955:五十七層 1/3 ガーゴイル
ダンジョンで潮干狩りを
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階段を下り切ると、そこは大理石のようなものでできた白く広場のようなところへ出た。エントランスホールにしても広めにとられていて、階段を下り切ったら部屋に出た、というほうがイメージに近い気がする。この階段のある部屋自体はかなりの広さを持つ。良い感じのエントランスだ。
階段前だからこの広さなのか、マップ自体がかなりの広さを持っているかどうかはまだ不明だ。もしかしたら階段自体も部屋の一部分ではなく、マップ隅の壁に埋まっている可能性もある。色々と巡ってみないとそこまでは解らないか。
白い壁の部屋に白い柱が何本か並び、部屋全体を支えているというイメージだ。このマップは……神殿か何かか? それとも城か何かか。マップ名を一言で表現するのは難しいな。もっと色々回ってから何マップだ、という言い方を考えることにしよう。高橋さん達に出会った時に口裏を合わせておく、というのでもいい。
「はー、なんかお城みたいですねえ」
「西洋の城ってイメージは解るが、実際に外側から見てもこんな白い城はないだろうな。大理石って酸性雨に弱いらしいし、内装だけ誂えてあるって方がしっくりくるな」
階段を下り切り、索敵。この部屋の中にはモンスターは居ない。居るとすれば部屋の外だな。
うーん、マップの描き始めに悩むな。端っこに描くか、それとも中央スタートにするか。とりあえず中央スタートにしておこう。問題が発生したら後で描き直してしまえばいい。
「とりあえず部屋から出ますかね。部屋には危険が無さそうですし」
「そうだな。とりあえず出るか。迷宮マップ程入り組んでないことを祈ろう」
天井はそれなりに高いのでドローンを飛ばすことも可能だが、ドローンを飛ばしたところで地図の全体が解るわけでもないのでこのマップでは出番はないだろう。そのままそっと保管庫に仕舞っておき、次の出番が来るまで眠っていてもらおう。
部屋には二カ所の出入口がある。それぞれ地図上で言う所の東西に当たる。さてどっちへ行くかは決まっている。
「ということでよろしく」
「解りました。ここは東へ行きましょう」
道案内は芽生さんに任せた方がうまく行く。それをしっかり学んでいる我々に迷う必要はない。東へ移動した後、道なりに真っ直ぐ行く。道すがらにはいつものよく解らない照明と共に大理石によって反射された光りに彩られ、暗い道を行く必要がないらしい。
少し進んで最初の小部屋を横に見て、小部屋の中を探索する。
「何も居ませんね。小部屋だからか、何か像が置いてありますよ」
小部屋の装飾かと見間違う程度に鳥のような形をした彫像が一対、向かい合うように置かれている。
「第三の目でよく見ろ、あれモンスターだ。よくあるガーゴイルって奴だろうな」
「第三の目……あぁそういうことですか。確かにそうですね、動きそうにないけど反応があります。近づいたら動き出すってところですかね? 」
索敵で再確認した芽生さんが納得している。確かに見た目は鳥の彫像だが、索敵にはしっかりと黄色い反応が見て取れている。これはモンスターだ。
「近づくと見た目も石から肉体に変わって動き出すんだろう。ところで台座に攻撃判定はあるのかな。それとも倒したら台座ごと消えるのか、それとも台座は固定オブジェクトでそこに必ず湧くのか……色々考えられるが、とりあえず遠距離から動き出す前に殴りつけて見て反応を試そう……それ」
試しにゴブ剣を射出してみると、ゴブ剣は石像の上半身を貫いてそのまま向こう側の壁まで突き抜けていった。どうやら石化してても固いわけではないらしい。
「ふむ、射出で対応可能、と。どうやら見た目ほど固くはないようだぞ。近づいて反応したら色が変わって、それからじゃないと攻撃が効かないようなギミックもないらしい。素直でいい子だ」
もう一体のほうはまだその場で動かずにいる。どうやら自分自身が攻撃の対象にならない限り動き出す気配はないらしい。
「じゃあもう片方は私が……えいえい」
