表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十六章:底は見えず
890/1212

890:五十三層へ 1

 二時間の四十八層巡りが終わり、昼休み。今日の昼食は鶏の照り焼き丼。ウルフでも、ボアでも、オークでもなく、鶏。ワイバーンも鶏みたいなものだと言われたらそうかもしれないが、その為に貴重なワイバーン肉を使うのも少し勿体ない気もするが、そのうちチャレンジしてみよう。


「んー、この甘辛さが良いですね、食が進みますね」


 丼から箸でワシワシと食べている芽生さんを横目にしながら自分も食事に集中する。いつ食べても美味しい照り焼き丼だが、スーパーで出てくる甘いあの味を再現できているかといわれると、まだとろみが足りないしおそらくみりんか酒か、そのあたりの分量が足りていないと感じる。レシピを知りたいな。レシピを知るためだけにバイト……いや、そんな贅沢は出来ないな。成分表示から大体の割合は考えられるし、ネットのレシピも参考にしているんだが、何かが違う。


 この何かのわずかな差に美味しさの秘訣があるんだろうな。もっとよく勉強しないといかん。そう思いつつ一人分の照り焼き丼を平らげ、少し物足りなかったのでカロリーバーと野菜ジュースを胃に入れる。


 休憩に雑誌を読みつぶし、次はこのレシピを攻めてみるかとあたりをつけたところでアラームが鳴って休憩終了。


「さて、行きますか五十三層。どんなマップでしょうねえ」

「過ごしやすいのがまず第一だな。五十六層がセーフエリアになるだろうから変なマップに遭遇して過ごしづらい環境であるのは休むだけでストレスだ。そうなってないことを望むかな」

「それも大事ですね。ここもあまり居心地のいい場所とは言えませんし、ここよりはなんというか地上らしいというか、テントを張ってくつろいでもあまり違和感のない場所が良いですねえ」


 五十層に下りる。いつも通り南南東へ向かいながら、石筍が見えるまで歩きとおす。道中のモンスターはいつも通りスキルで対処。何回かの戦闘を繰り広げたところで石筍が見えたので、そこからは頭の上の影を目印にしてそちらの方へ向かう。またモンスターが寄ってくるのでスキルで対処。シャドウバイパーもスキルだけで対処。芽生さんのシャドウバイパー退治に余裕が出始めたので、こっちの全力雷撃三発を二発にして、ラストのトドメを芽生さんに任せるようになってきた。


 おかげで魔力の消耗を抑えることが出来ているのは有り難いところである。この調子で五十一層も潜れたらいいのだろうが、流石に五十一層でシャドウバイパーが三匹セットで出てくると手数的な意味でも厳しくなってくるので、まだ課題ではある。


 シャドウバイパーに噛まれることは無くなった。近接攻撃でもたまに対処するが、頭だけを吹き飛ばして倒せるようになったし、明らかに噛まれる態勢になった時は手袋を直接保管庫に放り込んで手を噛ませ、ポーションで穴を塞いで完治。毒は【毒耐性】にお任せすることで次に戦闘するまでに解毒することでなんとかなっている。


 シャドウバタフライも近寄ろうとするとべたつく以外は問題のあるモンスターではない。はい次。そのぐらいだ。後でウォッシュするので問題も無く、体内に蓄積されるマヒ毒も【毒耐性】によって分解されてくれるらしい。


 シャドウスライムは一匹で出てくればバニラバーしてキュアポーションの在庫を潤してくれる美味しいモンスターだ。二体同時に来ると片方は確実に向こうから襲い掛かってくるのでバニラバーの儀式は上手く出来ないが、一体ずつならバニラバーの儀式は確実に行える。シャドウスライムをここまで何百匹か倒してみたが、ドロップの中に最上位ポーションは無かった。多分こいつはその分だけキュアポーションをくれているのだろう。


 問題なく五十層を歩き抜け、五十一層に入る。五十一層では五十層に比べさらに密度の高い戦闘を送ることになる。


「さ、とりあえず五十二層で階段を見つけるまではここが本番だ。シャドウバイパー三匹にだけ気をつけていこう。後はどうとでもなる」


 階段があるはずの北東方向へ向かう。ここもかなりの回数通ったので階段の位置はバッチリ覚えている。モンスターもシャドウバタフライが最悪で四匹まとまって出てくるが、近寄ってくる前に迎撃できるので美味しい。ただドロップを拾いに行くときにちょっと鱗粉がまとわりつくのが問題ではあるが、それさえ我慢すれば一回で百万ほどの期待金額を得る事が出来るので非常に大きい。


