88:六層名物
六層へ降りる。岩の階段をぐるぐる回っていると明かりが見える。またサバンナに出た。
六層も五層と同じような光景が開けているが、確かに五層よりモンスター数が多く感じる。ポツポツとワイルドボアが草の臭いをかいだり散歩したりしている。
空を飛んでいるダーククロウも数が多いように感じる。ここは広すぎることを除けば狩場として魅力的に見えるな。
ここを全力で走り回ったら物凄いトレインが出来そうだな、と物騒なことを考えた。
と、視界の向こうで戦闘をしている一団を見かける。数は四人ほどか。さすがに顔までは見えないな。
「どうやら先客がいるみたいだな」
「ですね。どうします? 」
「近くによるとトレインを起こすかもしれないし、リポップの邪魔になるかもしれない。逆側へ向かおう」
よく見ると、向こうのパーティーが手を振っている。手を振り返しておく。すると、こちらへどんどん近づいてくる。知り合いかな?
だんだん近づいてくる。近づいてくるにつれ、だんだん……あ、知り合いだ。あの人たちの顔と形には見覚えがある。
「やぁ、安村さんじゃないですか」
「大木さん、小寺さん、中橋さん、それに野村さん」
「偶然ですね。七層で泊まりですか? 」
「いえ、初めて六層に降りたところですよ」
「そちらの女性はパーティーメンバーですか? 」
後ろで若干居心地が悪そうにしている文月さんを見て尋ねてくる。
「えぇ、パーティーメンバーの文月さんです。文月さん、彼らはスライムが大繁殖した時に二層から一層へ脱出した時にお世話になった人たちだよ」
「お知り合いでしたか。どうも、文月です」
「こんな若い子連れまわして。安村さんも隅におけないねぇ」
「まぁ、色々とありまして」
あの時の四人組だった。大木さんと小寺さんはダンジョン探索でもお世話になった。
どうやらあの一件以来意気投合したらしく、ちょくちょく顔を合わせては仲良くパーティーとして潜って探索稼業に精を出しているらしい。
「五層に比べてずいぶん密度が高いですね」
「我々はこのあと七層で一泊していくんですが……安村さんたちは日帰りみたいですね」
「ちょっと顔を出してから帰ろうと思いまして」
「なるほど。道理で荷物が軽そうな訳ですな」
七層で一泊するには荷物が少なすぎるんじゃないかと見越しての事らしい。
「まぁ、いくらセーフエリアがあるとはいえテントぐらいは建てたいですからね」
「雨も風も無いのでわざわざ建てる必要はないっちゃないんですが、ちょっと身支度を整えるには建ててあったほうが精神的に気楽ですからね」
「あぁ、男所帯とはいえ、着替えぐらいは隠したいからな」
特にこっちは男女ペアだ。プライベートスペースはとても重要だ。
「んじゃま、あまり長居するつもりはないんでこっちは邪魔しないところでお肉集めに勤しみますよ」
「じゃぁ、安村さんまた今度」
「えぇ」
ササっと会話を終わらせて、お互いモンスター狩りに戻る。
長々と話をしたければお互いが宿泊して見張りつつ話したり、前みたいに飯食いながら話せばいい。
今はその時じゃないな。
「良い人たちっぽいね」
「今のところ悪い人たちじゃないよ。酒が入ったら解らないけど」
「お酒入ると性格変わる人、いますからね」
「あれは酒が入ったほうが本当の性格らしいぞ」
酒は人を変えるというが、酒が本性を出すのではない、という話はどっかで聞いた。
「安村さんはどうなんです? 」
「俺そんなに飲めないんだよね」
「それはそれで残念ですね」
「残念とは思うが、雰囲気だけでも楽しめるから問題ないよ、と。さて、一時間ぐらいはここに居られるかな」
「そうですね、できるだけ成果上げてから帰りたいですね」
ならいっちょ踏ん張りますか。一番近くにいるワイルドボアに向かって歩き出す。早く気付いてくれないかしら。
