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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十七章:進捗進まずとも世間は進む
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932:色々買い物すれどもどちらを向いてもダンジョン

 昨日はちょっと遅めに寝たが、不眠感は残っていない。今日もバッチリと目が覚めている。しいて言えば今日はいつもよりも目やにの量が多く感じる事だろうか。瞼の真ん中らへんにねばついたものを感じる。まず、顔を洗おう。それからいつものお祈りだ。


 お祈りの後、朝食。今日もいつもの朝食だ。先日買い出しに行ったので朝食は何食分かまだ在庫が残っている。しばらく買い出しに行く必要はないと考えるが、野菜はそういう訳にもいかない。昨日のカレーで結構材料を消費したので使った分の買い足しは必要だ、後で買い物に行こう。


 今日は昼食と夕食については何も考えていない。ダンジョン飯のレパートリーを増やすことも放棄する。なんたって休みだ。せっかく一日フリーにしたのだから頭もダンジョンについて考えることを放棄しよう。


 とはいうものの、ダンジョン関連のタスクが溜まっているので休みの間にそれを消化してしまおうというつもりである。順番的にはまず鬼ころしへ向かって新しい靴、出来ればブーツ型で足に合ったものの選択。それが終わり次第テーラー橘に向かってもう二着スーツを新調。そして家に帰るついでに買い物をしようというこの三つだ。


 開店時間的に一番早いのが鬼ころしなのでまず鬼ころしへ向かうことにした。が、まだ開店までの時間を逆算しても時間が余る。その間に世相について少しでも追いつこうとニュースでも見ることにする。


 交通事故で怪我した場所に探索者がたまたま存在し、ポーションで初期治療したことによって病院へ到着後スムーズに安全な治療ができたことについて、警察署から表彰状が贈られた……という話があった。ポーション代は請求したのだろうか。それとも怪我人に贈与の形で与えられたのだろうか。どちらにせよ一つ命が助かったのは間違いない。通りがかった探索者はえらい。


 それと同時に、ダンジョン庁からの声明で、最近偽物のポーションが出回っているらしい。探索者から直で仕入れたから市場価格より安く買い求めることが出来るという広告に注意してくださいという話だ。


 たしかに、ポーションは市場価格と探索者からの買い取り価格はそこそこの乖離が生じているし、そこを狙って探索者から直接買い取ってその分を会社の利益にしようというのは真っ当な商売のやり方ではある。しかし、薄めたり偽物を売りつけるのはまた違う話だ。それを防ぐためにポーション類は必ずギルドの査定にかけるように、という方針を探索者に命じることもできなくはないだろう。


 しかし、探索者としても自分の怪我用にいくつかストックを残しておきたいという事情もある。俺だってかなりの数のポーションを保管庫に入れている。最近は怪我の心配もなくやれているが、腕がねじ切られたり火傷したりは何回かあったし、そのたびにポーションのお世話になっている。五十層から五十二層にかけてはキュアポーションを散々飲んで解毒しながら戦った。


 それを考えるとじゃあ全買い取りか、自分の分だけにしてくださいとなるが、その自分の分をよそに流して自分のものは新しく入手したポーションで代用する、となると結果的に今と同じ流れになるのは目に見えている。やはり、このあたりはダンジョン庁も頭を悩ませているところなんだろうな。


 ニュースが変わって気候のニュース、ここ一週間の天気予報、それから行楽地の情報。どれもピンとこないが、天気の話は大事だ。スマホにも天気予報アプリはインストールしてあるが、行き帰りで濡れるかどうかはその後のやる気にもつながる。


 後は暑さ。これも、ダンジョンに入る前に暑さにやられて気力が出ないではその日のアガリに関わる。一番暑い時間はダンジョンの中に居るから良いとしても、行き帰りの間どれだけ涼しく過ごせるかは大事だろう。


 電車も混んでいたら暑いし、バスはそれ以上に冷房が効きづらい。かといって自転車で汗をかきながら現場に向かうのにも限度はある。やはりこういう時自家用車通勤というのは気楽でいいんだろうな。その点だけを考えると結衣さん達はちょっとうらやましいのかもしれないな。


 今日は久しぶりにスーツではなく私服で出かける。せっかく買ったのに袖を通さないままの服がいくつかあるのでそれを選んで試しに鏡の前で変じゃないかどうか確認。歳に似合わず若すぎる格好になってないかとか、逆にオッサン過ぎないかなどを自分の目線で良いので見ておく。多分……大丈夫っぽいな。


