903:ダンジョン庁長官会見 2/2
一つの質問が終わるとまた手が上がる。この会見結構長引きそうだな……今日も昼から出勤ということにしておくか。
「探索・オブ・ザ・イヤーの米内です。先ほどの質問にもつながるのですが、ダンジョンマスターとの協議の上でダンジョンを残すかどうか議論する、またはダンジョンマスターからの要望で探索を強化する等、ダンジョンマスターの存在が明らかになってはおりますが、長官御自身はダンジョンマスターとお会いになったことはあるのでしょうか。もし会ったことがあるのなら、いつ、どこで、を明確にしていただきたい」
探索・オブ・ザ・イヤーさん、毎月お世話になっております。
「ダンジョンマスターとの協議の上でダンジョンを潰すかどうか決める、という点に関しましてはそのつもりは現状ございません。ダンジョンマスター側からの何らかのアクションがある場合、それについては出会ったことのある探索者を通しての対談、という形になるとは思いますが、それぞれで残したい、潰したいという意見を交わした後でどうするかの最終決定権はこちらにあるものと認識しております。また、潰さない理由に関しましてもこちら側の経済活動が主な理由になりますので、その点を深く考慮しつつ、臨機応変に臨みたいと思っております」
ここで一呼吸。返答が終わったのかと勘違いした他の記者が手をあげるが、真中長官は手で制して、もう一つ深呼吸をする。
「えー、また先ほどの質問内にありましたダンジョンマスターと出会ったことがあるかにつきましては、ここで正式に対面形式で出会ったことがある、とハッキリと発表させていただきます。この件につきましては総理も同席しての秘密会合という形で、昨年中に行わせていただきました。まだダンジョンマスターという存在に関しまして社会的に隠匿するべき事項であり、ダンジョンという超常現象を起こせる相手ということで、既存のいわゆる人類種ではない相手であったためです。また、場所については当該ダンジョンへの過剰な負荷がかかることを防ぐためにどこで、という点につきましては秘密と言わせていただきます」
記者席がざわつく。いつの間にそんなことまでやらかしていたのか、という感じである。小西ダンジョンで行った、ということを伏せたのは純粋にマスコミが小西ダンジョンに押しかけてきて探索者の探索活動に余計な負担をかけさせないためと、俺達を守ってくれるためなのだろう。でも総理がいつどこでどうしていたかは新聞欄にも載るぐらいのことだから、知りたければ自力で答え合わせをしてくれ、それも君らの仕事だろう? という真中長官の挑戦にも似た態度を感じさせた。
また新しく手が上がる。というかさっきも当てられた人だ。
「月刊探索ライフの丸宮です。ダンジョンマスターの印象についてお答えいただいてもよろしいですか。見た目であるとか口調であるとか、どんな印象でも構いません」
真中長官はその質問を聞くと、軽く腕組みして頭を捻り、うーん……と考えるそぶりをする。何処まで言っていいものなのか、それともミルコのことなんて忘れているのか、どう説明したらいいのか、そういうことを考えているんだろうか。それとも、サンプルがミルコしかいないからどう言い出していいものかを悩んでいるのか。しばしの沈黙が流れた。
「これはあくまで私が出会ったダンジョンマスターの内の一人でしかありません。ダンジョンマスターはダンジョンにつき一人ずつ存在しているようなので、もしかしたらこの会見を聞いているかもしれないダンジョンマスターと出会ったこともある探索者なら違和感を覚えるかもしれません。ですが、少なくとも私の出会った一つのサンプルでしかないダンジョンマスターの存在を一言で言うなら、見た目は少年の様でした。ただ、おそらくですが彼らは我々よりずっと年上なのではないか、そういう印象を受けました。それでいて決してダンジョンマスターだから、という態度ではおらず、丁寧に接してくれた。私たちも彼に礼儀をわきまえる形で接することが出来た……とは思います。後は、コーラが好きなようでしたね。シュワシュワするのが好きなんだそうです。今度出会う機会が有ったら百貨店の高級フルーツではなく、コーラを箱でいくつか提供しようと思っています。出来るだけ冷えた奴を」
わははっ、と笑いが起きる。この発言で会見の主導権は完全に真中長官の手元に寄せられたように感じた。
