888:国際ダンジョン機構緊急会合
ここからまた新章です、対戦よろしくお願いします
なお、本編は日本語ガイドでお送りします。
side:国際ダンジョン機構
欧州各国連名によるダンジョンマスターの存在の公表は突然の発表であったため、国際ダンジョン機構による承認を得ての発表では無かった。その為緊急会議が行われ公表を連名で発表した欧州十数ヶ国の大使に対し、それ以外の地域からの非難が相次いだ。
せっかく各国で口裏を合わせて情報封鎖を行っていたのに率先して発表するとはどういうことなのか。公表することについて事前に相談も出来たのではないか。同じく公表を渋っていた他国を納得させられるだけの理由はあるのか。
それらの質問について、連名した国家の代表として矢面に立たされた大使はこう言い放った。
「確かに、事前に相談する準備時間を設けることは必要だったとは思います。しかし、今回は時間がないと判断いたしました。エレベーターを設置したダンジョンが徐々に増えつつあり、ダンジョンマスターの存在について知るパーティーが増えて来ています。こちらの調査では、実際にダンジョンマスターに出会ったわけでもないのにその存在を知っている探索者を十数パーティー確認することが出来ました。それらのパーティーにはダンジョンマスターについて正式に発表するまでは一切口外しないことを言及しましたが、そもそもダンジョンマスターの話は言及禁止に値する機密情報であります。それが親密なパーティー同士だったとはいえ、口外している現状からして、我々が把握していない範囲ではより多くのパーティーがこの機密に触れている可能性が非常に高いと判断いたしました。つまり、ダンジョンマスターの情報については既に機密として維持し続けられることが不可能であると断定いたしました」
代表大使の答弁に対して、ダンジョンマスターの情報公開反対派の大使から反論答弁がなされる。
「そもそもダンジョンマスターの存在を隠匿する事に決めたのは、文明外からの接触というダンジョンとは全く関係のない範囲でのむやみな接触や文明の理解、それらについてできるだけソフトランディングで接触できるよう計らうため、という理由であったはずです。それを、ある日突然発表するのでは今までの苦労が水の泡という事になります。最初から全部話しておけばよかったと。そこのところをどうお考えなのですか」
情報公開について強く非難する意見について、外野からも野次や怒声が飛ぶ。
「我々の調査の段階でこの状態なのですから、おそらく各国で詳細に調べられたら解るとは思いますが、探索者の横のつながりはそれなりに強いと判断できます。この状態はもはや機密情報が機密情報でないことを意味しています。ならば、そろそろダンジョンマスターについても我々も存在を認め、世界に異次元からの来訪者が現れたことを明確に示し、ダンジョンについてだけではなくダンジョンマスターについてもよく話し合い、同じテーブルに着いて話し合いをし、今後お互いの文明、お互いの文化についてより詳細に知り合うことが必要なのではないかという段階に来ているのではないかと判断いたしました。今回我々が先走って公開したことは素直に謝罪いたします。しかしながら、このまま誰がその発言を始めるのかを押し付け合い、一歩も先に進まない間にマスコミの耳に入ることにより、現場での混乱やダンジョンマスター側の耳に入ることで、こちらに対しよろしくない態度、よろしくない接触を生み出さないためには、早めの情報公開が必要だと判断しました。ここには当然、ダンジョンマスターの存在の公開について反対する立場の人は居られると思います。我々はあなた方に一つの意見しか言えません。先に公開してしまって申し訳ないと」
情報を公開してしまった以上、先に頭を下げてしまえばこちらの勝ち、といった様子で飄々とした大使はさっさと頭を下げてしまった。真摯な態度とはいえ、こちらのやるべきことはやったのだから後はこの茶番を終わらせてとっとと情報公開に際して各国に帰っての対応の準備にあたるべく頭を切り替えていた。
ここで、中立の姿勢を貫いている日本の大使はあらかじめ国内で相談し終えていた内容について意見を述べる。
「このような事態はある意味想定済みではありました。仮に全体の総意を聞いて投票にかけて、情報公開に賛成であったというプロセスを得た後であっても、同じような議論をしていたのではないかと推測します。我が国としてはできるだけ多くの国と歩調を合わせていきたいと考えています。その点では、今が全体として歩調を合わせる機会ではないでしょうか。公開してしまったものはもう仕方ない。その上で今後どのように情報を利用していくか。そちらへの対応を考えたほうがまだいくらか前向きであると考えます。マスコミへの対応は。探索者への不満のやりどころは。ダンジョンマスターの存在を知っているかどうかで探索者に潜る階層を制限していた我が国もその対応に苦慮しなくてはならない。皆さんで考えませんか、今後どうしていくか。そして、ダンジョンマスターに正式にこの星の人間として握手をしてお互いの落としどころを見つけていくか。もし見つけられないなら、ダンジョンを踏破して同じ土地に作らないように対応してもらう等、我々がこれから各々で行動しなければいけない議題は山積みです。いえ、今まで山積みのまま見なかったふりをしていただけかもしれません。日本としては巻き込まれた形になりますが、おかげで解決に導く一端が見えたのもまた事実です。今回の出来事をうまく利用していきましょう。ダンジョンマスターについて限定的な物言いしかしてくれなかったおかげで、各国も手持ちの情報を全て吐き出させられた、という事にはなっていないと思います」
今まで旗色を中立からやや反対派に染めていた一部の国は日本の主張に対して納得をするしかない、といった具合だろう。
「日本のおっしゃりようだと、すべてのダンジョンマスターについての情報は公開されていないという風に聞こえます。日本はそれ以上のダンジョンマスターについての情報をお持ちであるという認識でよろしいのですか。日本は独自にダンジョンマスターの情報を手に入れていると」
