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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十七章:進捗進まずとも世間は進む
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933:もう二着

 特に買うものも無かったので車に戻り、テーラー橘に連絡をする。もう二着スーツを仕立てたいので都合のいい時間帯か、日を改めて訪問するかしたいとこちらから申し出ると、今日なら大丈夫らしいので今からそちらに向かうことと、今清州に居るのでそれほど時間がかからないことを伝えておく。


 さぁ、名古屋中心部に向かって再びスリルドライブだ。たとえここで俺の愛車が力尽きることになろうとも、交通ルールというものが存在する限りそのルールを守って運転しているこちらに分が有ろうというもの。もしも買い替えとなったらその時こそ金の使い所だ、新しい車を買いに行くことが出来る。


 今ならどんな車だって買えそうだ。金はある。メーカーによっては段階を刻んでいって、まず普通に買える高級車を購入して、それに乗ってディーラーへ向かわないと話すら聞いてもらえない所もあると聞く。そこまで高い車にどうしても乗ってみたいというわけでもないから、いつもお世話になっているディーラーへ行って似たような運転感覚で動かせる車を一つ早めに用意してもらうという流れになるだろう。


 やはり車は値段や外見よりも自分の運転のしやすさ、取り回しの良さが第一、第二が車検と自動車重量税、第三が燃費だ。第二第三は金で解決できるのでやはり今の車に似たタイプの車両を選択するだろう。もしかしたら納品の関係でもう少し後部座席に余裕があるような車が必要になってくるかもしれないがその時はその時でまた考えよう。まずは、事故を起こすこと……あれ?


 ◇◆◇◆◇◆◇


 テーラー橘に一番近いコインパーキングに車を停め、歩いて向かう。今日は私服だが前回も私服だったような気がする。流石にツナギで入っていってスーツを着て出てくる、なんてことでもない限りは店の品格としては問題ないだろうが、お店の利用者としては私服よりも店で作ってもらった品を着てここまで来て、消耗の具合なんかを見てもらうこともできたかもしれないな。そう考えるとスーツで来た方がよかったか。


 まあ、私服とは言えジャケットは羽織っているし明らかに場違いな、黒Tシャツに金のネックレスにサングラスかけて日焼けした小麦色の肌を見せながら入店、という訳ではないのだ。店的にもそれほどかけ離れた服装ではないだろう。


 あほなことを考えていたら店に着いた。久しぶりのテーラー橘は相変わらずの品の良さと少しばかりの店のドアの精神的な重たさを感じさせる佇まいのままであった。


 静かに扉を開け、きちんと閉めてから中に入っていく。今年の新色のネクタイなんかも展示されているあたり、流行は取り入れていくというスタイルなんだろう。カフスボタンもネクタイピンもあるが、今のところこの辺のアイテムに気になる点はない。客先回りなんかで見た目を気にするなら是非力を入れる所だろうが、営業ではなく現場仕事だ。見た目よりも機能性を重視していこう。


 そういえばワイシャツも少し買い足したいな。今みたいに二着を着まわして済ませるのでは少々面倒くさい。三着ぐらい同じサイズのものを仕入れておいていざ破れたりウォッシュでも落ちない汚れが出てきた時用に予備で確保しておきたいな。


 とりあえず店内の店員に向けて挨拶をしておく。確か以前採寸を担当していた人だ。俺が来るという話は通っているのだろうか。


「先ほどお電話させていただきました安村です」

「伺っております。橘は少々席を外しておりまして、こちらでその間対応させていただきます。よろしくお願いします」


 どうやらタイミングが少々悪かったようだ。手短に用件を話して、採寸するなら採寸、というところから始めるべきなんだろうな。


「とりあえず、以前作っていただいたスーツをもう二着、予備という形で作らさせていただこうと思うのですが」

「伺っております。念のため再採寸を行うかどうか確かめておきたいのですが、いかがいたしますか」


 採寸するならするやで、形変わってそれにきっちり合わせたいなら型紙も作り直すやで、ということらしい。


「そうですね、念のため採寸をお願いして、大きく変化がないならそのまま前回の作りのままでお願いする、という形にしようと思うのですが」

「かしこまりました。では採寸いたしますのでこちらへお願いします」


 採寸用の部屋に通され、薄着になりあちこちをまた測られていく。肘までの長さと肘から肩、首の太さや首の長さ、胸周り、腰回り、尻周り、足の長さ、股下、ひざ下の長さと上から順番に測られ、あぁ、一品物を間違いなく作るんだなぁという感じがぐっと出てくる。それほど変わったところは実感としてない。精々いうならば腹回りが思ったより発達せずに済んでいるなあという感想が漏れる程度か。