「後はそうですね。彼らの目的はダンジョンの攻略、というよりはダンジョンへ入り込んでドロップ品を持ち帰る、というのが主目的なんだと思えました。ダンジョンを踏破されるのは仕方ないとしても、探索者で栄えて順調にドロップ品を持ち出すことが出来ているダンジョンについては周辺地域の経済活動や探索者人口による、と先ほど発言した内容にもかかってきますが、詳しいことまでは教えてくれませんでしたがダンジョンとしてはドロップ品の提供を、その代わりに我々にはダンジョン内での活動を、という労働と報酬のやり取りみたいな部分はあると考えていいと思います」
言い切ると一旦マイクから頭を離し、後頭部をポリポリと掻きだした。もしかしたら余計なことまで言ってしまったかな? という雰囲気にもとれる。
次の質問者にボールは移った。
「現在、というか昨年の事ですが、探索者ランクの改定が行われ新しくB+ランクという階級が生み出され、Bランク探索者については三十層まで潜ることが可能になり、またBランクとCランクの昇級基準が明確なものになりました。これについては内部的にどのような理由でランクの改定が行われたのかお聞かせ願いたい」
お、中々良い質問だ。ダンジョンマスターの存在の認知にもかかわる。どう答えていくんだろう。
「これを機にハッキリ言ってしまいます。B+ランクに上がれる探索者は、現在まででダンジョンマスターの存在について知っていた探索者だけがB+ランクの探索者というカテゴリに入っています。もちろん、Bランク探索者としての条件を満たしていることが前提ですが」
ここでまた動揺が起きる。だが、一方でそういうことだったんだろうなという反応も見られる様子だ。
「B+ランクを拡充してまでBランク探索者を三十層までと位置付けたのは、探索者人口の増加とエレベーターの設置により各ダンジョンの二十一層周辺の探索者密度が上がり効率的なドロップ品の回収が出来なくなってきたのも一つの理由になりますが、ダンジョンマスターと出会って何らかの報酬、具体的にはエレベーター設置の要望などを行ったり、ダンジョンマスターとの誼を通じてダンジョン庁に何らかの形で利益をもたらせてくれたものをB+ランク到達可能者としてダンジョン庁の探索者リストにマーキングをつけております。彼らは今までダンジョンマスターについて硬く口を閉じていてもらう代わりに、深層への挑戦権を受け取っている形になります」
また質問者が手をあげる。
「では、今後はB+探索者は増えない、ということなのでしょうか。それともまた新しくB++探索者などの階級を作り、さらに奥へ潜れる探索者をダンジョン庁で基準を設けて増やしていくおつもりなのでしょうか。そこのところをお聞かせ願いたい」
来たな、とばかりに口角を上げる真中長官。
「今現在、日本国内ではすべてのダンジョンで均等にダンジョンの最深層が更新されている訳ではありません。地方の山奥深くや周囲に何もないダンジョン、様々な理由で人が来ないダンジョンがあります。そう言ったダンジョンはまだ浅い階層、例えば十五層のボスすら倒されていないケースも数多くあります。また、十五層のボスは倒されていてもその時にエレベーターを願いださなかったことで、更に奥の階層まで進まなくてはダンジョンマスターと出会えない状態のダンジョンもあります。そういったケースに陥っているダンジョンに探索者が向かって、ダンジョンマスター側が決めている一定のライン、これは私にもよく伝わってはいませんが、それをクリアすることでダンジョンマスターと面会することは可能でしょう。その場合、新しくダンジョンマスターと出会った彼らがB+ランクに到達することは可能です。また、例えばですが一段階目のダンジョンマスターとの会見機会をあるパーティーが務め、二段階目の会見機会を別パーティーが行った場合、一つのダンジョンで二つのパーティーがダンジョンマスターに出会う事が出来ます。これは、両者ともにB+ランクの探索者として認められるケースに当たると思われます。今後はダンジョンマスターとの出会った機会を含め、ダンジョン庁と探索者で相互に情報交換をしながらダンジョン探索を進めていくために必要だと考えていますので、探索者の方々にはその手の情報をお持ちでしたらどんどんお寄せいただければ、その分の情報貢献、または物的貢献としてB+ランクに上がることが可能になるかどうか、今後はチェックしていく予定であります」
