892:砂と廃墟とスターシップ
誤字報告、お世話になっております。
家の様子を観察し終えたところで外へ出て、階段周囲の地図を描きこむためにちょっとした丘へ登る。丘といっても目線から少し高いぐらいなので丘というほどの高低差でもない。しかし、周囲を見渡すにはちょうどいい高さであるのでそこに登る以外の選択肢は今のところ持ち合わせていない。
丘の上から双眼鏡で周囲確認する。ドローンはまだ早い。対空迎撃をしてこない相手だとはっきりしてから出すようにしよう。保管庫に入れてはあったもののほぼ出番が無かった双眼鏡だがようやく役に立ってくれたな。やはり保管庫には色々入れておくべきだ、用意しておいた自分を褒めよう。
それはさておき周囲を観察すると、近い所では百五十メートルほどの距離のところにモンスターらしき影を発見した。黒い装甲に黄色いラインが入っている。立ち入り禁止のビニールテープを全身に巻いたようにも見えるそれは、大きいのが一体、小さいのが二体。それぞれ多少模様は違うが同じ種類のモンスターであることを教えてくれている。
八本足が……いや、そのうち六本が足で二本が腕なのだろう。前から二本は高らかに上げ下げしながらコミュニケーションらしきものをとっている。いきなり二対三か。しかも一匹はデカいと来た。まずはしっかり観察して弱点らしきものを探すのが先か。
「頭部がやはり弱点かな。ちょっと高い位置にあるから殴りにくいな。雷撃で仕留められるならそれに越した事は無いが……小さいほうならかろうじていけるかな」
「鋭そうなおててですねえ。ザクッと刺されたら物理耐性もスーツも貫いてきそうな感じではありますねえ。あと、立派なあごは噛みついて食いちぎられそうな感じはします」
双眼鏡を構えたまま芽生さんが呟く。なるほど、頭部は二つに分かれているのではなく、あれが顎なのか。とするとその顎の奥が頭部だな。
「しかし、あのビジュアルどっかでみたことがあるな。映画だったか、ドラマだったか。人類に対して牙をむくみたいなエイリアンの一種みたいな」
「私多分その映画知ってます。フルCGでなかなかいい出来だった覚えがあります。私から見ればそれも昔の作品になるんでしょうかねえ」
「だとしたら俺が知ってるの更に古いほうだな。続編があったとまでは知らなかった」
芽生さん意外と色々見るんだな。また一つ理解が進んだ。今度一日休みにして最初から一気に見るのもいいかもしれんな。のんびりと映画だけを見る日、というのも有りだな。
「それで、でかいほうはどうする? 流石に物理的に届きそうにないのと、一回り大きい分だけダメージにも強そうだぞ」
「私が水魔法で殴って怯むかどうかですね。怯まなかったら雷撃でそのまま感電させてやってください。その間ぐらいなら多分生き延びる手段は何とか講じられると思います」
「とりあえずまずは当たってみるか。それとも最初で距離があるから射出で試してみるか」
「まずは射出から順番に行きましょう。あれで敵わないなら相手する余裕はありませんからね」
「レールガン式にする? それとも普通の射出にする? 」
「普通ので。レールガン式じゃないと対処できないならどっちにしろ私たちだけでここを突破するのは難しくなるでしょうし、現状あれが一番の火力ですからね。毎回飛ばしてたら弾が足りなくなります」
とりあえず当てて砕いてみるという事になった。まずはこの距離から大きいほうに向けて射出してみる。プシュンという音と共に飛び出していったゴブ剣は大きいほうの頭部をそのまま吹き飛ばして何処かへ飛んでいった。その場で大きいほうは黒い粒子に還る。
突然仲間を一匹失ったモンスター……何て名前を付けておこうかな。見た目では大きさ以外ではあまり差が無いので大きさで小さいほうからアルファ型、ベータ型と呼称しよう。さっき倒した大きいほうがベータ型だ。アルファ型は目ざとくこちらを見つけたらしく、こちらへ駆け寄ってくる。中々のスピードだ、俺の全力移動と同じぐらいの移動力でもって駆け寄ってくる。
