942:ボンバーマン
おはようございます、安村です。丁度いい室温で目が覚めるとどことなく今日一日も気持ちよく過ごせるような気がする。今日も気持ちよい目覚めをありがとう。
結衣さん達と潜ってから数日が経ち、そろそろ【爆破】の使い勝手も良くなってきたかもしれない。一度聞きこみに回るのもいいだろう。今のところ急ぎで何かやらなくてはいけないという項目も無い。久々に四十二層に顔を出してうまくやれてるかどうかを確認しに行こうかな。
昼食も夕食も今日は軽めのものにしておこう。夕食はまたコンビニ飯で済ませるとして、昼食は……ガッツリ行きたいな。カツ丼と行こうか。肉は……最近御無沙汰のオーク肉と行こう。
オーク肉を切り取った後叩いて平たくし、どんぶりの大きさ位に均等に伸ばして二枚、肉を作る。今日はダブルカツ丼ならぬ、カツ重だ。
タマネギと卵とオーク肉だけのシンプルな味。シンプルなだけに調味料の配分で味が決まってしまうなかなか難しい所なので、今回はレシピ本の通りに作ってみることにする。レシピ通りに作れるかどうかも腕前のうちだ、調味はそっちに任せる。
タマネギをしっかり調味料に浸かるようにして煮立たせ、味が染み込んでタマネギも柔らかくなりいい感じになったところで一旦火を止め保管庫で状態をキープ。その間にてんぷら油とカツの準備をして、準備が出来て温度がしっかり上がったら揚げ物の開始だ。
こんがりきつね色になるまで肉を揚げたら、米が炊けるのをしばし待つ。その間、保管庫で具材には静かにしてもらっている。
米が炊けたところで米をどんぶりに入れて、半分ぐらいのところで刻んだカツを乗せて玉ねぎと調味液の半分をそこにかける。残ったもう一枚のカツは卵と玉ねぎ達と一緒に再び煮立たせ、とじ蓋とする。ご飯を二層にしてカツも二層。だからカツ重。これはなかなか贅沢な一品に仕上がったな。
満足できる昼食を作ったところで今日もダンジョンへ行こう。着替えて指さし確認だ。
柄、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
スーツ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
酒、ヨシ!
保管庫の中身、ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日はちょっと遅めの出発になったがまぁ誤差の内。その分焦るわけでもなく、マイペースでしっかり稼いで行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
いつもより一本遅い電車に乗ったことでバスも一本遅くなった。入場時間もその分遅くなるが……まあ、一層で三十分歩いていた時に比べれば随分移動距離も短くなった。たまにはちょっと遅いぐらいのペースで探索を始めてもいいだろう。
入ダン手続きをした後、さあダンジョンへ潜るぞというクリティカルなタイミングでスマホが鳴る。知らない番号だ。どうしようかと一瞬悩んだが、出ることにした。
「はい、安村でございます」
「安村様でお間違いございませんでしょうか。こちら三勢銀行でございます」
三勢銀行は俺が普段振り込みに使用している銀行だ。支店ではあるがそこに数十億の金を預けている。なんぞ問題でもあったのだろうか。まさか無断引き出しとかそういう事件でもあったのだろうか。ちょっとダンジョン入りの列からはみ出し、他の人に聞こえないような位置へ移動し話を聞くことにする。
「どうも普段からお世話になっております。一体何事でしょうか」
「安村様のご利用いただいている口座につきまして少々お時間頂けますでしょうか? 」
「えっと……今出先なので時間にもよりますがどのような内容ですか」
「では簡潔に申し上げますと、今ご利用していただいている口座につきまして、お預かりさせていただいています金額のご相談と新しい口座開設について一度話をさせていただきたく存じます。出来ればですが、早いうちにとは申し上げませんので一度弊行のほうへご来行いただくことは出来ますでしょうか? 」
早い話が、金預け過ぎなのでいっぺん話を聞きたい、ということだろうか。
「おおよそは理解しました。では明日午前中にそちらに伺わせていただく、という形でもよろしいでしょうか」
「明日ですか、ご理解が早くて助かります。では午前中にご来行いただけるということでお願い申し上げます。出来れば、印鑑と身分証明書と、今お使いいただいている口座の通帳も一緒に持ってきていただけると助かります」
