952:コンビニラーメンはうまい
ダンジョンで潮干狩りを
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「そろそろこっちも深く潜る準備をしてより奥へ……と行きたいところですが、まだもうちょっと時間はかかりそうですんで進捗についてはもうしばらくまってもらうということで」
「なに、現状急ぎで踏破しなければいけないダンジョンというのもそう多くはないし、小西ダンジョンは他のダンジョンに比べて相当深く潜ってるんだ。ほぼ毎日潜ってくれてるおかげでギルドも儲かっているし、ダンジョンマスターとの繋ぎを取り持つという役目を果たしてくれているのは今の会話で十分伝わった。こちらからあれこれ言うことはないよ。そのまま頑張ってくれてればいいさ」
芽生さんの試験が終わるまでは一旦休みという段階。その間ぐらいはのんびりカニ漁を味わってても良いということだろう。
「しかし、その話し合いがあった上で稼いで帰ってきてるんだろう? もう銀行口座が大変なことになってるんじゃないかね? 」
「まあ、銀行から直接電話がかかってきて振り出し口座? に変更してくれって話が来る程度には」
「それは恐ろしいな。そこまでの貯蓄になってるのか。しかし、去年の分の所得税やら住民税やらでまたガバっと減りそうだね」
「その分は今年は疾うに稼ぎ切ってしまいましたから、来年支払う分が不安ですね。一体いくら税金払わなきゃいけないやら。まあ、税理士に相談はしているので今日も帰ってから通帳に記帳していくとしますよ」
「あと二十年……いや、十年早ければ探索者やってたかもしれんなあ」
部屋を出て二人並んで一階に下りる。
「お疲れ様、用事は済んだし私はもう帰るから後よろしくね」
ギルマスが支払い嬢に声をかけていく。
「あ、お疲れ様でした。後のことはちゃんとやっておきます」
「お願いねー」
何とも気軽な帰りの挨拶である。相変わらず気楽な所はここの良いところでもあるか。きっちりお疲れ様でございましたとまで肩ひじを張らなくていい分、緩い空気が漂っている。他のギルドだとその辺どうなっているのか少しばかりに気になるな。
「じゃあ、車検も終わったし私は車だからここでお別れだね。安村さんも気を付けて帰ってね」
「お疲れ様でした。お気をつけて」
さてバスは……まだ早いか。少し涼んでいこう。いつもの冷たい水を飲んで胃袋から口までの間をしっかりと冷やしたところで少し椅子に座ってゆっくりしていく。この時間からはやはりカウンターは混むようで、二つあるカウンターのどちらにも査定待ちの探索者の列が並んでいる。
支払いカウンターはその分倍の人が並んでいるかと言われるとそうでもなく、みんな振込口座を登録してあるからか、レシートを渡して振り込みか現金かを選択して現金なら現金で、振り込みなら登録口座を確認されて完了という流れなので査定が終わったらそのままスムーズに支払いを終えて帰っていく人の列が……あ、これ早めにバス停いかないと混む奴だな。急いで移動するか。
バス停に向かうと、十分前にもかかわらずそこそこ人で賑わっている。賑わいを嫌ってか、時間ギリギリまでコンビニで粘る奴も居るようだ。いつもならコンビニで時間つぶしをしているところだが今日は素直にバスが来るまでバス停で時間つぶしをする。
にしても新ダンジョンか。モンスターの強さも階層ごとに設定しなおされるのか、それとも使いまわされるのか。レッドカウ辺りはそのままの強さで持ってきそうな気がするので今までの七層とこれからの七層とは違った顔ぶれが見えるようになるんだろう。そうなると、探索者ランクによる探索制限も変わってしまう可能性もあるのか。その辺の打ち合わせは本来必要なところだろうな。
Dランクだからと新ダンジョンの十層へ潜って無事でいられる保証はない。やっぱりモンスターはグラフィックは使いまわしだけど強さは別物、というほうが既存のダンジョンに合わせるならその形になるんだろう。しかし、そうなると今度はドロップ品の価値に対して弱すぎるとかそういう苦情も飛んでくる可能性だってある。整合性をどうやってとっていくのか、難しい線引きをする必要がありそうだ。
