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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十七章:進捗進まずとも世間は進む
922/1207

922:いつも通り?

 今日は午前中にいつもの納品を終えてからダンジョンに向かう。昼飯はダンジョン前のコンビニで済ませることにする。夕飯も……コンビニで良いか。今日は軽く流すだけの日にしよう。


 いつも通りの開店直後の時間に布団の山本へ連絡。納品に行くと伝えると了解をもらったので車を飛ばさず安全運転で向かう。商品を乗せてるんだからな。迂闊な運転で揺らして飛び散って品質を損ねてしまっては申し訳ない。


 布団の山本に到着して店長に挨拶。最近の割合である、ダーククロウの羽根十キログラムとスノーオウルの羽根四キログラムを納品する。いつも通り店員さんが出てきて車から順番に荷物を下ろしてくれる。ちゃんと区切ってここまでがダーククロウ、ここからがスノーオウル、と伝えたうえで渡していく。


 中に入ると、もう冷房がかかっているらしい。涼しさが出迎えてくれた。五月に差し掛かったとはいえもう暑さを感じているのでちょうどいい。


「今日もありがとうございます。量と品質、確認させていただきました。定期的に卸していただいているおかげでここ最近は欠品を起こさず順番待ちのお客様もかなり減りまして、順調に商売のほうをさせていただいております」


 早速冷えた麦茶と羊羹と共に山本店長と会話が始まる。


「最近はスノーオウルの羽根の消費がお盛んな様子ですが、やはり混ぜ物としての効果が強くなった、ということでしょうか? 」


 スノーオウルの羽根はまだまだ高級品だ。それほどの物をホイホイと買いつける客が増えるほど、まだまだ世の中にこの素晴らしい寝具が開発されているとはさすがに思っていない。他に何かしら更に卸し売りする先のルートがあるのだろう。


「それもありますが、他所の会社さんからサンプルとしていくつか欲しい、という形でお願いがありまして、少量ずつではありますがお渡ししてる分があります。もちろんお金はきっちりとらせてもらっていますが」

「なるほど、他社さんへのおすそ分けですか。スノーオウルの羽根はまだまだ希少材料ですからね。ここにはある、という情報を聞きつければちょっとお願いする、という話もいくつかは出てくるのかもしれません」

「まさにそういう状況ですね。どうやら当店には大体在庫もあるし融通もしてくれる、という噂が独り歩きしているようで。半分ぐらいのお客様……この場合企業様ですかね、値段を聞くとそんなにするのか、という形で諦めていくのですけど」

「残り半分はその値段でも良いからいくらか融通して欲しい、とくるわけですか」

「そうなります。安村様が多めに卸していただいているおかげで量のほうは問題なく回っている訳ですが、流石にそちらの分も、となるとこちらもちょっと言いづらい形になっております」


 申し訳なさそうに山本店長が話す。俺としては……うん、俺としてはその後山本店長がどういう形で儲けを出していくかについては口を出すつもりはないから、高値でもつかみたい客が居るならそれを掴ませてあげるのも手だとは思っている。


「もう少しスノーオウルを取りに行く量を増やす、という形に出来なくは無いですが、それについてはどう考えていらっしゃるのですか」

「そうですね……贅沢を言えばまとめてこちらで引き取るという形で良ければもうちょっと量が増えても良いとは思っております。ただこちらは安村様の納品したいようにする、というのが負担なくお互いにいい商売ができる形だと考えております。ですのでもし出来れば……という話ではありますが、もう少しスノーオウルの取扱量を増やしていただけたら良いなとは考えています」

「そういう事なら、次回はもうちょっと多い納品を心がけることにいたしましょう。取りに行くのはまとめてなので、手間が増えるという訳でもありませんし」


 うん、次回はもう二キログラムほど増やして納品して様子を見てみよう。それで店の在庫が上手く回るならそれに越したことは無い。しかし、六キロか。一回通う事は確定だな。宿泊のつもりで三十五層で飯食って仮眠取って、それからゆっくり三十八層で可能な限り戦い続ける、という手も有りだな。一日フルに使って八キログラムほど手に入れられるし、二日で十六キログラム。二日通えば充分今月来月分としての納品には間に合うな。


「ありがとうございます。次回の納品をお待ち申し上げております。どうか、御無理だけはされませんよう」

「大丈夫です、日々私も強くなってますし、ダーククロウの羽根は毎回コツコツと溜めさせていただいてますし、今のところスケジュール的に無理があるというわけでもありませんからね」


