無事確保。余った分は……ミルコに食わせてみるのも面白いし、ガンテツが来ていたら酒の味変やつまみにもなるだろうし、使い所はある。リーンに食べさせるのはちょっとかわいそうかもしれないが、案外ハマるかもしれないな。こういう品物もあるんだよ、と見せてみるのもいいだろう。
買い物を済ませ家へ。二人そろって玄関に入る。
「ただいま」
「おかえりー」
真横からおかえりーと言われるが、悪い気はしない。そういえば、芽生さんが家に来るのは久々ではなかろうか。最近勉強だのダンジョンだのでしばらくいろんなものがお預けになっていただろうし、ゆっくりしていってもらおう。
まず、炊けたコメがないのでコメを炊く。せっかくワイバーン肉を味わうのだからコメも美味しいものを味わいたい。二合半ほど、ちょっと多めに炊こう。少なくて足りないよりは多めに炊いて余ったら明日、のほうがいい。
コメのセットをしたところで、早速料理に取り掛かる。が、出来るだけ調理時間とコメの炊ける時間は揃えておきたい。出来上がってすぐ保管庫に放り込むことでしっかり時間が経たず待っててくれるとは言え、出来立てを食べたいというのが本音であるし、コメを待たずして食事に入り米の炊けるのをただじっと待つだけ、というこの微妙な空き時間で胃袋から要求されるコメの要求度合いを考えると辛いものがある。
というわけで、今の内に芽生さんが保管庫に放り込んでおいた雑誌を分類し、仕分ける作業に入る。なんだかんだで十冊放り込まれていたものを取り出す。ファッション雑誌が八冊、レディコミ雑誌が二冊。レディコミ雑誌はまだ読み切ってないらしくそのまま、ファッション雑誌は時期外れの物がほとんどだったらしくすべて撤去された。
代わりに新しい雑誌が四冊。これを放り込み、そのうち一冊は今から読むそうなのでそのまま渡しておく。仕分けた雑誌はゴミとして次の回収日に出そう。
良い感じに時間を消費したので早速調理に入る。まず、ワイバーン肉を塩水につけて保管庫経由で時間を経たせて柔らかくするいつもの行程を終えた後、ペースト状にした梅肉とネギ、醤油、みりん、ごま油を混ぜてとろみが出るまで頑張る。これを最後にかける調味料としておく。ワイバーン肉の片方に小麦粉をはたき、フライパンに油をしいて片面をまず中火で押さえつけながら数分焼き、その後弱火でじっくり焼き始める。
鶏肉を使う場合は皮目のほうを使ってじっくり焼いて、その時出た鶏油で揚げ焼き風にするのがレシピ通りになるらしいが今回はワイバーン肉。何分初めてのことなのでどのくらい脂が出るか、そしてその脂をどのぐらいまで取り去っていいのかは解らない。が、出てきた水分と脂分で結構はねる。
キッチンペーパーをそっと落し蓋代わりに乗せて、ハネ防止にしておく。このまま十分ぐらいじっくり焼くことで中のほとんどに火を通すのが目的らしい。しばらくはほっといていいな。
その間に付け合わせの野菜として、隣のIHを使って手で適当に千切ったキャベツをごま油と昆布とめんつゆで調味料を作り合わせたものを混ぜ合わせて炒めていく。キャベツばっかりで済まんね。うちのメイン野菜はキャベツと相場が決まっているんだ。でも美味しいから大丈夫だよ。
ざっくり混ぜ合わせて炒めて適当のキャベツが出来上がったところで皿に盛り付け、盛り付けた皿ごと一旦温かいまま保管庫へ。ここには後でワイバーンソテーを乗っける予定だ。それまで保管庫で温度を維持しておいてもらおう。
さて、キャベツを炒めている間にも肉のほうはじっくりと焼けていき、とてもいい匂いが漂い始めている。芽生さんのほうにも香りが漂い始めたのか、こちらを時々気にするような視線が通る。
俺はさっきからこの何とも言えない香りに加えて最初に作った調味液から漂ってくる梅とごま油の香りで早く作りたいし食べたいという気持ちでいっぱいだが、生の部分が残らないように注意しつつ、時々焼き加減を確認しながらフライパンを注視する。
