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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十七章:進捗進まずとも世間は進む
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943:報連相

 荷物をリヤカーに載せて一層まで一気にエレベーターで上がる。茂君を経由しても良かったが、この時間に急に行って他の人の作業を邪魔する恐れもあるからな。俺の時間は朝と夜。それをきっちり守っていきたいし、茂君してる間にギルマスが居なくなる可能性も考えると素直に査定を受けて報告して、それから再度潜る時に考えよう。往復一時間半ほどのロスだと普段なら考えるが、スキルの報告をするという点においては優先しなければならない。


 もしスキル犯罪が行われるような場合、こういうスキルがある、という情報をダンジョン庁が持っていなければそれがスキル犯罪なのか一般爆発物による犯罪なのか区別がつけられない可能性が高くなる。スキルならスキルで、痕跡なんて残りませんよというのをハッキリさせておくためにも早め早めの報告は大事だと思う。


 一層に着くまで適当に本を読み散らかしながら報告の話し方について吟味しておく。到着したのでリヤカーを引いて退ダン手続き。


「お早いお帰りですね。今日は午前だけですか? 」


 朝会ったなじみの受付嬢に質問される。


「ちょっとギルマスに報告する内容がありまして。こっちの帰りのペースに合わせると多分会えないので今の内にってところですかね」

「じゃあ終わったら午後からもお仕事ですか。待ってますね」


 そのまま査定カウンターに並ぶ。昼で一旦仕事を終えて昼飯に行くのか、それとも昼に帰ってきたのか、査定カウンターはちょっと人が居たのでスムーズに査定とはいかなかったが、五分ほどで俺の番になった。


「お久しぶりですねー。午後休ですかー? 」

「受付でも言われましたけど、ギルマスに用事があるので午前の分を持って来ただけですよ」

「そうですかー。ちょっとお待ちくださいねー」


 仕分けてあるドロップ品が少ないのでササッと査定は終わり、午前中のお賃金、二千九百六十一万三千六百円となった。先日結衣さん達と潜った結果とそう変わらない。やはりカニうまダッシュは儲かるということなんだろう。皆もカニうまダッシュが出来るようになれば、より進捗が進むようになるに違いない。


 支払いカウンターで振り込みを依頼し、ギルマスの所在を訪ねる。


「ギルマスいる? 」

「居ますよ。今日は早めに帰るとは言ってましたがさすがに午前で帰ると言うことは無いはずですので」

「ありがとう。ちょっと報告に行ってくるよ」


 支払いカウンターでお礼を言い、階段を上がって応接室。誰も居なさそうなのでそのままギルマスの部屋へ向かい、ノック三回。


「居ますよ、どうぞ」

「お邪魔します。ちょっと報告に来ました」

「おや安村さん、また階層クリアでもした? いや、その場合文月ちゃんも一緒に来るだろうから別件かな。ボス倒したとかでも無さそうだし、何かあったかい? 」


 ギルマスは食事も終えて食後のコーヒーも飲み終えていた様子。パソコンの画面をチラ見する感じ、どうやら次のギルドマスター会議に向けての資料作成の最中だったようだ。


「実は、四十五層で新種のスキルが出まして。他のダンジョンで既に出ているなら話は別ですが、私自身が見たことないスキルだったので報告をしておいたほうがいいと思いまして」

「なるほど、それは大事な情報だね。で、どんなスキルが出たんだい? 」


 かくかくしかじか……と、【爆破】というスキルが出たこと、俺ではなく新浜パーティーで覚えたこと、それから色々な実験の結果意外と取り回しのいいスキルであることを報告した。


「【爆破】かあ。それは確かにじゃあ見せてよ、と気軽に言えるスキルじゃないね。ダンジョン内では実験できるだろうけど」

「そう思いまして、四十二層で実験してきたデータがいくつかあるんでそれを渡しておこうと思います」

「話が早くて助かるね。早速データをもらおうかな」


 スマホとパソコンを繋ぎパソコンに動画ファイルをコピーし、パソコン内で再生。実力と威力のほどを確認してもらった。それ以外にもモンスターを直接爆弾化できることを告げ、その場合モンスターは撃破判定になり、爆弾化した後でドロップが落ちることも伝えた。


「ふむ……爆弾化か……中々面白いスキルだね」

「一応地上でも同様の効果が出るかどうか試しては見たんですが、効率は著しく悪いようです。威力を他の何かと比べる、となると実際の爆薬の爆発力と比べて、という実験が必要になるでしょうが、実際にこのスキルを取得できるであろう階層が四十五層以降なのであまり大きな問題にはならないかと思います。ただ、爆発物の痕跡の無い爆発騒ぎが起きた、という際には疑われる可能性はありますが、解除すると黒い粒子化して消えるそうなので爆発物を放置してそのまま何処かへ、という事態を意図的に起こさない限りは問題ないと思います」

