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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十七章:進捗進まずとも世間は進む
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946:想定外の時短

「想定外、というのは何の話だ。俺が何かやっちゃったって奴か? 」


 そのままパソコンをいじりながら質問する。これは大事な所なのできちんと文書で記録しておこう。


「なに、ミルコから以前聞いていたと思うが、我々が想定していた魔素の放出期間がどのくらいだと記憶している? 」

「たしか、数千年単位で計算しているって話だったな。もしかして、予想より早くなってるのか? 」

「うむ、このペースだと十倍以上早くダンジョンリソースを使い切ることになるだろう。これもお前さんが要求したエレベーターのせいだな。本来なら全て歩きの行程で進ませる予定だったダンジョンにこれを設置したことによって深層の密度の濃い魔素をかなりの早さで直接地上まで運ぶことが出来るようになった。技術進歩と言えば技術進歩だ。ミルコが素直にその移動設備の設置に協力的だったのも一つの問題だが、今はそこはおいておこう。これがこの星中のダンジョンに広まりつつある。それによって持ち出しの速度が劇的に早くなったのはお前さん自身が体感していることだとも思うが」


 確かに。エレベーターができる以前なら、たとえ狭い小西ダンジョンでも今の階層にたどり着くまでに実際の移動時間で丸一日は必要だっただろう。それを往復して二日。そこが四十分ほどに短縮されてしまっている。


「僕が悪い、という訳ではないさ。むしろ高速化はこちらが望んだことでもある。出来るだけ深く、多くのルールは破っていないし、そこを突っ込まれるなら他のダンジョンも真似するべきでは無かったと言えるんだから僕に責任はないよ」

「確かにそうだな。だが、それのおかげで魔素の持ち出しが加速したのは間違いない。その点で言えばミルコと安村はダンジョンの在り方を変えた。しかし、今度はそのデメリットも出始めている」


 エレベーターで足が速くなったおかげで出てきたデメリット……というとやはりあれか。


「みんなが深く潜りすぎたせいでダンジョン作成が追いつかずに踏破され始めている」

「その通りだ。このペースだと、後二年もすれば一般的な場所にあるダンジョンは全て一度踏破されるという形になる。ワシが今一生懸命新しいダンジョンの在り方について研究してるのもその点を意識してのことよ。エレベーターは新しいダンジョンにも設置する予定ではあるが、今回は自力で潜った階層までしか行けない、という制限を付ける予定だからな。他のダンジョンで深くまで潜っていれば起動キーさえあれば何処まででも深く潜れる、というのはいたずらにダンジョンの踏破を加速させるだけだからな。そこにある程度制限を設けることで長く楽しく美味しく楽しめるダンジョンであり続けられるようにしたいと思っている」


 長く楽しめるダンジョンか……それだけ難易度を高くしていくのか、それとも生活必需品となった魔結晶の将来を見据えてか。どちらでも受け取れるが、ダンジョン産野菜が無いと経営が成り立たなくなる店、なんてのもでき始めることまで考えてのことなのか。


「新しい場所に作るにせよ、前の場所に作るにせよ、ダンジョンを作る側の変化は必要だ。それに、ダンジョンマスターという存在がもう知られてしまったんだろう? だとしたら前と同じダンジョンを作るのはダンジョンマスターの怠慢だと言われるのは少々心苦しいからな。今のところサンプルダンジョンを作ってはいろんな元ダンジョンマスターのところへ行っては意見交換したり食物について議論したり、それなりに裏方でごそごそとしてたわけだ」


 最近来ないなと思っていたのは色々と巡っていたからだったか。その様子からガンテツの新ダンジョンへ熱意は本物だと受け取れるな。


「まあ、原因は他にもいろいろあるんだが、立ち寄った先のダンジョンによっては魔結晶よりもドロップする肉のほうに人気が有ったりした。これはこの星の上で食糧の生産が安定していないことを示している。そんな地域に食糧を直接手に入れられるダンジョンが出来る。これは周辺住人にとっても非常に大きい出来事だとワシは思うておる。その為にもある程度の深さまでは設置しておかんとな。そこから先を作る準備も大事だが、ダンジョンが一斉にできた時とは違って前評判というのも大事だ。そこで今回安村からいろいろ意見を聞こうと思って久しぶりに戻ってきたんだが」

