958:やはり、まだだった
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!で発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
あれからしばらく地図を描きこみながら内側を進んだ。回廊の内側はガーゴイルよりもリビングアーマーのほうがエンカウント率が高く、通路にもそこそこの量うろついているため暇な時間を作ることなく戦闘を行うことが出来ているのは悪くない。もっと戦闘経験というのを積み重ねてドロップに関する情報も集めなければ。
それにあの指輪。偶然ゲットできたのだろうが、あれから一時間ほど経ったが落ちた形跡はない。一応他のドロップ品を拾っても良いように範囲収納で確認してはいるが、鎧の破片を落とすばかりだ。
ちなみに鎧の破片だが、どうやら肩の部品が落ちてきているらしく、試しに休憩がてら確認したがどれも同じ形だった。破片だからと尖っていたり触って怪我をするような部分は無く、鎧の破片というよりは一部分というほうがより正確な例えだと言える。
だから何だと言えばそうなんだが、持ち歩いてもいいし肩に貼り付けて運んでも良いということが解り、リアクティブアーマー代わりに肩に貼り付けておいて、あえてそこを殴らせることで一発分のダメージを受け流しすることもできるだろうとは思った。
五十七層へ下りて四時間ほど。地図作りも兼ねているためそれほどペースは速くなく、戦果としては普段よりは少ない。その分の利益的なものは得ているのでそれでトントンとしておくべきところだろう。
「そろそろ戻るか。指輪は明日報告だな。今日はもうギルマス帰ってしまっているだろうし荷物だけ置いて立ち去ったとしても結局明日呼び出しを受けるのは目に見えてる。ちゃんと居る時に報告するということにしておこう」
「じゃー今日の収入はどうなりますか? 」
「午前中に頑張った分と、午後から拾ったポーションが……四本。これだけだな。普段からすれば少ないが、以後中々の収入になる可能性、というのはある」
保管庫から出したポーションを手にしながらプランプランと振り回して見せる。
「さすがに五十七層と五十五層の収入を比べてより多く、というのは難しいってことですかね」
「今すぐには、かな。まあマップの切り替わり……というか、三十三層から続く伝統作業だ。それに、五十三層からのインゴットだってまだ査定価格が決まっていない状態だ。保管庫に山ほど溜まってるのでこいつを吐き出して搬出する作業だってある。インゴットがいくらになるかは解らんが、精々高値で引き取って欲しいもんだな」
アルファ型やベータ型のドロップするインゴットもまだ値段が付いていない。そう言えば正式名称もついていない。インゴットはできるだけお高く引き取ってくれるのがこちらの望みだが、こいつがどこまで使いまわしのきく金属なのか、そもそも本当に金属なのかという情報すら出回っていない現状だ。
出来るだけ高く値段がついて欲しいというのはこちらの都合。今更これが数千円だろうと数万円だろうと大きく変わりはしないだろうが、あまりに高ければその素材を活かした製品というのが世に出回りにくくなるだろうし、安すぎれば芽生さんの機嫌が悪くなる。ちょうどいい金額ってのがどのあたりになるのかは予想がつかないな。
地図通りに戻り、地図がきちんと機能しているかどうかを確認作業をしながら戦闘もこなして順調に階段まで戻る。回廊まで一気に出たのでここから先は歩くだけで戻れる。もうちょっと戦闘しても良かったかなあとは思うものの、初回の戦闘ならこのぐらいだろうとも思っている。無理はする必要はない。地道に一歩ずつだ。
三十分ほどただひたすら歩いて五十六層への階段に着いた。流石に一回の探索では階段は見つからなかった。小部屋にある可能性もあるが、少なくとも回廊沿いには階段は無かったので細かい探索はまた次回だな。
「今日は初日だしあっさり目の終了でしたね」
「そんな日もある。毎回みっちりやるのも大事だが、今は階層の知識のほうが大事だ。一戦一戦調べていくことも今は経験値になる」
「ま、今日は今日で終わったので次に期待しましょう。次までに何か進展があればそれが一つありがたみって事で」
