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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十六章:底は見えず
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911:三重化

 発光が終わり、普段通りの状態に戻る。試しに普通の雷撃を家に撃ちこんでみる。いつもより密度が高く、そしてより太く紫色に発光した雷が出現し非破壊オブジェクトである家に当たって霧散し、周辺に雷の飛び散りを残す。確かに威力は上がっているらしい。


「うん……威力は間違いなく上がってるな。今までは発生しなかった周辺への火花の飛び散りみたいなのも見えた。それだけ威力が上がっているってことなんだろう」

「私も試してみます」


 芽生さんが同じ家に向かって【水魔法】を複数種類放つ。基本のウォーターカッターに加えて、圧力をかけた水を家にたたきつけ、その後水が爆発するように弾ける。その弾ける水にもウォーターカッターと同じ効果が付与されているらしい。実戦テストでどうなるかまでは解らないが、かなりの火力であろうことは見て取れる。スプラッシュハンマーの強化版というところだろうか。


 後は弾丸化させた水の塊を家に打ち込んでいく。中々激しい音を立てて家にぶつかり霧散する水の弾。ウォーターバレットというところか。三重化させたスキルの威力は凄まじいらしく、反射してくる水がこっちにまで降りかかってきた。それだけの速さと威力と水の密度を有しているという事だろう。


 更に、その弾丸を複数同時に高速で撃ち出す、さながらマシンガンという所だろう。流石に同じところに全弾当てる、というところまではコントロールできていないものの、おおよそ狙っているであろう位置に着弾している。


 最後に、何処からか湧きださせた大質量の水で家を完全に水没させる勢いで上から降らせる。やがてざっぱーんと家に水がかかり、そしてその跳ねた水がこちらにまで飛んできた。この質量ならモンスターも潰せるかもしれないな。


 最後に、渦巻き状に回転させた水魔法を家に向かって射出。ドリルが削り取るかのように水圧の暴力で家を破壊しようと試みる。いくら壊れないからと言ってさすがに家がかわいそうになってきた。


「はー、スッキリしました。ここまでできると気持ちいいですね」


 やり切った顔の芽生さんと自分に乾燥をかける。生活魔法便利。


「おれもやったらできるかな……よっと」


 まず、自分の背中に待機状態で雷玉を発生させ、それを回転させながら次々に発射、発射した先から新しい雷玉を補充してさながらガトリングガンのように撃ち出していく。威力のほうは解らないが、発生ペースと消費ペースをうまく合わせてどんどん追加していく。


 次は、今いる自分の地点から目標とするオブジェクトの間に次々に落雷を発生させる。あくまで大事なのはイメージだ。実際に頭上に雷雲がある必要はない。空気中の魔力を雷魔法を通して雷として具現化させる。ドドン、ドンドンドンドン、といった感じで目標まで複数の落雷を起こすことに成功した。


 落雷のイメージが固まった。地面に避雷針がある、とイメージを固めることでより確実に当てられるように練習は必要だろうな。


「どうやら気に入ったみたいだね」


 二人のスキルの使いようを観察していたミルコから褒め言葉をもらう。


「これで五十五層を楽しく回ることが出来そうだ」

「今日は帰りますが、次回また楽しみにしておいてくださいね」

「そうかい。まあ階層を渡り歩くのは神経を使っただろうから、無理をせず帰るのも悪くない選択肢だと思うよ。お疲れ様」

「ああ、そうだ。ガンテツに会う事が有ったらこれも渡しといてくれ」


 ガンテツ用の酒を一通り取り出して並べておく。と、目の前でシュッと酒が消えていった。


「どうやら酒だけ持っていったようだね。まあいいけど」

「見てたのか。まあ他に用事は無かったから良いんだが、進捗とか今度ゆっくり聞くことにするか」

「ガンテツなら自分で試験用のダンジョンを組み立てて、そもそもダンジョン自体に送受信のシステムを組み込めないか実験をすると言っていたから、そっちで忙しいんじゃないかな。うまく出来たらまた話に来ると思うよ」


 そうか、もう新しいダンジョンの試験を始めているのか。自分の技術力が上手く活かせるかどうかを試すのは良いとして、どうやって通信を試すんだろうか。試してやるからスマホ貸せ、とか言われたら今度はちゃんと契約したスマホを渡さないといけなくなるな。


