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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十六章:底は見えず
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914:到達報告と提出

 ちょっと暑い。人間湯たんぽは温かさをしっかりと担保してくれたのは間違いない。アラームで二人とも目を覚ましたらしく、ほぼ顔を見合わせる形で寝起きすることになった。


「おはようございます。早速ですがシャワー借ります、さっぱりしたいので」

「おはよう、その間に飯作っておくよ」


 芽生さんがシャワーと着替えをしている間に、昨日の間に考えていたパンケーキを作り始める。たまにはトースト以外も良いだろう。卵と牛乳とを先に混ぜてパンケーキミックスをいれてちょっとダマが残るぐらい混ぜて焼く。トーストより時間はかかるが朝から効率的に糖分が取れるのは悪い話じゃない。


 打点高くフライパンに落として焼き始める。弱火で焼いて泡が出てきたら一気にひっくり返す。これでふんわりできるはずだ。複数枚小さめに作ってうまく出来た奴を芽生さんにあげよう。


 後はいつものキャベツと目玉焼き。今日は卵を多めに使う朝食だな。たんぱく質もしっかり取れていることにしておこう。


 焼き立てを保管庫に保存して、後片付けをしている間にシャワーを浴び終わった芽生さんがホカホカで出てくる。


 早速朝食。テレビもつける。いつものチャンネルをつけると今日もダンジョン特集。昨日調べた事の復習みたいな内容だった。海外ではどうの、国内ではどうの、そしてこれからダンジョンというものはどうやって社会に馴染んでいくのか。そして全てのダンジョンが踏破された時どうなるのか。そんな内容だった。


「んー、美味しいですねえ。朝食にパンケーキとは珍しい。昨日なにかあったんですか」

「単に牛乳を使いたかったんだよね。期限そろそろだったから」

「なるほど。でもまあ、それでは理由としては寂しいので五十六層突破記念という事にしておきましょう」


 いつもの自称ダンジョン研究家弦間さんはダンジョンが無くなると今後魔結晶を使った技術に関しての研究が進まなくなるかもしれない、なのでダンジョンは全て潰すのではなく、必要な所は残し不要な所、不便な所は順次消していく形にすればよいのではないかとも発言している。


 ダンジョンが無くなったとなるとこの自称ダンジョン研究家も職を失うことになるので、ダンジョン全消しには否定的なんだろう。


「で、実際にダンジョン探索とダンジョン研究を趣味かつ仕事にしている洋一さんとしてはどう考えてるんですか? 」

「そうだな、消えたダンジョンと同じ場所にダンジョンが復活して、今までとは違うバリエーション豊かなダンジョンが出来てくれると嬉しいな。毎回新規アトラクションみたいな感じで。それならちょっと数泊してダンジョン巡りというのも割と現実的な話になってくると思うよ。ダンジョン毎に内容が違うなら楽しみ方も変わるだろうしね」


 メープルシロップを大量にかけながら美味しそうにパンケーキをほおばる芽生さんはとても幸せそうである。朝からパンケーキはそれなりに幸せな部類の朝ごはんなんだろう。


「ということは、しばらくは他所のダンジョンの進捗や踏破を見届けるために様子見しつつ、五十六層で肩慣らし兼更に奥へ向かうための時間という事になりますかねえ」

「そうなる。まだ手前の階層のドロップ品すら精査されていないのに、どんどん奥に潜っていく理由が今のところ見つからないからな」


 さて、今日は午前中にダンジョンに行き、データの受け渡しと進捗報告、それが終わったら半日またカニうまダッシュして三重化させたスキルの稼働試験という所だ。


 お昼ご飯は何にしようかな……と。順番的にはカレーか。時間はあるしゆっくり煮込んで夕食分も含めてたっぷり作るのが良さそうかな。


「さて、これからの予定は? 俺は昼食の用意したらゆっくりダンジョンに出かける予定だけど」

「そうですねえ。ご飯も頂いたことですし、少し早めに帰って講義の準備をするとしましょう。一応着替えはしましたが洗濯はしたいですし」


 一緒の洗濯機がいや、というわけではないようだ。となると、洗濯した後俺の家に干しっぱなしという状況が気に入らないとみるべきか。オッサンの匂いが移るから嫌、という理由じゃないと思いたい。思っておこう。そう、俺じゃない。あいつがやった。知らない。済んだこと。