「確かに、犯罪に使われる可能性という点では怪しいスキルではある。早めに報告してくれてそこまで考えてくれている、という部分を評価するべきだろうね」

「例えば射程距離であるとか、本人から離れてどのくらいまではその効果を持ち続けることが出来るのか……なんかの細かいデータが必要な場合は当人を呼び出してあげてください。とりあえず暇だったので午前の精算がてら時間が合う範囲で会いに来ようと思いましてね」

「新浜さん達の進捗はまあいい感じに進んでることは解ったよ。君らはどう? 最近。進んでるかい? 」


 矢玉がこっちに降りそそいできた。しかし今回はちゃんと回避策はある。


「相棒が勉強のほうにお熱ですからね。ダンジョン庁に入って公務員としてダンジョン探索に赴けるんじゃないかという希望に夢を託してる最中です。その結果が解るまでは足踏みしつつ、彼女のうっぷんが溜まった時は五十五層で稼ぐ、という流れですね」

「うまく行くといいね。ダンジョン庁のお抱え探索者という訳ではないけど直接雇用してダンジョン庁から直接指示できて稼いで帰ってくるような探索者も必要だし、ダンジョン庁が固有で持てる戦力としても魅力だしね。それに文月ちゃんがウチに来るって事は安村さんもついてくるし、お得だよね」

「ダンジョン庁としてはそれも目的のうちでしょう? なんなら俺も雇ってくれても……あぁ、でもやっぱりいいや。税金対策が面倒になる。収入は今年は二ヶ所からだけと決めてるんです、これ以上他から収入を得るのは色々と面倒くさいことになりそうです。税理士に投げますけど」


 そう、今年はレシートやら経費になりそうなものを保管しておいて税理士さんにお任せして、そのレシートの内容についての一言を裏書きしておくだけで計算や税金やらをやってもらうことになっている。その分俺の仕事が減って総合的にお得なのだ。


「良い税理士を引き当ててると良いけどね。そろそろ所得税やいろんな税金納めろって通知が来るだろうから、精々その金額に驚くといいよ」

「さて、伝えることは伝えましたし、日常業務に戻りますかね。精々ダンジョン庁の収益を増やすことにしますよ」

「お疲れ様、午後からも頑張ってね」


 一階に戻り再び入ダン手続きをしてリヤカーを引き、午後の作業に入る。午前でそれなりに稼げているので金額はあんまり気にしなくていい。全力で走らなくても軽いランニング程度のつもりで気軽に稼いで行こう。後、茂君は帰りまでパスだ。朝晩の決まりときっちり守って限りある資源を大切にしていこう。


 四十二層に戻ったが、結衣さん達は既に午後の仕事に出かけた後だった。ノートに話は通しておきましたと書いておいて、こっちも作業に入る。いつもより一時間ほど短い仕事時間になるだろうが、帰りの茂君の時間も含めてきっちり稼いで行こう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 午後も四十三層でひたすらカニ。報連相を一気に片付けたので頭に引っかかるものもなく、ひたすら探索に集中することが出来た。時間が来たので戻り、エレベーターで七層へ向かいその間に午後の分の成果をリヤカーに積む。七層でリヤカーをエレベーター付近においてテントで目隠し、そのまま茂君を回収して戻ってくる。そして再びエレベーターで一層へ。この流れも日常になってきたな。


 受付で退ダン手続きを終えて査定カウンターへ。午前と午後で担当者が違うので午後もお疲れ様ですーとか言われることも無く、特に細かいことを言われる事なく査定が終わった。


 午後のお賃金、六千百二十三万六千円。道中一時間半ほどの休憩兼打ち合わせを挟んだとはいえ、一日分としては充分だと思われる。


 仕事を終えて飲む水のこの冷たさと気持ちよさで一気に現実に頭を戻してくる。さて、夕食は何にしますかね……とローテーションの中身を見るとごった煮。たまには中華風の煮物もいいかもなあ。中華風と考えていると久しぶりに中華が食べたくなってきた。爺さんの所へ行くかな。


 ギルドを出て中華屋へ。今日は……うん、ちゃんとやってる。


「久しぶりー」

「よう兄ちゃん、今日は一人か? 」


 爺さんは元気そうに鍋をふるっていた。客入りはそこそこ。飯が出てくるまでそれほど待たなければいけないという風では無さそうだ。良いタイミングで来たな。


 今日は何を食うか決めていないので適当にメニューとにらめっこ。春巻きは食べたいな。それといつもの餃子か唐揚げ。定食にするならどっちかとチャーハンのセットになるな。うーん、回鍋肉も捨てがたい。酒は今日は無しで良いな。この後買い出しに行くかもしれないし、その時に飲んでいたらまずい。


