939:ガイド付き四十五層ツアー 1
全員の準備が整ったところでこれからの行程について説明をする。
「とりあえず四十三層から四十四層を抜けて、四十五層まで行きます。四十五層までは一時間半ぐらいの予定かな。それから三時間ぐらいは四十五層で探索することが出来ると思うので、その間新マップのモンスターに慣れてもらうことにしますけど、そんな感じでいいですか」
「お任せします。とりあえず安村さんには新しいモンスターの特徴を教えてもらいながら試しの戦闘を見せてもらうってことになりますけど、いいですか? 」
「解りました。引率務めさせていただきます」
横田さんと軽くやり取りをし、他のメンバーの表情も確認。それで問題ないという風だったので予定通りに進行する。四十三層は内側に入ってリザードマンと戦いながら行く方が多少短い時間で到着することが出来るだろう。
四十四層は大回りに行くか小回りに行くかのどちらかなので、今回は四十五層巡りが目的だ。なので小回り一択、近いほうへ行こう。
「それじゃ、四十五層までは少し急ぎ気味で行って、四十五層での探索がしっかりできるようにちょっと急ぎ足で行きますね」
四十三層に下りたつと、少しジャンプして全身を軽く弛緩させる。少し歩くと目の前にはリザードマン三匹のグループ。戦闘準備は充分だ。
「じゃ、ついてきてくださいね、露払いは一通りしながら行きますんで」
駆け足でリザードマンに一気に詰めよって雷撃爆破。出たドロップ品を空中で回収するとそのままスピードを落とさず二匹目のリザードマンの顔を掴むと雷撃爆破。そのまま三匹目に近寄り、繰り出してきた槍を掴んで槍越しに雷撃を浴びせて倒し、二匹目と三匹目のドロップを範囲回収して終わり。この間十五秒。
ポカーンとしてみている新浜パーティー。しばらくすると正気に戻ったのか、急いで俺の後につづいてきた。いいぞ、そのペースで頼む。
そのまま俺はペースを落とさず索敵範囲内のリザードマンを捕まえては爆破しドロップを拾い、いつものダッシュペースを崩さずに次々と黒い粒子へ還していく。
新浜パーティーは無言でえっさほいさとこっちに続いている。この階層は走ってるだけで楽が出来ると思っているかもしれないが、実際は俺のストレス解消も兼ねているしこの稼ぎもみんなで分配するものだ。それに今日の目標は四十五層であってここでおたおた戦闘を重ねるということではない。なので先行して吹き飛ばしている。一緒に四十五層へ行くにせよ行かないにせよ、ここのモンスターはすべて爆破する予定だったので気にしないでおこう。
一時間弱走って四十四層の階段へ着いた。ここでちょっと一休み。
「うん、十分少々短縮できた。これで四十五層でゆっくりできるね」
「出番が……無かった……」
「出番が無いどころか手を出す必要も無かったというか、安村さんとの差がまた開いたような気がします」
「多分【雷魔法】を三重化したからじゃないかな。おかげで一発で倒すにしても魔力に余裕をもって対処できるからその分早く回れる。前なら途中で息切れ起こして少し休憩時間が必要だったしね」
「それにしても、ただ後ろを追いかけるだけでなんか申し訳ない気がするね」
「この階層のモンスターにも飽きたと言ってましたし、下手にわちゃわちゃ集団戦やるなら四十五層から先か、四十四層からのほうが形としては整いますから、ここはまあ遊歩道みたいなものです。なので体力を温存して向かっても問題ないかなと」
俺は疲れはほとんど感じていないが、新浜パーティーはいろんな意味で疲れたような表情をしている。少し小休止して次の階層へ向かうことにしようか。
五分ほどとどまって四十四層に下りる。ここからはドウラクとリザードマンが別れずに混在しているので戦闘も毎回考えながら対処しなければならない。俺一人でも巡れない事は無いが、頭をドウラクとリザードマンで切り替えるのが面倒なのでどちらかに集中させてもらえると嬉しいところ。
「じゃあ、ドウラクが出たらお願い。リザードマンだった場合は私たちが頑張って倒すことにする」
「解った。手が足りないときはいつでも言ってね」
