908:赤砂の砂漠 4/6
ツイッターでも呟きましたが、年末進行とか年始進行とかはありません。いつも通りお楽しみください。
休憩を取った後岩塩の中を歩かずに、境界線に当たる部分をぐるっと回る。岩塩地帯自体はぎりぎり視界内で収まる範囲ではあるのでそれほど広くはない。念のため東西南北を見回ってそのたびにドローンを飛ばし、視界にオブジェクトがあるかどうかを確認していく。
当然岩塩地帯の中にもモンスターは居る。そして、砂の地面に比べて岩塩地帯は足場が若干滑りやすく、モンスター側も戦いにくそうにしながら戦うのだが、岩塩は雷撃に反応して破壊されるので、下手に足元に打つと自分の足場が無くなってしまう。おそらく再生はしないだろうから撃つタイミングと方向と威力に集中力が必要になるな。
とりあえずたどり着いたのが南西側なのでそこからドローンを飛ばすと、ここからだとちゃんと五十三層への階段が見える。他の方向にはまだ特に語るべきオブジェクトは見当たらない。
方角を確認して次は北西方向へ。間にはモンスターが三グループほど。そう遠くはないしこの距離なら消耗も無いだろう。
三グループきっちりと倒しドロップも拾って、北西側にたどり着いた。ドローンを飛ばすと、かろうじて北方向に建物が見える。
「北に建物が見えるな。一応頭に入れておいて、ぐるっと岩塩地帯を一周回ってから次を探すことにしよう」
「そうですね、今ここで確実に見える方向へ行くよりも周囲をきっちり確認してからのほうが良いかもしれません。落ち着いて行動していきましょう、時間はまだまだあります」
再び三グループほどのモンスターたちと戦闘という対話をしながら外側をぐるりと回り、今度は北東方向まで来た。ギリギリのところでドローンを飛ばすと、大岩らしきものが東方向に見えている。当たり……と判断するのはまだ早計か。
「あの岩、怪しいよね」
「怪しいですね。でも、もしかしたら南東方向にも同じものがある可能性があります。先に一つずつ潰していきましょう。ただ第一候補ではあります。違ってたら次は北方向の建物のほうへ行くべきですね」
意見の一致をみたところで、最後の南東方向へ向かう。四グループと、中央辺りに居た一グループの合計五グループのモンスターを倒して、南東方面に到着。ドローンを早速飛ばす。
すると、更に南東に家と、同じような大岩が見えていることが解った。東側の大岩もここからだと確認できる距離になる。さて、どっちだ。
「悩みますね」
「悩むなあ。せめて階段がこっち向いていてくれればどっちに行くかは見れそうなんだが。もうちょっと寄りの絵で撮ってみるか」
ドローンの信号が届きそうな範囲ギリギリまで寄せて大岩を映す。すると、段差らしきものを見つけることが出来た。今度は東側の岩へ寄る。こっちには岩であることぐらいしか確認する余地はない。これは……素直に怪しい南東側へ向かってみるほうが良いだろう。
「南東のほうがよりそれらしいな。家もあるし、下りてきた場所を考えるとこっちのほうが可能性が高そうだ。南東へ行って、ダメなら東へ行くという事でどうだろう」
「それで行ってみましょう」
ドローンを回収し、ついでにバッテリーを新しいものに交換しておく。次の階層でもしっかり使うからな、途中でバッテリーが怪しくなって帰ってこなくなることも考えるとここで交換しておこう。バッテリーの在庫はまだ充分にある。焦る必要はないし少ないバッテリーを使いまわさなきゃいけないほど予備に厳しいわけではない。余裕があるうちに余裕のある交換をしておけばいいのだ。
向かうは南東と決めたところで、水分補給。こまめな補給をしたほうが体内に水分は残りやすいと誰かが言っていた。一気に飲んでも体内に吸収されずに排出されてしまうらしい。聞きかじりなので本当のところは解らんが、水分はゆっくり取れという話は結構聞くのでそれに素直に従おうと思う。
目標の階段までにおよそ十グループほどモンスターが目視された。中々の距離とモンスター数だが、このぐらいはこなさないと次の階層では多分持たないだろう。一歩ずつ確実に、無理をせずに厳しいと思ったら戻る。探索の基本を思い返しながら進む。
今のところ無理はしていないし無茶をするほどの局面には出会っていない。そういう探索をすることに対しての難易度みたいなものはマップの広さと目印の少なさで達成されている気がする。後は戦闘で盛り上げるか……しかし、戦闘パターンが最近簡略化と言うか、深く考えずにスキルで出来るだけ済ませてしまおうとしている気がする。
もしかしたらスキルをメインにして体を動かさない分、食事が豊か過ぎて徐々に太るかもしれないな。そうならないためのカニうまダッシュであると考えればそれで納得をしておく事にしよう。芽生さんは大丈夫かな、最近気になったり……む、殺気?