「唐揚げ定食と餃子、春巻で」

「あいよー」


 注文が通ったところでギルドのほどは冷えていないがそれなりに冷えている水をちびりちびりとやりながら周りの様子を見る。


 探索者らしき人達はみんな笑顔で食事を楽しんでいる。どうやらここに居る連中は今日もしっかり稼いだ後、と言った感じだろう。


 しばらくして春巻が先に届く。筍がシャクシャクと良い食感を与えてくれて顎が喜ぶ。揚げたてだからかアツアツの具が口の中に入っていき、春雨がつるりと中に入っていく。ちょっと熱過ぎて戻しそうにもなるが、喉元過ぎればなんとやら、しっかりかみ砕いて飲み込めば熱いという感触が体の内部の底の方へ届いていく。胃袋は稼働を始め、グッと一瞬だけ胃が鳴る。熱過ぎたかもしれないが稼働の合図は送ったぞ、後はちゃんと動いてくれよ。


 春巻きをゆっくり味わっている間に餃子、そして定食。餃子と唐揚げは来たら頼む定番メニューになってしまっているが、これが美味しいから仕方ない。


 餃子を一気に二つ、箸で挟んで口にする。口の中目いっぱいに餃子を放り込んでほのかなしょうがとネギの香り、そして肉とキャベツのザクザク感を楽しむ。これだ、こういうのでいいんだよ。こういうのを毎日食べていたらもうそれで幸せになれそうだ。


 チャーハンと唐揚げを交互に口にして、口の中が油まみれにならない程度に餃子をはさみ、順番に三角食べをしていく。チャーハンは火力も大事だが、若干引くぐらいの油をふんだんに使って米を炒められるかもコツになってくるらしいと何処かの動画で見た。さすがに自分で使うにはちょっと胃もたれしそうなぐらいの量だったが、ここもそうなんだろうか。だとするなら今日はちょっとカロリー多めの夕食だな。


 ついてくる卵とじ中華スープで口の中をリセット。そしてまた食事に入る。爺さんは今日は忙しいらしく、茶化しに来る暇は無いらしい。繁盛していて結構なことだ。


 一通り胃に収めて少し休憩すると会計へ。これだけ食って千五百円ほど。値上げラッシュが進む昨今、食事の量にしてはかなりお安い。個人で細々とやってるからか、仕入れに何かコツでもあるのかは解らないが満足の量と飯だった。


「また来てくれよ、今度は嬢ちゃんも一緒にな」

「伝えとくよ。じゃあまた」


 今日は会話らしき会話は出来なかったが、食事を通して今日も美味いもんを喰わせてもらった、という言葉が通じたことは間違いない。次回は違うメニューに挑戦しよう。しばらく通ってなかったこともあるし、夕食をここで取り続けて全メニュー制覇するぐらいのつもりでも良いかもしれない。


 バスの時間に中途半端だったので自転車を取り出し自分で漕いで駅へ。それから電車で家へたどり着き、買い出しに出かける。明日のごった煮用の材料を買わないとな。さて、具材はいつものごった煮で良いとして、気になるのは調味料のほうだ。中華風と名乗るだけの味付けが出来るかどうか。明日の腕にかかっている。とりあえず思いついて今手元にない調味料を一揃え買っておくと、後はスマホでレシピを検索して良さそうなものをチョイス。それに必要な具材も追加して……こんなものかな。


 人参ジャガイモこんにゃく大根に肉は……明日起きた時に考えよう。米の在庫が少々心許ないので米も買っておく。何種類かお高い米が並んでいるので、味わったことのない銘柄を選んでみる。米も種類が増えてどれがどう美味しいのか、どの料理に合うのかなど組み合わせが色々ある。複数種類確保しておいて合う米を選ぶことも大切だな。後は卵も忘れずに購入。


 会計を済ませてそのままパン屋へ。パンはギリギリ残っていたので購入。いつも通り六枚切りでパンの耳も持ち帰る。耳は耳で使い道があるんだ。朝の食事は耳でも良いしな。一通り買い終えて帰宅。片づけをして風呂、そして就寝。明日は銀行に行かねばならない。何を言われるんだろうか。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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銀行員のおすすめ営業は相手にしてはいけない 「何かあった時に1000万円までしか保証できないので~」とか言い出してくるので決済用預金に回すのは今の低金利時代ならありだが投資は論外、外貨建てや金は状況次…
粒子(魔力)を吸収していない人間だと抵抗力も脆弱だったりして爆弾化&解除が容易にできちゃうと、証拠のない完全犯罪になるかも?
芽生さんが入庁すればもしもの時の安村さんの手をスムーズに借りられますもんねえ
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