かわいらしくえいえいと声をかけているが、ウォーターカッターを複数枚一気に打ち出して一気に倒すつもりでいるらしい。ガーゴイルにその複数枚が一気に刺さり、ガーゴイルは声を上げる。
「grrrrr」
「鳴き声は可愛くないな」
「もう一回ですかね」
追加攻撃が必要と、三重化された【水魔法】スキルで圧縮した水の弾がガーゴイルの額に穴をあける。ガーゴイルも頭部に穴が開くと致命傷らしく、そのまま黒い粒子に還った。
「他にモンスター反応は……無しですかね。っと、台座も消えていきますよ」
「台座込みでのモンスターか。次は台座に攻撃をしてダメージが有るかを確認してみないとな」
台座ごと出現するが台座は動く気配を見せなかった、というより動くようなそぶりを見せるスキを与えなかった。完勝なので次回の出現に期待するところ大である。
ドロップは青い魔結晶を落としていった。エルダートレントが落とした物と比べて小さい。これが最小の青魔結晶ということになるんだろう。中に封じ込められている魔力はどれだけ発電に寄与することになるのだろうか。
「もっとデータが必要ですね。五百ぐらい倒して何を落とすか確認、ってところでしょう」
「数体倒したところで出るドロップ品なんて知れてるだろうし、ガーゴイルが落としてくれるようなドロップ品、ちょっと気にはなるがイメージが浮かばないな。それにしても、三重化スキルで追加攻撃が必要になったってことはそれだけタフなのか、それとも【魔法耐性】を持っているかどっちなんだろう? 」
「仮に【魔法耐性】を持っていたとしても、スキルで押し切れることは解ったので数が少ない内は問題にならないんじゃないかと思いますね」
とりあえずの第一戦力評価をしたところで次へ行くことにした。まだ部屋二つ分しか進んでいない。マップ全体は結構な広さになりそうな気がする。ここは結構苦労しそうだな。
道へ戻ってまた前へ進む。ずらっと並ぶ電灯みたいなものとひたすら続く壁、そして時々ある小部屋と横道。どうやら、本当にマップの端っこからスタートしたようだ。やっぱり端っこから描き始めるべきだったかなあ。
ガーゴイル二戦目。また小部屋に入り、台座の上にガーゴイルが一対座り込んでいるのを確認すると、今度は俺の雷撃でどれだけ耐えられるのかを試験する。全力雷撃二発。ガーゴイルはまだ生きている。どうやら【魔法耐性】の有無にかかわらず体力は相当あることが窺える。もしくはよほど耐性が高くて実際にはそんなに強くないのか。
とりあえずのスキル勝負は三発目の全力雷撃で決まった。微妙に動き出したガーゴイルは俺に襲い掛かろうと距離のある所から腕を振りかぶってこちらへ向かっていたが、その行き先がないまま黒い粒子へ還っていく。
「残り一体、さて、近接で処理するかどうするか。雷切じゃなくて直刀で試してみるか。雷切だとスキル効果だけと判断されるかもしれない。純粋に斬れるかどうかを試しておきたいところだ」
「久しぶりに使いますねそれ。久しぶり過ぎて自分の足斬ったりしないようにお願いしますね」
「さすがにそれは……ないと、思う」
試しにブンブン振り回して重心の感覚を思い出す。うん、大丈夫だ、体が忘れてない。しっかりと直刀を握りなおすとガーゴイルにゆっくり近づく。
ある距離まで来るとガーゴイルの肌の色が白から緑色に変色し始める。そして動き出したガーゴイルの腕が俺に向かって振りかぶられ、その腕を直刀で受け止める。カチィン、という音を響かせて爪とこちらの直刀がぶつかり合う。爪との固さでは同等、ということか。
そのままくるりと直刀を回転させながら爪の間から直刀を引き抜くと引き抜く力をそのまま利用し円運動に従い自分ごと回ってガーゴイルの胴体を斬りに行く。そのまま密着状態を維持していたにもかかわらず、刃は浅く入った。やはり階層なりに固い、か。純粋に直刀で切り落とすのは難しいと判断し、雷を纏わせ雷切状態にする。
魔法耐性はそれなりにあるが物理耐性もまた高い。具体的に数値化出来るわけではないが、元石像であるだけのことはある。さて次はどう来るかな。