五十六層へ上がり、テントのある南側の集落まで戻った。時間は午後五時。いつもからすれば十分に早いが、ギリギリまで粘って探索する理由はそれほどなかったし、新しい階層で多少緊張していた面もある。精神的疲れがたまっているかもしれない。
そういう見えない疲れはゆっくり落ち着いてからじゃないと出てこないというのは経験論だが、査定を受けて振り込みが終わるまでが一仕事、と自分の中で区切りをつけておくことでそこまでは集中して仕事に向かえるので、ギルドに戻るまでお仕事気分をしっかりと続けることが出来る。
リヤカーをエレベーターに詰め込み一層へ移動しながら、午前中のドロップ品と午後のポーション分だけをリヤカーに載せる。ざっくり言って二人分合わせて一億ちょいといったところか。普段の半分程度の収入でしかない。
「うーん、悪い意味で普段の稼ぎに慣れてるおかげで少なく感じてしまうな。一人で全力で回ってる時よりも更に安くなりそうだ」
一人で全力を出して、茂君も無視すれば毎日一億、年間三百億稼ぐのも難しくないだけの稼ぎを得られるようになった。それに比べればそれほど気にするほどではない金額になってしまったな。
「二人で一億って考えるだけでも普通からすれば稼ぎすぎ、と言われるところでしょうね。そのうちポーションの買い取り価格も下がってしまうのでしょうか? 」
「この間のダンジョンタンブルウィードの種の件があるからな。一定以下のポーションについてはそうなるかもしれない。ただ、今のところここまでのポーションを取れるパーティーがそう多くないから心配はないんじゃないかな。少なくとも一年ぐらい……いや、でも最近なにかと予想が加速しがちだからな。次の次の価格改定ぐらいまでは大丈夫だとは思うよ」
「そういえばもうすぐ価格改定ですね。何か気がかりなものはありますか? 」
価格改定まで後一ヶ月ちょい。他の探索者にとっては金額一つとっても自分の懐に響くだろうから場合によってはギルドに罵声を、場合によっては称賛を送るような儀式の一つである。
「そうだなあ。カメレオンの革がもうちょっと安くなりそうなのと、トレントの実がどうなるかだなー。それ以外はちょっとわかんないかも。やっぱりB+ランクの素材はどういう基準で価値が決まっているかは真中長官の手元にしかデータはないだろうし、あの人次第って事だね。今のところこっちにはこの素材を取ってきて欲しいという要求もないし、あればあるだけ供給する楽しみはあるけど俺達だけでは限度もあるしな。業界全体が盛り上がるような素材は今のところ……思い浮かばんな。何処でどういう企業がどうつながってるかを把握するのは俺の脳みそでは難しい」
個人的に気になるのはダーククロウとスノーオウルの羽根ぐらいだ。ダーククロウはあれ以来供給が増えたのだろうか。スノーオウルは……前回はめいっぱい下がったけど今回も下がるんだろうか。俺がそれなりに供給してるつもりではある。中々需要に追い付かない所もあるが、値上げしたから供給が増える品物でもない。ここは両方とも据え置き価格というところではないだろうか。
あれこれドロップ品を見比べたり雑誌のドロップ品批評や紹介欄を見たりしながら社会的な需要等について意見を交わし合ってる間に一層に着いた。
退ダン手続きをして査定カウンターへ。査定カウンターで念のため、青魔結晶について尋ねる。
「これって査定してますかね? 」
「これは……まだ見たことない品物ですね。同じ色の魔結晶でエルダートレントの魔結晶なら査定は行ってますがそれ以外のモンスターのものとなると、ギルド側で検証と金額の決定が必要になると思います。即日査定を行う、というのは難しいですので申し訳ありません、今日のところは査定拒否という形を取らさせてもらっていいですか? 」
「解りました。では正式な手順で鑑定と検証をお願いにあがることにします」
「お手数ですがよろしくお願いします」
こういうやり取りにはまだ慣れていない……というか今日の担当としてはこういう事態は初めてのはずだが、解らないものは査定拒否で後日相談、という流れがマニュアルとして備わっているのは正しい流れだと思うので嫌に思うところもない、むしろちゃんと対応できていてヨシ、とさえ思う。