「なるほど。で、役には立ってるのかな。野菜なんてそれこそ数百種類もあるからその中から一般的なものをある程度持ってきてはいるが、本格的にどういう形でドロップするか、なんかを考えるとなかなか難しいぞ」

「出来ればワシもダンジョンを出て買い物とかして、どういう形で売られているのかをまじまじと観察したいところなんだが、それが出来ん身体だしな。また今度で良いから、一般的な野菜類を店で売ってる形で持ってきてはくれんかな。一種類一つずつで良い。後はどういう用途に使われるかさえ教えてくれれば参考になると思う」


 今日持ってきていない野菜類というと、要冷蔵のものだな、なんとか都合しておこう。アイスバッグに入れておけば無駄にせずにその日の夕食に回すことも難しくないだろうからな。


「とりあえず主食と言われる範囲の米、イモは手持ちはあるが小麦は無いな。流石に小麦粉を持ち歩く事は無かったから……後はキャベツとネギと人参ぐらいはあるがほとんどない。気が向いたときに野菜炒めを作れる程度の食材はある、といったところか。今度現物で色々持ってこよう。今日の夜にでも買い物で色々仕入れてくるから早くて明日だな」

「話が早くて助かる。後はそういう流れで考えてるってことをお前さんの上のほうに伝えてくれれば充分だ。とりあえず食材については後日まとめてということで」

「そうする。明日は仕事になら無さそうだな。みっちり食材を解説するだけで一日が終わりそうだ」


 明日は一日地球の食材講師で終わりそうだ。今日も早めに上がって買い出しと、流石に一日二日では手元に仕入れられないような食材や高級品の画像や解説の準備で時間を取られそうだ。何を紛れ込ませようか。


「さて、話は終わりだ。今日は酒、あるのか? 」

「仕事の話はここまで、か。しばらく会ってなかったから来ないと思って冷えたのは無いぞ。ただ、人肌で飲む奴がいくつかある」

「そいつは楽しみだ。ゆっくりやらせてもらうことにしよう」


 保管庫からブランデーと日本酒を何本か見繕いガンテツに渡す。


「おぉ、これこれ。前も美味かった種類の奴だな、今回も楽しめそうだ。でも明日があるからな。ほどほどにしとかないとな。じゃあまたな」


 ガンテツは喜び、少し落ち込み、そして嬉しそうに去って行った。


「よほど飲みたかったみたいだね」

「そうだな。ミルコもいつもの、はい」

「ありがとう。今回もちゃんといつものは……うん、あるね。新しいのも何個かあるね。こっちもこっちで楽しませてもらうよ」


 ミルコもミルコで、楽しそうに帰って行った。


「おはなしおわったの。わたしにはなにもないの? 」


 どうやら話の途中から起きていたが邪魔をしないようにしていたらしいリーンからかわいい声がさえずる。


「そうだな……これでどうだ」


 味付きの清涼飲料水とラムネ、そして袋のお菓子を一つ渡す。


「きょうのところはこれでかんべんしてやるの。またなの」


 順番に、色々と自由なダンジョンマスター達が去っていった。本番は明日か。今日のところは軽く全力ダッシュで短時間流して、買い出しに行くときに色々と買い込む必要がある。今の話し合いでも時間を使ったし、せっかくなら食事をしながら話せばよかったか。遅くはなったが食事をして少し胃袋を休ませる。


 休憩した後全力で仕事をする。今日は三時間だけ仕事をしよう。三時間なら四周回れる。四周分の収入が有れば、一日分としては悪くない収入になるはずだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 きっちり四周、三時間全力で探索をした。流石に無休憩で走り切ることこそできないが、段々休憩の間隔が長く回数が少くなっていることを考えると、ステータスブーストのほうではなくステータスのほうが上がっているという認識が強くなってくる。


 今の俺が地上で全力を出したらどれほどの実力を出せるだろうか。気にはなるが、それを大っぴらにして探索以外の仕事やオファーが来ても困るからな。能ある鷹は……ではないが、今の生活と収入を安定させるためには黙っておくことも大事だ。うっかりトラックに突っ込まれても平気かもしれないが、それはまあ【物理耐性】のおかげということにしておこう。


 一層に戻る前に七層でちゃんと茂君も狩っていき、いつもの仕事をしているという感は残しておく。ちょっと早めの退ダン手続きをしてリヤカーを査定カウンターへ。仕事を早めに切り上げたおかげで査定カウンターには誰も居らず、スムーズな手続きをすることができた。


