909:赤砂の砂漠 5/6
十匹のアルファ型、ベータ型の連合軍に囲まれる。実質的には三グループ居る所の真ん中に階段から俺達が出現した、というほうが表現としては正しいのだろう。
きっとモンスター側も、いきなり現れやがった! とでも考えてるのだろう。こっちへ向かう前に一瞬戸惑いみたいな時間があった。階段というか、次元のはざまというのはモンスターには認知できない場所であるようだ。
早速目の前に出てきたアルファ型二体とベータ型二体を射出ですべて対応する。頭部にゴブ剣を射出して一発で貫き、四体を瞬時に葬る。残り八体。
芽生さんが全力の水魔法でアルファ型を二匹まとめて始末する。芽生さんの全力ならかなりの出力が出せるようになっていたらしい。日々成長をしているのは俺だけではないということだな。残り六体。
もう一グループ分も射出で対応し、四匹をあっという間に黒い粒子に還す。残り二体。
最後に残ったベータ型二体をそれぞれのスキルの全力撃ちこみで怯ませた後、近接して攻撃。頭部に得物を突き刺し、退治完了。これで階段周りにいたモンスターを処理し終わる。
倒したモンスターのドロップ品と共に、まだ使えるゴブ剣を回収していく。かなり硬いとはいえやはり速度が乗ればちゃんとダメージとして通る。ゴブ剣が再起不能になることも考えたが、どうやらまだ問題なく使えるようで、保管庫内でもちゃんと同一のゴブ剣として認識された。まだゴブ剣は俺の切り札として機能してくれるらしい。ゴブ剣に加えてスケ剣やトライデントも入れると百回までなら使える。
「そっちの方は大丈夫ですか? ダメになっちゃったゴブ剣とかあったりしますか? 」
「今のところは大丈夫かな。少なくともこのマップまでは有効な戦力として使えるみたいだ。正直そろそろゴブ剣の脆さでは刺さらないとか弾かれるとか、物体としての形を保てないとかでお釈迦になるかとも思ったんだが、まだ大丈夫だな」
最悪使いこなれたグラディウスや直刀等、いろいろ入っているその中身も含めて戦力として計上する必要が出てくるかもしれない。が、とりあえずこの階層では最悪ゴブ剣の射出で充分対処できる。可能ならより速度を上げて運動エネルギー量を上げて倒すことも可能だ。それにレール式射出もある。戦闘力はまだ充分にあると言える。
「芽生さん全力出せばアルファ型二体も同時に行けるのか」
「疲れるのであまりやりたくないのが本音ですね。二体倒せますが五体分ぐらいの労力を使う感じですね。燃費は悪いです」
「極太雷撃みたいなものか。それが今の芽生さんの切り札という奴だな」
「普段はそれなりに楽をさせてもらってるとはいえ、何もできないでは申し訳が無いですからね。一応もうちょっと負荷がかかってもいい所です」
「覚えておくよ」
周辺のお片付けが終わり、索敵に何も引っかからないのを確認してからドローンを飛ばす。ドローンの視界に映ったのは、明らかに密度の高いモンスターの群れだった。
「おーこれはこれは。五十三層に設置し忘れたのを急いでこっちに設置した、と言われても納得しそうな密度だな」
五十四層と比べておよそ二倍。かなりの密度のモンスター分布だ。これは歩きとおすだけでも一苦労だろう。覚悟はしていたが中々の厚みだ。
「流石に普通に歩いていくと同時に二グループを相手する可能性が高くなる。場合によってはパチンコ玉でつり出しながら確実に倒していくほうが良いかもしれないな」
「そうですね。ようやく戦いがいのある階層に来たという感じがします」
「問題は道だが……とりあえずこれでよくないか? 最初の目標」
指さす先にドローンが映し出している光景は、骨。巨大な骨だ。牛よりも大きい。とにかく巨大な骨だけが鎮座している。そこへ行くまでの間には道という訳ではないが、砂の少ない地帯が続いている。他のマップなら道と表現しても良いのかもしれない。
「恐竜……なんて知ってるわけ無いですし、向こうの文明に居た生物ですかね」
