949:新ダンジョン会議 3/4
ダンジョンで潮干狩りを
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「こっちの人参もそうだが、基本的に甘味を蓄えている野菜のほうが美味しく栄養素も充分に取れるらしいということで人気が高まっている。毎日農家の人たちが品種改良によって甘くて食べやすく栄養価の高い野菜を作ろうと研究している最中だ。そこにダンジョン産野菜という一石を投じることでそれがより促進される可能性もある」
「強いライバルが現れるから焦るってことか。流石に大規模に農場で作ることに比べたらダンジョンでの産出量なんて知れてるからな。その点では農家の商売を奪うほどの市場にはならず、でも一定の価値を見出すことのできる商品として存在できるかもしれない、というところか」
ふむ……と考えだすと、また順番に色々と見回り始める。
「流石に世界中を見渡せば数千種類もあるであろう野菜や穀物の種類を事細かに説明することはできない。一般の市場にちょっとしたスペースがあってそこにダンジョン産の作物が並ぶ。そういう状態をイメージしての今回のラインナップにしてみた、という前提がある。別にダンジョン産野菜があれば普通の食事には困らない、とまで行かなくてもあれば食卓が少しだけ美味しくなる、ぐらいのイメージだ」
「ふむ……ふむふむ……これは一度食ってみたいサンプルがあるんだが、出来るか? 」
「つまみ食い出来る範囲で持ってきたつもりだが、どれが食いたいんだ」
「この辺りの果物に当たる部分かな。どういうものが好まれるかを知りたい」
「基本的には……甘い……また甘いのか。レモンなら酸っぱい奴ほど良いって奴もいるが、酸味が好まれる種類のものもあるな。こっちのストロベリーは甘ければ甘いほど好まれるが、そのブルーベリーなら爽やかな酸味がいい、という人のほうが多いかもしれん」
試しにブルーベリーをつまみ食いして香りを確かめて似たようなのがあったな、と思い返している様子。あっちの世界でも品種改良とか掛け合わせとかそういう農業試験場的な施設はあったのだろうか。それとも魔法的に種子のかけ合わせや遺伝子改良などを行えたりしたんだろうか。科学・化学で我々が補っている範囲を魔法でどのくらいカバーしていたのか。その辺が気になる所ではある。
「どれもこちらで売られたり食べられていた、それに近い種類の果物よりも食べる部分が多いな。これも、食用にと品種改良だったか? 色々と弄った結果なのか」
「そうなる。実の多くなる品種同士をかけ合わせて行ったり、特定の病気に強いものを作りだしたり、それを延々と繰り返してきた文字通り結実の結果がそれだ」
「なるほどな。こんなことならもっと農業について勉強しておくべきだったな。自分たちの世界のことですら解ってないことも多い。解る範囲で真似して形にしてお出しする、という風で良さそうだな。とりあえず一つずつは分析にかけるとして……これ、出来上がるものは種なしのほうがいいよな? 」
それぞれの作物に種があるか無いかどっちのほうがいいかを問われている。
「そうだな。ダンジョン産野菜を地上で育ててみた、ってことで話題になるかもしれないが、それがどういう影響を及ぼすかは解らないけど、ダンジョン産野菜のブランドを崩さないためには種は無いほうがいいんじゃないか? イチゴなんかは種なしになると表面のこの粒粒も無くなってしまうことになるから見た目が寂しいことになるな」
「イチゴはその表面のが種じゃないのか? 」
「じつはそっちが果実なんだ。食べる赤い部分は偽果といって茎が巨大化した物なんだ。種はそのつぶつぶの中にあるらしい」
「ほー、なるほどな。でも、発芽はしないようにしておいたほうが良さそうだな。そういう所もチェックしておかないと。次行くぞい」
しまったな、そうなると俺の事前勉強不足が露呈する。いや露呈してもいいんだが俺も専門家ではないから解る範囲でしか答えられない。
その後も答えられる範囲で質問には答えていった。解らない所は後で調べてまた報告するということになり、スムーズに進んでいく。バナナはそもそも種無しバナナとして出荷されているのでその機能は排除されていることを伝えると、これも農家のためになるのか? と質問されたが、答えられる範囲の話では無かった。後でバナナの歴史についても調べておこう。後どうやって増やしていくのかとか。また豆知識で話せる内容が増えていくな。
