957:五十七層 3/3 謎の指輪
ダンジョンで潮干狩りを
Renta!発売中です。是非とも続刊のためにもご購入のほうよろしくお願いします。
「ぐるっと回る前にちょっと休憩兼ねて地図を描き直したい。少し時間貰っていいかな」
「良いですよー、内側がどうなってるかはまだ解らないですし、覚悟を決める意味でも大事ですから」
少し時間をもらい、地図を描きなおすことにした。外周を一周ぐるりと回る形になったこの五十七層の地図の外周を綺麗に描き直し、解っている小部屋は小さめに描いて、後から色々詰め込んで書き込めるように工夫しておく。
芽生さんにはその間にドライフルーツとコーヒーとおやつをいくつか渡しておき、充分にリラックスしてもらっておく。何処でも机と椅子が出せるのはこの際とても良い点だな。机の上で落ち着いて地図の描き直しが出来る。
描きこまれた小部屋よりも内側の通路のほうが大きく描かれる可能性はあるが、最終的に綺麗に描きなおす予定なのでこれが第二段階の地図ということになる。ここから更に内側へ入っていって、内側がどうグネグネしているかまでは解らないが、とりあえず描くスペースを多めに取っての白地図が出来上がった。
前の地図は前の地図としてちゃんと残しておく。バージョンが古いからと言ってむやみに却下するのはまだ早い。もしかすると回廊の内側の難解さによっては更に一から描きなおす羽目になるかもしれないしな。
芽生さんがしっかりと休憩が取れたのか、立ち上がって伸びをし始めた。そろそろこっちも書き写し終わる。もうちょっと……よし、終わり。
「こっちは終わったよ。そっちは準備万端みたいだな」
「ゆっくり休めましたからね。さあもう半周分ぐらいの地図埋めに向かいましょうか」
お互いの準備を確認したところでさっきと同じ方向に進む。逆順に回っても良かったが、逆順に回る意味がそれほど見いだせなかったのでまた東西で言う所の東側へ向かって進む。
途中の小部屋にはモンスターが居ることが解っているし、時間も経ったから湧き直している。今日にはならずとも今後の収入にはなる。きっちり各部屋回収して回ろう。
「青魔結晶、それなりの値段が付くと良いんですけどね」
「次回も回る時は午前中に五十五層でみっちり稼いで午後から五十七層以降へ行く、という形にしよう。奥へ向かうだけなので収入がポーションしかありませんではちょっと張り合いもないしな」
小部屋をいくつか越えた後、最初の三叉路にたどり着く。ここを曲がり、北方向へ向かう。
「なんか迷宮マップや花園マップを思い出すな。外壁のテクスチャだけ交換したらそのまま地図が同じものだったりしないよな? 」
「外壁階段スタートってパターンがそんなに多くなかったですから、可能性は低いんじゃないですかね。それに階段の幅も違いましたし」
「折れ曲がっても道幅が変わらないのも似てると言えば似てるんだが……と、この先敵か」
折れ曲がって少し進んだところに反応。どうやら回廊の内側では道すがらにもモンスターが湧いているらしい。反応からしてガーゴイルでは無さそうだ。
どうやら肉眼で確認できる範囲だと、リビングアーマーが巡回中のようである。上手い事こっちへ来てくれたら楽が出来るんだが……と、しばらく待つとどうやらこっちを見つけたようで反応が赤に変わった。
「来るぞ」
「どうぞ」
見えているリビングアーマーは三体。一体を動かないようにしたいところだが、三体同時に来そうで難しい。これは一体を確実に動きを止めさせるかどうにかしないとどこかで一対二になるな。そう考えていたら芽生さんが一体の足をウォーターカッターで切り落とした。その場に転がるリビングアーマー。これで時間稼ぎになったな、ナイスタイミングだ。
そのまま一対一で向かい合う姿勢になったので、全力雷撃一発目で足が鈍るかの反応を見る。二発で完全に消し飛ばせたが、一発ではどうか。一発雷撃を受けた俺の相手になるリビングアーマーは勢いを殺すことなくそのまま立ち向かってきたので雷切で対応。相手の突きではなく薙ぎ払いの槍を雷切で受け止めるとそのままガキッという重さと手ごたえ。どうやら雷切で切断できるようなものではないらしい。
