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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
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886:移動! ヨシ!

 翌朝。横田さんは俺の部屋に泊まり込み、他の二人は自分の部屋で寝、朝を迎えた。昨日の紹興酒は完全に抜けたらしいことは解る。とりあえず横田さんを起こさないように部屋を出ると、四人分の朝食を用意し始める。今日はパンの消費が激しいな。キャベツも買わなきゃそろそろダメかな。四人分の目玉焼きをまとめて作るとトースターで順番にパンを焼き、焼けた先から保管庫へ避難させておく。


 匂いで起きてきたのか、横田さんがぬっとあらわれる。


「おはようございます。すいません朝食まで用意してもらって」

「構わんよ、三人も四人も同じだ」


 顔を洗いに行っている間に横田さんの分の朝食を並べておく。家のダイニングテーブルが四人掛けで良かったな。三人がけだったら俺だけキッチンで食べる所だった。


 その後順番に結衣さんと芽生さんも起きてくる。四人分朝食を並べると四人そろっていただきます。


「それで、小西ダンジョンでやることって? 」

「仕掛けも話も簡単、一層と十五層にあるエレベーターの乗降口、場所を変更してもらうのさ。もっと使いやすいように」

「それが何で目くらましになるわけ? 」

「ダンジョンマスターの存在があれこれ言われてる中で小西ダンジョンでだけエレベーターの移設が行われた。ダンジョンマスターはつい身近に居る、と錯覚させるんだよ。元々は隠れて自分達だけ使うためのエレベーターだったけど、ここまで広まれば奥まで行くのはただの時間のロスだしね。前々からお願いしようとは考えてたけど、タイミングと理由の紐づけにはダンジョンマスターの存在が不可欠だったんだよね。これで欧州でダンジョンマスターについて話を公開してくれたとなれば、こちらも大手を振ってエレベーターの移動が出来るし、一時的に注目を小西ダンジョンに集めることが出来るようになるってわけ。その間にダンジョン庁も対応に割く時間を多少作れるし、我々も一層を往復する時間分、約一時間を探索に当てることが出来るようになる。これで誰も損しない」


 そうだ、念のために真中長官に日本としてはダンジョンマスターの存在を公表するのかしないのか、だけは確認しておかないとな。


「公表しますか? しませんか? 」


 返事はすぐにきた。どうやらまだ起きているらしい。大変なことだな。


「公表します。そちらの対応は? 」

「エレベーターの位置を動かします。一時的に探索者の目線を小西に向けることが出来るかと。その間にご自由になされませ。後坂野課長には私から謝っておきます」


 通信終わりっと。


「真中長官の了解も得られた。後は……机と椅子とノートとボールペンを運べば終わりか。現地視察にもいかなくちゃいけないな。意外と面倒かもしれないがこれで楽になるならそれでいいか」

「でも、ノートとボールペンを置きに行くって事はダンジョンマスターと洋一さんの関係をバラすってことにもなりますよね。それはいいんですか」


 芽生さんが危ない橋渡ろうとしてるの解ってます? という感じでたずねてくる。


「うーん、でも一層だけ動かして十五層はそのまま……いや、それでもありか。小西ダンジョンに最初にエレベーターが出来たらしいと言うことはもう昨日の夜の時点で分析されちゃってるわけだし、一層だけ動かしておけば十分証明にはなるか。よし、一層の……どこにしようね? エレベーターの入り口」


 一層の地図を広げて確認する。出来るだけ入口に近い所で多少人が集まっても邪魔にならない位置が良いな。


「入ってすぐ横のここでどうですか。ここならもし一層のエレベーターの位置が変わったことに気づかなくて、そのまま降りてもエレベーターから出入口が見えますから混乱は少なくて済むと思います」