「うーん……なんだろうね。牙が無いからゾウでは無いようだし、牙の無いゾウ? ともかくこれが目標かな。解りやすいし、明らかに狙っておいた様にも見える。これを目標にしていけばたどり着ける、そんな気がする」
「またミルコ君の裏読みしてますね。でも、気になるのは確かですし、どうせかなりの回数戦いながら進まないといけない訳ですから覚悟してそっちへ進みましょう。ちなみにですが、それ以外に目標になるようなものはあったりしますか? 」
ドローンを回転させて他の周囲を確認する。他の目標になるようなものは……北東方向にまた白く輝く大地が見えるが、骨は南西方向だ。全力の二択か。
「完全に反対方向にまた岩塩層らしいものが見える。どっちも捨てがたいが、骨に行くと決めたから骨にそのまま行こう。モンスターは近い順にパチンコ玉で引き寄せつつ、一グループずつ対処すれば問題なく戦えるはずだ。後は骨にたどり着いて、無事に階段が見つかってくれるかどうかだな」
骨まではそう遠くない。遠くないが、途中のモンスターの濃さを考えると中々進めないだろうなあというところだ。まあ焦っても骨は逃げない。逃げ切れなかったから骨になったのかもしれないしな。
「さて、行くか」
「ちょっとずつですよ。慎重に行きましょう。道のりは意外と長いかもしれません」
慎重に歩みを進める。最初の頃に比べたらかなり幅広くなった索敵範囲に入ったモンスターを片っ端から呼び寄せるのではなく、相手の数や近くに居る他のグループが居ないかどうかを確認しつつ、パチンコ玉で呼び寄せて迎撃の形で戦う。
ちまちまと地道な作業だが、この間鬼ころしで多めにパチンコ玉仕入れてきた効果がここにもでてきた。ここで使っていくとは思わなかったが残弾は充分すぎるほどある、今回の探索で尽きる事は無いだろう。
少し進んでパチン。寄ってきたモンスターを寄ってきた順番に確実に屠っていく。アルファ型のほうが足が速いのでアルファ型のほうが先に近づいてくるが、雷撃でスタンさせておく間にベータ型を倒すこともある。何パターンか自分の戦い方を考えておいて、距離と数を考えながらそれぞれに適応させていく。
赤砂の砂漠をゆっくりと進む。少し進んでパチンコ玉をパチンと弾いてモンスターを呼び寄せて戦闘。少し進んでパチン、戦闘。今度はグイっとすすんでパチン、戦闘。地道だが、五十二層にも似たような進み方で徐々に骨へと近づいていく。これが殲滅戦ならやりやすいんだが、そこまで大っぴらにできるほどまだ火力が無いし、階段を発見するのが目的だから余計な戦闘はしづらい。
モンスターの密度が中々高いため、悠長に砂漠情緒を感じながら歩く余裕はまだ無い。油断すると向こうから向かってくることもあるため、周りとの距離を確認しながら念入りに進む。
そんな牛歩さながらの歩みの遅さで五十分ぐらいかけ、ようやく骨のところまでたどり着くことが出来た。戦闘無しの歩行ペースを考えると二十分ほどでたどり着けただろうという距離なので、いかに戦闘回数が多かったかを振り返ることになる。五十三層の少なさが懐かしく感じるぐらいの密度だ。ここで自由に戦闘が出来るぐらい強くなれれば、美味しいフィールドになることは確かだろうな。
その為にはスキルの出力とステータスブーストの強化。前半はスキルオーブで、後半は地道な努力で。どちらも一日二日で出来る話じゃないはずだ。こうして一つ一つ戦闘を重ねていくことでまたレベルを上げていくことになる。
骨の周囲にいたモンスターを一通り掃除し、安全圏を確保したところで骨についてよく観察する。この骨は……なんだろうな。巨大な牛のような感じだろうか。もしかしたらまだ出て来ていないがミノタウロスなんかが出てくるのかもしれないな。その骨だとすると、ミノタウロスはかなり巨大な、ワイバーンと同じぐらいの大きさのクラスのモンスターという事になるだろう。
