表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
880/1206

880:深層での再会

 午前の運動を一時間半ほど繰り返し、腹の虫が良い感じに声を聞かせ始めた。ここで無理をするといけないのは探索の鉄則だ。大人しく四十二層に戻って飯にしよう。


 四十二層に戻ると、コーラ片手に静かに実験を繰り返す山本さんとガンテツ。そして少し離れて、机と椅子をどこから取り出したのかわからないが、おそらく三十五層から持ってきてこっちへエレベーターで運び込んだのだろう、結衣さん達が飯の準備をしていた。ミルコは結衣さん達のほうに興味が移ったようで、腹ペコ小僧……実際は小僧じゃなかったな。腹ペコ爺さんが飯はまだかのう? と尋ねているかのようだ。


 結衣さんが料理に集中しているのでこちらには気づいていないが、多村さんは索敵を持っている分近くに寄る前に反応したらしい。こちらに気づいて手を振ってきたので振りかえす。


「お昼は何ですか? 」

「あら安村さん。今日は焼きうどんですよ」

「焼うどんか。こっちはポークステーキセットってところですね」

「豪勢ですな。やっぱり保管庫があると便利でええですな」

「じゃ、こちらはお先にいただきます……と」


 机の上にスープと皿に盛ってあるまだ温かいオーク肉のステーキと付け合わせ、それにホカホカご飯が顔をのぞかせる。せっかくなのでポケットからハンカチを取り出し胸元に巻き、跳ね返り防止をしているように見せかける。


「料理の内容もそうですが、服装も相まってここがダンジョンだってことを忘れそうになりますな」

「そっちも美味しそうですね。なんかこっちが貧相に見えてきました」


 やはり、俺だけ良いものを食っているように見えるらしい。ミルコは許可なく一口分オーク肉をつまんでは食べている。これではせっかくの高級っぽさを内包した食事が落ち着かない。


「結衣さん、追加でこれ出したげて」


 オーク肉をぽいぽいっと二個ほど保管庫から渡す。その間にさっさとステーキを食べ終わることにした。今日ぐらい海が見える砂浜の素敵なレストランでゆっくり食事をするというような体験がしたかったんだが、向かいの観光客はそういう気分ではないらしい。


 肉を細切れにして焼きうどんに混ぜ込んで焼いていく結衣さんを横目にしつつ、自分のご飯を食べ終えると、こちらもコンロを出して保管庫にあった野菜を適当に刻んで野菜炒めを作り始める。


「ごめんねー。せっかくの昼食時間なのに」

「横で腹減らしている人がいる隣で優雅に食後のスープを飲んで居られるほど図太くはないので」


 二人でコンロをふるってそれぞれ料理を作ると、人数分並べていく。食わせるだけってのもたまには悪くないだろう。一品増えたと喜ぶみんな。


 野菜炒めを作り終えると今度こそ一服。スープをゆっくりと飲み、漂ってくる醤油風味の焼うどんの香りをかぎながら、目の前で一生懸命食べる新浜パーティーを横目にしっかりとした休憩を取る。


 一品増えた皆は喜び、結衣さんも一仕事終えて自分の食事に取り掛かる。お母さん役は色々と大変だな。でもこれでやっていけているんだから問題はないんだろう。


「あれから何か拾った? 」


 食事しながら、ここに来るまでの進捗を聞いてみる。結衣さん達がより多いスキルオーブに恵まれて行けばこの先も詰まることなく進んでいける事だろう。


「これをさっき拾った。カニから」


 そう言って結衣さんがバッグからスキルオーブを出す。試しに手に取らせてもらう。


「【水魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千八百十一」

「ノーで」


 一時間前、というところか。どうやら俺がカニうまダッシュをしていたぶん出やすくなっていた可能性が高いな。


「どうするんです、この【水魔法】は。横田さんが覚えるんですか? 」

「二重に覚えて効果あるんですかね? 今のところ情報がそれほど多くないので判断がつかないんですが、強くなることは間違いないと言うことは聞いてます。ただ、二人で水魔法を使うのとどう違ってくるのかな、と悩んでいる最中でして。少なくとも自分たちの誰かが覚えることは決まっているんですが威力の上がり方によっては私が覚えるのも一つ、というのは理解してます」