 横田さんが地図の一か所を指す。たしかに、そこそこの広さがあって道幅も充分ある。リヤカーは通れるし多少人がごたついても問題にはなら無さそうだ。


「じゃ、現地確認してから移築作業を頼むってことでいくか。それなら机も椅子も新しく用意しなくて済むからこのままダンジョンへ直行できる」

「私たちは休みだからいいけど、一人で行くの? 」

「芽生さんは午後から講義だからついてこれないでしょ。それにダンジョン往復しかしないつもりだからすぐに帰ってくるから実質半休ってところだね。家の鍵は任せたからね」

「それは構わないけど、一人でそんなに背負い込んで大丈夫? 重くない? 」

「その重荷を未来で軽くするために今行動するつもりなんだ。だから大丈夫だって。事前に坂野ギルマスの確認は取って、エレベーター位置の変更について説明はするつもりだから」


 昼食は帰ってきてから食べるか。少し早めに家を出ると、まずコンビニでお菓子を一種類ずつ買い込む。冷えている奴も込みだ。外に出て誰も見てないスキに保管庫に入れると、一本早いバスでギルドに到着。ギルマスが居るかどうか確認し、居ると聞いたところでありがとうとお礼をして二階へ。


 ノック三回で部屋に入る。ギルマスはじっとテレビを見ていた。


「おはようございます。例の件で参りました」

「おはよう安村さん。いやあ、大変なことになっちゃったね」


 ギルマスはこれから行われる会見について知るべき立場としてその一挙一動を見守るべく行動しているらしい。緊急会議が開かれるかもしれないね、とは言っているがおそらくこの会見の後そうするのだろう。


「では、手早く用件を済ませますね。一層のエレベーターの位置を移動させてもらえるようミルコに働きかけてきます」

「このタイミングでかい? 今は大人しくしていたほうが良いんじゃ」

「このタイミングだからですよ。国内のダンジョン事情や情報源を一カ所に集中させて他を通常運用させるなら、今このタイミングで小西ダンジョンにフォーカスが来るのがベストだと考えています」


 ギルマスはテレビの音量を小さくすると、こちらに向きなおした。ギルマスの表情を見ると少し眉間にしわが寄っている。真面目モード発動だ。


「詳しく聞こうか」

「おそらく、マスコミは全国の一番自社に近いダンジョンのB+探索者にそれぞれの伝手とコネを全力で使ってコンタクトを取ろうとするでしょう。その場合何処かから情報が漏れたり、各ギルドの動きについて制限がついてしまう可能性もあります。そうなると、長官の公表方針からの情報漏洩で一気にボロボロと色んな機密情報が漏れていってしまう可能性があります。そんな中で、突然ダンジョンのエレベーターの出入口の場所が変更されると言った情報を流したらどうなりますか? 」

「特ダネだろうね。ダンジョンマスターが存在してエレベーターが作られた上に、エレベーターの位置すら自由に移動できる技術力を持っている、今熱いのは小西ダンジョンだ、となるかもしれないね。私もインタビューを受けるために散髪に行ったほうがよかったかな」


 冗談を言える程度にギルマスの覚悟は決まっているらしい。もう一押しかな。


「この手狭な小西ダンジョンです。マスコミが大挙して押し寄せたところでそもそも入る余地がありません。そして、周辺道路は駐停車禁止ゾーンです。警察署に連絡一本で彼らのノルマは達成できるでしょうね」

「割とえぐいことするね君。で、実際のところの君の狙いは何なんだい? 」

「単に、一層の奥まで歩いていくのが面倒になっただけです。後、エレベーターの出入口が移動するという謎の現象の説明にダンジョンマスターが居るから、という理由をつけることが出来ます。そして、真中長官はダンジョンマスターについて公表するつもりですので、それを立証する話としても成り立ちます。やはりタイミング的にはベストかと」

「なるほどね。今ならみんなニュースに夢中でダンジョン内での目撃者も少なくて済む、といったところかな? 」


 おおよそこのタイミングでやりたいことを理解してくれたようだ。


「そんなわけで、しばらく坂野課長には時の人になっておいてもらおうかなと」

「解った。お父さんテレビに出るかもよと家族には伝えておこう。エレベーターの位置の変更については既に印刷されたパンフレットには手書きで、これからの物については新しく書きなおして印刷になるかな」