一通りの野菜と果物を実際に見て、食べて、味の観察やなんかをしてもらったところで一旦すべて引き取ってもらうことにした。
「この中で是非ともという一品を言うならお薦めは果物ではいちごとバナナ、野菜ならネギとキャベツだな。キャベツは重量があるがその分美味しく出来てる奴はブランド価値が非常に高い。いちごもこれの二倍ぐらいの大きさの奴が末端価格で一粒五百円ほど……スライムの魔結晶七つ分ぐらいだな。後は品種改良で種が赤くて色が白いものとか、いろいろ開発されている。中々に面白いぞ」
「赤か白か。覚えておこう。キャベツも甘いほうが美味いんだったな。これは一つでいくらぐらいするんだ? 」
「冬の寒い中で雪の中で埋もれて育てた奴が1キログラムあたりでイチゴと同じぐらいの値段か。一玉二キログラムぐらいあるだろうから、ジャイアントアントの魔結晶と同じぐらいか? まあ、そのぐらいだ」
最近浅い階層に潜ってないせいか、価格帯の改定なんかに頭が追いついていない雰囲気がある。物理的にこれと同じぐらいの価格、と設定できるが、実際にそれが人気の商品になるかどうかはまた別問題だ。移動している間に潰れてしまったりするものもあるだろうから慎重に選択しなければならない。
「後はキノコ類か。物によっては高いだろうが、そういうお高いものは今日は持ってきてるのか? 」
「残念ながら今日は無いな。だが、どれも割と似たような価格帯ではあるから、この階層ではキノコ類がランダムで出ます、となると解りやすいんじゃないかな」
「そういうドロップのさせ方も有りだな。階層ランダムでドロップするという設定は可能だ。ポーションと同じシステムに組み込めばいい」
「後は高級キノコになるが、一本でカメレオンの魔結晶と同等の金額になるものもある」
「ほう、それは是非食べてみたいやつだな。手に入ったらぜひ持ってきてくれ」
「機会が有ったらな。中々難しいだろうが手に入れてみよう。その高級キノコもそうだが、香りがいいというのが第一にあげられる。香りマツタケ味シメジって言われるぐらい芳醇な香りのするキノコだ。吸い物……スープなんかに入れるとよりおいしく感じるな、醤油かけて炭で焼いても美味い」
「そいつは楽しみだな。こっちにはマッシュみたいなキノコもあるのか? 」
マッシュ……マッシュルームの事だろうか。取り出して見せてみる。
「これか? 良くバターで焼いたりステーキの付け合わせに出されることが多いが」
「おお、これこれ。やっぱり同じようなものはあるな。これならイメージも作りやすい。こいつは一品として入れてみることにしよう。他にはどんなのがあるんだ」
さぁ、さぁ、とガンテツが興奮気味にキノコの種類を要求する。キノコ好きなのかな。それとも酒のあてで食うのが趣味だったとか。
「まてまて、順番に出すから。後価格も調べてあるからおおよそのドロップ率や階層の目安にはなるはずだ」
保管庫から順番に取り出し、下に紙をしいて値段を入れる。価格基準は大体スライムの魔結晶何個分、と言った感じで書き出していく。
「ふむ、この量でこの価格か。だとするとこの種類のキノコは取ってくるんじゃなくて農家が量産してたりするのか? 」
「農家じゃなくても、商会が自分の工場で生産してたりするのが増えてきたな。環境を整えてやればキノコは自分で成長するから」
「そういうノウハウもある訳か。そりゃそうだな。これだけの種類を一日二日で揃えられるってことはそれだけ量産されてるという意味も含まれるからな。季節ものってわけでもなさそうだし、なるほどな……」
価格とキノコの種類を見比べ、これはどう食べれば美味しいのか、どういう料理に使われるのか、一般的に食されているのか、様々な質問に出来るだけ答えていく。
気が付くと時間は昼を過ぎていた。熱心に会議中なのになぜ時間が解ったかというと、結衣さん達が昼食を食べに戻ってきたのを見つけたからである。
「あれ、安村さんに……たしかガンテツさんでしたっけ? 」
結衣さんが久しぶりに見る顔、と言った感じでガンテツに話しかける。確か二人はもうここで顔を合わせた後だったな。
