934:海外ニキの諸事情
家へ帰って飯の前に荷物の整理。それぞれパッケージを外して保管庫へ。パチンコ玉も袋から出してザザザっと取り出した後まとめて収納。パチンコ玉の一行に全てまとまったことを確認して、ヨシ。
ワイシャツもきちんとパッケージを開けて、新品の服のいい香りを満喫しつつ、保管庫に収納していく。これでワイシャツがすり減る頻度はかなり減少するし、毎日必ず洗濯しなければならないということにはならないだろう。
ワイシャツを取り出して並べて観察する。一応薄い青色から白二枚を経由して緑になるまで段階を刻んで五種類のワイシャツが並ぶ。今一旦取り出したことで、これらのワイシャツはそれぞれが違うものとして認識されるのか、それともまとめてワイシャツとして認識されるのか。ちょっと興味が湧いてきた。
試しに、全部同じと念じながらワイシャツを全部放り込む。
ワイシャツ x 五
どうやら同じものとして認識されたらしい。すり減り具合は違いとして認識されるほどでは無いようだ。つまり、俺自身どれだけ使いこんでるかを把握していないということになる。このほうが便利だからこのまま使っていくことにするか。
整理が一段落着いたところで色々購入した昼食。机の上がバイキングみたいになっている。そのぐらい色々一口サイズの品物を詰め込んだ。なんだかんだで普段食べたり店で食べるぐらいの金額を出したことになるが、余ったら夕食に回すし、なにより食べたいものを食べたいときに食べる幸せに敵う物はそうそうない。早速頂きます。
自分で炊いたお高い米ではないので甘さやコクに多少の不満は思いつくものの、値段相応かそれよりちょっといい程度には出来のいい品質だ。いただきます。
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昼食を食べ終わりゴミを片付けたところで午後のお仕事。お仕事と言ってもダンジョンに出かけるわけではなく、海外の探索者の動向について調べる。メインになるお題は希少スキルの保持者についてだ。
数十ダンジョンに一つという割合で出るというレアスキル。今のところ俺が知っている範囲では【保管庫】、【鑑定】、【採掘】の三つが挙げられる。他にもレアなスキルはあるかもしれないし、レア扱いされているスキルもあるかもしれないが、とりあえずこの三つのスキルについて、海外で所持を公言している探索者が居るかどうかを調べていこう。
翻訳アプリで文章を日本語から外国語……英語に限らずスペイン、ポルトガル、フランス、ドイツ、それぞれの言語に変換しつつ、それっぽい文章が出てこないかどうか検索する。
ダンジョン関連の単語と共に『warehouse』、『stockroom』、『storage』、『inventory』など保管庫っぽい単語を順番に検索ワードに放り込んでは調べていく。
しばらく色々と調べているうちに、ぼんやりとしていた情報が徐々に塊を見せ始め、ある探索者にたどり着いた。個人でブログを開設している訳ではないが、そのパーティーメンバーが個人サイトを開設し、そこで発信を行っていることまでは判明した。彼らの所持スキルは俺と同じ【保管庫】だった。
彼らはどうやら一般的な俺が知る探索者とは違い、何処か一か所のダンジョンに潜っているわけではなく、国内各地のダンジョンを転々としながらそこで稼いでいるパーティーらしい。色んなダンジョンを巡り、それぞれのダンジョンの各階層の見た目やちょっとした違い、ここは便利、ここはだめ、ここは治安が悪い、ここは七層グルメが美味しい等様々な視点から、この場合ダンジョンに属する探索者、で良いんだろうな。それを見定めている。
ただ、彼らにはそれを公言することの代償として、国外への移動が禁じられているらしい。希少スキル探索者であることと同時に、海外への探索者の人材流出を阻止するための措置であるそうだが、それなら国内ならどこでも潜っていいよね? という彼らなりの反骨精神的なパフォーマンスでもあるらしい。
ちなみに彼ら……この場合、パーティーの誰がそのスキルを持っているかというのはハッキリと言わず、パーティー内の誰かが持っている、ということにしている。つまりあくまでスキルを持っているのはパーティー全体に対してであり、個人でどうのこうのするつもりも無ければ探索以外で使うつもりもないよ、という姿勢でもってダンジョンに挑み、そして海外のいわゆるダンジョン庁に示し合わせをしているようだ。