「そういう書類仕事はお任せします。私は実務を担当してきますので、では」

「いってらっしゃい~」


 笑顔で見送られる。坂野ギルマスの了解は得られた。後は行動あるのみ。早速入ダン手続きをして、今日はリヤカーを持たずに一層まで走り抜け、道中のスライムをすべて爆破しながらエレベーターにたどり着くと四十二層へのボタンをポチ。


 この待っている時間が多少自分をいらだたせると共に、結構長めの自問自答の時間をくれた。


 本当にこのタイミングで良いのだろうか? もっと適切なタイミング、たとえば完全にダンジョンマスターが表に顔を出すタイミング等、そういう場面でやってしまってもいいのではないのか。自分がただ早くダンジョンの奥までたどり着きたいだけで、本当に今やる必要があるのか。


 坂野課長は笑顔で送り出していたが、内心では余計な仕事を増やしおってからに、とでも思っているのだろうか。それならそもそももっと解りやすいところに作るべきだっただろうと、昔の俺をなじっているかもしれない。いやそれは俺自身もそう思っていることか。


 でもいずれはやろうとしていたことだ、ならどのタイミングが一番適切なのか、という話になる。今か、それとももっと後か。それとも、余計なことはしなくていいから今の自分の環境を甘んじて受け入れろ、ということか。でも、ミルコにはあらかじめ伝えてある。その内エレベーターの位置変えてね、という話を既にしてある。それがいつになるかの話でしかない。なら、その環境を一番うまく利用できるようにするのが俺の務めではないのか。


 やっぱり今日が良い、今日やろう。兵は神速を貴ぶのだ。そこそこ稼いでいるとはいえ社会的身分からすれば一兵卒である俺が素早く動かなくて誰が動こうというのか。やるは一時の恥、やらぬは一生の後悔とも言うかもしれない。ならやって一時の恥を甘んじて受け入れようではないか。


 考え事をしている間に四十二層に着いた。今日も四十二層は夏も真っ盛りというほどではないが、過ごしやすくなんとも泳ぎたい気分にさせてくれる。その内この四十二層も人の手が入って、本当に海の家でも建ちそうな雰囲気を醸し出している。この静かな空気を味わえるのももう少しだけかもしれない。


 いずれ、Bランク探索者もB+探索者になっていくだろう。おれもB+だが、小西ダンジョンでどのくらいのB+探索者が育っていくのかは解らない。解らないが、少なくともまだしばらくはこの三十一層以降の風景と空気を少ない人数で独占していられるのだ。その解放感を残しつつ、また日が経てば深層に潜っていくだろう。


 まだ見ぬ五十三層。まだしばらくは身の回りがごたごたして落ち着いて探索なんてできないかもしれない。だが、それはそれでいい。確実に五十六層、そして六十層のボスを倒して、人類最深層の記録を保持し続ける。それを目標にしてしばらく生活をするのでも悪くないな。


 少し歩くと見えてくる俺が置いた椅子と机、乱雑に置かれたノートの上には相変わらず読めない文字と読めるが読みづらい数字と記号の羅列、そして枕に突っ伏して眠っている山本さんの姿がある。


「やあ安村、もう朝かい? 山本なら今しがた眠ってしまったよ」


 寝ぼけているわけではなさそうだがどことなく眠そうな感じでミルコが語り掛けてくる。


「今日はミルコにやって欲しいことがあってきた。最後の貸し一を使わせてもらおうと思う」

「おや、それはダンジョンマスターの存在が……そうか、地上では僕らのことはバレてしまったわけだね? 」

「そういう事なんだ。だから、頼みがある。これは少ないが前払いの手付料だ、収めておいて欲しい」


 保管庫からありったけのお菓子を出す。いつものタブレットは三倍ほど用意した。


「別にお菓子が無くても動くんだけどさ……まあ、これはこれでもらっておくよ。それで、エレベーターをどうしたいんだい? 」

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
エレベータを複数設置か1回に乗れる積載量というかケージを大きいものにするとかも面白そう~
めっちゃ楽しそうww どうせなら複数にしたり大きくしたりすればいいのになw
安村さんめっちゃ楽しそうw
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