表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十七章:進捗進まずとも世間は進む
925/1205

925:国際交流のほうが異文化交流より難易度が高い件

『安村は一人でダンジョンに潜っているのか? だとしたら相当な腕前なんだが』

「あぁ、待ってくれ、俺は日本語しか話せないんだ」

「安村は日本語? しか解らないからまくしたてられても困ると言っている」

『そうか、じゃあ簡潔に……パーティーメンバーは居ないのか? と伝えてくれ』

「仕方ないな……安村のパーティーメンバーは? と聞かれている」

「あぁ、なるほど。相棒は本業の学生生活を満喫しているところだ。今日は一人で金稼ぎ兼実力アップのための修行ってところだ」

「パーティーメンバーは本業の学生をやっている。今日は金稼ぎと実力アップの最中だそうだ」

『なるほど。と言うことはこの辺のモンスターなら一人でやってしまえるということだな。安村は相当強いな』

「強いな、と言っている……ねえ、この状況おかしくない? 」

「どうしたミルコ」


 ミルコから苦情が飛んできた。なんだろう。


「君たちは同じ星の上に住んでいるんだよね? どうして言葉にこれだけ差があるんだい。翻訳してる僕が本来一番遠い存在のはずなのにどうして僕が通訳なんだい? 」

『言われてみればそうだが……この星がそうやってできているからとしか言えないな』

「彼らともまた異文化交流ではあるからね。異世界交流ほど派手ではないものの俺みたいに田舎で自分の言葉だけで済んでしまう文化圏に住んでる以上、喫緊の課題として必要にならない限りは自分の言葉しか使わないんだよね」


 ミルコが中間に立ってあたふたしている。たしかに、右へ左へと翻訳していく作業は大変だろう。


「一時的に翻訳機能をつけてくれることとかできればいいんだけどな。それならお互い違和感なく話せるんだが」


 ダメ元で提案をしてみる。ミルコは少し考えた後、見えないコンソールを叩きだす。すると、円形の目に見える謎のフィールドが発生した。


「これでどう。全員に一時的に翻訳を付与するフィールドを発生させてみた。この中でならお互い会話が通じるはずだ」


 ミルコが何やらやってくれたらしい。翻訳魔法みたいなものか。個々人に付与するわけではなく、一時的な処置みたいなものらしい。


「あーあー、今日も四十二層はお天気も良く波も無く平穏無事なり。通じてるか? 」


 発声テストをしてみる。向こうはおや? という顔をして驚いた後、向こうも話し始めた。


「解るぜ。声はそのままでスペイン語に聞こえる。そっちには俺の声は日本語に聞こえてるって事で良いのか? 」

「あぁ、あってる。改めて初めまして、安村と言う。この小西ダンジョンの専属探索者だ」

「俺はガルシア。この連中のリーダーを一応している。向こうのダンジョンでは四十層までは経験済みだから安心して降りてこれたが、なんだあのデカいカニは。四十一層からは半魚人も出るし、ここも中々個性的なマップをしているな」

「ホセだ」

「モンチョだ」

「パブロだ」


 順番に名前を教えてくれている。どこかで聞いたことがある名前だから、向こうではありふれた名前なんだろう。確かスペインのほうでは聖人の名前をもらって名付けるのが多いんだったかな?


「四十層まで下りたことがあるってことは、そこのダンジョンマスターも真面目にダンジョン作ってるってことだな。どうやらすべてのダンジョンは三十八層までは最低限作られている形になっているようだから、そこのダンジョンはしばらく踏破の可能性は無いのかな」

「いや、俺達より先に行ってるパーティーはあるぜ。ただ、三十五層に最初に到着したのが俺達だったんだ。その縁でリュドミーラ……ミルコの姉らしいが、そこで面識を持ったんだ」


 なるほど、そういうつながりか。海外とはいえダンジョンマスター同士でも会話は出来るはずなんだが、さっきの話を漏れ聞いたところによると姉からの連絡を着信拒否しているらしかったからな。姉が鬱陶しいのは何処の世界も同じらしいな。


「で、メッセンジャーついでに日本への観光旅行に来たという事か」

「そうなる。観光と言いつつ金稼いで帰るんだから出稼ぎに近いんだが、今のところ探索者が海外で仕事をしてはいけない法律ってのが無いらしいからな。バカンスのための軍資金は今稼いできたってところだ」

「だとしたら注意したほうが良い。ここは二十四時間営業じゃないんだ。午後九時にはダンジョンを閉めてしまって朝まで出入りできない。それまでに戻って査定、支払いを受ける必要があるぞ」