おおよそ目的のぐらいまでは焼きあがったかな? というところでひっくり返し、焼き加減を確認する。どうやら狙い通り、片面はワイバーン肉自身の脂でパリパリに仕上がってくれたようで、目的の八割ぐらいはこれで達成された。後はこのままさらに中火で二分ほど焼いて両面を焼き切れば完成だ。
タイミングよく、炊飯器が米が炊けたと俺を盛大に呼んでいる。今日は完璧に近い調理が出来たと言えよう。
保管庫から皿を取り出すと、両面焼けたことが確認できたワイバーン肉をそのまま一枚ごとキャベツの上にそっと乗せ、梅肉ソースをかけていく。梅の香りが熱気から立ち上る湯気に紛れて鼻に届き、胃袋をグッと押し上げる。こっちの腹具合も充分であるらしい。
「ほぼできたぞー」
「はーい」
いそいそと本を片付けて椅子に座る芽生さん。炊き立ての米をどんぶりに入れて、本日のメインディッシュを並べる。箸とナイフ、フォークを添えると今日のご飯、パリパリワイバーンソテー梅肉ソースの完成である。
「切るのは自由? 」
「そのまま齧り付いても良いし、切ってワンクッションして食べるなり好きにすると良い」
「じゃー、せっかくですし一切れずつ行きますか」
芽生さんは一切れずつ行くらしい。俺は胃袋が辛抱溜まらん状態になっているのでそのまま豪快に一枚肉に齧り付く。
パリパリ具合が溜まらん。これが鶏の皮だったらもっといい感じだったのだろうが、ワイバーン肉でも似たような食感を作り出せるということが解った。これは今後ほかのワイバーン肉調理にも活かせるだろう。そして、梅のソースが口の中をすぼめ、すぼめられた口の中一杯にワイバーン肉の旨味が広がる。
いい、実に、いい。この梅干しの酸味とごま油の絡み具合もいい。実に美味しい一品が出来上がった。口の中にあふれるほどではないワイバーン肉の脂が逆に肉全体を引き締めているところもいい。口の中が幸せだ。
甘味、酸味、旨味、そしてほのかなネギの辛味。五味のうち四味が口の中でせめぎ合っている。大根おろしをプラスすればよりおいしくなったかもしれんな。大根の現物がないのが残念だが、次回は大根おろしもソースに混ぜ込んで更に美味しい一品に仕上げることが出来るだろう。
「んー、んー! んー!! 」
何を言っているか解らない相棒が向かいで呻いているが、表情からして美味いと言っているのが解る。そのまま一切れを飲み込んだ後、すぐに米。そしてそこに敷いたキャベツ。順番に味わってはんーんー唸っている。
「やっぱり出来立ては良いですねえ。毎回美味しいですが、今日も美味しいです」
「それは作った苦労が報われてうれしい一言だな」
「お肉もいっぱいありますし、お肉に見合うだけのお米もあります。なんて幸せなんでしょう」
「まあ、試験勉強お疲れ様って事で一つ、品目的には寂しいがお祝いみたいなもんだな」
できるだけ冷静に受け答えをしているが、正直俺も踊りだしたくなるうまさだ。ここ最近では一番の当たり料理だと言える。これはレシピを写しておいてローテーションに加えてやってもいいぐらいだ。毎回ワイバーンという訳にもいかないだろうから鶏肉かワイバーンで、と但し書きをつけてこの料理を記憶しておくことにしよう。
作るのに四十分かかったが、食べるのには十五分あれば充分だった。しかし、満足な十五分だった。今日の疲れをすべて吹き飛ばしてしまうような、そんな短いが幸せの時間は終わり、完食。ご飯も芽生さんが結構食べてしまった。それだけ食が進む料理だったんだろう。
満足してリビングに寝転がっている芽生さんを横目に片付けに入り、一通り終えたところで風呂を沸かす。
「入っていく? 」
「一緒に入ります? 久しぶりですし」
「じゃーそうするかな」
風呂が沸くまでネットニュースを見るなり本の続きを読むなりお互い必要だが好きなことをし、風呂が沸いたところでそのまま風呂へ。
「我が家のお風呂より広いから良いですねえ。私の部屋だとどうしても狭くて」