 シャドウスライムも現れるが片方はバニラバー、片方は芽生さんに任せ、着実に収入を得ていく。ポーションの在庫がどんどん増えていく。現金にはならないが風邪でも引いたときの緊急役としてはお高いが確実に効く品物としてどんどん溜めていこう。


 階段までの道筋は細かいところまで書きこまれているので戦闘で前後不覚にならない限りは道順を間違う事は無い。階段までは最短で後四十分というところ。


「落ち着いていこう、時間はまだまだある」

「落ち着いてないのは洋一さんだけだと思いますよ。私はいつも通りですから」

「そうか。早く五十二層にたどり着いてみたいとウキウキしているんだが」


 まだ五十一層だというのに五十二層の戦いのほうを期待している。油断していると言われればそうかもしれないが……と考えてる間にもシャドウバイパーが三匹寄ってきた。一匹は全力雷撃三発で倒した後、一匹に更に全力雷撃を与えつつ近接攻撃で処理。やはり雷魔法の出力不足を痛感する。


 三ヶ月に一度ぐらいの確率でドロップするのだから、今はドロップタイミングの谷みたいな時間帯なのかもしれない。だとするとタイミングが悪かったのかもしれないな。【毒耐性】が安めの値段で比較的早く落札できたのは運がよかったと思うべきだな。


 早くトリプルスキル保持者になりたいぜ。そうすれば五十三層以降でも効果的に戦い続けることもできるだろう。しかし、他のスキルを生やして複合スキルとして同時使用するというのも中々面白そうではある。【雷魔法】でスタンさせながら【火魔法】で全身に過負荷をかけ続けるとか、これは芽生さんが居ても出来るが【水魔法】で濡らしたところに全身に【雷魔法】をかけて全身により効果的にスキルダメージを与えるなど、色々応用が考えられる。


 このまま【雷魔法】一辺倒で進めるというのも一つの案だし、生活魔法でわずかながらだが各属性魔法も使える。それで色々組み合わせを考えて【雷魔法】に一番効果的らしい属性を探し当てるのも一つだな。


 シャドウバイパー以外が相手なら考え事をしながらでも戦えるようになった。これは充分体が慣れたという証明でもあるな。そろそろこの階層からも卒業しても良いという事だろう。この階層は稼ぎにはあまり向かない。毒が蓄積されていくのもそうだが、攻撃力、魔法耐性共に高いモンスターが居る、というのは探索においては邪魔な存在ではある。


 ただ、経験値稼ぎという面においては充分なスキルアップが出来たことに違いはない。この階層に潜って合計五回、俺と芽生さんはステータスブーストのレベルが上がっている。充分なレベルアップかといわれるとちょっと自信はないが、耐性スキルを両方保持した上でなんとか二人でやってこれている。


 流石に限界だと思ってここで一カ月二ヶ月実力を高めるための特訓を重ねてきた訳だが、それでもまだ少し重荷に感じる所はある。ギリギリの勝負をしなくてよいように調整してきたのだ。もう一歩二歩、できれば成長したいところだが、階段を見つけて五十三層に向かうほうが先になるかもしれないな。五十二層でどれだけ迷うか。いや散々迷ったのだから残りの迷う空間は限られている。もう一段階上がって次の階層へ、というのはぜいたくな悩みと言えるだろう。


 五十一層から五十二層へ行くには細かいオブジェクトをいくつか経由する必要がある。壊れることが無いので目印が無くなることはないが、戦闘が入り混じるとちょっと見失いそうになる。そのたびに周囲を確認して目印を確認、地図を確認、次の目印の方向を確認していく。地道で気が遠くなりそうだが、他にやることも無いのでそうするしかない。


 そうして地道な作業を繰り返し、五十二層への階段へたどり着いた。周辺にモンスターが居ないかどうか確認し、居たら倒して階段に腰かけて小休止。ウォッシュで甘味を落としてから水分を補給し、念のためドライフルーツを一枚咥えておく。熱く涼やかな風が通り抜けたことで疲労も抜けた。少々甘味に囲まれ過ぎて眠たくなっていた体をシャキッとさせてくれた。