「解りました、用意してそちらに向かわせていただきます。それ以外で何かありますでしょうか」
「お電話口ですとお話出来るのはこのぐらいかと思います。詳しい説明は明日、ということでよろしくお願い申し上げます」
「解りました、では失礼します」
電話が終わった。やはり、数十億の金額を普通預金に放り込んだままにしておくというのは銀行も不安がるのか、それとも去年から今年に入って稼ぎ過ぎているのが問題なのか。一応銀行も取引先と言えば取引先。詳しく説明しておく必要はあるだろう。明日の午前中、銀行行く。とアラームに表示させておく。これなら朝起きた時に確認するから忘れてダンジョンへ行く事も無いだろう。
さて、気を取り直して今日も茂君から行くとしますか。早速七層に下りて茂君を回収、そのまま四十二層へ。今日もリヤカーを借りれたらしい結衣さん達の痕跡は残っている。
これはまた昼飯時に顔を合わせることになるかな。ここ最近会わなかったのでスキルの進捗も聞きたいところ。内容によっては早めにギルマスに報告、ということにもなりうる。昼まではいつも通りダッシュして、昼のいい感じの時間に帰ってこよう。
◇◆◇◆◇◆◇
一時間半ほどかけて四十三層を巡って帰ってきた。二周することが出来たので午前で税込み三千万は硬いな。そんなことを考えながら四十二層に戻ると、結衣さん達はちょうど飯を食べていた。
当たり前のように机を隣に出し、カツ重を食べ始める。向こうも遠慮なく、と言った感じで狭い机からこっちの机に移動しつつ、ほほう、今日はカツ重ですか……と言った感じでこっちの飯を覗き込みながらかま玉うどんを食べている。どうやらうどんはここで茹でたらしい。
横田さんの【水魔法】で水を出し放題だからできる贅沢ともいえるだろうな。ふと離れたところを見ると、ゆで汁を捨てたような跡がある。放っておけば自然に蒸発していくだろう。ゆで汁の中に含まれた小麦成分が消えていくかどうかまでは観察することは出来なさそうだ。
「村田さん、その後【爆破】の調子どう? うまく行ってる? 」
「色々便利なことが解りましたよ。食べた後ちょっとお見せします。後はそれについて相談も一つ、ですかね」
「それは食後が楽しみだ。色々研究の成果を見せてもらおう」
今日のカツ重の美味しさに舌鼓を打っていると平田さんからうどん二本とカツ一きれを交換しないかという提案が来たので交換、うどん二本をつるつるとすすらせてもらう。カルボナーラ風の香りがするかま玉うどんは中々の美味しさ。本当にこれ、出汁と卵だけなんだよな? いい感じに美味いぞ。結衣さんの料理テクへの信頼度が俺の中でちょっと上がった。交換した平田さんのほうもカツの美味さに評判をつけられた。
ちなみにカツに何の肉を使っているかは見事に当てられた。食べ慣れていたので楽勝だったらしい。まあそういう意外性を求めて作ったわけではないので悔しくはない。味に関しても美味しいと言わせたのでヨシ。
食事を終えてしばらくした後、村田さんの実験に付き合うことになった。
「まず、足元の砂を……これで爆弾化できます。そして離れて……それ」
村田さんが念じると、離れたところからでも遠隔爆破が出来ることが解った。
「一度触れて魔力を流せば爆破のタイミングは任意もしくは衝撃時に爆発、という二種類の方法が取れることが解りました。それから、横田さんに水魔法の塊を出してもらいます」
横田さんをちょいちょいと呼んで、横田さんに水の塊を出してもらう。空中に漂う水というダンジョンではよく見る光景を見つつ、村田さんが水に触れて魔力を流す。
「じゃあ横田さん、適当な所にぶつけちゃって」
「わかった。この間のアレだな」
横田さんが了解して、そのまま水魔法を手ごろな距離の石に向かって水を弾き飛ばすと、水はぶつかったあと爆発した。
「このように、他人のスキルで生み出した物体に対しても爆弾として変化させることが出来るようです。しかも、爆弾化させても主導権を奪い取ることが無いのでこのように二人で協力すると水魔法でも爆発させることが出来ます」
「便利だね。合体魔法ってとこかな。二人の初めての共同作業って奴か」
「出来ることが解ってからは色々と便利になりましたよ。液体爆薬みたいなもんですから、一つの塊を爆弾化させた後塊を分けてぶつけて二体三体を相手にしたり出来るようになりました。戦闘効率がかなり上がりましたね」