「それは一応入場する時に説明を受けたな。まだ時間はあるだろうし、もう少しここの空気を楽しんでいくとするさ」

「何もない所だけどね。交換ノートみたいなものはあるから記念に何か書いていくと良いよ。ここにはぶっちゃけ三パーティーしか来ないからほとんど身内用になっているが、他の階層ではそれぞれ意見交換や情報取得用のものとして使われているからね」


 そういってエレベーターの隣にあるノートを指さす。ホセが早速ノートを見に行き、何やら楽し気に落書きをしているようだ。読めないだろうが、後で読みに行こう。


「しかし、安村はソロでここに潜り込むだけの実力があるなら、一体どこまで深く潜ってるんだ? 相棒が居るとはいえ二人でなら相当下まで行けるんじゃないのか? 」

「広めないと約束してくれるなら話すが、黙っていてくれるか? 」

「それは構わないが……黙っているよりそういうのは声を大きく広めて耳目を集めるほうが君のためになるんじゃないのか? そのほうがモテるぜ」

「もうモテているからこれ以上は良いんだよ。それよりも、耳目を集めることで探索に余計ないろんなものが付随してくる方が鬱陶しい。探索するなら探索に集中したいんだ。そのほうが、何より儲かる」


 横向きのOKサインを作って見せる。するとガルシアはちょっと顔をしかめる。


「おっと、日本ではそのサインが金が儲かるってサインなのか。それは他の国では止めておいたほうが良い。海外ではこっちのほうがメジャーで、そのサインはマスターベーションを表すことがあるからな」


 そういうとガルシアは指先をシャカシャカさせ始めた。どうやらあっちの方がより伝わりやすいハンドサインらしい。


「なるほど、一つ勉強になったよ。こうか? 」


 指先をシャカシャカさせて、紙幣を数えるような仕草をする。


「そうそう。これで一つお互い物知りになれたな」

「僕を差し置いて異文化交流が楽しそうだね。こっちのほうがよほど異文化だろうに」


 ミルコが不満そうにこちらへ視線を向けてくる。


「俺、というかほとんどの日本人にとっては、ガルシアもミルコも同じぐらいの熱量でお客さんだからな。特にこんな田舎のダンジョンにまでやってくる、という意味ではダンジョンマスターよりも珍しいと思うよ」

「そういうものなのか。中々距離感が難しい民族だな」

「だが、日本人は皆優しいぞ。小西ダンジョンに来るまで何回か交通機関を乗り継いできたが、みんなジェスチャーやつたない英語で伝えようとはしてくれていた。俺の母語はスペイン語なんだけどな」

「日本人は白人の見分けをつけられないからな。白人の外国人を見たらみんな英語を使うものだと認識しているんだろう。しかしそうか、じゃあ今俺は流暢なスペイン語を話しているように聞こえるわけか」

「そうなる。これもダンジョンマスターのおかげだな」

「そういうことだな、ありがとうミルコ。お礼にコーラを一本つけよう」


 保管庫からバッグ経由でコーラを取り出しミルコに渡す。


「なんだか買収されてるように見えるが……まぁいいや、いただきます」


 その場で美味しそうにコーラを飲み始めるミルコ。それを見て呆れるガルシア。


「コーラは冷えてるのが一番美味いだろうに。半日経ったコーラじゃいまいち美味しさが伝わらないと思うぜ」

「大丈夫だ、このコーラはちゃんと冷えてる」


 そういうとコーラを取り出しガルシア達に配る。ガルシアは冷えてることに驚いたのか一瞬手を引っ込めるが、人数分受け取ってみんなで飲むことになった。


「確かに冷えてるな。何かトリックでもあるのか、それともバッグに保冷材でも仕込んであるのか? 」

「まあそんなところだ。で、ここの最深層だが確認されているだけで五十六層だ」

「そいつはすげえな! そこまで潜って帰ってきてるって事だろう? 世界でも一番深くまで確認されてるダンジョンじゃないのか? 」


 ガルシアが感動に打ち震えているように見える。やはり海外の人は何と言うか、オーバーリアクションなんだな。


「そういえば、四十層まで潜ったって言ってたな。今日は誰かに頼んで十五層までエレベーターで来て、そのままゴブリンキングを倒して、その後三十五層へ下りてここまで来た、という流れで合ってるのか? 」