公言するには公言するだけのデメリットが含まれていることは認識できた。海外でこれなんだから国内だったらもっと騒ぎになるだろう。俺も毎日がワイドショーになるのは御免被る。
マスコミに気軽にインタビューされて今どんなものが保管庫に入ってるんですかー? 見せてくれませんかー? とか言われてイラついたらインタビュワーに向けてパチンコ玉を発射してしまうかもしれない。一発なら誤射かもしれないが、それが何人も……地獄だな。やはり公言は避けて個人でこっそりとたんまり稼ごう。せっかくここまで秘匿してやってきてるんだ。そのままで居よう。
探してみれば他にも公認希少スキル探索者は居る。こちらはいわゆるダンジョン庁に所属する職員が持っているという形だが、【鑑定】のスキルを国家として所有している。給与や待遇面で良い思いをしている分、こちらもまた海外渡航禁止……こちらは同じEU圏内であってもシェンゲン協定関係なく渡航禁止らしい。狭い国内に閉じ込めてしまうという話にはなっているが、その分ダンジョン庁以外からの依頼もあり、刑事事件での遺物鑑定や証拠固めの際にもスキルを利用して成果を出しているらしい。
当方国内である程度の範囲の人には【鑑定】スキル持ちであることを公言している南城さんの場合、そういう方面には協力しないということを先に言っておいてあるんだろうな。
他にもレアスキルというものは存在するのだろうか。スキルに関するサイトを閲覧してみる。翻訳サイトがあるとはいえ、言語の壁を越えて自分の持ってるスキルを探すところから始めるか。
どうやら海外ではそれぞれのスキルにTier評価をつけてどのスキルが使いまわしがいいのかを検証しているところもある。ユーザー投票で使えるスキルや有用さについて日々異論が行われているらしい。
そこによると、俺が普段使っている【雷魔法】のTierは高い。弱点になるモンスターが多く攻防共に利用することが出来、範囲攻撃もできるのでかなり使えるほうにランクインされているようだ。ちょっとうれしい。
ちなみに【採掘】についてはそのスキルのレアリティに対してダンジョンの構造を破壊できるという点では面白みはあるが、実用性はそれほどないらしく、低いTierに位置されていた。レアスキルだからと言って探索に使えるかどうかは別問題のようだ。
これを一つの評価にして値段も決まっているんだろうが、どうやら国によっても値段格差はあるようだ。さすがに時間制限があるのでそれを見越して取引……というのも何とかなるかもしれないが、そういう商売も成立するんだろうか。海外のスキルオーブの取り扱いはどうなっているんだろう。さすがにそこまでは調べるのは難しそうだ。取引掲示板みたいなものを探してみるか。
いわゆるポータルサイトにも取引掲示板は設置されていた。どうやらそこそこの取引は行われているようだ。多分今も張り付いている人がいて、スキルオーブの残り時間と現在地をリアルタイムで確認し、お互いに移動して中間地点で取引、みたいな形で取引しているのだろう。それぞれ現在取引中のスキルを見ていると、中々の頻度、そしていろんな国で取引の機会が生まれ、成立していることが解る。
取引を眺めてみると、スペインとドイツで取引するために中間点であるフランスの行きやすいダンジョンで出会って取引、みたいなことをしている。日本のダンジョン庁がやっている取引を仲介無しで探索者同士でやっている、というところだろう。EUってくくりなら探索者協定みたいなものを結んでその辺うまく回したり出来そうなものだが、今のところそうなっていないと言うことはまだ合意が取れていない、ということだろうか。
この手のやり取りは海外のほうが進んでいるようなイメージがあったが、そういう訳でもなかったようだ。どっかの金持ちか起業家が進んで事業を立ち上げてマージンを取りつつも出来るだけ近い者同士、値段が合意できる者同士でマッチングさせてスムーズなやり取りをさせる。そういうサービスがあってもいいのにな。今後に期待するところかもしれない。
アメリカではその辺どうなってるんだろう……と検索すると、西海岸と東海岸ではっきり分かれた上で、俺がさっき考えたようなサービスをやっているサイトは公開されている。しかし、アメリカは広大だ。航空機移動が主流とはいえ四十八時間以内に出会って取引、というのはなかなか難易度が高いらしく、欧州に比べて取引の回数や金額なども違ってきている。やはりスキルオーブの取引時間がネックになっているというのだろう。