 横田さん自身も二重に覚えてそれだけの頑張りが見せられるかどうか不安な所らしい。


「芽生さんも俺もそれぞれ【雷魔法】【水魔法】を二重に覚えてますが、それ相応の効果は出てますよ。むしろ三十六層から先、二重にして覚えたから乗り越えてこれたところはあります。なので威力アップについては俺のお墨付きって事で良いですよ」

「なるほど、威力のほどは実証済みってことね。じゃあ横田君覚えたら? また一から覚えるより操作感の解ってる横田君がさらにパワーアップするほうが効果は高いかも」

「別のスキルを覚えるならともかく、同じスキルなら複数人持ってても問題はないけど、今までより使い勝手がさらに良くなるならそれもありでしょうね」


 平田さんは会話に参加せず、食事に没頭している。俺は拳一本で行くから関係ないという風にも見える。彼に似合うスキルオーブは……やはり【雷魔法】とか【火魔法】だろうか。拳に雷や火を纏わせながら殴る、というのは俺の心をくすぐる気がする。


 多村さんも索敵担当だが、新しい攻撃手段を得ても良い気がする。村田さんは話によると【物理耐性】を手に入れて前衛としての役目を果たせているらしいので、新浜パーティー内部での戦力差みたいなものはほぼなくなってきているらしい。


 そこで新しいスキルオーブに手を付けることができて、さぁどうしようか? という話らしい。親密とはいえ他のパーティーの事情に介入するのは気が引ける。聞かれたアドバイスには答えて、最終的な結論は彼らが決めるべきだ。ただ、必要そうな情報は知らせておく、あたりにしておこうかなと思う。すくなくとも売却という道は無さそうだ。


 議論が盛り上がってる間に机の片づけを済ませて今度こそテントでゆっくり横になっておく。スキルオーブを誰が覚えるのか、成り行きが気にならないと言えばうそになるが、どういう結論が出たとしても後悔しない選択であることを願う事にする。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 軽く三十分ほど横になり、胃袋も満たされたところで再びダッシュ大会に出かけようとするが、新浜パーティーも食事が終わって今から出かけようという雰囲気。そういえばスキルの件はどう落ち着いたのかな。


「ねえお姉さん、どこ行くの? 四十三? 四十四? 」

「四十三層は今スキルオーブを出したところだからどうしよっかなー。四十四層でも良いけど、出来ればスキルオーブが一杯落ちる所が良いなー」

「じゃあ俺は四十三層でドウラク専門になろうかな。スキルオーブにドキドキすることなく集中できるだろうし。ちなみに島の内側をグルグルいい感じに回るとリザードマンとだけ戦えるルートがあるよ」


 地図を取り出し、順路と出てくる道筋とモンスターについて軽く説明をする。


「そうね、リザードマンと戦ってそっちのスキルオーブを狙うのも面白そうね。カニからのドロップが結構な重量になるから悩ましい所だったのよね。安村さんはスキルオーブはいいの? 」

「今狙ってるスキルオーブはまた別階層なんだ。ここでは小遣い稼ぎが目的になってるよ」

「じゃあ私たちはリザードマンとひたすら戦う道を選ぼうかな。ここしばらくは四十二層が拠点になると思うからよろしくね」

「俺も一人の時は基本的にここに居るだろうから用事が有ったらノートのほうによろしく。出来るだけ見るようにはしてるから」


 お互いちょっと離れたところで戦い始めることに合意した。俺は海辺、結衣さん達は島の中央部。ちょっと戦いづらいかもしれないがドロップ品が魔結晶だけでそこそこのお値段、というのは荷物を運ぶ関係上魅力的だろう。邪魔になったらキャンプに戻って一旦下ろしてまた来る、というのを繰り返すことが出来るし、帰り時間が一緒ならリヤカーに載せてついでに運ぶこともできる。これも悪くない選択だ。


 階段を下りて結衣さん達と別れると、はい、よーいすたーと。軽く体をほぐして全力ダッシュの姿勢。カニうまダッシュはーじまーるよー。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 三時間ほどカニうまして戻ってきた。今日は帰りの茂君もあるから早めの上がりだ。リヤカーに午後の分のドウラクの身とドウラクミソをドサドサ乗せるとそのままエレベーターで七層へ。結衣さん達を見かける事は無かったが、所々音が漏れて来ていたのでニアミスは何回かしているのだろう。もしかしたらこちらの動きを見ていたかもしれない。


