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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十七章:進捗進まずとも世間は進む
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944:資金繰り

 朝起きると布団を蹴飛ばしていた。どうやら夜の間少し暑かったらしい。しかし快眠具合は問題が無いので、あまり長い時間布団から離れていたという訳では無さそうだ。この布団も中々の期間俺に快眠をもたらしてくれている。まだまだ使える。まだまだありがとう。


 朝食を食べ昼食の準備。今日はお手軽サンドイッチといこう。午前中の用事がいつ終わるかもわからない。早く終わる可能性もあるが、出来ればその後真っ直ぐダンジョンに向かいたい。目的の銀行が隣駅のそばなので余計な費用も掛からない。さっさと終わってさっさと潜って今日もお賃金を稼ぐのだ。


 ボア肉を薄切りにするとササっと湯がいて余計な脂分を落とす。全体的に白くなったのを確認して味見。豚バラに近い食感と味。これは濃いめの味付けのたれでサンドするのがいいだろうな。いつも通りキャベツの千切りと人参をレンジで軽く蒸した奴をピーラーで削ってキャベツと共に食パンで挟んでグッと押す。これを二つ。サンドイッチ用に薄切りしてもらった奴がまだ残っていたのでそれを使った。

 普通の食パンで言う所の二枚分ぐらいになった。


 もし結衣さん達とまた昼食をとることになってもサンドイッチ二個ではちょっと味見したいと言い難いだろう。それにサンドイッチ程度なら仕事の合間にチョコチョコ食べることもできる。


 夕食はまた保留にしておこう。何だったらしばらく中華屋に通いづめになることも有りだ。しばらくは朝作らずにその時食べたいものを食べに行く、そういう時間にしてみよう。芽生さんが居る時はそうもいかないが一人の間だけなら問題ないはずだ。


 しばらく、好きなものを、自分で作らず食べる。そうして他人のレシピをこっそり盗み出して次に活かす。そういう時間帯であるということにしておこう。


 銀行が開く時間までもう少しあるのでニュースを見る。天気はしばらく崩れず、朝涼しく昼間チョイ暑、夜はちょうどいい感じにという日々が続くらしい。布団を干すなら今って感じだな。ちょっと干しておくか。布団を干すなら……シーツも替え時だな。洗濯して出かけて、用事が済んだら戻ってきて干し変えて、改めて出かけるというプランに変更だ。ただ、一応スーツには着替えておく。でかいシノギの話なんだ、きっちりと服装を固めていったほうがいいだろう。


 ダンジョン関連のニュースは特に真新しいネタや気になる話はない。これは次の雑誌が出るまで大きな話題なんかはなさそうだな。そんな時期もある。いや、ここ最近が騒ぎ続きだっただけで本来はこのぐらい落ち着いている方が世の中平和でいい。


 スーツ、ヨシ。

 通帳、ヨシ。

 印鑑、ヨシ。

 身分証明書、ヨシ。


 指さし確認するほど必要ではないが念のためしておいた。普段から保管庫に入っているものを取り出してボディバッグに詰め替えただけだ。必要なものは表に出しておくほうが怪しまれずに済むだろう。さて、行くか。


 営業開始五分前ぐらいに銀行に着いた。並ぶほどの話ではないんだろうが、早くついてしまったものだから仕方がなく、スマホを眺めてボーっとしていることにした。


 やがて、営業時間になりシャッターが開く。俺の後ろには三人ほど来ていた。と思ったら三人ともATMのほうへ行く。銀行そのものに用事があるのは俺だけらしい。これはゆっくり話し合いが出来る事にもなる。待たせて申し訳ないという気持ちにもならずに済むので気が楽である。


 中に入り、一応整理券を取って少し待つ。そして呼び出されたので用事を伝える。


「本日午前中にお伺いすることになっています安村と申します。お話があると聞いていますが」

「少々お待ちください、担当の者と交代いたします」


 どうやら窓口で少し話、という訳ではなく、ガッツリ会談という形らしい。またしばし待たされる。窓口の前で座って待っていると、奥から人が出てきた。


「安村様で間違いございませんか」

「はい、お約束した安村です」

「お待ちしておりました。担当の柳田と申します。本日はわざわざお越しいただきありがとうございます。まずは個室の方へ移動していただきたいのですが、よろしいでしょうか」