しかし、雷切で触れていると言うことはそのまま雷撃が相手に伝わるということでもあるので、その姿勢のままゼロ距離で二発目の全力雷撃をお見舞いする。見事に感電していった結果、黒い粒子に還った。どうやらスタン攻撃は無効化されるらしいという新しい知識を得る。スタンさせるなら芽生さんみたいに足だけ吹き飛ばす必要があるらしい。
足を吹き飛ばされたリビングアーマーは飛ばされた足のほうに向かっていて、こちらを見ていない。背中から雷撃をお見舞いしてそのまま近づき、近接戦闘。雷切で頭を吹き飛ばすと鎧の内部に雷切を差し込んでそこで全力雷撃をお見舞い。空っぽの鎧だが、鎧の外側からと内側から、区別がつくのかどうかは解らないが雷撃で焼き尽くされた鎧は飛び散る雷と共に霧散していった。
二体倒す間に芽生さんも難なく倒したようで、戦闘は終了。魔結晶を拾い上げて一区切り。
「鎧の内側と外側、もし当たり判定に違いがあるなら内側に何かあるってことになるよな……まだまだ調べることは多い」
「少なくとも鎧をかぶっているかどうかの判断は出来るんでしょうけど、頭吹き飛ばされても気にせず突っ込んできたことを考えると、目は鎧についてるんでしょうね」
「解らないことが多いな。いっその事魔素の塊でつながってるようなエフェクトが発生してくれていたらもうちょっと解りやすいだろうに。これはモンスター作りの手抜きだな」
ダンジョンに不満を述べつつも次へ進む。次の三叉路をそのまま左折すると多分、西側一本目の道へつながっているような気がする。なのでつながっているものと仮定してそのまま直進、少し進んで横にある小部屋へ。
小部屋の中にはまたリビングアーマーが二体居たので倒す。今回は外からの雷撃を無しにして近接で頭を切り飛ばすと、内側に全力雷撃をお見舞いして反応を見る。すると鎧の中から黒い粒子が噴き出し、一発で倒すことが出来た。やはり鎧の内側と外側では明確に受けるダメージ量がスキルであっても違いがあるらしい。
「空っぽなのに受けるダメージ量に差か。これがこのモンスターの特性ということにしておこう……ん? 」
ふと足元を見ると、魔結晶以外に指輪が落ちていることに気づく。
「宝箱が仕込まれてた……とかはないよな。だとするとこれもドロップ品か」
「指輪ですか、シンプルですね。はめたら何か効果があるんでしょうかね? 」
「今のところ解らん。もしかすると自分がリビングアーマーになってしまう指輪、とかかもしれないし、とりあえず保管庫に入れて見て……ダメだったわ」
保管庫に入れてみた結果の表示。
謎の指輪 (リビングアーマーから) × 一
と表示されていた。謎は謎。それ以上でもそれ以下でもない。例えばこれが既に既知のドロップ品であり、効果が何かが解っていれば解釈のしようもあったんだろうが、どうやらこれを拾った、という集合知は存在しないようだ。
そして、括弧書きでリビングアーマーから、と書かれていると言うことは、他のモンスターからも指輪がドロップする可能性があるんじゃないだろうか、もしくは俺が無意識に誰が出したかを認知しているかどうか、どちらかだろう。前者であると面白みがあるな。
「とりあえず保管庫に入れておいて、明日ギルマスと相談することにしよう。ギルマス……ギルマスじゃなくても、猛寅会の南城さんに画像を渡して画像越しに鑑定できるかどうかを正式に依頼して、ダメなら現物の鑑定依頼、ってのでもいいな」
「なるほど、【鑑定】の力を使わせてもらうってことですか。未知の指輪でしょうし、南城さんも興味を持つかもしれませんね」
「とりあえずこれがどのぐらいのドロップ率なのかも知りたい。リビングアーマーをよく狩って調べる必要があるな」
もしかしたら相当幸運なドロップだったかもしれない。二個目が落ちるまでに間隔が開くかもしれないし、もしかしたら平均的なドロップ品がこれになるのかはまだ定かではない。もっと回数通ってしっかり調査していこう。
◇◆◇◆◇◆◇
どうやら回廊の内側はガーゴイルとリビングアーマーが同数か、リビングアーマーのほうが数が多いぐらいの出現数になっているらしい。ガーゴイルだけを集中して倒したい場合は回廊をうろつき、リビングアーマーを倒したいときは内側に入り込む、とある程度モンスターの種類を絞り込めるようになっているようだ。
