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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十六章:底は見えず
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894:行きはよいよい帰りも甘い

 階段まで何度かの戦闘を潜り抜け、傷を受けることなく無事に帰ってこれた。階段付近にはモンスターの影はない。階段前に椅子と机を取り出し、食事にする。赤砂の荒野を背景にファミリー向けのアウトドアテーブルと二人掛け用の椅子。明らかにミスマッチだが、それでも無いよりはマシ。


 立って移動しながらでも食べられるように生姜焼きサンドにしたものの、そこまで時間に窮するような探索ではないので落ち着いて座って食べる。ついでにコーヒーも熱いのを淹れてゆったりと早めの夕食をたべてしまう。


 サンドイッチ二つではちょっと物足りないかもしれないが、そこまで激しい戦闘を繰り広げてきたというわけでもないので胃袋に収まる量としてはそこそこのものだし、コーヒーでのどを潤してこの埃っぽさのあるマップの砂を喉の奥へ流し込んでしまおう。


「むぐむぐ、サンドイッチですか。キャンプに来たというより過酷な砂漠を渡り歩くという感じではなくなりましたね」

「む、具がお気に召さなかったか? スタンダードなツナサンドとかタマゴサンドのほうが良かったかな」

「いえ、そういうわけではないですが……しいていえばちょっとパンが分厚いかなと」

「あー、食パン用と同じパンだからな。なら今後はサンドイッチ用の薄い奴を用意しておくことにしよう」

「動かなかったわりに食パンで中々の厚みがあるので体重のほうが心配ですねえ。栄養バランスはこの際考えないとしても後でサラダか何かを含めて夜食につまみ食いする事にします」


 野菜ジュースを無言でそっとお出しする。これ一本で一日の必要量の半分は満たせるはずだ。そっと受け取るとじゅるるる~と中々の勢いでジュースを啜り始めた。喉が渇いていたのか、それともコーヒーが熱すぎたかな? まあカロリーバランスを気にしている間は探索にも多少の余裕があるってことだろう。


 食事をとり終わると軽くストレッチしてから階段を上り始める。ここからはひたすらわかってる道を歩くだけで済む気楽な行程だ。五十二層の戦闘形式の面倒くささこそあるものの、最悪全力ダッシュで逃げて集まったところを極太雷撃でまとめて処理という形も取れるので時間をそう取られる事は無いだろう。


 戻って登った五十二層は早速のモンスターハウス。次々寄ってくるシャドウ系モンスターたちを倒しながら切れ目が見えたら素早く前へ進み、モンスターが集まってきたらまたしばらく足を止めてモンスター退治に集中、そしてまた一歩二歩歩くという牛歩戦術を強いられるが、階段と階段の間が比較的近いのが救いといえば救いだろう。


 四十分ほどで歩きとおすと階段を上って五十一層、シャドウバイパー三匹にだけ警戒しつつ、そのまま普通に探索ができる安全圏には入った。ここからは時間だけ気にしておけばいい気楽な旅だ。地図の方向もバッチリわかっているし迷うことはもう無い。地図無しでも歩き回っていい程度には道に慣れた。


 これも四十五分ほどで五十層への階段へたどり着いた。道中シャドウバイパーに思い切り締め付けられたが、両手が空いていたので柄ではなく手に直接雷撃を纏わせて相手を切り裂くことに成功。だんだんコスパが良くなっていく。これなら全身に雷を纏わせて体当たりでもなんか技になりそうな気がしてきた。


 もしこれで【雷魔法】の三段階目を覚えることが出来ればより強力なスキルを使えることになるだろう。五十六層の踏破ボーナスは【雷魔法】にしてもらおうかな。


 五十層の緩くなったモンスター密度をやや速足で階段へ向かう。エレベーターの入り口をダンジョン出入口傍に移動させたのとダンジョンの営業時間の変更のおかげで三時間ほど余分にダンジョンに潜ることが出来ているので、三月までなら五十三層の探索をするにも一泊が必要だった時間帯まで潜っていられるのは、単に働き過ぎなのかそれとも一日で行動が完結する分、楽だと考えるかは人それぞれの所だろう。