魔結晶をしまい込んでそれ以外の査定できる品物だけを査定してもらい、二分割にして金額を出してもらう。今日のお賃金、六千四百十五万二千円。それと、査定金額の決まっていない青い魔結晶が大小合計で百二十個ほど。これもちゃんと査定してもらえばそれなりの価格になるだろう。インゴットもまだだし、保管庫内部の資産はそれなりにある。そろそろ査定開始して欲しいものである。
着替え終わってきた芽生さんにレシートを渡す。
「意外と良い金額になりましたね」
「ポーションが良く落ちたからかな。ドロップ率を考えると、更に次のマップからはまた新しいポーションに切り替わるんだと思うよ」
「普段通りだとそんな感じですね。ポーションの切り替わりで一気に収入が増えますから楽しみです」
支払いカウンターで振り込みを選択。今回は支払先を聞かれなかったので、もう新しい口座に切り替え終わっているんだろうと見込みをつけておく。念のために次回の休みには忘れずに通帳記帳に行くことにしよう。
ここで、仕事時間終わり。ふぅ、と一息つくといつもの冷たいお水をもらって頭の芯から冷やすことで仕事とプライベートの切り替えを行う。はぁ……と悩ましいため息とともに体の熱い空気が表面から取り去られて行き、喉の奥のから飲み込んだばかりの冷えた水の帯びていた空気が漏れ出す。今日も一日頑張った。
「さて、明日の俺のお仕事は青魔結晶の相談とドロップ品の鑑定願い、特に指輪だな。これの効能を知りたい」
「直接南城さんに聞くってのはだめなんですかね? 」
それも手の一つだとは考えているが、それを一回やると今後頼りっぱなしになる、という未来が見えているからな。ちょっとそれは横にどけておこう。
「うーん、そこまで親しい関係というわけでもないし、緊急の用件ということでもない、それで一方的にスキルを有効活用させてくれ、って言いだすのはすこし失礼が過ぎると思うんだよね。なのでダンジョン庁経由でダンジョンの新しい装備品らしきものが見つかったが、ドロップしたモンスターがモンスターなので迂闊に装備して試すこともできないから鑑定をお願いできないか……という流れで持っていったほうが幾分かスムーズに話を持っていけると思うんだ。話の流れはギルマスにも説明して、お願いするって感じにしようと思う。うん、なんとなく流れが見えてきた。これでいこう」
「どうせ最深層です、お金になるならなるでそれまでの金額に大きく差が出るでしょうから長い目で見ることにしますか」
「緊急で必要になりそうなアイテムだったらその限りではないかもしれないけどね。例えばこの後ボス戦するために指輪がないと部屋に入れないとか。そういうアイテムだった場合困るけど、そこまで到達するまでにはもう一回ぐらい出るでしょ。念のため指輪のデザインの画像を撮影しておくか」
指輪を椅子の上に置いてスマホでパシャリ。現物のデザインをよく観察しておく。指輪は完全な輪ではなく、少しねじった金属が指の上に当たる部分で緩やかにクロスするようなデザイン。おそらく、指にはめた時点でここがするすると締まっていってジャストサイズになるんだろうな。そういうファンタジークオリティであってほしい。
撮影を済ませてギルドを出ると丁度帰りのバス。二人並んで乗って駅まで帰る。
「さて、この後の予定は? 」
「今日は何にも。なので久しぶりにお邪魔して夕食をご馳走になろうかなと」
「ふむ……リクエストは? 」
「そうですねえ……せっかくガーゴイルと戦ったんですから鶏肉が良いですねえ。鶏肉が無ければワイバーンでも良いですよ」
「価格にえらく差があるが、元値がタダか店で買うかの違いだな。何作ろうかな。毎回揚げ物では味気がないし、ワイバーンステーキというのも悪くないが単純だな。道中考えながら行こう」
月刊探索ライフを取り出し、料理欄で鶏肉、というよりワイバーン肉で代用できそうな料理を色々探す。駅まで悩んだ結果、パリパリに出来るかどうかは解らないがワイバーン肉のソテーに梅肉ソースを加えたもの、ということになった。確か家に梅干しは無かったはずだから、小さいパックかカリカリ梅をコンビニで買って代用物としないとな。
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