 朝食を片付けて昼食の準備に取り掛かるころ、芽生さんが帰ることになった。


「んー」


 玄関で芽生さんが背伸びしてくちびるを突き出しながらこちらに何かせがんでいる。しょうがないな。そっとキスをする。ハグまでついでにされた。こっちも両手が開いてるのでハグしかえす。三十秒ぐらいそのままじっとしていると満足したのかハグをする腕が緩んだ。


「ん、よし、午後からのやる気も充填できました。じゃあいってきます」

「いってらっしゃい。気を付けて」


 送り出した後昼食の準備を進める。今日はウルフ肉のカレーだ。ご飯も多めに炊いておいて、夕食にまわって食べるときでも炊きなおししなくていいようにしておく。夕食に回らなかったらまた別で考えよう。


 今日は食感を大切にしたいので、煮込み時間は短め。大きめに切った野菜類をレンジでチンしてあらかじめ熱を通しておく。その間に肉に軽く焼き色をつけておく。肉が焼けたら一旦どけてチンした野菜から玉ねぎを取り出して炒める。本来なら玉ねぎだけで十数分かける所だろうがそこも時短。玉ねぎから色が抜けたあたりで全野菜をぶち込んで煮始める。


 箸で突っつきながら硬い所が見当たらなくなったのを確認した後ルゥを入れて煮込む。米が炊けるまでそのまま弱火で煮込んで、出来上がったら炊けた米をタッパー容器に移して完成だ。野菜はしっかり入っているので今日は一品で充分。


 いつもよりも一時間半ほど遅い時間にダンジョンへ向かう。バスはちょうど行った所だったので自転車を取り出して追いかける格好になった。別にバスに追いつく必要はないので疲れない程度の速さでのんびりとダンジョンへ向かう。


 ダンジョンへ着くと自転車置き場に自転車を置いて周りを確認してから収納。バスのほうは早く着いただろうが今日は時間に追われずにのんびりと探索を楽しむ日に決めた。その為に、午前中の内に報告や仕事は終わらせたい。今の時間ギルマスは居るだろうか。


 支払いカウンターでギルマスの所在を聞き、居ることを確認してから応接室に入る。朝一という訳でもないのでそう忙しくしている訳でもなく、コーヒー片手にパソコンに向いてのんびりと仕事をしているギルマスの姿が見えた。


「おはようございます。お忙しそうですね」

「やあ安村さん、ごらんのとおり書類に埋もれてるよ」


 どう見ても仕事を完全に終わらせてくつろぎモードである。いざというときに忙しくなっても問題ないようにしている分、なんらかの仕事で処理能力が追い付いていない、ということはないみたいだ。


「今日は報告と提出に来ました。早速本題から入りますが、五十六層まで行ってきましたよ」

「もうそこまで行ったのかい。国内最深記録はしばらく追いつけそうにないね」


 ギルマスは今現在どこのダンジョンでどこまで潜っているのかは把握しているようだ。調査で明るみに出た後は、事細かくちゃんと報告されているという事だろう。


「それでですが、私のつたない文章で申し訳ないのですがかなり以前に頂いたダンジョンのデータに所見を含めた攻略法、というほどのものでもないのですが私たちなりの視点で見た各可能性の情報やモンスターの種類、ドロップ品についてそれぞれ新しく作ったのでこれは一度ダンジョン庁に提出しておいたほうが良いと思いまして」


 と、USBメモリをギルマスに渡す。ギルマスは受け取った後まず自分のパソコンでファイル名をざっと見通して一つを開き、内容を確認。それから情報をコピーしてUSBメモリをこちらに返してきた。


「ありがとう、参考にさせてもらうよ。他の探索者から先のデータがあれば欲しい、って要望があった際に役立てられると良いね」

「そう思って持ってきました。こちらの知ってる情報もあの時点からは古くなりましたし、いくらか遅れているものもあるとは思いますが、常に最新をよこせというわけでちょこちょこ来るわけにもいきませんからね」

「たしかに、一項目ごとにここに来てもらうのも探索に不便だろうし、かといって安村さんには相当量、未払いのドロップ品で負担をかけていることもあるからね。そこだけは申し訳ないがもうしばらく待ってもらうしかないのが今のところなんだが……本当に申し訳ない」