また別の記者が手を挙げる。
「最初の話題に立ち戻りますが、今回調査するまで合計二十一ヵ所ですか? のエレベーターがこれまで露見しなかった事への対応などについて、不十分であったとお認めになる、ということですね」
何でこれまで露見しなかったのかについての言い訳を聞きたいらしい。
「そもそも、探索者とダンジョン庁は雇用被雇用の関係ではないため、報告は絶対のものではありませんでした。また、各ギルドマスターにも報告会の形で各種ダンジョンマスターについての報告は求めていましたが、今回懲罰を加えない前提で再調査を行ったところ、あえて意図的に隠蔽してダンジョンを踏破してびっくりさせたかった、といった内容の回答も得ています。これにつきましてはダンジョン庁内部できちんと足並みをそろえてダンジョンに立ち向かっていなかったことがそもそもの原因であると痛感しております。今後はダンジョンマスターについての情報を意図的に隠蔽したり報告をわざと行わなかった場合は、重要度に応じたペナルティを課すことにいたしました。また、これはお願いという形になるのですが、現在探索者の中でダンジョンマスターの近くに居そうだと自覚している、または探索者の中でダンジョンマスターに出会えそうな場合、まだエレベーターが付いていないダンジョンについては早急にダンジョンにエレベーター設置の旨を伝えていただけるとこちらも助かります」
質問者が再び手を挙げる。この回答では不満だった、ということだろうか。
「では、黙っていた探索者については今回はおとがめなしということになります。あまりに不公平ではありませんか? 」
「確かに、不公平感は残ると思います。ですが、そこで罰するので知っていることをすべて話せというよりも、罰さないから洗いざらい今ある問題や探索の進捗、各ダンジョンに於けるギルドと探索者の信頼関係について調査するほうを優先しました。また、賞罰は与えないと言いましたがどの探索者が何について隠匿、隠蔽、または……この場合は不正使用という言い方はおかしいとは思いますが、エレベーターを使用していたかについては既にダンジョン庁で把握しておりますので、これ以上の問題行動が出た際には速やかに対応する準備が出来ています。一言で言うと、二回目は無いぞ、ということですね」
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「……さて、ここまでダンジョン庁長官の会見をお伝えしました。ゲストにはダンジョン研究家の弦間さんに来ていただいております。弦間さん、今の会見をみてどう思われますか」
「そうですね、今までのダンジョン庁の対応から考えれば二歩も三歩も踏み込んだ回答であると思われます。ダンジョンマスターの存在について認識していたという話は海外からの暴露があった翌日に行われていましたが今回の話では……」
ここでスタジオにカメラが戻ってきてしまったらしい。他のチャンネルではやってないのかな。チャンネルを変えてみるが、どうやらここの局以外はいつもの番組を流しているらしく、残念ながらここまでのようだ。
とりあえず、小西ダンジョンの名前を一切出さなかったことと、ダンジョンマスターの本来の目的である魔素の拡散については言及しなかったことを見ると、出すべき情報は出して隠すべき情報は隠す、という基本姿勢はできていたんじゃないだろうか。後で会見見ましたってレイン送っておこう。
ここで小西ダンジョンで秘密会合してました! とハッキリ言ってしまっていれば、今日の夕方のニュースか明日の朝には小西ダンジョンにマスコミの列が出来ているんだろうな。そしてB+ランクである俺の周りには報道陣が押しかけ翌日のワイドショーデビュー、ついでにタップダンス潮干狩りの動画もまた世の中に流れてしまうのかもしれない。しばらくはそうなりそうにないというのは良いことなんだろうな。
平和が何よりだ。今日も今から平和なダンジョンへ出かけることにしよう。流石にさっきの今で俺にフォーカスが当たることはあるまいて。
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