バスが来て乗り込み、後ろの定位置の座席に座ってもまだ新ダンジョンのことについて考える。新しいダンジョンは二足歩行モンスターで攻めると言っていた。コボルドやノール ……多分ノール はハイエナみたいな見た目の二足歩行なんだろう。そうなるとコボルドはどうなるんだ。犬っぽいほうか、もしくはゴブリンと同様の見た目をしているものか。別で表現されたということは犬っぽい見た目のほうを採用する可能性が高い。そのほうがゴブリンとの住み分けが出来る。
やはりモンスターはダンジョンによって強さもドロップ品も変わる、というほうが新しいダンジョンの法則として新規に成り立たせるほうが自然か。でもそうなると今度は探索者証の探索者ランクとの折り合いがつかなくなるし、難しいな。
いくらモンスターの強さを階層に合わせると言っても、Cランクで二十一層まで潜れる、というシステムを一つのダンジョンのためだけに変更することは難しい。なのでCランクで二十一層まで解放しますが実力不足の人が潜り込んでも怪我するだけですよ……とする方が探索者の自己責任という意味では解らせにかかるほうが大事だろう。
他所のダンジョンでCランクBランクになってから新ダンジョンに潜るほうが圧倒的多数なのだろうから、あちらで深くまで行けたからこちらでも深くまで行けるだろう、と予想をして踏み込んだ結果怪我して帰ってくるのはしばらくは仕方ない儀式のようなものかもしれない。
一番安全な方法としては、ダンジョンが復活した時点で先遣隊としてある一定以上の実力者が潜り込み、他のダンジョンより難易度が高く、他のダンジョンの二倍ぐらいの危険度を見込んで入ったほうがいい、と見当をつけてもらえば安全な流れだと言える。むしろそうなって欲しいな。
うん、話し合いが終わって冷静になってから気づくと色々ダンジョン庁側として用意するものが結構多いことに気づく。その点で言えば褒めて画一的、貶してどこへ行っても同じというこれまでのダンジョンはシステムとしてはそこそこ優れているんだな、ということに気づかされる。
バスが駅に着いた。下りて電車に乗り換えてまた続きを考える。
ダンジョン庁が、というか世界の流れとして新しいダンジョンが時流に乗るかどうかはまだ解らない。現在のダンジョンでも食肉という一点においては栄養を補充できる食べ物が出来ている。それがほかの作物でも栄養素が補充できるとなれば、新しい物流の一つとして出来上がるだろう。
もしかしたらダンジョンによって出る食べ物に偏りが有ったりするかもしれないし、ダンジョンマスターの好き嫌いで果物しかドロップしないダンジョンなんてものが出来上がっても良い。その結果ダンジョンが栄えるかどうかはともかくとして、だ。
ガンテツなら酒が色々手に入るダンジョン、なんてものを作り上げたりはしないだろうか。それとも、酒は飲むもので作る側に回るのは楽しみが無いとまで言い張りそうではある。確かに、ガンテツは酒が好きだが自分で作って飲むというタイプでは無いようにみえる。
米と麦でそれぞれ作る酒がある、と伝えていたらガンテツはもっと前向きに米や麦についての研究をしていたかもしれないな。次回のネタとして残しておこう。その為には酒用の米と、大麦かな。それらを仕入れておく必要があるのでまあ機会が有ったら、ということにする。さて、明日は休みにして税理士さんのところへ行こう。口座を変更したことや今日までの経費が本当に経費で落ちるか確認しに向かわなくてはならない。
最寄り駅に電車が着き、忘れずに降りて歩いて家に到着。スーツを脱いで洗濯をかけつつ今日食べたカレーの後片付けだ。夕食は後でコンビニに買いに行こう。鍋を洗っている間にふと思いつき、洗剤とカレーの油が混じって黄色くなっている部分に対してウォッシュをかける。すると、洗剤と油の入り混じった部分については綺麗にすることが出来た。やはり、何処までが汚れになるか、という認識が大事らしい。