 一通り採寸が終わり戻ると、橘さんが戻ってきていた。用事が終わったらしい。もしかしたら他の来客の相手をしていたのかもしれないな。採寸が終わってからというのはある意味いいタイミングだったのかもしれない。


「これは安村様、御無沙汰しております。スーツの調子のほうはどうですか」

「完璧、と言っていいものだと思います。おかげで怪我の一つもせずに済んでいますので作っていただいた甲斐がありましたよ」

「それは嬉しいご報告を頂きました。こちらも良いものをお出しできたと自信がつきます」


 採寸の終わったデータを橘さんが受け取り、前回のデータと見比べている。


「今測りなおした範囲ですと……大きく変わる所はございませんね。少々太ももが太くなってはおりますが……元々余裕を持たせて作らせていただいておりますから、今までの型紙でも十分対応は可能かと思います。細かい所が気に入らないのであればズボンだけ型紙を再作成して対応する、という形になりますがどういたしますか」


 太ももか。動きを気にするなら確かに大事な所だ。しかし、元々ゆとりが有ったので問題ないとも言われた。今でも体を動かす際に違和感はない。それを踏まえて、更にもう少しゆとりを与えてみるかどうか、という話だ。


 うーん、下手にゆるくしてシルエットが変わるのもうれしくはないし、現状で問題ないならそのまま通してもらおうかな。


「今回はそのままで行こうかと思います。次回作る際にまた体型が変化していたらその時はお願いしようかなと思いますが」

「解りました。それで本当によろしいんですね? 」

「ええ、昨日も体を動かしてきたところですが、動きに引きつりや無理が有るようには感じていませんので、問題ないかと思います」

「では、今回のは前回に引き続きダンジョン用のスーツ、という認識でよろしいでしょうか」


 ダンジョン用、つまり戦闘用であり、非常にお高い布地を使って作り上げる自動車一台分の価格をふんだんに使った一品ということになる。


「戦闘用でおねがいします。流石に一着を毎日使い続ける、というのもアレだと思い始めたので、ある程度使いまわして利用しつつ服の寿命を延ばしていく方向で考えています」

「なるほど、了解いたしました。では前回と同じく、一度か二度仮縫いの行程を挟んでの完成ということになりますが、そこはよろしいですか? 」

「はい、問題ないです。また連絡のほうを頂ければ……相変わらず穴倉暮らしなもので留守電への一報の形でご連絡いただくのは恐縮するところではありますが」

「そこのところは理解させていただいております。では、最高級生地で仕立てさせていただくことにいたしましょう。後は生地の柄を選択していただきましょう。流石に前回と同じ……というのはおそらく色気が無いでしょうから、前回とは違う生地を選択されるのがよろしいかと」


 生地を選ぶ。まだ数種類しかないが、今着ているものとは違うものにしようとは思うが、ストライプはちょっと避けておこうかな。今回は紺鼠色という奴にしてみた。以前よりも若干淡い感じになるが、ちょうど夏場にもなる、あまり着ていて暑くない雰囲気を出す色にしておこう。これでヨシ。


「あぁ、それとワイシャツを数着購入しておきたいのですが」

「かしこまりました。先ほど採寸させていただいたデータから体に合うものを見繕わさせていただきます。ちなみに、ぴっちりワイシャツとゆったりワイシャツならどちらのほうがお好みですか? 」


 ワイシャツも体の線が出るようにピチピチに着るタイプと、そうではなくスーツの外観に合わせるようにゆったり着こなせるタイプがあるらしい。体形が変わることを考えると選択肢は一つだな。


「ゆったりサイズでお願いします。ぴっちりにしてまた体型が変わって着れなくなったりすることを考えていますので」

「解りました。数着お持ちいたしますので、色味と少々のデザインの違いなどから選んでいただく形になります」


 そういうとバックヤードらしきところに引っ込んでいった。どうやらワイシャツ一着にもそれなりに金がかかっているからか、表には出していないらしい。裏から出てくる一品、というのも値段相応に楽しそうでよろしいことだな。