ガーゴイルはダメージに怯んだか、それとも考え直したか、一旦距離を取る姿勢に入った。むやみやたらに殴りに来ないという思考をしてるあたりも、少し他のモンスターと動きが違うなと感じる。これならさっさとスキルで終わらせばよかったか。
ただ、スキルで終わらせるには何となく惜しい気がするし、スキルを温存したい場面が出てくるかもしれないのであくまで近接戦闘、物理戦闘としての戦闘評価は必要だ。と、ここまで戦ってみてから気づく。この戦闘、録画してもらえばよかった。
芽生さんのほうをちらっと見ると、こちらにスマホを構えている。流石相棒、戦闘シーンを押さえていてくれたか。最初からかどうかは解らないが、戦闘シーンを存分に録画しておいてもらおう。一応必要なはずのデータだ。
再びガーゴイルの爪との斬り合いになるが、こっちは雷切に変更した分で相手の防御力を貫通し、ざっくりと爪を通り越して腕も斬り飛ばす。そのままのスピードを活かしてまたぐるりと回り首を刎ねる。雷切にした分だけ鋭くなった刃は先ほどの手ごたえも無く、あっさりと切り落とすことが出来た。ガーゴイルは黒い粒子になって消えた。ドロップは魔結晶のみ。
「録画完了っと。手ごたえのほうはどうでしたか」
「物理でダメージを与えるのはなかなか厳しいな。どっちの耐性持ちかと言われたら判断に困る。純粋に最近使ってなかった分、直刀で上手く切り結べなかった点もある。次は最初から最後まで雷切で対応して反応を見よう」
「なかなかいい勝負をしていたと思いますよ。ただ、無駄に体力を浪費したと言えばそうかもしれませんねえ」
「気楽に行くにはスキル任せ……いやでも殴りに行った方が時間短縮にはなるかもしれないな。まだ悩む所だな。もっと回数を重ねて楽な方法を探していこう」
まだ四体。データが少なすぎる。もっとうろうろして回数を重ねていこう。小部屋を出て再び長い廊下へと歩み出す。
次の小部屋は三体のガーゴイルがそれぞれ中心を見合う形で鎮座していた。これはうっかり入り込むと三体同時に相手しなくちゃいけない奴だな。
「どうします? まとめて三体相手にします? 」
「まだ早い、かな。動き方を考えて同時に二体起動させてそれぞれ一対一に持ち込んで、余った分を先に手が空いた方が相手、という形で行こう」
「そうしますか。ではよいしょっと」
芽生さんがウォーター……バレット、だな。圧縮して弾丸化させた水をガーゴイルに向かって発射したのを合図にして同時にこちらも雷撃。ガーゴイルをおびき寄せる。どうやら他の仲間が戦っていても戦闘範囲に入らない限り動き出す事はないらしい。
一対一の間に乱入されたら面倒だと考えていたが、そういう訳ではないようだ。仲間意識の薄いモンスターなんだな。
雷切でスッパリと爪ごと切り落としてそのまま本体も袈裟懸けにする。芽生さんのほうも追撃の槍一突きで倒し、残り一体。図らずも同時になった。
「じゃあ俺撮影係やりまーす」
「じゃあ私戦いまーす。じっくり戦ってデータとして残るようなものにしましょう」
芽生さん撮影開始。早速全速力で近寄る芽生さんにガーゴイルが反応、色が変わり切る前に芽生さんが両腕を切断。ここまでおよそ三秒。おそらく槍には【水魔法】による薄く圧縮された刃を纏っているのだろう。切れ味が明らかに普通の槍じゃないし下手すれば俺の雷切よりよく切れるかもしれない。
両腕を落とされ黒い粒子を噴き出しながら、頭上へ逃げようとするガーゴイルにウォーターカッターで翼の片方を切り飛ばし、地面に落下させるとそのまま垂直に槍を突き刺して首を突き破る形で止めを刺した。ガーゴイルが完全に黒い粒子に変わってドロップ品が落ちるのを待って撮影終了。
「早かったなあ」
「一応既に一例近接戦闘を見てますからね。もっと手早くやろうと思ったら一気に胴体か首に風穴を開けるのが早いとは思いましたが、それではあまりに見せ場がないんで切り落とす順番について少し考えてました」
「次はガーゴイルの攻撃手段を見てみたいところだが、それはやられた時に対応することにしよう。油断してやられるのもなんか嫌だしな」
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