「じゃ、俺達は帰るよ。またな」

「またねー」


 ミルコは転移していった。エレベーターに乗り込み、まず四十九層のボタンを押す。四十九層にたどり着くと芽生さんがエレベーター内に残っている間にリヤカーを引きこみ、追加の燃料を入れる。これで五千円分ケチることに成功した。五十六層から一層までの燃料費はシャドウスライムの魔結晶四個分ちょうど。ここで二人とも下りて再度エレベーターを……となると、実質二個分の無駄が発生してしまう所をエレベーターの開ボタンを連打していてもらう事により今日のお給料をその分多くすることが出来た。


 四十九層から一層に戻る間にドロップ品の仕分け。今日も魔結晶とポーションだけだし予定を繰り上げての帰還なのでそれほど多い金額にはなっていない。


「次回五十五層を巡る前にお互い、新しいスキルについて色々考えておきましょう。せっかく確実に強くなったことですし、新技のお披露目会です」

「新技か……まぁ、さっき色々やってみた分以外でってことだよな。なんか確実にモンスターを殺せる技かどうかを検証するほうが合理的だとは思うんだが」

「それは確かにあります。ですが、やれる幅が広がったと言うことは、今までコストが高くて難しかった芸が出来るようになったという事でもあります。私もこれでお風呂の水道代が浮きます。毎晩自分の入れた水を沸かして風呂に入れるかもしれませんよ」

「稼いでるんだから普通に風呂に入ればいいのに」


 二人とも火力を補ったところで、しばらくは火力の調節やどのぐらい全力で戦えるかを次回確認しようという事で合意。その後は適当に読書をして時間を潰した。


 退ダン手続きをして査定カウンターへ。荷物はいつもより少し魔結晶が多めだ。ポーションもしっかりと含まれているが、まだドロップ品は魔結晶とポーションだけ。他のドロップ品は保管庫に溜めこまれている。


 五分ほどして結果を受け取る。今日のおちんぎん、六千八百四十万九千円。日帰りのわりには結構稼げたと思う。やはり一泊してこその本領発揮という所か。


 リヤカーを元に戻し、査定の間に着替え終わっていた芽生さんにレシートを渡し、二人そろって振り込み。これでまた一段と貯金が増えた。


 しばらく金を使う予定はないからいつも通り細かく生活を豪華にしていこう。冷凍庫に高いアイスを大きいサイズで確保して、家に居ればいつでもお高いアイスが食べれる状態にする。これだな。早速お金の使い道が決まった。家に帰ったら買い出しに行こう。


「次回の探索が楽しみですね」

「俺は明日試運転かな。とりあえず今日はギルマスはもう帰ってそうだから明日にでも報告しておくよ」

「解りました、お任せします。スキルが三重に出来るという話はどうしますか」


 スキル三重化で更に強くなれるという話を広めるかどうか、か。


「ちょっと今日は家に帰ったら買い出しに出た後、ここまでの探索攻略情報を整理して、一旦パソコンごとダンジョン庁に返却しようと思う。こっちで集めたデータを精査してダンジョン庁として持っている情報としてアップデートする必要があるだろうし、ダンジョン庁の国際舞台での武器も増えるはずだ。今までバックアップしてもらってきている分、こちらもデータでお返しするのが筋だと思うしね」


 休憩場所でいつもの冷たい水を飲みながら話をする。ふと支払いカウンターのほうを見ると「ダンジョンマスターへの意見質問箱」というコーナーがあった。どうやら俺らに聞きたいことはまとめてこっちで面倒見るからここに意見を入れていけ、という形らしい。それへの回答を作るにも、手に入っている情報をまとめて提出しておくことは大事だな、うん。後回しにすると絶対自分に帰ってくる奴だ。今日明日使ってでもまとめてギルマスに渡しておくべき情報だな。


 芽生さんにちょいちょいと指で箱を見せて、納得させる。芽生さんはそちらに目線を向けると、ゆっくりとこちらへ振り返った。


「あれ、中身溜まったら私たちにも聞き取り調査が来ますよね」

「そうなるだろうな。中身についての質問が飛んできて探索の邪魔にならないようにこちらから情報を一通りある分提供するほうが後々楽が出来そうだろ? 」

「なるほど、それは確かに大事ですね。実際に情報握ってるのは私達ぐらいしかないでしょうし、一度詳細を全て渡しておくのが一番良いと思います」

「これはちょっと夜頑張ってパソコンに全情報を打ち込んで、それから明日出勤だな。そして報告して……時間が有ったら潜ろうかな」


 出来るだけ提供してもらった情報のフォーマットの通りに報告できればいいんだが、その辺は添付する動画と画像参照みたいなところがある。ドロップ品も溜まってることだし家で撮影して取り込む形にすれば大丈夫だろう。