「なんかいま失礼なこと考えてましたね? 」
「ただ単に、ダンジョンそのものとしての難易度はあんまり考えられてないような気がしてきたと思って」
「それならいいんですが……なんだか今私の腰回り辺りに一瞬視線が集まったように感じました。ちなみに太ってませんからね」
実質話が通じてしまった。多分ダンジョン外の食事でちゃんとコントロールしているらしい。
「ステータスブーストを使う都合上多少ふくよかであるほうが安心ではあるんだが、まあ芽生さんはいろんなところが素晴らしいから大丈夫そうだな」
「そうです、むしろここでのご飯が美味しいのでサイズを調節するのが中々に……って実質答えを言ってしまっていますね。結構気を使う所でもあります」
ダンジョン通いで下に掘り進むだけの作業をすると太るらしい。かといってローカロリーな食事にしすぎるとステータスブースト中に倒れる可能性もある。その辺他のパーティーはどうやって調節しているんだろうか。やはりカロリー計算をきっちりして、消費カロリーを目算しつつ上手い事回しているんだろうか。それとも芽生さんみたいにダンジョンはダンジョン、他は他で調節しているのか。
もしかしたらだが、ステータスブースト中にお腹がすくという行為はカロリーの消費を促しているだけであって実際にはもっと余裕があるし肉体的にも先にその傾向がみられるから実際は問題ないとか、もっと深く知る必要があるだろうな。もしかしたらステータスブーストのお腹が空くという感覚自体、肉体的なカロリーではなく魔力欠乏の一つの形として現れるのかもしれない。
そういえば最近はダッシュ中にお腹が空くという現象を催すことも少なくなってきた。これは体内にステータスブースト、つまり身体強化スキルを継続するだけの魔力量が豊富に含まれているからだとか、そういう可能性もあるな。今度じっくり飯を抜いて、安全な所で試してみるか。緊急用に泡抜きコーラでも用意して瞬時に栄養回復できるようにしておけば大丈夫だろう。
南東の岩に近づく。時々ドローンで確認するが、やはり階段の可能性は高まってきた。距離から察する目算の大きさでも、階段と呼ぶに十分な大きさであると確認できはじめている。
しかし、家があるとはいえ相変わらず砂漠のど真ん中に岩がドンと置かれており、その中に階段がくりぬかれている様子はダンジョンだから仕方ないとはいえ違和感バリバリである。家が一軒置いてあるのがせめてもの賑やかしという所だろうか。これではずれだったらちょっと凹むな。
この階層のモンスターのグループ別の対処に慣れてきた。今のところ無理のない……安全圏と言い切るのはまだ危ないが、ギリギリのところでノーダメージでの戦いは出来ている。五十三層から五十四層にかけてじんわりと増えたモンスター数を考えると、五十五層では手数が足りなくなる可能性が高い。ここからは射出をする前提で組み立てていくのも必要だと覚悟しておこう。
五十四層までは射出が無くても何とかなっているので、階段までは頑張って回避して確実に倒せる戦い方で安全策を取りながら行く。
南東の目標に到着して、大岩を確認する。大岩は間違いなく階段だった。ここまでちょっとスムーズに来すぎていてなんだか怖いが、安全率を十分とっての戦いだからか、苦戦するというほどのものは無かった。やはり四十九層付近でちょっと頑張って溜めておいた実力がここで発揮されていると考えるのがいいのだろうか。でも過信はいけないからな。
せっかく家がついているので、家の中の施設を使わせてもらって、机の上で五十四層の地図を描きなおす。直線ルートと一応ここに目印があるよ、というものを表記し、正規ルートはこちらという風に新しいページに書き直す。