同じ中立派の大使から日本への質問が飛ぶ。ダンジョンマスターについては確かに限定的にしか情報を公開していない。しかし、国によっては国内にダンジョンが存在しない地域も有り、そもそもダンジョンマスターとのコンタクトが取れない地域もある。それに比べて日本のダンジョン発生数は百と、世界的に見ても面積比ではかなり多いと言える。数が多い分ダンジョンマスターとの接触回数も多く、より多い情報が手に入れられているのではないか、という話であろうか。
「今回公表された情報の中に、おそらくダンジョンで最初にエレベーターが設置されたのは日本ではないか、という点につきましては、明確にそうだと言い切ることはできませんが、日本で最初にエレベーターが設置されたダンジョンにつきましては特定が出来ており、そのダンジョンでだけ十四層ではなく十五層にエレベーターが設置されています。他の世界中のダンジョンでは全てセーフエリアに設置されていることから、おそらくその点の違いをもって最初に設置された、と考えることは可能であります。もしそうではなく他のダンジョンが最初にエレベーターを設置したと主張なさるのならそれはそれで構わないと考えています」
日本の大使はそう言い切り、起源を主張するならどうぞご自由に、でも他のエレベーターと違うところが明確に一点ありますから証明になりますけどどうします? という具合のさぐりをいれている。
「その、最初にエレベーターを設置させたらしき探索者はその点についてどういった説明をされていたのかは判明していますか」
反対派の大使からの質問が飛び出る。この質問は日本にとっては想定済みであり、事前に安村とも相談しそういう質問がでるであろうことからあらかじめ質疑応答の中身として既に答弁書は用意されていた。
「そういう質問がされると思いましたのであらかじめ聞いておいた部分ではありますが。彼ら曰く、移動が楽になれば何でもよかった。今は十四層に設置すればよかったと考えている。ダンジョンマスターには一層のエレベーターについては便利な場所に移してもらう予定だが、十五層については余計な混乱を招く可能性もあることから保留してもらっている、ということでした」
「保留してもらっている……というのはダンジョンマスターに、ですか。そこまでその探索者はダンジョンマスターと友好を結んでいる、ということですか」
反対派賛成派含め、かなりの国の大使からどよめきが発せられる。どうやら、ダンジョンマスターと積極的に友好を結んでいる国家はそれほど多くないようだ。
「そういうことになります。既に日本のダンジョンに関する組織の長である我が国のダンジョン庁長官及び現総理については顔合わせも済んでおり、あちらの文明に対していくつかの情報と、それから……現存する魔結晶発電より更に効率的に電力変換できる魔結晶発電の技術も託されています。これについては国際特許を出願中であり、特許認定が終わり次第、この星の上では日本の技術として保持していきたいと考えています」
ざわ……ざわ……と騒ぎだす会議場。
「日本はその技術について、どのくらいの……いや、具体的な金額はともかくどのような条件で特許の使用について認める気であるのか。それとも日本で独占してしまう気なのか、その点についてお聞きしたい」
賛成派で先ほどまで頭を下げていた大使が語気を荒げて日本の大使に対して質問をする。どうやらそこまで日本とダンジョン側の友好関係を結んでいることを掴んでいたわけではなかったらしい。
「そこは経済的協力支援の話になりますから私の口から言えることではありませんが、ダンジョンに関わる限り、日本はこれからもダンジョンと二人三脚でこのまま取り組んでいこうと考えています。また、ダンジョンの向こう側の文明についての情報や文字、言語、文化についても引き続き情報を得次第、共に歩んでいける方々と主に共有していきたいとは考えています」
日本の大使はそう締めくくって言葉を閉じる。もはや話題はダンジョンマスターの情報を開示したかしなかったかではなく、日本とどうやって歩調を合わせていくのか、代わりに日本から要求される条件になるものはどういったものなのか、そちらに関心は向けられていた。
各国大使が唸る中、日本の大使は何とも言えない気持ちにまとわりつかれていた。今日本から発せられる一言一言に注目している。ここで海外に出すのをやめるなどと言い出したら一斉に非難されて逆に日本を締め出して日本以外の国で連携していくという手段も取れる。そうならないことを祈りつつ、発言内容を上手く逆手に取られないようにと苦慮していた。
「そろそろ、よろしいかな」
今まで議論を見守っていた議長が発言を始める。
「日本の発電技術はともかくとして、実情としてダンジョンマスターの情報は公開されてしまった。今更嘘でしたと言い張ることもできない。決してエイプリルフールに発表された話でもない。その現実をまず受け止め、その上でそれぞれの国がどう対応していくのかを考えていきたい。情報公開に反対していた各国大使にも、一度国に話題を持ち帰り、そう、日本の意見も参考にしつつ、ダンジョンマスターへの対応や外交方針なども考え直す必要が出て来るでしょう。今回は議決として何らかの案を出すという場でもない。まず、お互いの国のダンジョン事情や探索者の動き、それから踏破されつつあるダンジョンへの対応。もし踏破するなら踏破した後消滅してしまう事で我々は魔結晶という新しいエネルギー資源鉱脈を失うということにもなる。そのあたりをよく考えたうえでもう一度集まり、何らかの声明を発表することにしましょう。本日はお疲れ様でした」
会議が終わった後、日本大使は賛成派反対派中立派それぞれの国の大使にもみくちゃにされる形で質問に追われることになった。具体的には今度は外交官を招いて具体的な日本との技術提携を組めるのかどうか、もし発電について実用化した暁には完成披露は国外にも招待状を送ってもらえるのか、そういった類の質問や、言語学などの分野においても日本の協力を得られるのかどうか等質問は多岐にわたり、質問があった国家に対しては各質問の回答文書を送るので詳細を詰めるまで待って欲しいということでようやく話は落ち着いた。
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