 ダンジョンの営業時間の変更に伴い、宿泊申請も無くなった。入ったら入りっぱなしで何日前の何時ごろに入ダンしたかを伝えることでより手早く退ダン処理が出来るようになった。ただ、今日は宿泊のご予定はないし芽生さんも明日の講義の準備があるので今日のところは真っ直ぐ帰る。次回は宿泊でゆっくり探索をするという形になるだろう。もしかしたら五十四層と五十五層まとめて攻略して五十六層まで到着する可能性もある。明日の内にいつものセットを設置するための購入に行くか。


 考え事と調べ物のチェックをしながらモンスターと戦いドロップを拾い階段まで歩く。後もう少しで今日の成果を報告できる。また、五十三層から五十六層までは緑の魔結晶でポーションも既存ものということがほぼ見え始めている。もしかしたら五十五層で何かしら新しいモンスターが出てきた場合、青い魔結晶で出てくる可能性はあるが、今のところ収入に対してしばらく待ってくれ状態が続くことはなさそうだ。


 各階層四十分から四十五分。五十層から五十二層の間は大体このくらいで階段間を移動することが出来ることまで判明している。他の階層よりちょっと狭いぐらいか。視界が取れない分階段まではそれなりに近い距離で動けるようになっているという事なんだろうか。


 無事に四十九層まで戻ってきたところでウォッシュ。三階層分の鱗粉がしっかり溜まっているので念入りに服と体を綺麗にしていく。毛根の隙間にも絡みついているから念入りに、風呂で髪を丁寧に洗うようにしっかりと。


「ふー、綺麗になりました。このままお風呂に入らずに眠っても良い感じに綺麗にされたと思います」

「さすがに気分的に風呂には入りたいかな。ここから家に帰る間にも汚れると言えば汚れるし、いくらウォッシュで綺麗にしたと言っても何日か続けて同じ肌着を身に着けるというのは生理的に問題がある」

「さすがに下着は変えますよ。でもお風呂に入るかどうかは……どうせ脱ぐなら入っても同じですかねえ」


 芽生さんはちょっと悩んでいる。流石に俺も下着にまでウォッシュはかけてないからな。綺麗になったのはお肌だけのはずだ。下着や肌着にまでウォッシュは……かかってないよな?


 エレベーターの脇のノートに書きこみをしておく。


「五十三層はどっかの映画で見たことある感じでした 安村」


 そう書き残すと荷物を整理していつも通り一層までのボタンをポチ。この時間ならまだ余裕があるから査定カウンターもそう混雑はしていないだろう。


 エレベーターがたどり着くまでおよそ三十五分。この間に今回の反省と次回の予定を立てておく。


「次は五十四層への階段を見つけて、出来れば五十五層にもいきたい。今回は西北西側には行かなかったのでそっちの調査だな。そこに何もなければ、目標は東側にあると考えていいと思う」

「ちゃんと道中の目印あるんですかね。ギリギリ見えなくなる範囲まで移動してからドローンで観察しないと見えない可能性だってあるんですよね」

「ある。ただ、そこまで不親切な設計はしてないんじゃないかとも思ってる。五層六層だって目印通りに進めば一応階段まではたどり着けたんだ。その範疇で作ってはいるだろうし、階段だけがぽつんとある可能性もあるが……それでもまぁ何かしらの目印は理由もなく置くようには思わない。目印無しで良いならそもそも置くだけ手間がかかるマップになっちゃうし」

「そういう作る側の手間からメタ読みするのはいつか痛い目に遭うと思いますよ」


 便利なんだけどな、メタ読み。ミルコあたりがぐぬぬ……と言いながらお菓子片手に唸ってそうではあるがそんなことはおくびにも出さず、素知らぬ顔を決めておく。


 一層に着き、すぐに出入口。ここも便利になった、いや、便利にした。三十分歩き通すところが二分ほどで出入口に到着できるようになった。


 ササっとリヤカーごと退ダン手続き。手続きには間に合った。さて、退ダンさえしてしまえば後は安心だ。査定してもらおう。


 査定カウンターはこの四月から二つに増設された。小西ダンジョンギルドで働く人を純粋に計算するといきなり三倍になって人のやり取りやら休みの調節やらやることが増えたと坂野ギルマスはぼやいていた。忙しいことは暇よりは良い事だと思う。


 査定カウンターが増えたことでピーク時の査定待ちの列も多少楽になり、行けば大体すぐ査定してもらえる、という形になっている。とはいえ一日が終わる間際の時間ではあるので、急ぎで査定に向かう探索者はそれなりに居る。