一足先に俺に身体を洗わせた芽生さんが一人湯船につかってのほほんとしている。あちこちしっかり洗わされて、ついでに堪能させてもらった後なので、俺も早く自分を洗ってのほほんとしたいところ。
「何層まであるんだろうな、小西ダンジョン」
ふと耳の後ろを洗いながら考える。声に出ていたようで、芽生さんがそれに反応した。
「なんですかー、年齢的にこれ以上深く潜るのが厳しくなってきたとかですか? 」
湯船の縁に腕を組んで髪の毛を濡らさないように頭にタオルを巻いてのんびりした口調で芽生さんから指摘が飛ぶ。
「いやな、ガンテツが新しいダンジョンを作ろうとしてるだろ? 当然一番深くまで作ってある小西ダンジョンをモデルケースにしてダンジョンの組み立てをするはずなんだ。そうなると、現在六十層付近まで出来上がってると仮定すると、ガンテツの新ダンジョンは三十層までは組み上げることが出来るようになるな、と。そこまで深い階層を設置して、見合うドロップ品のサンプルを紹介できたかと言えばそこまで高級品を見せられた、という訳じゃないんだよな。階層に見合ったドロップ品を出せなきゃダンジョンとしての魅力に欠けると思うんだよ」
「じゃあ次に会いに来た時用に高級品でも用意して待ってますか? 何がいいですかねえ。食べ物で高級品」
芽生さんが上を向きつつ考えている。メロン、マツタケ、トリュフ……とつぶやいている。マンゴーなんかも品質のいいものは高いし、生き物だが伊勢エビなんかもそれにあたるかもしれない。流石に生きたまま保管庫に入れることはできないので冷凍した物を保管庫経由で持ってくることになるだろうが、生もの系としてはアリだろう。海産物ならナマコ、アワビ、フカヒレ、更に思いついて熊の手なんかも有りか。
「こうしてやはり風呂に入って考えるのは大事だな。ダンジョン内で色々考えるよりいろんなものが思いつく。なんとか見合ったものを渡せそうな気がしてきた」
「それはよろしゅうございました。しかし、他のダンジョンが四十層行かない所で止まってるのを考えるとミルコ君には頭が上がりませんねえ」
「実際いつできるのか急かすつもりはないんだが、前に有ったろ、確か三十五層ぐらいにたどり着いたときに今一生懸命続きを作ってるってミルコが言ってたの」
「あぁ、ありましたねえ。あと打たせ湯ください。アレ気持ちいいので」
湯船の縁から体を離し、中心ぐらいに身体をセットしたので、保管庫の中に湯船の湯を吸い上げて天井近くから射出する。強さは自由落下よりチョイ強め。良い感じに放出された上からのジェットバスが芽生さんの肩を襲う。
「あー、あー、気持ちいい。セルフ打たせ湯良いですねえ。強さも良い感じで、ああ癒される」
「そんなに気持ちいいのなら銭湯に通うと良いぞ。ジェットバスもサウナもついてるし、たまに行くにはちょうどいいぞ」
「それも良いかもしれませんが、一番気持ちいいのが付いてませんからねえ」
俺の股間をニヤニヤしながら見る。こっちは芽生さんと風呂に入り始めた時から準備万端である。
「やらしい娘だな。そんなにいいのかこれが」
「良いですねえ。体力がほぼ無尽蔵なんじゃないかってぐらいあるのも良いところですし、最悪ドライフルーツでも食べて疲労回復して更に回数重ねられるのも悪くないですねえ」
「ほほう、つまり今夜の覚悟はできてるということだな」
「そのつもりで来ましたから。残弾のほうは大丈夫ですか? 途中で切れて買いに走る、なんてことはないですよね」
「そういうこともあろうかとさっき一箱補充しておいた。だから朝まででも大丈夫だぞ」
芽生さんの前に仁王立ちし、元気っぷりを披露する。芽生さんが息子をガッとつかむ。
「では今日は体力勝負と行きましょう。先に疲れたほうが負け、ということで」
「いいだろう、受けて立つ」
「もう立ってますけど」
「そっちはいいから」
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。