ここからはゆっくりとお互いに暖機運転をしながらそれぞれの目標で対応する相手を決めて戦うことになった。俺からすればここも全部倒していっても構わないんだが、それではいきなり四十五層に下りて戦えと言っても難しいかもしれない。消耗しない程度に戦っていってもらおう。
下りて早速リザードマン。新浜パーティーの動きに着目しつつ、撃ち漏らしや攻撃が足りなくて怪我をしそうな状況が出た場合は後ろから手を出す。ドウラクだった場合はとっとと爆破する。その流れで戦っていく。
新浜パーティーは五人なのでここの最大グループ数四匹から考えると最小でも一人手数が余る。リザードマン相手なら水魔法もそれなりに効果があるので結衣さん、横田さん、平田さん、村田さんが前に立ち、多村さんが危うそうなところかスキを見つけて遊撃、という体制のようだ。
やはり物理耐性を持っていないであろう結衣さんと横田さんをカバーリングしつつ動いていくのが主軸になっている、平田さんは相変わらず拳で迎撃している。前より装飾が増えているな、多分新作のガントレットでも購入したのだろう。ここにカバーリングするのはなかなか難しいかもしれない。村田さんにしても一対一で耐えてる間に他の相手が手すきになるようにうまく避けたり薙いだりして時間を稼いでるような戦い方をしている。
一人一人動き方が違うが、普段の戦い方的に一番近いのはやはり横田さんだろうか。【水魔法】の重圧で動きを鈍らせたり、鈍器のようなイメージで水で殴っている。アレを首に喰らったらちょっと痛めるかもしれない。相手がふらついたらその間に更に接近して、おそらく短剣に薄く鋭い水の刃みたいなものを纏わせているんだろう、それでもって斬り付け、リザードマンに確実にダメージを与えている。
横田さんに注目している間に結衣さんの戦闘が終了。それぞれハンドサインで誰のカバーに行くかを指摘してそっちへ行き、攻撃手数がふえたところで順次リザードマンが撃破されていく。慣れた連携だなあと感心する。ここまできっちり連携しながら芽生さんと潜ったことは……思い当たるだけで数回か。
こっちは安全圏から致死ダメージを確実に与えていくような戦いの上、常に敵のほうが数が多い。戦い方が違うのは当たり前だろう。全部倒し終わったところで魔結晶を拾ってこちらへ駆け寄ってくるので保管庫で受け取って収納。次へ行く。
「安村さんのおかげで身軽に戦えるのは本当にメリットですね。普段だと重くなってきた時点で多村さんと前衛チェンジして私が後ろから戦う感じになっていくんですけど」
「後ろには俺が控えてるんで大丈夫です。荷物もこの通りなんで安心して全員攻勢に回れますよ」
そのままお互いに戦う相手を選んでそれぞれが対応しつつ、短いがそれなりに濃度のある四十四層を歩いて四十五層への階段へたどり着いた。
「さて、ここからはまだ未踏破エリアなんですよね? 」
「そうなりますね。四十四層まではフラフラと歩いては来ましたが、荷物が重くなりすぎて帰ってきたという経緯があります」
「なるほど、では今日は細かいことは気にせず戦っていけますね。早速下りて新マップを確認しに行きましょう」
先導して階段を下りる。俺自身も久々に来る花園マップだ。気になるのはヒュージスライムがどの辺に居るかだな。下りて目の前にヒュージスライムで何ともならない、ではせっかくピクニックに来たのにゲリラ豪雨に巻き込まれるようなものだ。
階段を下り切り、索敵で調べてみた結果その心配はなかった。どうやらヒュージスライムは索敵範囲外。細かいことを気にする必要が無いぐらいの距離までには離れているようだ。
「どうやらボスの気配はしばらくなさそうなので、普通に探索が出来そうですね。ボスが居たら……居たら出会った時に考えますか。まずはモンスターと出会いましょう。こっちですね」
久しぶりに歩く花園マップの歩きやすいこと。カニうま島の砂や赤砂の砂漠マップの砂の入り込むような余地も無い道を歩く。二つ曲がり角を曲がったところで久々のダンジョンタンブルウィード、マリモ二匹のお出ましだ。
「あれがダンジョンタンブルウィード、通称マリモです。蔓を伸ばして攻撃してきます。多分物理耐性が無いとかなりの力で引き寄せられるなり引っ張られるなりすると思います。対処法は物理耐性があるなら……こうです」