 個室で話す内容か。確かに数十億単位の金の話を窓口だけで話す、というのはいろんな意味で不用心だろう。そちらへ連れられて行くことにする。


 個室に入るとお茶が用意されてきた。冷えてるようだ。お茶が出ると言うことは俺が思ってる以上に時間がかかる感じの話ではあるようだ。


「では、再度になりますが本日はご来店いただきありがとうございます。平素から当行をご利用いただき厚く御礼申し上げます」


 深く頭を下げられる柳田さん。釣られてこっちも頭を下げる形になった。


「こちらこそ、利用させていただきありがとうございます。で、本日の用件ですが、口座に関すること、主に預けている金額について、という認識でよろしいですか? 」

「話が早くてありがたいです。現在、安村様には普通預金の口座で金額をやり取りしていただいていることはこちらで確認しておりますが、少々口座内の金額に問題があると言いますか、こちらからお薦めさせていただきたいプラン、新しい口座があるのですが、そちらの方へお取引を移されてはどうかという相談でございます」

「普通預金では問題がある、ということですか」

「平たく言ってしまえばそうです。預金保険制度というのがありまして、これはもしもの場合ですが、当行が破綻してしまった場合、一千万円以上の預金については保護がされない、という仕組みになっています。現在安村様は……数十億円の金額を普通預金として当行に預金してくださっております。それ自体に問題があるわけではないのですが、銀行側といたしましてもお客様に不利益を被らせる可能性がある場合はそれを出来るだけ回避する義務がある、と考えております」


 ふむ。あくまで仮にの話だが、例えば明日破綻した場合、俺の預金は一千万までということになる。そうなってしまえばその内来るであろう所得税や住民税、その他もろもろの金額を支払う手段が無くなってしまうということになるのか。あくまで仮にの話なのでその可能性はゼロに近いんだろうが、もしそうなった場合かなりヤバイ事態と考えたほうがいいな。税金は銀行の都合を把握してはくれないからな。


「そうならないためには、どのような手段がありますか、ご教授願えればありがたいのですが」

「そこでこちらからの提案なのですが、預金が全額を保証される口座を開いていただくというものです。扱い方は普段の銀行口座と変わらない扱い方で問題ございません。ただ、お客様にとっては不都合になるかもしれませんが、こちらの口座は利息を付けることが出来ません。その代わり引き出し手数料が無料になる、などいくつかのオプションがつくことになります」


 一つ冊子を机の前に出される。手で断りを入れ、早速目を通す。現在扱っている預金方法や運用とはほとんど変わらないという話は本当のようだ。違うのは預金に利息が付くかつかないか、だが……今の利息の金額を考えれば利息が付くつかないでそう大きく儲かったりするわけではない。なら、利息というものは考えずに純粋に自分の収入だけでいい。


 金が必要な時に引き出せないということが無くなるのは大きな利点だろう。なにより、一千万以上の預金が消えてしまう可能性がある、と銀行側から言われてしまった。ここで預金口座を新しく作ることを勧められているというこの状況がそうするべきだと伝えてくれている。


「おおよそは解りました。では、新しい口座開設の手続きを進めたいと思いますが、お願いできますか」

「喜んで承ります。では、書類への記入を宜しくお願いします」


 新規口座開設の書類を書いていく。解らない所は聞きつつ、埋めるべき所は埋めた。印鑑は新しく作るではなく同じものを使いまわす形になったが、印鑑を増やしてごちゃごちゃするよりは同じものを用意した方が都合が良かったし使い方も同じで実質的には銀行口座の中身を移動させるだけなので大きな問題にはならないだろう。


「……はい、間違いなくこれで問題ありません。すぐに口座を作らせていただきます。お客様としましては一刻も早く預金を安全な口座に移されるほうがご安心でしょうから早速手続きをしてまいります。今少しお待ちくださいませ」


 口座が出来上がるまでしばらく待つ。口座を作って振替をして、これからダンジョンの稼ぎも布団屋の振り込みも新しい口座に振り込んでいく形になるんだろう。ともかく、これでいろんな面で安心できるということになった。


 最悪の場合これから税金を振り込むというタイミングで銀行が破綻し、俺自身も銀行口座が使えずに滞納、という形になる可能性があったわけだ。もっと早く教えてくれればよかったのにと思わなくもないが、知らずにそのまま過ごすよりも数億倍マシだったことを考えたら今回は天啓みたいなものだ。ちゃんと仕事をしてくれてる銀行にはありがとうを伝えておかないとな。


 しばらくして、柳田さんが新しい口座のあれこれを持って現れた。


「安村様の場合ご自宅でインターネットにて振り込みや振り替えをご利用になっているとは思いますが、とりあえず新規口座の一つ目の作業として、口座の振り替えをご提案いたします。全額……というのは他の引き落としや支払いが有ると思いますので難しいでしょうから、ひとまずは預金保証額ギリギリまで残すことにして、それ以外の金額をすべて新規口座に振替することをお勧めいたします」