 時間までやることが無く落ち着かないので先に出てしまうことにした。到着したら駐車場でうろうろすることになるが、まあそのぐらいなら許してもらえるだろう。別に近くのコンビニに車を停めて雑誌を立ち読みしたりその辺で買い食いしてたりしても良いしな。遅いよりは早い方がいい。道が混雑する可能性だってあるのだ、余裕を持った時間設定をしておこう。


 いつもの交通ルールが定まらない地域を、本来存在するはずの交通ルールに沿って運転する。今日は土曜日だからか、車の量が少し多い。これから行楽地へ向かう車もあるのだろう。ふと信号で止まって隣の車を見ると左右をフルスモークのミニバンに挟まれた。オセロなら俺もフルスモークのミニバンになっていた所だろう。後は、左右一斉に右折して俺が巻き込まれ事故にならないことを祈っておこう。地面に書いてある日本の標識が正しいなら、それぞれ左右に分かれて向かうはずだ。


 信号が青に変わり、ミニバンはそれぞれ左右へ分かれていったが、俺の前に居た直進するはずの車が左へ曲がっていった。やはり気を抜くとここは死ぬ。ダンジョンのほうがよほど安全だな。


 赤信号を平気でぶっちぎりながら唸りを上げて逆車線を走っていく軽トラを見かけた以外には他に交通ルール的な問題も無く、事故のシーンに立ち会うことも無いまま無事に鬼ころし付近に到着。開店三十分前だったので少し離れたコンビニへ一旦駐車。


 疲れはそれほどないが喉が渇いたので冷えたノンカロリーコーラとホットスナックを買い、車の外で食べる。中だと確実に揚げ物の匂いで汚染されるからな。汚したら【生活魔法】で綺麗にすることはできるものの、おそらく残り香を消すことは……いや、やってみるか?


 ここで生活魔法の実験をすることにした。コーラをドリンクホルダーに入れて揚げ物を食べる。当然運転席の周りは揚げ物の香りに汚染される。一応窓を開けて換気を試みるが、一部はそれでも残ってしまっている。


 ここでウォッシュを発動。イメージは揚げ物の香りを消す……残り香を消す……揚げ物の香り……しばらくすると目の前に少しだけ黒い粒子が発生し、においは消えていった。どうやらウォッシュはその気になれば空間消臭にも効果があるらしい。一つまたスキルに対する知見を得られた。


 そして、黒い粒子が見えたということは、やはりウォッシュは汚れや臭いの元と断定したものを黒い粒子、魔素に変換することで対象そのものを消滅させる効果があるようだ。クリーニング屋で重宝されそうだな。もう醤油のシミを歯ブラシで叩いて落とすなんて事はしなくていいらしい。


 これを拡大解釈すれば、汚れと認識したものは何でも黒い粒子に変換することが出来るようになるのではないだろうか。【生活魔法】を多重化させて覚えて行けばその内可能になる技術かもしれないな。意外な所で面白いネタを仕入れることが出来た。


 例えば【生活魔法】の多重化で何処までの物を汚れや邪魔なものと認識させて黒い粒子に変換することが出来るようになるのか。保管庫からメモを取り出し、いつか試してみたい事リストに加えておく。うん、休みだがきっちりダンジョンのことしか考えてないな。いつも通りでもう却って安心してきた。


 開店五分前。そろそろ移動してもいいだろう。車をコンビニから鬼ころしへ移動させる。開店間近だからか駐車場は開けてくれていたので問題なく駐車。後は店のシャッターが開くのを待ち、開店したところで即入店。せっかく来たんだし、またパチンコ玉を仕入れておくか。パチンコ玉は何万発あっても困らないからな。とはいえ、まずは第一目標である靴の調達だ。


 靴のコーナーへ寄る。やはり色んなブランドの色んな種類の靴が展示されている。大事なのはブランドや性能ではなく、まず足に合うかどうか。メーカーによってほのかに違う足裏や足の甲の感覚をそれぞれ確かめ、時にはその場でジャンプしたり足を伸ばしたりして、探索や戦闘の際にどういう動きが今と比べて阻害されるのか、または楽になるのか。そこを重点的に見ていく。


 第一に見るべき点は砂が入りにくいこと、もしくは砂が入っても出しやすいこと。前者で言えばブーツ型、後者で言えばスニーカー型の安全靴が良い。一応今使っているものと同じものがあるかどうかを確認。店員に一言断った後で、今のと比べてサイズが合っているかどうか、新しくなって何処か違和感がないかどうかをチェック。チェックした後で一番足に合っていると思われるものを一足、まずは確保しておく。