「そうと決まれば帰るか。こんなところでパソコン開いて情報丸わかり状態で、通りかかった誰かに見られるわけにもいかんし、内緒の作業は内緒の場所で行うのが一番良い」

「そうしますか。さて、明日午前中何しましょうかね。宿泊予定でしたからまるっと開いてしまいました。家の掃除でもしますかね」


 帰りのバスを待ちながら今から何するかの雑談を始める。


「うーん、やっぱり今日は帰るのは止めて洋一さんについていきましょうかね」

「ほう、その心は? 」

「一泊のつもりで来ましたし、情報源は一つより二つのほうが良いと思います。情報の抜けが無いように作業するにはちょうどいいんじゃないかと思いまして」

「なるほど、一理あるな。じゃあ手伝ってもらうか」


 しばらくしてバスが来たので乗って帰る。家の近くのコンビニで軽くお菓子と夜食的なものを買い込むと、自宅へ着いてまず風呂を沸かして、その間に片づけを色々と始める。ついでに朝食の確認もするが、明日の朝食の分の食材はある。午後からは芽生さんも用事はあるだろうし、今夜中に作業を終わらせるつもりで取り掛かるか。


 保管庫からノートパソコンを取り出すとデータの確認をする。貰った段階のデータは高山帯マップまでだったはず。つまりそこまでの情報はわざわざ書きこむ必要はない。しいて言うならエルダートレントの倒し方あたりか。


 エルダートレントの項目を探し出し、新しいファイルにエルダートレントの倒し方について、自分たちで行った内容を保管庫について触れない範囲で書きこむ。エルダートレントもトレントと同じように根と本体の接続を断ち切った時点で倒せることを記載。その為、【雷魔法】でレールガンをイメージした磁力の領域を作り出し射出速度を上げてくさびを打ち込み、くさびのところに【雷魔法】や【火魔法】で加熱し、炭化させていくことでより短い時間で倒すことが出来る。


 こういう倒し方もあるんだよという例を示しておく。正攻法ではどうやって倒すのかは解らないが、少なくともこの方法で私は倒しました、という一例をあげておく。


「エルダートレントの倒し方大公開ですか」


 後ろから画面を覗いている芽生さんから指摘が入る。後ろから抱き着かれると背中が幸せなのでもっとやれと思う。


「Bランク探索者も増えてきたしパーティーいくつかで合同でエルダートレント退治をするようになったらしいしな。あくまで手段の一つとして公開してしまっても問題ないしね。それなりに訓練は必要だけど最少人数で倒す方法としては有りだと思って。それをダンジョン庁に伝えて、ダンジョン庁から探索者に伝わるかどうかまでは解らないけど、倒した方法はこうですと伝えておくのは悪くないと思ってさ」

「しいて言うなら雷魔法や火魔法を使わないメンバーがどうしていたかを記述しておいてください。でないと洋一さん一人で倒したようにみえてしまいます」


 なるほど、その視点はやはり重要だな。芽生さんがついて来てくれてよかった。


「ええと……【雷魔法】や【火魔法】でダメージを与え続ける間にエルダートレントの蔓が攻撃してくるのでそれを迎え撃って切り落とす担当が必要、と。攻撃に集中するにはその人員が効率的に動くのが大事……と。今思えばよく二人で倒せたなあの物量」

「まだスキル多重化もしてない頃でしたからね。やはり射出できっちり根元まで通電部分を差し込めていたのが大きかったんじゃないですか? 」

「少数人数で倒すには、より深くまで通電や熱移動効果のある金属を差し込ませることが必要、か」


 芽生さんのアドバイスを受けながらより細かく書きこんでいく。報告が半年ぐらい遅れている内容ではあるが、報告しないよりはよっぽどマシだろう。しばらく文章を書きこみ続けて、一定量になったところでエルダートレントの撃破方法の報告書を書き終わる。最後にドロップ品であるエルダートレントの魔結晶が青くそこそこ大きいことと、自分たちの場合はヒールポーションが出たこと、討伐の証であるエルダートレントの種は魔素の高い所でしか成長しないので地上に植えても育たないことをちゃんと書きこんだ。


 続きは風呂に入ってからにするか。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
それだけ出力あがったのならため技とかいけそう
以前までの表記の方が見やすいと感じましたが、ただ慣れていないだけとも言えるので、描きやすい方でいいと思います
いつも日々の潤いとして楽しみに読んでます。 どちらでもいいですが個人的には以前の方が多少見やすいかな?という感じではあります
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