と言うことは、仮に洗面台に水を張って洗剤を流し込み、ザブザブッと洗い流して引き上げて、洗剤まみれの洗い物にしてしまえばウォッシュで綺麗にできてしまうのではないか。今更試すことはしないが今後洗い物が多くて一枚一枚拭き取るのが面倒になった時にまとめてやってしまえることになる。次回に活かしていこう。
洗い物が終わったところで夕食だ。さて何にするか……たまにはラーメンも良いな。コンビニで温めるだけで食えるラーメンも色々種類が増えた。カップラーメンではなく、棚売りのラーメン。カップ麺もしばらく御無沙汰で食べて見たくもあるが、ここはチャーシュー麺としておこう。
コンビニのチルド棚のラーメンを眺める。やはり金額も賞味期限も違う分、新鮮そうなネギとカップ麺では到底使えない分厚めの肉が乗っかっていて食欲をそそる。カレーでしっかりと栄養素は取っているが、もうちょっと野菜を追加したいところだ。ちょっとお高いがもやしを買って追加する。もやしチャーシュー麺になってしまうがそれはおいとこう。今の俺はラーメン、とにかくラーメンだ。盛大に麺をすすって満足したい。そんな気分に支配されている。
温めてから家に持ち帰り、家で追い温め。ちんちこちんにしたそのラーメンの蓋を外して、底に用意されている汁に対して麺と具を投入、汁をしっかり絡めた後、同じくレンジでチンしておいたもやしを投入、汁を充分に絡めた後麺を底からひっくり返してその麺を盛大にすする。
細めのちぢれ麺にスープが絡まって美味しい。鶏ガラスープと、多分チャーシューの脂が香りを立ち上らせ更に食欲を増させる。もやしのシャキシャキ感と麺の噛み心地が中々にマッチしている。ちょっと思いついて一滴二滴、ごま油を追加しておく。それでより香りが高まり味わいも深くなる。
チャーシューを齧る。肉厚のチャーシューが何とも言えない幸せさを口の中へ広げていく。脂がジワリと口の奥歯のほうへ入り込み、幸せさが最高潮に達する。やはり、ここに脂がたどり着くととても美味しいと感じる。器官があるという話は聞いた事は無いがここには幸せを感じる器官があると信じている。
チャーシューは二枚もあったがあっという間に胃に収まってしまった。もっと最後まで残しておきたかったとも思うが、その脂の美味さはスープやもやしにも絡みついたまま残っている。もやしにしっかりと汁を浸して、シャキシャキとコクのあるスープを絡めながらまだあっさりとしているもやしを食べる。麺よりもやしのほうが多くなってきた。麺をほとんど食べ終わってしまった寂しさもあるが、このスープでもやしをまだ楽しめる。温かいもやしを麺だと思って齧る。
もやしの独特の浅い野菜の香りを楽しみながら、もやしに絡みついたスープがいつまでも味わいを残して楽しませてくれる。これはいい。
もやしもすべて食べ終え、最後にスープをいただく。本来ならもっと濃い味だったんだろうが、もやしのおかげでそれなりに薄まってしまっている。しかし、その中でもコクと脂は残っており、俺を満足させるに十分な汁気を飲み干す。
ふぅ……幸せな時間だった。コンビニラーメンもなかなかやる。並んでまでラーメンを食べようという気は起こらないのでラーメンと言えばカップ麺かこうしてコンビニで食べるチルドのラーメンぐらいしか選択肢が……あぁ、爺さんのところも並ばないから選択肢には入るか。
でも、これも悪くない。値段からすればコスパはかなり良い。また気が向いたらコンビニラーメンを選択してみよう。その頃には新しい味が増えているかもしれない。
明日は電話してから税理士さんのところへ相談。そろそろ所得税の支払い通知が届くころだ。届かなかった場合の対応を聞くのも含めて、と言ったところだ。今の内に明日どうですかと連絡だけしておくか。ついでに布団の山本にもいきたいしな。振込先の変更のお話と納品もしなければ。そう考えると明日も休みと言えず、結局いつもの半休みたいな感じになりそうだ。
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