「では、早速そうしようと思います。現在の口座の金額から一千万円を残して、全額を口座振替……これ、手数料かかりますか? 」


 大事な所は確認を取っておく。数十億の資金の移動だからと数万円や数十万円手数料がかかる可能性もあるからな。まあ、かかるからといって振り替えない理由はないのだが念のためだ。


「当行内の振り替えということですので、無料となっております。安心してご利用いただけます」


 無料らしい。ちょっと安心した。


「今更で恐縮なのですが、昨年から安村様は転職か何かをされましたでしょうか? 」


 金の動きが激しい、というより大量に資金が、しかも公的機関からの支払いが多いので気になったのだろう。


「えっと……昨年から探索者になりまして、日々探索業に勤しんでおります」

「左様でございましたか。探索者というのは通常これほどお金の動きを激しく扱われる職業になるのでしょうか。私は銀行員一本ですのであまり詳しくないのですけれど、ご参考までにご教示頂けると幸いです」


 他にも同じように普通預金に大量の金額を貯めこんでいる探索者が居るかもしれない、ということだろう。


「一部だけ、と思っていただく方がよろしいかと思います。ですが、私でこういう事態になっているのですから現段階で他の探索者でも同じような状態に陥っている人はいるかもしれませんね」

「なるほど……ためになるご意見をありがとうございます。今後仕事の参考にさせていただきます」


 一日に数千万稼いで帰ってくる探索者なんて全国でも多分十本の指に入るぐらいだとは自覚している。二十一層あたりで稼いでいる探索者だとしても一日に数十万ほど稼ぐことが可能なのだから、二ヶ月ほど働けば一千万なんて貯まってしまう金額だろう。それを思うと探索者は銀行口座にしこたま金を貯めこんでいる集団、とみられても不思議はない。これは伝えてしまっても良い話だろう。


「同じように預金額を積み上げてるだけの探索者も居るかもしれませんから伝えられる相手には伝えたほうが良いかもしれませんね。御行の経営が不安、とかそういう意味ではありませんが私も一千万までしか保証されないってことを知らずにここまで生きてきましたから、知らない探索者は多いと思います」

「認知度が足りない、というわけですか。探索者向けの説明会でも開いた方がいいんですかね? それとも、もっと大々的に告知をする方が良いかもしれませんね。各ダンジョンのギルドに冊子を置かせてもらうとか、そういう対応もできると思います」

「ところで、通帳と預金口座の開設のお知らせは良いとして……このどっさりとした冊子やチラシは何ですか? 」


 柳田さんが手に持っているかなりの量のチラシを見て聞いておく。嫌な予感しかしないからだ。


「念のために、ですが。安村様が投資やそれらに興味を持たれた場合に備えて色々とご用意させていただきました。今お持ちの資金で老後は充分かもしれませんが、それ以上の資金運用をご希望される場合は是非こちらにお目を通していただけるとこちらとしても助かります。ご説明は必要ですか? 」


 やはり、投資関連のもののようだ。


「働けるうちは探索者一本でやっていこうと思っていますので今のところそっちの方は興味ないかと」

「では、興味を持たれた時に必要になるかもしれませんので、現時点での金融商品にはこんなものもございます、ということでお持ちになってみてはいかがですか」


 圧が強い。興味はないが、ここはとりあえずチラシを受け取って帰るのが筋、というところなんだろう。


「とりあえず引き取りはしますが、あまり期待は持たれないようにお願いします。それでは」

「はい、本日は口座開設ありがとうございました。また何かしら御用がある際はよろしくお願いいたします」


 口座の開設と振替は終わった。今後はこの口座に金を入れていく、ということでいいんだろう。昨日の儲けぐらいは前の口座に振り込まれているかもしれないが、それ以上に振り込まれることはもう無いと思われる。今後の色んなネット引き落としや電気や水道代なんかは前の口座を使っていこう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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税理士の先生も交えて芽生せんせーに 教えてもらわなきゃw
高々数千万の金利等おじさんの1日の儲けにも満たないのだから 体が動く限り稼ぎたおすでしょ 1年足らずでウン十億を振り込みで預金される 銀行でもスパダリな生き物なだけで 芽生さんからしたら投資はよ!…
この世界は分からないけど個人用の普通預金→決済用預金(利息なし+全額保証)の切り替えなら口座番号変更なしで出来るよ。 電話やネット申請でもできたけど、銀行に寄っては窓口に行かないと駄目かも
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