近寄ってくるまでに雷撃を一発撃ちこむがスピードは落ちず、そのまま引き続き二発目を当てたところでスタン。どうやら耐久力はシャドウバイパーほどではないらしい。雷撃二発で大人しく出来るならこっちのものだ。残り一匹になったアルファ型を芽生さんが水魔法で頭部にスプラッシュハンマー。どうやら頭部に衝撃を与えるとかなりのダメージになるらしい。水魔法の一撃で動きが鈍った後、上手いこと頭部と脚部の間にあたる関節部分から切断されていく。やや斜め上下に切断されたアルファ型が黒い粒子に還る。
最後に、スタンさせておいたアルファ型に雷切で切断を試みる。動けない間なら大丈夫かと、いろんな部位から徐々に刻み、解剖を始める。腕に当たる部分は比較的楽に切断できたが、脚はかなり丈夫に出来ているらしく、雷切で斬り落とすにはそれなりの時間がかかることが解った。狙うなら上半身って事だろう。腕に当たる部分も比較的楽に切り刻める以上、脚で攻撃されない限りは大丈夫なんじゃないかな。
見た目はともかくとして、戦闘力的にはシャドウバイパー前後というあたりになりそうだ。ベータ型とはまだ正面切って戦っていないのでまだ同レベルと決めつけるのは難しい所だが、アルファ型より大きく攻撃が届きにくい分戦いにくさはあるだろうし、耐久力の差はあるだろう。この辺になるともうゴブリンキングのほうが戦いやすそうだな。
解剖の実験台になったアルファ型はザクザクと色んな部分を切り取られながら徐々に黒い粒子に変わっていき、最後に頭部を潰すと全てが黒い粒子に還った。
「やはり弱点は頭部か。いかにしてうまく頭部に攻撃を集中させられるかどうかだな。頭部、とにかく頭部を狙っていこう。他の部位の硬さはある程度解ったので相手にすると厄介だ。弾くなり躱すなりしていこう。ただ、向こうは中々に素早いから考えてから攻撃するのはなかなか難しいかもしれない。いつもの戦い方へどう落とし込んでいこうか考えながら次へ行こう」
とりあえずドロップの確認をする。ドロップは今のところ魔結晶のみ。魔結晶の大きさは……シャドウバイパーと同じぐらいか。意外と大きいな。苦労の割には収入は大きい気がする。他にも何かドロップを落とすかもしれないのでそれにも期待しよう。さて、さっき遠距離から攻撃したからドロップを拾いに行くのが面倒だが、ベータ型のドロップも確認しないとな。
二分ほど歩いて先ほど貫いたベータ型の居たあたりへ近づく。これまでで一番大きい緑の魔結晶が取れた。そのまま何処かへ飛んでいったゴブ剣との引き換えになるが、明らかにシャドウバイパーよりも大きく、その分の収入が期待できる。あれを楽に倒せるようになればこれもコンスタントに収入として計上できるようになるのだろう。それまではちょっと苦労をするかダメージを負うか、最悪スーツに穴が開くかもしれないな。そこまでは一応覚悟しておこう。
次のモンスターを目視で確認。階段はまだ見えている距離なので安心して次のモンスターを探しに行ける。今のところ自分たちが見た目印は階段とそのそばにあった家と井戸だけ。一軒だけポツンと存在するのは多分そこに井戸が作れたからなんだろうなあとは思う。それなら井戸の近くに何軒か家があっても不思議はなかったが、たまたま一軒だけだったのか、それともほかにも集落的なものがあるのかは今後地図を埋めていく間にわかってくることだろう。
次のモンスターはアルファ型が三体。射出は使わず普段通りの攻撃だけで済ませる予定だ。近寄ってくる前に雷撃と水魔法で同時にかかってくる数を減らし、一対一で戦いを挑む。雷切で両腕を綺麗に落とした後、脚による踏み付けや体当たりを受けないように避けつつ、雷魔法を打ち込みながらの乱戦だ。
雷魔法を絡めながらの雷切で一匹を片付けることは出来た。最後に顎の噛みつきを受けそうになったが、逆に口の中に全力雷撃を撃ちこむことで口内から脳にダメージが貫通したらしく、力がぬけて黒い粒子に変わりはじめ、噛まれる前に消滅してくれた。危ない危ない。
芽生さんも【水魔法】で極薄の刃を槍に纏わせながら関節を狙っていく。やはり関節部分は接合が甘いのだろう、上手いことアルファ型の脚を腕を切り落とすと、そのまま正面から頭部を串刺しにして終わらせた。あちらも問題は無さそうだ。
