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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第二章:出来ればおじさんは目立ちたくない

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94:臨時パーティー結成



 三層を歩いていく。先頭を歩いている形なので、道中現れる物は大体優先権を主張できるが、後ろから殴らせてくれと言われたら多分譲っていただろう。


 ここまでのドロップは一切なし。一時間半から二時間ほど歩いていることになるが、こんなに長い間稼がずにダンジョンを巡るのは初めてじゃないだろうか。


 まぁ落ち着け、確かに稼げる階層だがまだまだ慌てる時間じゃない。自分にそう言い聞かせながら四層の階段へと進む。道中スライムが数匹見受けられるが、カロリーバーを与えずに倒すとなんだか苦情が飛んできそうなのでゴブリンとグレイウルフだけを相手にしていく。


 一応、気を使っていかないとな。貴重な資源なんだから一番有効的に活用できる方法で〆てやるのが、スライムにとっても良いだろう。細かいことは気にしないで行こう。今日の主目的はソロキャンプなんだから。


 四層への階段にたどり着くまでに都合六回ほど戦闘になったが、ドロップはゴブリンの魔結晶が三つほど落ちただけだった。最少記録更新だ。


 四層への階段で、例の大荷物の人に追いついた。ここで休憩をしていたらしい。


「もしかして、自分も七層行きですか? 」


 突然話しかけられる。予想外だった。ガタイの良い、四角いイメージがぴったりな男だ。


「えぇ、そうですけど」

「私もなんですわ。直行でしたらご一緒しませんか。ドロップは戦ったほうの利益という事で」


中途半端な関西弁。この人は俺と同じ地方の出身者かな。


「構いませんよ」

「あと、道中のスライムは無視でええですか? 実は七層で仲間が待っとるんですわ」

「それも構いませんよ。私も目的は七層へ行く事なので、スライムにはあまり構ってる暇がないというか、構いたくないというか」

「解ります。みんな目の色変えてスライム狩ってますからな」

「普段はスライム狩るような階層じゃないのにスライム狩りに精を出したりしてますからね。有り難くもありますが困ったものです」

「ははっ、もしかして、カロリーバーを買おうとして買えなかったクチですか」

「いやー、実はそうでして」


 嘘です。しっかり買い込んでいます。下手な奴よりよっぽど。


「その内収まるでしょうし、その間の我慢ですな」

「全くですな」

「そろそろ行きますか」

「ですね。ところで武器をお持ちでないように見えるんですが」

「あぁ、それはこれです」


 と、拳に装着した鉄具を見せられる。


「ガントレットですか」

「えぇ、防いでよし殴ってよしの便利武器ですわ」

「使ってる人初めて見ましたよ」

「そうでしょうなぁ、私も二、三人ぐらいしか見たことありませんわ」


 ガントレット……それもありだったかな。


「結構分厚くできてるんで、ソードゴブリンが来てもこれで守れるんですわ」

「頑丈ですね」

「頑丈にだけ作ってもらってあるんで」


 二人で四層に降りる。ここから六層まで臨時パーティーだ。


 四層にもなるとさすがに人が少なくなってくるのか、一緒に行動するような人はいない。多分ここから脇道にそれていくのだろう。


「ここからの地図解りますか? 私清州の四層以降は初めてで。一応地図は買ってあるんですが」

「大丈夫です、頭に入っとります」


 先導をお願いし、その分モンスターはこちらが多めに引き受けるつもりで行こう。いつ曲がり角でバッタリ出くわしても良いように警戒しつつ進む。


 やがて、曲がり角でソードゴブリンの集団合計六名様パーティーと遭遇することになった。

 真っ先に一匹を切りつけ、数を減らしにかかる。


「そういえば名前聞いてない! 私安村です! 」

「平田ですわ! 剣持ちは任された! 」


 ソードゴブリンに真っ先に殴りにかかる。荷物が多いにもかかわらず機敏に近寄り、相手が剣を振りかぶる前に殴りつけてしまう。これは安心できるな。


 ささっとこちらが一対三の状況を作ってしまうと、俺は順番に一匹ずつ確実に止めを刺しに行く。終わった頃には平田さんもきっちり殴り殺していたようだ。


「お強い」

「そちらも」


 拳をぶつけあうと、道を再び進む。ドロップは無かったが相手の実力の高さが解った。この人強いわ。さすが一人で七層と地上を往復するだけの能力は十分に持ち合わせているように見えた。