 他人から見てカニうまダッシュはどう見えているのか、少し気になってきたな。今度ミルコにでも聞いておくか。


 七層に到着するといつも通り茂君。今日も茂っていて安心した。やはりこの時間は空けてもらってある、と考えていいのだろうか。それはそれで有り難いので安心して羽根集めが出来る。バツっといつもの投網をかけると、五層方面から遠目にお客さんが見える。他人に見られての範囲収納はリスクが高い。ここは手間だが手作業で羽根を集めよう。背中のバッグに羽根を詰めていき、魔結晶はエコバッグに仕舞っていくことにする。そのほうがふんわり片付けているように見えるからな。


 片付けて帰り道の素材も背中のバッグではなくエコバッグに。こういう細かい所でボロを出すのが一番まずい話だと身を以て体感しているのでちゃんとしようと思う。


 七層まで戻ってきて目隠しを外してリヤカーと共に一層へ向かう。さっきの人たちが追いかけてくる可能性はゼロになったのでバッグの中身を保管庫に仕舞う。これで品質は保たれた。


 一層に戻って出入口から退ダン手続き。早くこの一層からエレベーターまでの三十分間の歩きの時間を短くしたいところだ。ミルコへの貸しを一つ消費する機会を今か今かと待っているが、そうそう世の中は素早く動かないという事だな。


「一括で」


 査定カウンターで査定を頼む。今日はいつもよりちょっと種類が多いので査定時間もその分かかる。その分、といってもほんの二、三分だが、待ってる側になるとそれ以上の時間に感じる。なので目の保養と時間を感じないために査定作業を眺めていることにする。


 ドウラクの身の値段の確認と個数を確認してパソコンに打ち込み、一種類について値段を確定。それを魔結晶、ドウラクミソ、ポーションについても同様に確認していく。全ての数と価格を確定させたところでレシートが発行される。


「お待たせしました。今日もお疲れ様です」


 今日の金額、六千九十一万二千円。やはりカニうまダッシュのほうがリザードマンダッシュよりもドロップ品の種類が多い分少し美味しいらしい。そのまま支払いカウンターで振り込みを行い、リヤカーを元の位置に戻す。リヤカーは今日も稼いでくれた。もうこいつ何百台分もの金額を稼いでいることを考えると、もっとリヤカーは多くても良いぐらいだな。おそらく来期のギルドの運営方針としてリヤカーの拡充なんかも入っているのだろう。


 家に帰ると夕食だ。今日の夕食はエレベーターの行きで調べたレシピの再現だ。ダンジョンの中で出来るレシピは設備のある家でなら確実にできるだろう。薄切り肉のチートマレタス炒め。レタスは炒めずに最後に足す。


 肉を炒めた後そこにトマトとチーズを入れてカレー粉とソースで味付け。混ぜてチーズが蕩けるぐらいまで炒めたらレタスの上に広げてそれで完成。うん、お手軽だ。味のほうは……問題ないな。ちゃんとサラダとして……サラダとして?


 これメインのおかずではないな。サブのおかずにはぴったりだがメインにするにはちょっと物足りなさすぎる。手軽にできるし野菜が足りない時の補助としてメモ帳には記録しておこう。おかずが一品増えたのは素直にうれしい。その成果はちゃんと出たことになるのでそれはそれでよし。じゃあ次のレシピに挑むとするか。


 新しくレシピを探すのに時間はかかるな。いっその事、さらにチーズと米を足してドリア風にして味わってしまおう。そうだな、家で作るならドリアという手段もあるな。このままドリアにして今日の夕食はそれでヨシにしておこう。


 大皿に料理を移してパックライスと追いチーズをのせ、電子レンジのオーブン機能で数分ブンすると焦げ目がついて充分美味しそうなものが出来上がった。これでよし、胃袋的にも充分満足するものが出来たと思う。


 ドリアと書かれたローテーションメモを新たに追加し、レシピの内容を裏にざっくり書いて、これで一つ追加。またこれで一つ食生活が豊かになっていくな。後のレシピはまたエレベーターの暇な時間に考えよう。焦る事は無い、時間はある。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
毎回メシテロされてるぅw 投稿お疲れ様です。
結衣さん達の方もスキル二重取得で火力増して段々と安村さん達に近付いてきそうな感じですねえ
(*´∀`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