「モンスターの爆弾化のほうはどうだったの? スライムは完全に爆弾化させていたけど」
モンスターに直接触れて爆弾化させる際の懸念事項であるドロップ品の回収が出来るかどうか、ここに大きな問題もある。爆弾化したモンスターをそのまま放置することに関してだ。
「爆弾化ですが、試したところ任意で解除できることも解りました」
「解除した場合モンスターや物体は元に戻るの? 」
「解除した場合、なんか黒い粒子になって消え去っていきます。モンスターに対して使用した場合全身の爆弾化が終了した段階で討伐したという判定になるようで、ドロップ品が落ちることもスライムで確認できました。また、部分的に爆弾化したところを爆破して倒した結果でも、ドロップ品は落ちます。なので、爆弾化することで実質的にダメージを与えている、と解釈しても良いんじゃないかと思います」
「便利だねえ。さすがは深層ドロップスキルという所か。部分的に爆弾化させることもできるし解除することもできる。水魔法を爆弾化させた場合液体爆薬のように扱うこともできる。結衣さんの【風魔法】でも同じことが出来るのかな? 」
「試してはみましたが、目視できないものを爆弾化するのはさすがに難しいというか、コントロールが出来ないというか。そっちは諦めた形ですね。なので現状は横田さんと連携を組むとスムーズに探索が出来る感じです」
ふむ……爆弾化は任意で解除可能、解除したものは黒い粒子化して消え去る。
「ダンジョン外では試してみた? 」
「一応は。迷惑のかからない所で駄菓子を買って爆弾化させて、成功したので解除してそれで終わりです。スキルの地上での使用は基本御法度ですからね。ただダンジョン外だとものすごく疲れることは確認できました。ですのでダンジョン内では爆弾魔として活躍できますが、地上で同じことをするのはなかなか難しいでしょう」
「そこまで解るなら報告もしやすいね。どうする、自分で行く? それとも俺から伝えておくかい? 新しいスキルが出たってことを俺は報告に行く義務みたいなものはあるから伝えておくけど、実際に見たいって言われた場合は呼ばれることになるかな。とりあえず俺が先に行って話を通しておくって方がいいかな」
「動画で撮影してそれをサンプルとして見せるって形で今は良いんじゃないですかね。詳細を聞きたいと言われた時にまたギルドマスターのところへ行く形のほうが……こっちは手が空いていいような気がしますが」
「じゃ、そういうことでいこう。いくつかサンプル動画として撮りたいからさっきのを含めて何パターンか用意しておこう」
早速撮影に入る。パチンコ玉を握らせて爆弾化。放り投げてぶつけて爆発。次にパチンコ玉を握って地面に置いて任意で爆発。パチンコ玉を握らせて解除し、消えていくのを確認。流石にモンスターに対して使ったシーンはここでは撮れないのでそれは後回し。続いて横田さんとの連携で水魔法を爆弾化させて、その後横田さんが自由に液体爆薬化した水を操り、少しずつ岩にぶつけて爆発をさせていく。そして解除して黒い粒子に戻ることも動画に収めた。今できるのはこのぐらいだろうな。
「しかし、任意爆破できるって事は触れる必要はあるけど走り回って爆破、という遊びが出来るようになるね。どこまで威力を高めればいいかは解らないけど一つ楽しみが増えたね」
「そうかもしれません。せっかく手に入れた攻撃手段なんで有効的に使っていこうと思います」
「報告するとなると二度手間になるがギルマスが居る内に報告しておくのが問題なさそうかな。俺が先に報告しておくよ。その間ゆっくりしてて」
昼飯も食ったし一休みのつもりで一旦報告に行って来よう。その間に結衣さん達はより強くなる。そのほうがお互いの効率を考えればそのほうがいい。
「いいんですかね、報告を任せてしまって。本来なら僕が報告に行くのがベストなんだと思いますが」
「まあ、俺が納得してるからいいんじゃないかな。そこまでキチキチに探索をして収入や実力に変えようというつもりはそんなにないし、今日は午前中だけでも充分に働いた。一旦午前の収穫を査定に出すつもりで行ってくるよ」
「お任せします。多分いきなり僕らが行って新しいスキルを見つけました、というより色々情報を持ってる安村さんから報告してもらった方がスムーズに話せると思うので」
よし、一旦地上に戻るか。昼なら流石にギルマスも居るだろうしちゃんと報告する物は報告しておかないとな。
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