「さあ、ここからが本番だ。気合入れて探していこう」

「残りの場所はわずかですから、あまり気合を入れなくても良いかもしれませんが戦闘で気を抜くとモンスターに囲まれることは間違いないですからね。確実に数をこなしていきましょう」


 芽生さんのほうも同じくカロリーバーに水、そしてドライフルーツを口にしてリフレッシュする。


 数分その場で軽く座って休憩。その間俺は索敵で周辺捜索。最近は立ってても休める体勢というのを獲得してきたのか、座り込まなくても体力回復することはできるようになってきたが、それでも座って休むという姿勢に勝てるほどではない。休めるときは素直に休むのだ。


 どちらも言葉を発さず、静かに体を休める。休憩ならお互いに声掛けをして会話を挟むのが普段どおりの流れだが、今日はどちらも言葉を発さない。今日は静かですね、とすら言わない。それだけ疲れがたまっているのか、これから来るであろう階段の先に期待していてそっちの妄想に力を入れているのか。もしくは、それ以外の何かか。


 数を数える事も無く数分たち、アラームをかけていたわけではないが充分に休息は取れたと判断して立ち上がる。


「さ、いくか」

「いきますか」


 少ない言葉と共に五十二層へ下りる。ここからはスタミナ勝負の戦闘区域だ。何とかのダンジョンでいうところのモンスターハウスのようなもの。モンスター同士が反応しあい、多少距離が離れているモンスターでも徐々にこちらへ近づいてくるのであまり歩みを早く進めると中々の数に囲まれてしまう。


 シャドウバタフライかシャドウスライムならまだいいが、シャドウバイパーが複数匹同時に来ると対応に問題が発生するので、最初のモンスターを倒した後は少しその場に踏みとどまりながら索敵を行って、こっちに近寄ってくるモンスターが居ないか、赤く反応していないかを判断しながらの探索になる。正直言って面倒である。


 この先五十三層も同じようにシームレスな戦闘を強いられる可能性があるのかを考えると悩むところではある。五十二という数字に何か関係があるのかを考えるが、同じような戦闘を強いられたのは多分六層ぐらいのものなのでこの階層だけ特殊なのか、それとも今後の予行演習なのかはまだ判断できない。それを判断するためには次の階層への階段を見つけて五十三層に行くことが必要になってくるだろう。


「何とも面倒くさい階層だな」

「全くですね。今後もこれが続くのかと思うとちょっとうんざりします」


 二人ぼやきながら索敵網に引っかかった赤い点を近づいてくる順番に叩き落す作業を続ける。二分ほど戦い続けたところでモンスターの足がいったん止まった。どうやら周囲何メートルになるのかまでは解らないが、そのあたりまではすべて倒しきったらしい。


 あまり遠距離にならない範囲でモンスターを倒していたので、ドロップ品は範囲回収で出来るだけ周りを刺激しないように回収している。これで保管庫が無かったら、ドロップを拾いに行くたびにまた新しい戦闘が発生して、ドロップ品を拾って……と終わらない戦いを繰り広げることになっていたかもしれない。


 範囲収納も二十メートルぐらいまでなら届くようになった。一段階、という訳ではないかもしれないが、保管庫が便利になっていることは確かだ。一度保管庫のスキル使用の熟練度に対してどれがどのように上がっていくのかを知りたくなってきたな。とりあえず、忙しさの分もあってこの階層はかなり稼げる階層だ。ここに一時間も居れば二千万円ぐらいは稼げそうな勢いである。ドロップを回収し終わったところで地図を広げ、まだ巡ってない北西方向へ向けて少しずつ進もうと芽生さんと確認し合い、ゆるりと歩みを進め始めた。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この身体強化はいずれ回復速度とかもあがって若返りとか老化防止とかもついたりしちゃうのだろうかね
> あの味」 エバラでおk > バイト」 盗むのそこでよかった? > 成分表示」 グァーガム キタンサンガム > 噛まれることは無くなった」 とは↓ > 手袋を直接保管庫に放り込んで手を噛ませ…
これだけ深い階層で尚も成長し続けてるのは人類でもかなりのトップ層に入ってそうだなー ステータス表示があったらどんな数値に育ってるのやら
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