「その通りだ。このダンジョンは程よく狭くていいな。俺の通ってるダンジョンの四分の一ぐらいの面積しかねえ。とりあえず三十五層で呼びかけてみたものの反応が無かったからここまで下りてきたんだ。本当は三十五層で伝言を残してそのまま帰る予定だったんだが、仕方なく四十二層までのこのこと下りてきたって寸法だ。おかげで安村に会えて、その伝手でミルコにも会えたから予定としてはこれで充分だな」


 どうやら滞在するのは今日一日だけらしい。目的は果たしたし資金は稼いだし、後は自由に動き回るって奴なんだろう。


「そうか。この後何処へ行く予定なんだ? 」

「そうだな。名古屋でヒツマブシは食べたから後は新幹線でキョウト行ってオオサカ行って。ひたすら食事を堪能する予定だ。高級じゃなくても良い、日本のグルメを堪能していきたいな」

「そういう旅も楽しそうでいいな。俺はあんまり旅行とか行かないからな」

「世界は広いぞ安村。もっとダンジョンの外にも目を向けて言葉を覚えて自分の中の世界を広げていくのは楽しいぞ」

「参考にはしておくよ。深く潜って探索してるおかげで金には困ってないし時間も自由にあると言えばあるからな。それに国内でも色々巡ってみたいところがないと言えばうそになる。まずはその辺から始めてみるのも良いかもしれないな」

「俺も自分の国で行ったことない場所ぐらいある。それはそれとして、今はせっかく日本に居るんだから日本で気になる所を色々と考えてあるんだ、それを楽しみにしているよ」


 陽気な奴だ。ここから南方に二時間ほど電車で行けばスペインが日本の中にもあると伝えたらどう反応するだろう。現地民視点からのスペイン村レポートみたいなものが得られるんだろうか。


「さて……楽しい会話の最中だがそろそろ時間的にギリギリじゃないか? 閉場までの時間はあるだろうけどホテルまで行く足が無くなるぞ。ここは日本でもどっちかというと田舎だしタクシーも少ない。あんまり遅いと駅でお預けを食う事になるかもしれないぞ」

「そうだな……一応チェックインの時刻までは少し時間があるが、ちょっと手間がかかるかもしれないからな。日本の交通機関は時間に厳しいからな。ちゃんと時間を守ってくれるのは良い事だ。一日二日遅れて列車が到着したりはしないからな」

「そんなに遅れるのか。日本では信じられないな。事故や雪でもない限りは十五分遅れることはまず無いぞ」

「よし……それじゃあ行くとするか。安村も機会が有ったらまた会おう。ミルコは姉さんにちゃんと連絡するんだぞ、伝えたからな」


 ガルシアが最後にミルコに念押しをしておく。そもそもその為の旅行だからな。第一目標が達成されなければ意味がないだろう。


「解ったよ。次に連絡が来た時はちゃんと受け取ることにする」


 ミルコはそういうとシッシッとガルシア達を下がらせる。ガルシア達は苦笑いしながらエレベーターのほうへ向かっていき、地上へ帰っていった。


「俺も帰るか。ミルコ、これいつもの」


 お菓子は今日は予定が無かったので、ミントタブレットは通訳料として三つ渡してコーラも手持ちをありったけ渡しておく。


「今日は渡す予定が無かったから保管庫にもほとんど入れてないんだ。だからこれだけですまん。次回はもっと仕入れて来るよ」

「まったく……通訳と言い姉さんのことと言い、今日は厄日だな。安村も気をつけて帰ってね。後、もう僕通訳しないから自分で言葉を覚えておくれ」

「そうするよ。出来れば今度は自分の言葉で伝えたいからな」


 ミルコに礼を言い、リヤカーを引いてエレベーターで帰る。もちろん、茂君は忘れずに刈っておく。その分遅く出たため、ギルドでガルシア達と再会する事は無かったが、良い出会いだった。退ダンして査定、そして今日の稼ぎは九千五百二十六万円。しっかりと稼いだな。


 さて、夕食をなににするか……買い出しに行ってからだったな。それから内容を決めて作るなら作る、買うなら買うで決めよう。あーお腹空いた。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
角持ってないのにエレベータ乗れる設定でしたっけ? 
> 翻訳を付与」 そういうのもあるのか > ガ ルシア」 > ホ セだ」 > モ ンチョだ」 > パ ブロだ」 後にサブリーダーとして「チャベス」が加入する事となる > そこのダンジョンマスターも…
へー、翻訳付与のフィールドとは面白い事が出来るんだなあ 翻訳スキルとかあったらダンジョン攻略ではそんなに役に立たなそうですが日常生活でめっちゃ便利そうだなー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