 しいて言うなら明日行くか明後日いくか、二日とも行ってしまうか、ぐらいの違いでしかない。二日続けて行っちゃうのも悪くないな。パチンコ玉の在庫もまだまだある。この在庫を全部使い切って全てスノーオウルにつぎ込んだとしたら、およそ二年分の在庫を一気に確保することになる。これはこれで悪くない。泊まりで何グラム稼げるかを計算しておくのも悪くないだろう。


 一人探索は寂しいが、その代わり行動の自由と気楽さがある。うん、しばらく一人で潜るのもたまには悪くないかもな。自分の稼ぎは自分の稼ぎでちゃんと確保しておく。その上で探索の幅を広げて……広げてはいないな。だが、スノーオウルの羽根にも十分商機があるということは解った。そこをもう少し掘り下げながら進むのも悪くないだろう。


「しかし……ダンジョンマスターですか。発表されてもピンとは来ないのですが、安村様としてはどうなんでしょう? 何か身の回りで変わった事とかはあったりしますか? 」


 うーん、一般人に実はダンジョンマスターと懇意なんですよ、と伝えたところで別に単価が上がったりするわけでもないしな。適当にはぐらかしておこう。


「そうですね、ダンジョンマスターに会うにはどうすればいいのか聞かれることは多かったですかね。今は落ち着きましたが、発表当初はそれなりに大変でしたよ」

「ということは、御面識がおあり、ということなのですか……どんな感じですか、ダンジョンマスターというのは」

「基本的に我々と大差ない、というのが今のところの感想ですかね。だからダンジョンマスターだからどう、というのはない感じですかね。ダンジョン内で良い友達が出来たぐらいの気持ちで居るのが良いと思いますよ」

「なるほど、良いご縁を築いておられる、ということですか。それは結構なことです」


 あまり深くまで話さないのを見越して、察してくれたらしくそれ以上の追及はしなかった。おそらくそれを知ってもお互い商売上の美味しい思いに与れる事は無いだろう、という商人の勘かもしれない。今日も冷えたお茶と羊羹が美味い。


「さて、では納品した分を早速取りに行こうかと思います」

「はい。お気をつけていってらっしゃいませ」


 無理をしているという訳ではない、という事をお互い解ってはいるが、ちゃんと声をかけてくれるあたりに少しばかりの嬉しさを感じる。


 店を離れて家へ一旦戻り、それからダンジョンへ出かける。


 柄、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、これから!

 嗜好品、ナシ! これもこれから買いに行こう。

 酒、ヨシ! でも渡す予定はナシ!

 保管庫の中身、ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は確実に。と言っても時間的には飯食って茂君して、三時間ほどダンジョンに滞在して茂君して帰る、という非常にタイトなスケジュールになっている。これなら一泊泊まりにして三十五層で仮眠、仮眠から目覚めたらもう一回三十八層に行く、という流れでも良いかもしれない。どっちにしようかな。


 三分間考える。考えた結果、当初の目的通り日帰りという事になった。考える時間は三分あればいい。それ以上こねくり回して考えるぐらいなら行動を起こした方が建設的だという考え方は今でも変えていない。


 何だったかな。ファーストチェス理論だったかな。時間をかけて考えてもほとんどその行動に差は出ない、という考え方だったはず。だったらこの一年かけて育て上げた直感を信じようという奴だ。俺は探索のプロと呼べるほど長くはやっていないが、稼ぐ方面には自信がある。稼ぐだけなら考えるよりも行動だ。よし、早速ダンジョンへ出かけよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 いつもと違う時間に電車に乗る。当然バスの時間も違う。そしてバスは行った後だった。そういう時は自転車だ。自転車を取り出し……いや、その前に駅前に出来たコンビニを利用しよう。ここで昼食と夕食とを両方確保してしまおう。そして自転車で移動してる間に保管庫に放り込んでおけばアリバイは完璧。そうと決まればコンビニ飯だ。


 新作のチャーハンおにぎりが出ているので買う。焦がし醤油が決め手らしい。これは昼食用。今日はおにぎり系を攻めてみるか。唐揚げマヨとスパム……悩んだ結果今回は唐揚げマヨにした。後は飲み物は……保管庫にある常温の奴で良いだろう。暑くなったとはいえ冷えたものはお腹に来るかもしれない。後、夕食。夕食もおにぎりというのは芸がない。たんぱく質をしっかり取れるというのがウリのサンドイッチを二種類。二つで十分だろう。