 しばらく待ってお茶を楽しんでいる間に六種類ほどシャツが出てきた。俺の体型に合わせてもまだこれだけの選択肢があるぞ、ということらしい。


「サイズだけ見積もって一通り持ってまいりました。この中でデザインのお気に召した物があればどうぞお持ちください。一応広げた際のデザインが……こちらになります」


 タッチパッドでそれぞれ選択すると、広げた時の様子が見られるようになっている。やはり高級生地とはいえワイシャツ、試しに着て気に入らなかったから他のを、という風にして使いまわすことはヨシとはされないんだろう。これは良い試み。自分が着てどうかはともかく、前後左右のデザインやボタン、ポケットなんかを把握できるのは素晴らしいな。もっと広まればいいのに。


「そうですね……では、この三着にしようかと思います」

「かしこまりました。お支払いはどのようにいたしますか? 」

「現金で一応持ち歩いては居るのですが、振り込みのほうが都合が良いでしょうか」

「当店といたしましては……まぁスーツはともかくそれ以外の物品であれば現金で頂く方が色々と都合も付けられる、といった具合でございます。そうですね、現金でお支払いいただけるのであればこちらの三着、まとめてこのぐらい、という風にキリよくまとめさせていただくことは可能です」


 指を順番に出し、三着で三十万きっかりでどうよ? と合図を出してくれる。つまり本当はもうちょっとだけお高いということなのだろう。


「解りました、現金でお願いします。スーツの方、よろしくお願いします」

「そちらの方は責任をもって精一杯務めさせていただきます」


 保管庫からバッグ経由で札束を出すと、枚数を確かめてカルトンに乗せてそっと橘さんのほうに押し進める。橘さんはでは失礼して、と断りを入れた上で枚数を数え出した。手慣れたものなのか俺の倍ぐらいの速さで枚数を数えていく。


「確かにお受け取りいたしました。梱包いたしますので今少しお待ちください。にしても……札束を持ち歩いていらっしゃるのですか。少々危険では? 」

「探索者装備の仕入れの最中でして。現金のみの支払いの場所も少なくないですし、今のところカードの限度額以内で買い物をしようとすると足が出てしまうことがよくあるんですよ」


 丁寧に店の袋に入れてもらった後、何度も丁寧にお礼をされて店を出る。ワイシャツ購入ついでにワイシャツ保管用のハンガーをいくつかサービスしてもらったので今後は吊るして保管してあるという表向きの都合を用意しておこう。これで用事は済んだ。後は一か月後ぐらいに来るであろう仮縫いを何度か経由して二か月後ぐらいに次の一着が届くという形だ。


 さて、後は地元に帰っていつもの食糧の買い出しとお菓子の補充だ。地元に戻るまではまた恐ろしい区間を走ることになるがそこさえ抜けてしまえば大丈夫だ。安全運転を心がけて周りを常に注視し、自分以外の車は全て敵だと思っていこう。一瞬索敵をかけてみたがかろうじて黄色。いつ赤色になってもおかしくはない。


 しばらく走り地元に戻ったところで警戒心を解く。どうやら今日も無事に帰ってくることは出来た。後は地元のスーパーに立ち寄り、メモっておいた食材とお菓子をダダダッと補充。今日は午後からダラダラする予定なのでその間に消費する分も考えて、自分が食べたいものをそれなりに用意した。今日はチートデイだ。好きなものを好きなだけ食べてでっぷりしよう。


 そういえば昼飯の時間だな。腹時計がそれを伝えてきている。せっかくスーパーに居る事だし、スーパーの弁当にしよう。時間も時間で色々揃っている。天丼、カツ丼、親子丼、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、鮭弁、幕の内。何でも選び放題だ。おにぎりだって種類がある。具だけ買って帰ってパンを合わせるでも良い。総菜パンもそれぞれ並んでいる。ここは何を選ぶべきなんだろう。


 さて……胃袋に話しかける。胃袋君さあ……君今何がお好みなわけ? と話しかけながら一品一品目で確認しながら、胃袋がキュルっと返事をするのを待つ。今日のところは中々悩ましげ。じっくり時間をかけて選び、結果弁当というひと固まりではなく、白飯に何種類かのおかずを細かく買ってそれぞれを味わっていくということになった。カツ丼だけでなくカツだけという選択肢が取れたのが一つの決め手ではあったな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
名古屋市内の運転、そんな危険じゃ無いですよw
> ルールを守って」 > もしも買い替えとなったら」 > 金の使い所」 相手の保険金とか無かった > まずは、事故を起こすこと」 事故らなくてもお高い車買っていいのよ > 怪我の一つもせずに」 …
あれ?(´・ω・`)スーツ代前回1着100万以上じゃなかったっけ?
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