 査定の列に並ぶときに考えるのは、査定物の量ではなく種類だ。種類が多いほうが査定には時間がかかる。パッと査定に並ぶ人を見て、種類が少ない人が多そうな方に並ぶのだ。これが査定の待ち時間を減らすコツである。今日は上手いこといき、隣の列を二人ほど先に抜かしての査定となった。


 こっちも量こそ多いもののポーション一種類と緑の魔結晶だけであり、それ以外はまだ値段がついていない品物ばかりだ。特に今日潜った五十三層からのドロップ品はまず研究機関にサンプルを送り、研究機関からそれぞれの品物に対して得意とする企業で分析が行われ、その後でこれぐらいの価値があるんじゃない? という結果が帰ってきて、それからの値段付けとなる。


 ダンジョンタンブルウィードの種の値段付けに時間がかかっているのはまさにその価値をまだはっきり決められるまで種が育っていないというところにあり、そこがネックになっている。むしろ先にシャドウバイパーの牙とシャドウバタフライの鱗粉、そして奴らの名前が決まりそうである。


 鱗粉は毒性が無ければ新しい甘味料としての価値は充分にありそうだ、しかし、その価値があっても数を仕入れられなければ市場の需要を満たしきれないので、そこでもやはり需要を満たせるかどうかという問題が付いて回る。市場経済とは中々にややこしいものであるな。


 さて、今日の査定の結果、六千六百六十四万円。端数が出ないのがいい感じだ。早速振り込みをお願いしよう。支払いカウンターは増設されず一つのままだ。査定待ちの行列は出来るが支払い待ちの行列、というのは今までほとんど無く、また金銭を扱うカウンターを複数持つのは危ない、という視点から現状の小西ダンジョンでは支払いカウンターは一つで十分事足りる、ということになっている。


 振り込みを依頼し、ギルマスが居るかどうか念のため確認を取ったところ、今日はもう帰ったらしい。新しいドロップ品の相談はまた後日だな。


 芽生さんの振り込みと着替えを待ち、バスの時間を見るとまだ余裕があるのでコンビニで軽めの夜食を手にしてバスに乗る。


「次の探索の準備は今日中にするんですか? 」

「今日しっかり働いたからな。明日は一日休みにしようかなと。俺も働き方改革を始めないといけないと思い始めた。でもダンジョン通わなくなった瞬間からボケが始まるかもしれん」

「まだそこまでいくような歳じゃないでしょうに。でも、ちゃんと休むのは良いことです。止めなきゃ毎日ダンジョンに居るような人ですから、明日の昼から完全に暇でやることが無いし潜るかーぐらいは言ってそうですが」


 ははは、まさかそんな御冗談を。俺だって休む時はしっかり休むんだ。


「明日は納品もないし、ダンジョン飯に何を持っていくかちょっと色々作って味見して、内容を吟味することにするよ」

「それなら良いんですけどね」


 バスを降りて芽生さんと別れる。さて、家に着いたら店が閉まる前にいつもの机と椅子とノートセットを補充しておこう。今日動けるものは今日の内に。明日に予定を回すよりもそのほうが色々と都合がいい。店閉まる前に滑り込めたら御の字だ、念のため営業時間をスマホで確認したらもうすでに閉店時間だった。これは明日に回すしかなさそうだな。


 明日は朝食と昼食に新しいレシピを試して、味見して行けそうなら新しく一品追加、その後で買い物の流れだな。帰ってきたら夕食用のレシピを試して行けそうならそれも追加。


 家に着いたらまず軽く胃に詰めて、今からやる家事分のエネルギーを補充すると風呂を沸かして洗い物をして片づけをして干していた洗濯物を片付けて……と一通り家事をこなした。メモ帳に、机椅子ノート買い出し、新レシピ研究、とメモしてダイニングテーブルにメモを放置しておく。うっかり寝すぎて寝ぼけた頭で普段通りに活動しようとしてもメモで何をする予定だったかを思い出せるようにしておく。後は風呂に入って寝るだけだな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
( ˙꒳˙ )
> シャドウバイパーに思い切り締め付けられた」 撮れ高が高くなっちゃうおじさん > 手に直接雷撃を纏わせて相手を切り裂くことに成功」 絵面よ > だんだんコスパが良くなっていく」 だんだん人間離れ…
暇だしダンジョンには実際にやりそうなんだよなあw
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