 ギルマスから頭を下げられる。思わず手で制しそうになるが、ここでちゃんと謝罪を受け入れてお互いこれで無し、という風な空気を保った方がいいのかもしれないな。


「解ってます。いくら有用そうな素材であっても需要と供給が揃わなければ、ですよね」

「そういうことになる。ついでに言えば、四十一層以降……つまりこれはそこそこ売れ筋であるドウラクの身も含めての話になるんだけど、そもそもダンジョンの深さがそこまで設定されてないダンジョンも多いのではないかという話でね。その分より入手難易度が高く設定されているという面もある。ほら、例の引き当てがそれなりに来ている鱗粉だったかな? あれだって、そもそも小西ダンジョン以外に四十九以降が存在するのかどうかを確認するところから始めないといけないからさ。迂闊に大売り出し始めたはいいけど実際はごく一部のダンジョンでしか取れない幻の素材でした、なんて話になると小西ダンジョンが大渋滞を起こすか、希少さで価格が更に吊り上がって需要のほうが無くなってしまう可能性がある。なかなか難しい所だよね」


 あー、そういえばここまでで踏破されてるダンジョンは大体四十層未満のダンジョンばかりだったな。確かにその点を指摘されるとどうにもならないな。


「ということは、もしかするとUSBメモリの内容も要らなくなる可能性があるって事ですかね? 」

「うーん、そうはならないと思うよ。これはこれで貴重なデータだしね。少なくともダンジョンの深層にはこういう仕組みもある、という記録にはなるし、どこかから情報提供を求められた際に取引材料として使う事も出来る。それに他のダンジョンでは少なくとも四十二層までは到着してるところもあるんだ、その先の情報は大事だよね」

「それなら良いんですが。しかし、小西ダンジョンより深くまできてるダンジョンの報告ってあるんですかね? 一応他所のダンジョンの進捗としては聞いておきたいところです」

「そうだね……いつもの三大ダンジョンについては四十二層まで到達したという報告は来ている。その後はまだだけど、二ヶ月ぐらい前の話だからもう一段階ぐらいセーフエリアまで、つまり四十九層まで潜ってきている可能性は高いね。進捗報告確認が月一会議になってるから最新情報とは言い難いけど、今のところ小西ダンジョンが一番深いのは間違いないと思うよ」


 なるほど。最深部調査の面目は立ってるってところか。


「踏破済み、もしくは近日踏破予定ってところではどうですか? 」

「先日踏破された白馬神城ダンジョンの事後調査の結果どうするか、だね。熊本第二ダンジョンに比べて白馬神城ダンジョンはオフシーズンでもホテルを埋める効果もあったらしいから、観光面での影響がどのくらい広がっていくかが注目されていくだろうね。そこで、地域に対してどのくらいお金を落としてくれていたか、その影響力を実地で確認してその後、各ダンジョンの状態について注視していく。例えばこの小西ダンジョンで言うと、新しく出来たコンビニやホームセンターなんかが今後も使われていくのかどうか。ダンジョン需要以外にも効果が発揮されているのか。そういうものを確かめながらダンジョンの進捗を確認していこうという話になっている。だから、もし最下層までたどり着いたとしても先に相談して、その後破壊って手順で一つ頼むよ」


 たしかに、ここにダンジョンがあるから周辺に移住してきた人も居る。彼らはダンジョンが無くなったら潮が引くように他のダンジョンへ移住する道を探すだろう。コンビニも客が来なくなれば撤退する可能性だってある。そういう観点からすると、ダンジョンという雇用主がどっしりと構えているのは重要だな。


「知っているかもしれないが、国内には現状二カ所、踏破待ちで足踏みしているダンジョンがある。最近踏破した白馬神城ダンジョンを含めてその三つのダンジョンの中で社会的影響が中間ぐらいの所を試験的に踏破してみた、というのが今回の実験を含めた試みでね。本来なら数千年先だっけ? 魔素の排出が終わるまでダンジョンは残り続けるだろうし、ダンジョンを踏破してもまた新しくダンジョンが生み出されるかもしれない。その辺の閾値的なものを見出すためにも必要なことだとは思うんだよね」


 なるほど、踏破解体試験でダンジョンのあった地方がどう変わるか、という実験第二幕という所か。たしかにこれは今すぐに結果が出るものではないから時間がかかるが、今後ダンジョンが経済に及ぼす影響という意味でも、新規ダンジョンが出来ることを含めて考えていかなければいけないのだろうな。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
> 五十六層まで行ってきました 書類提出(口頭説明略) > 希少さで価格が更に吊り上がって需要のほうが無くなってしまう」 甘味ドラッグとして一部の好事家に買い占められる未来
他で参考にならんかったとしても国付きじゃない個人の探索者がここまでデータの提供をこまめにしてくれるのは実際かなり助かってそう
こっそり実験場にされた地域はなむなむでも絶対必要なことですからねぇ 鉱物系は希少でも性能に価値が非常にあるならそれでもいいけど砂糖とかはなぁw
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