再びドローンを飛ばす。今度は何が出て来るかな……と楽しみにしながらスマホの中を覗く。すると、さらに南方向にまた骨。そして西方向にかなり大きめの木が一本だけあることが解った。距離的にはさっきの階段からの距離と同じぐらいだ。つまりまた五十分ほどかかることになる。
「今度はどっちだろうねえ」
芽生さんに確認を取る。芽生さんに向けてドローンの映像を見せつつ、実質木と骨の二択であることを確認させる。
芽生さんは腕を組み、しばらく考えた後胸を張って宣言する。
「骨を信じましょう。こういう二択の時は私の言うほうが当たるようにダンジョンが出来ている気がします」
「じゃあ骨を信じてみるかな。次も同じぐらい時間がかかりそうだからここで少し小休止してからいこう」
骨を信じて生きていけばいいさと、なんかそんな気分だ。大声を張り上げてはモンスターに探知されかねないので叫ぶことは出来なかったが、次も骨に向かって進むことになった。
ただ、その前に水分補給はこまめに取る。ここは砂漠、他のマップよりも水分が蒸発していってもおかしくはない地帯。気が付かないうちに水分不足で気が付いたら倒れる、なんてことが無いようにとにかくこまめに補給だ。残弾はあるから遠慮せず飲んでいこう。後ついでにドライフルーツも噛んでおこう。
また少し進んではパチンコ玉を弾いてモンスターを呼び寄せての戦闘が続く。ちまちまと、しかし確実に歩みを進めてまた五十分ほどかけて骨までたどり着いた。ドローンの前に小休止と念のためのドライフルーツを二枚噛んでおく。二枚噛んだからあの体感も二倍の効果になるかと思ったがそうではないらしい。二枚分の熱量が一気に上がってくる事も無かった。ただ、いつもより回復したな、と感じるのは確かだ。
周辺を掃除しドローンを飛ばすと、ギリギリ視界では見えない距離の所に大岩があるのを見つけた。最後の目標はこいつだな。
「大岩発見。これは当たりのルートを一発で引けたか」
「調子いいですね。後もうちょっとで五十六層まで到達ですか」
「長い時間を覚悟してたがとんとん拍子にここまで来れたな。これは後でしわ寄せがくるかもしれない。到達した後もしばらく五十五層でスキルアップをしていくのが大事かもしれないな」
「もうちょっとですから気を引き締めていきましょう。ここまで来て怪我をするのは馬鹿みたいだしポーションが勿体ないですし」
後三十分という所か。また地道に進みながら一歩一歩進んでいく。この戦い方にも慣れてきた。五十二層に比べたら一手間増えただけでやってることは大差ない。目標物が見えるまで、方位を確認したりドローンを飛ばしたりして近づいていく。
近いようで遠かった階段までの距離を歩きとおす。ようやく大岩に到着し、大岩周辺のモンスターも排除。確認すると間違いなく階段であった。外れじゃなくてホッと一息だ。
思えば今日の探索は非常に順調ではあった。モンスターの物量に押されていたのは間違いないが、どこかで手順が狂えばどちらかが負傷しててもおかしくないケースであったと言える。そんな中でほぼ初めて通る道筋だけを取って無傷で目標達成まで持ってこれたのは日ごろの行いが良いからだろうか。
「やったな、五十六層到達だ。これで一休憩できるし、五十六層をうろうろしている間にお腹もすくだろうから夕食にもできるな」
「時間的には短いですが濃密な戦闘でしたねえ。普段より疲れました。とっとと下りて休憩にしましょう。夕食には……まだ時間が早いですね」
芽生さんがスマホを取り出し時刻を確認している。俺も時計を確認する。現在時刻午後五時ちょっと。やはり夕食には早い。五十六層で休憩してから探索して、五十七層への階段を見つけてから夕食にしても日帰りで帰れる時間帯だった。
「そうだな、ここで休む理由はない。五十六層に下りてからのほうが安全だろうし、水分補給も必要だ。まずはセーフエリアに下りて周囲確認と行こう」
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