 後は帰り道に寄りたくなったら寄って、足り無さそうな栄養分を補うという方向性でやっていけばいい。野菜を取りたくなったら保管庫に野菜ジュースもある。炒め物が食べたくなったら炒める具材はちょっとだけある。その他いろいろにヨシしたのはその辺も加味されてのこと。ならば今買うものはこれだけで充分だな。


 コンビニチェーン限定のお菓子も買っておこう。家の近く、駅前、ダンジョン前とそれぞれチェーン店が違うのでそれぞれの店の限定メニューを楽しもうと思えば楽しめるのがコンビニの良いところだ。悪い所はそれぞれを訪れないといけない所か。お菓子も買いこんで準備はヨシ。


 買い物を終えたら背中のバッグに入れるふりをして保管庫に収納。そして自転車置き場で保管庫から自転車を取り出し。周りには人も居ないので見られてる可能性は非常に低い。もしかしたら死角から見られてる可能性はあるが、ちゃんと他の自転車をガサガサしてから自転車を取り出しているので、念入りに台数を数えているような奇特な人でもいない限りは大丈夫なはずだ。


 自転車に乗り、ちょうど昼前の日が照っている中をスーツで走り抜ける。山からの少し冷えた向かい風を正面から受けながら走るので、涼しくて気持ちがいい。こういう気候の分にはそのまま何処かへ走り抜けていきたいという気持ちに時々かられるが、今日これから気温が上がることを考えると暑いだろうし、何より荷物が多すぎる。サイクリングはまたの機会だな。


 向かい風を受けながら走るので多少しんどいものの、ダンジョンへたどり着いた。自転車置き場で自転車を収納し、入ダン手続きへ向かう。


「今日は午後からなんですね。ご安全に」

「午前中は納品だったので。ご安全に」


 顔なじみの受付嬢に挨拶をするとリヤカーを……今日は要らないかもしれないが、ダンジョンに入っているという証明にはなるだろうから持っていく。結局誰かへのここに居ますよサインとしても通用しているこのリヤカー、もし同じ名字の安村さんがこの小西ダンジョンに居るなら、その人が代わりに持っていくことはあるのだろうか。少なくとも今まで自分以外が使っているところを見たことが無いので他の安村さんは居ないんだろうな。


 早速七層で茂君。今日は居てくれたらしい。勤務時間外労働お疲れ様です。回収し終えて戻ると、今度は四十二層へ。潜っていく間にエレベーターの中で昼食とする。このエレベーターが普通のエレベーターだったら残り香がするとかいい匂いがするとかで他の乗降客の迷惑になるのだろうが、このエレベーターは目標階層に到着するとどうやら消滅する仕様になっているらしいので臭いも気にせず食事を楽しむことが出来る。今日みたいに時間が押してる時には有り難い食事場である。


 たまにはこういう味気ない食事をすることで、普段の食事がいかに豪勢であるかというものを再確認することが出来る。保管庫って偉大だなあ。皆にも分けてあげたいぐらいだ。むしろ、探索者は一人一つずつ保管庫を持っていても良いのではないか。それで社会的にも色んな活動が盛んになればより幸いというものではある。ただ、物流というロジスティックに革命をもたらすのは間違いない。


 まだ、この世の中は探索者が中心に回るようにはできていない。いずれそんな日が来るのかもしれないだろうが、今はまだそういう段階ではない。そういえば海外でもダンジョンマスターの情報がこれだけ広がったのだから、保管庫、アイテムボックス、インベントリ、その辺のワードで再検索をかけて、持っているという情報をオープンにしている探索者を探してみるのも有りかもしれないな。もしかしたら俺の気づかないような運用方法を公開しているかもしれない。メモっておいて帰ったら探してみよう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
主人公の保管庫ほど高性能じゃなくてもいいから廉価版?みたいなスキルがあるとより探索が捗るからダンジョンマスターにとってはいい気もするけどなぁ 容量はバックパック1つ分、時間経過通常、射出なし。みた…
誰もいないうちにスキル大暴れするのもよさそう 暴れまくればフクロウも寄ってきておいしそう
> 飛び散って」 家から出しちゃったおじさん > スノーオウルの羽根」 おじさんが小西ギルドに下ろしてないから、布団の田中がシェアほぼ独占している状態 > 嗜好品、ナシ!」 ない時だってある >…
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