 今日のお賃金、四千四百四十二万四百円。四が多い。短時間高収入。実質三時間でこの収入は充分だったと言える。


 支払いカウンターで振り込み。今日から新しい口座だ。通帳を渡してこの口座にお願いしますと伝える。


「以前は別の口座をお使いになっていた、と記録にありますが、口座をお変えになったんですか? 」

「ええ、今後はこちらに全額振り込んでいこうかなと」

「解りました。こちらも登録しておきますね。次回からは通帳をお持ちになる必要はございませんので、ご安心ください」


 前に振り込みを始める時は言われなかったが、登録した後は振り込みをそこに自動で行ってくれていたらしい。知らない内に気を回されていたということだな。今後は覚えておこう。


 そのまま家に帰り、車を出して買い出しへ。野菜類を一品ずつと、普段の補充品を買い込む。不思議に思われるかもしれないが、これもダンジョン運営のためだ。ここで買い込めない食品は他で買い足すか、それとも……そういえば卵も食品だな。ダンジョンを巡っている間に割れそうだがこれも入れても良いものだろうか。


 個人的な疑問としてダンジョン産の卵にどれだけの美味さが詰め込まれることになるのだろう? という疑問があった。もしそんじょそこらでは買えないような旨味が詰まっていた場合は? と考えるとこれも入れたくなる。しかし、今回はパスしておこう。実際にドロップするようになって割れて持ち出せない、では意味がない。名残惜しいが考えないことにしておこう。


 ドロップするならパンより小麦……だよな。パンが直接ドロップするのは……いやそういう意味なら袋詰めされた米がドロップするであろう可能性も同じだろうし、他人によって好きなパンは違う。やはりここは小麦粉がドロップするべきなんだろう。強力粉中力粉薄力粉をそれぞれ一キログラムずつ、おそらく向こうの文字で小麦粉と記されているであろうパッケージが思い浮かぶ。


 とりあえず米も一キログラムサイズのものを用意する。主食になるものは小麦粉、米、ジャガイモ。とりあえずこの三品目さえあれば何とかなるだろう。あまりバリエーションだけを求めても困るだろうし、設定しづらかろう。後は乾燥物だが、個人的な思い入れもあって大豆を入れておく。後はトウモロコシかな。


 野菜はキャベツ、人参、レタス、ネギ、白菜、蓮根、トマト、ニンニク、カリフラワー、アスパラガス、パプリカ、シイタケ、エリンギ、エノキ、マイタケを現物で所持しておく。


 油分として瓶かペットボトル入りのオリーブオイルとごま油が有れば良いだろう。こちらも銘柄を指定しだすと際限がない。ほどほどでいいんだ。


 フルーツはいちご、レモン、リンゴ、ミカン、バナナ、柿、パイナップル、メロン、ブルーベリーぐらいなら手に入りそうだ。


 第一弾としてこのぐらいのレパートリーが有れば充分なのではないかな。ここで仕入れられないものは遠方か高級店に行かなければ無いだろうから今回は遠慮しておく。別に高級品志向の客商売を始めようって訳じゃないんだ、その辺の切り分けはある程度されても仕方がないと言える。


 俺に出来る事前準備はこのぐらいだろうか。ぜいたくを言えば松茸とかトリュフとか冬虫夏草とか朝鮮人参とか、そういう薬膳にも近いような高級食材が最深部で出回るようになるのが理想だが今のところそこまで延伸していく予定もまだ解らないと言った具合だ。


 新しいダンジョンが出来て設置されて中に入って探索者がドロップ品を吟味して持ち帰り、それにどのくらいの価格がつくのか。それから改めて深層部について検討を始めても遅くはないだろう。そういう点ではまだまだ修正は利くのでまずは今が初めの一歩ってところだな。


 色んな食品を一品ずつ購入するという不思議な買い方にレジ打ち担当も首をかしげているかもしれないが、必死過ぎてそれどころじゃないかもしれないな。この時間帯は忙しいもんだ。何も考えずにひたすらホイホイと購入品を崩さないようにかごに詰めていく作業に集中しているのかもしれない。そこまで客の動きや購入商品についてじっくりみているプロはそうそういないはずだ。


 ところで、これって経費で落ちるのかな。それだけを気にして買い出しを終えて、ついでに夕食もお好み焼きを出入口の店で注文し、帰ることにした。明日の発表会の資料も作らないとな。やることがたくさんだぜ。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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