マリモの探知範囲まで歩いて侵入し、早速伸ばしてきた蔓を逆に引っ張り返してこちら側へ引き寄せてくる。そして手ごろな位置まで転がってきたところを雷切でバッサリ。
「最終的なお手頃対処方法はこうなりますが、正面から挑むとまた別のやり方になりますね。具体的には……こんな感じかなと」
もう一匹の蔓を避けながら近づき、マリモの蔓が後ろから追ってくるが気にせずそのまま突っ込み雷切で真っ二つにする。
「マリモの蔓が伸びきるまで待つ、というのはどうなのかな」
多村さんから初見の意見で恐縮ですが、という質問が出る。
「その場合、マリモがほぼ確実にドロップの種を落とします。六回か七回試して必ず出たのでそれを狙って遠距離戦に持ち込むというのも有りですが、種一粒の査定価格が二万円なので時間効率を考えたら確実に倒していく方が多分儲かりますね」
「実践済みかあ。さすがだなあ」
「蔓が腕なんかに巻き付かれた場合、どのぐらいの強さで締め付けられるのかしら? 」
「物理耐性有りなら抗えない事も無いって感じでしたね。ただマリモの蔓は体感上それほど強い繊維でできていないようなので、切断することは難しくないと思います」
結衣さんの質問にも答える。前衛として前へ出る機会が多いわりに物理耐性はまだ持ってないらしい。早く出るとええね。
「ドロップの重さの観点からいえばかなり効率のいい相手と言えますね。種のドロップ率はどのぐらいですか」
「およそ三割ぐらいですね。それから魔結晶の価格が二万四千円ほどなので、種を純粋にドロップ率から来る期待値で出すと、一匹当たり三万円。それに加えてキュアポーションがかなり良い確率で落ちてくれるのでその分も含めると二十八万から二十九万ってところでしょうかね」
おーっと一同から声が上がる。やはり四十五層のこの金額は魅力らしい。これがポンポンと出て来てくれるならそこまで苦労せずとも金になる、という算段が働いたんだろう。
「ちなみに安村さんはこの階層は一人で回ることは? 」
「うーん、多分できますが、いくつか注意点があってそこを突破してれば問題なくグルグル回れるってとこでしょうかね」
「注意点とは? 」
「まず、ここは四十五層で十五の倍数、つまりボスがいます。ここのボスは固定された場所に居るわけじゃなく、階層の何処かを巡回しながら歩いて……歩いて? 動いています。そして、大きさはこの通路目一杯の大きさです。つまり運が悪ければボスに通行を邪魔されて動けなくなってしまう可能性というのをはらんでいます」
地図をよく確認して進もう、という話。袋小路に放り込まれてそこをボスに塞がれた場合、こっちにボスが寄ってきたらどうしようもないのでその時は覚悟を決めなければならない。
「なるほど、そんなに大きいんですね。ちなみに討伐はできましたか」
「【保管庫】の助力でなんとか。正攻法で攻めるとなると、エルダートレントと同様に過剰火力でもってモンスターの体力を削って大きさも小さくしていくしかないと思います」
「小さく……? ちなみにそのボスってどんな形状なんですか」
「あ、忘れてましたね。ここのボスは巨大なスライムです。核にダメージを与え続けると分裂してだんだん小さくなっていくんです。最終的に百ちょっとぐらいまで分裂するのかな? それを全部倒し終われば、最後の一匹がドロップを落とすような仕組みになってます」
「スライムでっか……マップが花園だから巨大な花とか想像してましたわ」
「スライムの歩いた後は壁にこうやって飾られている花なんかがスライムの表面から吸収されて無くなっていくので、その痕跡が見つかったら近くに居ると判断することもできますね」
正攻法でスライムを倒すには……ひたすら雷撃で焼き尽くすとかで対応できるのかな。今度一人でやってみるのも有りか。
「さて、次行きますか。まだもう一匹のモンスターにも出会ってないですし、個人的にはそっちの方がよほど厄介なモンスターだと思ってますのでそいつの面を拝みに行きましょう」
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