「結構うろついてるなあ。回廊からは見えないけど警備は中々厳重ってところかな」
「宝物殿とかあるかもしれませんね。尤も窃盗できるかどうかはまた別の話ですが」
「金貨とか拾って帰ってもギルド税はかかるんだろうな。そもそもダンジョン庁で買い取ってくれるのか? 文化財として接収されそうな気がするが」
こっちの文化のものではないから、こちら側で入手できる貴重なあっちの文化財である。金貨だからと言って鋳潰して金の価格で流通させるということも可能だろうがそれは多分あの長官が許さないだろう。絶対にノーを突き付けてくる気しかしない。
「そういえば、廃墟マップでポツリと言われた「よく探してみるといいよ」ってミルコの言葉は何だったんだろうな」
「天井のクイーンスパイダーの事だったんじゃないんですかね。足元ばかり見てないで上を見てごらんよ、的な意味で」
天井を見上げてみる。ちょっとした彫り物まで施されていた。これでフレスコ画なんかが飾ってあったらまたコストが高いことになっていただろうし、地図にも目印がつけやすくて良かっただろう。
「もしかしたら気づかない所にひっそり宝箱なんかが設置されてたりはしないんだろうか」
「だとしたらBランクが解放されたころに一騒ぎあったでしょうから、やっぱり宝箱的なギミックはないのかもしれませんよ」
それもそうだな。それなら俺の耳にも入っているはずだ。実際にはそういうものはない、というのが現有のダンジョンの形なのだろう。もしかしたら今後新しいダンジョンが出来た時に宝箱や罠なんかのギミックが追加されるようになる可能性はある。ガンテツ達が作り上げていく未来のダンジョンに期待しておこう。
「しかし、宝箱か。出てきたとして何が入ってるのかは気がかりではあるな。装備か消耗品か。装備品だとどういう物が出てくるのか。考えるだけでも楽しいな。消耗品ならサクッと売れてお金になるし、武具なら切れ味がいいか、機動性を阻害しない範囲で持ち運べるような……小手とか盾とかそういうものになるだろうな。あまり大物はそれだけ宝箱も大きくなるだろうし、もしかしたら保管庫みたいなシステムで取り出すときだけ大きくなる可能性もあるが……あぁ、やっぱ宝箱見たかったな。見れないのは残念だ」
うーん……なかなかうまく行かないもんだな。見たかった。出来れば開けたかった。でもミミックとかも設置されてる可能性もあるんだから、そういう探索者に不利になるギミックは設置してないはずだな。だから宝箱が仮にここまでの探索で設置されていたとしても不思議はない、ということにもなるが、後付け機能や限定イベントなんかの処理で上手くやってくれる可能性もある。
ここまでにそういう機能がついてなかったということはミルコもそのつもりはないってことなんだろうな。
「希少ドロップは宝箱みたいなもんでしょうから今のところはそれで納得しておきましょうよ。とりあえずさっきの指輪は宝箱から出たつもりで受け取っておく……もしくは、宝箱から出たという欺瞞情報を撒いておくというのも良いかもしれませんよ」
「さすがに嘘をついてまでってのはな……ドロップはドロップということでちゃんと報告しておこう。その上でこれがどんな装備品かを確認する。今まで剣や槍はあったが指輪ってのはここにきて新しい装備品だからな。装備したら外せない可能性があることも考えて慎重に見る必要がある。それに、この指輪の大きさ。明らかに俺達の指よりも大きい。これは装着した時点でその指のサイズに最適化する可能性が高いと思う。なら、今下手に装備して謎の効果が付くよりは、ちゃんと鑑定してもらうなり試験してもらうなりしてその上で判断しよう」
「それが安心ですかねえ。どうせお金になるまで時間がかかるでしょうし、指は九本ありますから指輪は付け放題ですよ」
……九本?
「指は十本あると思うんだが? 」
「最後の一本は大事な指輪を贈ってもらう予定ですからそこは空けておかないと。期待してますよ? 」
にっこり笑う芽生さんだが、目は笑っていなかった。
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