「安村さんは普段からソロで潜っとるんですか」

「パーティーメンバーは居るんですけどね、まだ七層には潜ったことがなくて。ソロキャンプの練習も含めて、一度体験してみようかと思いまして」

「ってことは、普段は清州には潜ってらっしゃらない? 」

「普段は小西に潜ってます」

「小西と言えば、潮干狩りおじさんっちゅうのが居るらしいですね」


 俺じゃないか。


「あぁ……えっと……それ多分俺です」

「あなたが! そうですか、あぁ、それで腰に熊手ぶら下げてらっしゃるんですか」

「これはなんか、無いと落ち着かなくてですね」

「わかります、自己主張は大事ですもんね」


 何やら誤解を受けている気がするが、まぁいいか。会話の種が一切なくて無言で潜り続けるよりは話ながらのほうがずっといい。気分が楽な狩りは大事なことだ。


「まぁ、そのようなものです」

「潮干狩りおじさんとして、今のお気持ちを一つ」

「えっと? スライム狩りの仲間が増えたらいいな? 」

「というわけで潮干狩りおじさんのインタビューを終わります。スタジオどうぞ」

「スタジオってどこのですか」


 この人は魂が関西人で出来ているな。亜種関西弁を使い魂が関西人で出来ている東海民は少なくない。どこかでボケないと死んでしまう病にかかっている気がする。機会があればボケと突っ込みを捻じ込もうとする、感染性のある恐ろしい病気だ。


「病気か……」

「病気がどうかしたんですか」

「いや、ダンジョン病というか、ダンジョンで発生した病とかそういうのって無いのかなぁって」

「聞いたことありませんなぁ。休みの日にもダンジョンのこと考えている病気ならわかりますが」


 それ俺じゃないか。俺の事じゃないか。


「その病気に心当たりがあります」

「奇遇ですなぁ、私もですわ」


 二人してハッハッハと笑う。探索者はみんなそういう病気にかかっているらしかった。そのままのちょっとおかしいテンションで四層を突き進む。やはりダンジョン探索は楽しくあるべきだな。一人より二人、二人より三人、三人より四人だ。今は二人だけど。


 若干頭の浮ついた二人が黙々と五層への道を行く。慣れてくるとやはり雑談が増えてくる。探索者は皆そうなのか、戦闘中にでも軽口を言い合う事が多い。


 すくなくとも俺が今までパーティーを組んだ人は……そんなに多くはないが、お互いの精神的余裕を持たせようとするのか、無理のない範囲での会話を楽しむ。


「じゃぁ、小西ダンジョンもスライム狩りの人が増えとるんですか」

「えぇ、さすがに潮干狩りの真似して潜っとる人は見かけたことはないですが」

「清州には時々居りますわ、熊手片手にスライム狩ってる人」

「何時からなんですかねぇ」

「それは安村さんが潮干狩りしてる動画が公開された後ぐらいからですわ。真似したら手早くスライム狩れるんじゃないかと試しとるんだと思います」


 そうか……潮干狩りスタイルは受け入れられつつあるのか……


「食い扶持を潰されて後悔しとるのでは? 」

「まぁ、いつかは誰かがやる事ですから。それがたまたま私が始めた人だっただけです」

「器が大きいですなぁ」


 ゴブリンを殴り殺しながらしきりに感心している。そんなに感心されるような事でもないと思うがなぁ。俺で思い付いたんだから他の誰かがとっくに思い付いているだろう。


「まぁ、狩りの時間が短くなるという事はそれだけダンジョンからの利益が増えるって事で、悪い事ではないでしょう」

「そういう事にしておきますかなぁ」


 なんだかんだで五層への階段へ着いた。ここからはサバンナエリアが広がるはずだ。


「五層から六層へはやはり遠いんですか? 」

「清州の五層は六層への階段がかろうじて見える範囲にあるんです。なんで小西ダンジョンがどうなってるかまでは解りませんが、迷うことはないと思います」


 やはりマップはダンジョンによって違うらしい。サバンナエリアはひたすらに広いし、何なら東西南北がループしている。そんな広大な敷地の中で目標地点が見えているというのは救いだ。


「さて、降りますか」

「七層までもう少しですよ」


 休憩せずにそのまま五層へ降りる。六層への階段が見えているなら、そこでまた休憩すればいいだろう。まだまだ体力に余裕はある。




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― 新着の感想 ―
[一言] 熊手の未来は潮干狩りおじさんの肩にかかっている。 かもしれない。
[気になる点] 発起人・・・。 企てた人って意味ですね。それってカロリーバーの件をうっかり自白したという描写ですか? [一言] おじさんペア、むしろこっちの方が馴染むパーティかも。
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