アメリカのダンジョンの数もすべてが把握されている訳でもないらしく、「新しいダンジョンが見つかる」という単語で検索してもつい最近発見されたダンジョンが出てくるような状態だ。国土の把握しきれてない他の国でも同じようなことはまだまだ続いていくのだろう。
新しいダンジョンが他のダンジョンと同じ作りで出来ているなら、今まで通っていたダンジョンを離れて新しいダンジョンに通いだすという流れは非常にできにくくなるだろうし、そのまま放置して眠れる資源として他にダンジョンが無くなった時のために残しておく、という選択肢を取ることも可能だろうな。
ここまで調べてざっくり四時間。中々に疲れたので少し昼寝して、目覚めたところでお腹もすいてきた。コンビニ飯……でいいか。明日は二食分きちんと作って芽生さんとダンジョンへ潜る日だし、今日ぐらいだらりとしててもいいだろう。なんたって休みだ。休みの日にまで毎食きっちり栄養バランスを考えて食事を作ることに熱を入れなくてもいい。
コンビニまで歩いて行き、牛カレーとサラダをチョイス。今日はもうする事は無いし、一杯呑んでしまおうか。休みの最後の楽しみ……いや、まだ楽しみとして自分の中で落としどころを見つけられるほど慣れてはいないが、時々こうやって酒を飲むのも悪い気はしない。習慣づけてしまって飲まないと何もやる気が出ないとまではいかないが、思いついたときにちょっと飲んで味を確かめていくというのもいいだろう。
銘柄を指定せずにこれが美味そう、というのを一缶だけ買ってみることにした。毎日ちょっとずつ飲み比べしていって気に入ったメーカーのものをお気に入りとして脳内に登録していく。こういうちょっとした楽しみで良いんだよな。ガバガバ飲むのはまだ怖いが、週に一缶程度なら悪くない。
家に帰ってまだ冷えてるビールを片手に牛カレーを食べていく。カレーはまたスパイスの配合を変えたのかな。前とちょっと香りが違う。きっとスパイスの価格や季節を考えて、その時一番おいしく食べられるようなカレーを考えては試食し、そして大量生産していくのだろう。この辺、手作りカレーでは中々真似できない。
毎日カレーでも俺は飽きる事は無いが、食材の調達回数がそれなりに増えるし、どこのメーカーのどのルゥを使うかによっても味わいは変わる。野菜一つにしても煮込み時間や食感も変わってくるので、自分の中のベストを想像して作り上げるのは中々の時間と手間と試行回数が必要だ。でも、自分の中でこれが美味しいと言い切れるようなカレーを作り上げた時の達成感はなかなかのものがある。
それを目指して毎日カレーを作り続けるのも悪くは無いな。しばらく毎日カレーというのを試してみるか。今度やってみよう。
昼にたらふく食べた分夜は随分シンプルな食事になった。夕食を食べ過ぎて次の日の朝まで影響が出るような歳では……いや、そろそろか。そろそろ始まるかもしれないな。夕食を豪華にするのは次の日何もないときに絞りつつ内臓をいたわっていくか、それとも毎日鍛え上げていつどこで何を喰っても胃もたれしないようにしていくか。それを薬に頼るか。
いずれにしても明日は……ローテーションを確認すると明日はカレーか。時短するために今の内に玉ねぎだけ大量に炒めてあめ色玉ねぎにしておこう。使わない分は冷凍庫に保存しておけばいい。これで明日以降の一手間と時間を短くできるなら今の内にやっておくべきだな。
風呂を沸かして洗濯をして、その間にひたすらタマネギをみじん切りにしてから鍋でじっくり炒める。みじん切りにすることでかなり目にダメージを受けたがそれを乗り越えて良い色付きになったタマネギを眺めていると頑張り具合が見えてきて今日一日の休みはこれを作るためだったのかとすら思えてくる。
カレー三回分ぐらいの玉ねぎをあめ色にしたので、とりあえず明日使う分は冷蔵庫で保管。残りを冷凍庫にチャック袋に入れて保管。徐々に使っていこう。さて、肉は何にしようかな。連続でワイバーン肉というのも悪くない。是非芽生さんの感想も聞きたいしな。
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