今日はトントン拍子にここまでたどり着けている。後二時間ぐらい彷徨いながら探索には余分な戦闘をしつつグルグルする予定だったのだが、そこまで面倒くさいマップ構成になっていないのは、最近作ったからなのか、それとも急いで作ったからあまり深く考えずにおざなりにやっているのか。
ドローンを使わないと見えない距離に目印があるというのは、俺達が草原マップを攻略した時のようにこちらの世界の電子機器で視界はかなりの幅取れるから大丈夫だろうとタカをくくった組み合わせにしてあるのだろうか。ダンジョンマスターの思考の裏読みを始める。
そもそも見せ物としては、迷宮マップみたいに外れかー、行き止まりかー、とあちこちを行き来するのを楽しむというのは有りなのだろうが、ほとんど何もないだだっ広いマップでうろうろ目標物を探すのが楽しみになるのだろうかという考えが頭をよぎる。そういう意味ではこのマップは難易度がちょい高めであることは間違いない。
もし、俺がまたドローンを使って風景を読み取りながら探索するであろう、という事を予測してのこのマップ状況ならば、ダンジョンマスターにその通りでございますとしか言いようがない所なのだが、他の探索者が果たしてそこを上手く通り抜けられるかまで考えているかどうかは別の話になってくる。草原マップもそうだが、あらかじめマップが解っていないと遭難者が発生する階層であるのは確かだな。
「これで五十四層も踏破ですか。後一階層ですね」
「ここでちゃんと休憩を取って五十五層に行こう。ここで追い返されて真っ直ぐ戻るという可能性だってあるんだ。念には念を入れていこう」
充分に水分を取って休憩する。時間に余裕はあるので焦って先を急ぐ必要はない。むしろこのペースなら今日は日帰りでも充分だろう。五十六層に下りた後階段見つけるまでうろつくか、それともさっさとエレベーターを五十五層側に付けてしまうかなど考えることはそれなりにあるが、サバンナマップよりは階段が解りやすい所にあると嬉しい。
最悪、またポールを何本か建てに来てポールを経由しながら階段を目指してもらう、という感じになる。その辺はどう作られているかは五十六層へ行かなければ解らない。そう、まずは五十五層の攻略からだ。
充分に体を休めて魔力も回復させ、念のためにふたりドライフルーツを口に入れて、熱くなった身体のあとに涼しさを感じてリフレッシュ。これで次の階層でいきなり戦闘になっても大丈夫だろう。
「さて、行くか。セーフエリア前の最後の一頑張りだ。多少のことでは驚かないようにしておこう」
「出来ればもうちょっと見どころのあるマップだと良いんですけどね。こう、何もなさすぎると歩く気力も失っていくような気がします」
「それはあるな。次こそは何かしら目でも楽しめる階層であることを願って向かおう」
五十五層への階段を下りる。下りた感じは五十三層から五十四層に向かって下りている気分とそう変わらない。階層が切り替わる場所じゃないから余計にそう感じるんだろう。が、階層の境目を越えた瞬間に索敵が警報を鳴らし始めた。
周りに十ほどの感知に引っかかる何かが出現する。どうやら階段を下りてすぐにモンスターが出てくるらしい。数を考えても、かなりの密度だ。この階層ではこれが基本なのか?
階段を下り切ると、索敵が黄色から赤に。どうやら階段を上り下りしている最中までは向こうもこっちの出現に気づかないらしい。
「囲まれてる。数は十。初顔合わせは……居ないみたいだ」
「階段すぐで襲われるのは珍しいですね……って数も結構いますね」
「数が数だ、出し惜しみなしで行くぞ」
「了解。全力でぶっ飛ばします」
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