最後の一匹を全力雷撃で吹き飛ばす。耐久力はシャドウバイパーより弱いらしく、通常の雷撃三発ぐらいの威力で倒しきることが出来るようだ。全力なら二発で確実だろう。シャドウバイパーみたいに毒を持っている可能性はまだ無いとは言い切れないが、それよりも攻撃力のほうが純粋に高そうな気はする。どっちにせよ近づかれる前に倒せるのは確実だし、視界が広くモンスターが散らばっている分だけここの階層限定かもしれないが、五十一層や五十二層ほどの緊張を持って挑む必要はないと感じる。
「思ったよりは楽に進めるか。やはり視界が広いというのは良いことだ」
「視界が狭いとなんだか頭を押さえつけられているような感覚に陥りますからね。今の内にドローンを飛ばして周辺観察しましょう」
芽生さんに急かされ早速ドローンを起動して上空へ。ドローンはいつも通り見えない天井にぶち当たった後、天井を擦るように移動をするので少し高さを下げて観察する。
モンスターは見た限り、点在、というほうが表現として正しいのだろう。かなり薄い感じでスポーンしている。
モンスター以外には、やはり廃墟という表現が適切なのか、家の残骸のようなものやマンションみたいに二、三階建てのようにも見える建物があり、その建物の中にはモンスターが居たりすることがあるようだ。雰囲気としては二十一層の廃墟地域に似たものもある。
それ以外に目印になるようなものは特にない。目印が少なくモンスターも少ないのでこの階層は比較的楽に階段が見つけられそうだな、というイメージだが、草原マップのように何もない所をひたすら歩くという区間も存在しそうな気がするのでここまでのいくつかの階層の複合技みたいなものを見せつけられているな。とりあえず、丘の向こう側にちゃんと階段があることを確認して、方位を確認。今日一日で階段が見つかるとは思っていないが、見つけられたらかなりラッキーな部類に入ることは確かだ。片道一時間ぐらいの距離で見つかってくれると嬉しい。
「とりあえず次の目的地みたいなものは見つけた。そっちへ行ってその次を探すことにしよう」
「草原マップみたいなもんですか。これでモンスター密度が高ければもう少し暇つぶしにはなったんでしょうけど、大人しく次へ行くまで歩いて行きましょう」
向かう方向にはモンスターが数集団見られるので、暇でしょうがない、という形にはならないだろう。ついでにモンスターの見た目と上空からの様子を撮影しておく。後日モンスターの見た目サンプルとして提出しよう。後は戦闘中に余裕があれば……そうだな、通常で二発撃ちこんでスタンさせて置いている間に芽生さんに撮影してもらって、その後でゆっくり起き上がってもらってから戦闘に入る、という形で映像を残しておけば十分だろう。
「しかし、広いように見えますが実際のところどうなんですかね」
「また上下左右でループしている可能性はあるな。とりあえずドローンで確認できる範囲では目印はそれっぽいものが見えてるからまだマシかな。その分歩くけど」
アルファ型が二体だけ居る所まで来た。撮影にちょうどいい感じだ。片方をまず先に倒してその間にもう片方で撮影開始だ。
「片方を焼いて倒すから、その間に撮影お願い。俺もちょっと一対一で長めに時間を取って戦ってみる」
「解りました。無茶はだめですよ? 」
芽生さんが俺のスマホを構える。もしこれで撮影失敗して多少腕が吹き飛んだり指の二、三本持っていかれたとしてもヒールポーションがあるので問題ないだろう。いやむしろ、ここで腕を吹き飛ばして最上位ポーションを飲んでいて、こいつが何に効果があるのかはっきりさせるというのも有りか? と考えるぐらいには余裕がある。
アルファ型の片方を全力雷撃で焼き切った後、寄ってきたもう一匹の動きをひたすら躱す。アルファ型の攻撃パターンを全て出し切らせるつもりで動き、場合によっては雷切で受け止めて腕を切り落とし、脚の関節に雷切を差し込み、最後に頭部に雷切を差し込みトドメ。ちょうど目が慣れてきたところで戦闘終了になったので少し不満は残りつつも、この階層も俺は安全に探索が出来そうだと自信がついてきた。
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