 さて、ブーツ型だ。これは履きなおしするたびに紐を結びなおすか、強めのマジックテープでバリバリーっと一気にはがして多少楽に履きなおしが出来るようになっているタイプかに大別される。ともあれ、まずは足に合うかどうかの調査からだ。


 メーカーの売り文句で砂が入りにくいとかホコリの多い所で便利などの謳い文句を掲げているメーカーの品から順に見ていく。マジックテープタイプだと、砂がテープの間に入り込んだ際に靴が脱げてしまうというアクシデントに見舞われる可能性も考慮しなければならない。


 色々悩んだ末にマジックテープ式のを一つと紐のを一つ、合計で二足購入することにした。長時間酷使する装備品だから今までメンテせずに使ってきたのが不思議なぐらいだが、これでまたより一層良い活躍が出来るようになるならこれ幸いだ。


 後はいつも通りパチンコ玉を仕入れる。また四千発だ。これで今年いっぱいぐらい補充する必要は無くなるだろう。店員ももしかしたら定期的にパチンコ玉を大量に仕入れていく客が居るので在庫は残しておかないといけない、みたいな危機感を持つかもしれない。


 今回は全て装備品、つまり経費だ。そう高くないとはいえせっかく経費として認めて利益を押し下げて支払う税金を少なく出来る機会とすればいい。


 一円単位で拘る……いや、実際のところ拘ってはいないんだが、本来ならそこまで拘っているからこそ税理士に任せたり交際費を経費に組み込んだりするはずだ。自覚して経費だと言える装備は経費として放り込んでおこう。


 靴の箱を引き取ってもらって靴だけを三足、袋に入れてもらう。パチンコ玉はちょっと重いので台車を借りて車の前まで持っていき、共に収納。家に帰ったらパチンコ玉をばらして保管庫の中身の一纏めとして認識させよう。


 経費の買い物が済んだところで他の色んな品物を見て回るが、流石にそうそう大きな流れみたいなものは変わっていないらしく、大きくコーナーを変えたものとか、以前有ったツナギ祭りみたいな催しは行われていない。あれだけあったツナギが捌けているところを見ると、結構な人数がツナギを買い替えた可能性は高いな。


 清州ダンジョンに行けばツナギだらけの探索者が見られるんだろうか。今日はさすがに潜るような装備で来ていないが、今度スーツで潜り込むようなことがあればこっそり十五層まで潜って一人でゴブリンキングを倒して帰ってくる、ぐらいのことは出来るようになっているかもしれない。流石にもうそろそろゴブリンキング待ちの行列なんてものは解消されているはずだからな。


 久々に清州ダンジョンか……つまり、保管庫を使えないダンジョン探索ということになる。バッグの中に詰められるものだけ詰め込んでいくか、持ち物を制限していく必要がある。おにぎり三個とペットボトルの飲み物二つだけ詰め込んで十五層まで気楽にエレベーターに乗って十五層まで下り、ゴブリンキングだけ倒して帰る。黒字にはなるだろうが、清州でそれをやる必要性があるかどうかはまた別な話だ。


 今のところ小西ダンジョンで自分は満ち足りた探索者生活を……いや、他人の何十倍も楽な探索者生活が出来ている。わざわざ不便を甘んじて受ける必要はないだろうし、もしも小西ダンジョンが踏破されて再度作られるまでの暇な時間が出来たとして、その間だけ清州ダンジョンに潜る、という行為をするかどうかはまた別な話だ。そのタイミングが来たらその時考えればいいだろう。


 めぼしいものを物色しているものの、特にこれと言って思いつく商品が無い。今日はひらめきが薄い日なのか、それとも本当に必要性のないものが並んでいるのかどちらかだろう。後で思い出してアレが必要だったかもしれないと思ったら、次回来る時のためにメモで残しておけばそれで十分だ。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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休みの日、フィットネスに行くって言ってたじゃん 趣味に筋トレオジさん加えるのを楽しみにしてる カメラおじさんで下層の撮影をしながらレンズ沼に沈むのも富豪ぽくてヨシ
日本の紙幣に使われてるような技術でポーションにペタペタはって正規品ですよーするくらいしかなさそう。あれはどこもぱくれんし それでも安いのをやるならもうそれは自業自得なんよw 探索者はだいたい仕事でポ…
ブーツの履いて脱ぐ面倒さを考えると保管庫へ直接収納、直接装着と変身者みたいにできるようになれば楽なのにと思う。 レベルが上がればできるようになるのかな?
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