「そう、ガンテツだ。今ここで安村達と新しいダンジョンについて議論中でな」
「ドロップ品を何にするかで朝から会議してたんだよ。食品で攻めたらどうかって」
「なるほど、食品ね……さすがにカレールゥがドロップするとかそういうのじゃなくて、もっと原材料的な意味でよね? 」
「さすがにそれはね。コメ、麦から始まって野菜やキノコなんかも加えて階層ごとにランダムドロップするようになったら面白いんじゃないかって話をしてたんだよ」
「じゃあ私はトマトがいいかな。いろんな料理につぶしが効くから。あ、でも持ち運ぶ間に潰れたりすると問題よね」
そう言いながら机に用意するのはトマトホール缶。ミンチ肉か何かを取り出してトマトソースをここで作って、ここでパスタでも茹でるんだろうか。まあ向こうの飯の話はいい、結衣さんの意見も参考にしよう。
「その辺は移動設備の刷新でなんとかならないかなという話もしていた。皆がリヤカー引きながらダンジョン探索をするようなイメージをしてもらえると嬉しい」
ガンテツが俺のリヤカーを指さしながら解説を入れていく。
「それとは別にエレベーターは有るのよね? 」
「標準装備のつもりでいる。流石にリヤカーを引いたまま上から下まで行って帰ってくるでは時間もかかるし、セーフエリアもちゃんと設ける予定だ」
「至れり尽くせりね。後は日本の割と厳しい農業基準に通過できるかどうかね。おそらく残留農薬の可能性はゼロだから、自然派食品としても良い値段で流通しそう」
そういう視点もあったか。やはり他人の意見は参考になる。
「階層が浅くてもそれだけ面白みのあるダンジョンなら踏破していくことよりも何が落ちるかを楽しみにしてもらうのも大事だからな。その分新しい階層を掘り下げるのが長引いてくれればこっちも新しい階層を作るだけの暇が出来るし、ユーザーの意見は積極的に取り入れていきたい」
「セーフエリアにトイレがあると一番うれしいけど、それは叶いそうにないわね」
「トイレか……汲み取り式なら設置は出来るだろうが、多分そういう形式のものではないんだろう? 質問してくるあたり」
「そうね。最大限の望みを言うならウォシュレットがいいわね。でも水洗式ならそれでも嬉しいかも。今みたいにカーテン敷いてその中で、ってよりは相当マシになるわ」
トイレか……結衣さんも昼飯時にぶっこんで来るな。
「安村、今度そのウォシュレットとか言うトイレについて情報を仕入れてきてくれ。反映できるかどうかは解らんが出来るならそのようにしたい」
「解った。とりあえず、良い時間だし一旦休憩にするか。俺も腹減ってきちゃった」
飯だ。トイレの話の後だが、飯だ。そして、今日の飯はカレーだ。非常にタイミングが悪い。しかし、トイレで飯を食う訳ではないし今日はいつもよりも酸味の効いた美味しいカレーをご用意できたと思うので問題なく食いに走ろうと思う。
机の上の資料や食品を一旦片付け、炊飯器をドン。カレーの入った鍋をドン。深皿をドン。
「ちなみにこれが炊飯器と言って米を調理する専用の機械だ。水と米を適量ずつ入れることで電気の力で自動で美味しく炊いてくれるスゴイマシンだ」
「米にかける情熱がすごいな。で、そっちの鍋はなんか複雑な香辛料の香りがするが、なんだ? 」
「カレーだ。ざっくり説明すると、言われた通り数十種のスパイスを混ぜ合わせたものを味のメインにした野菜の煮物だ。人参とジャガイモとタマネギが入っている。タマネギは先にしっかりと調理してしまったから形は残ってないが、人参とジャガイモはしっかりと形が残っている。肉は鳥の肉だ」
「鳥の肉……ってことは特定の食用の鳥を飼育しているってことであってるのか? 」
「まあそのようなものだ。これも地方や農家によって肉の種類が色々あるが……これがどの種類に当たるかまではちょっと理解してない。一般的に鶏肉と言えばこういうものになる」
深皿にまず自分用の米とカレーをよそい、香りにつられて起きたリーンとガンテツ、それからミルコの分もサンプルとしてよそってお出しする。やっぱりこういうことになると思ってたんだよ。
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