「パチンコ玉で呼んだらダメなんですか? 」
「う~ん、この距離なら大丈夫かなぁ」
大木さんたちのパーティーとの距離を見る。この距離ならスキル使ってもばれないかな。パシュッとパチンコ玉を飛ばして、二匹連れのワイルドボアの気を引いてみる。どうやら無事にこっちに気づいて……あれ、当ててない隣のワイルドボアもなんかこっちに来たぞ。
それを機に、視界内にいる七頭ほどのワイルドボアが一斉にこちらを見る。
「おいおいおい、呼んだのは一頭だけだぞ」
「大量突撃が名物って、こういう事だったんですね」
「七頭か。これだけ同時に相手にするのはスライム以外では初めてかも」
「余裕かましてる場合じゃないと思います」
「まぁ、対策が無い訳ではない」
俺は近づいてくる奴を片っ端からパチンコ玉で迎撃し始める。さすがに頭蓋骨を貫通させるほどのダメージは期待できないが、足を鈍らせたり、目を見えなくしたりはできる。同時に三頭以上こちらに近寄ってこないように微調整するのだ。
一応頭の上を確認して、同時に頭上からの攻撃がこないことを確認する。どうやらあっちにはリンクしないらしい。
「さぁ、同時に七頭来るということはなくなった。来た順から捌いていきますか」
「正面から受け止めなければ大丈夫ですよね」
「多分ね」
こういう時、多少なりとも距離を取れる槍が少し羨ましいな。突っ込んでくる相手にそのまま槍をねじ込んでやる事も出来る。
俺の取れる選択肢はギリギリをかすめて相対速度を利用してすっぱりと切り込みたいところだが、ギリギリ当たらないところで避けて剣を打ち込む……という手が一つ。
突っ込んできたところをその場ジャンプしてやり過ごし、相手がスピードを殺したところへ合わせて攻撃するというのが二つ。
至近距離でパチンコ玉を打ち込んで確実にダメージを与えるというのが三つ。俺に取れるのはざっとこんなものか。三つ目の選択肢は他の二つと共用できるので、一発ずつ確実に打ち込んで相手の突進力が落ちたところで攻撃するのがベターかな。
相手の突進力が強いため、グラディウスを逆手に持ったまま両手で持って手首を痛めないように気を付ける。そのまま相手の突進に息を合わせて、当たる直前に横へステップし、そのまま相手の横っ面に一撃をお見舞いする。
致命傷はならなかったが、まともな戦闘は不可能にはなっただろう。今は止めを刺すのは後回しだ、次の突進が来る。二匹目の目に向けてパチンコ玉を当てると、勢いを急に落とす。そのままもう片方の目にグラディウスを突き立て、一匹は確実に戦闘不能にした。
次が来る。忙しいったらありゃしない。ここは中玉を使ってみるか。直径五センチほどの弾だ。弾と言うよりもはや小口径砲に近い。一発撃ちだすと、どうやら頭蓋骨を完全に砕き、体内にめり込んでいったようだ。三匹目はそのまま黒い粒子になり果てた。
これは予想以上の火力だな、大玉ぶち込んだらどうなるのか。今はやめておこう。最後の一匹をジャンプして躱すと、後ろから追いかけて胴体にグラディウスを沈み込ませる。四匹目も無事黒い粒子になった。
こっちの突進は全部片づけたぞ。文月さんはどうかな……どうやら大丈夫そうだ。ワイルドボアの横っ面をはたいては突き立て、確実に一匹ずつ沈めていっている。こっちより余裕ありそうだ。
戦闘不能になったまま放置されていた二匹を天に還して差し上げる。四匹中二匹が肉を落とした。文月さんのほうでは魔結晶がでていた。なお中玉はちゃんと回収した。まだ使い捨てするような段階じゃない。
「うーん、余裕? 」
「無傷だから余裕と言えば余裕だが焦りはするな。これがもっとリンクすると思うと」
「上からフンが降ってこなかっただけ楽だったね」
「じゃぁ、次のお肉を探しますか」
「あ、あっち、あっちにお肉が五頭ほど居ますよ」
「おし、そっちいこうそっち」
しばしの間二人でワイルドボアの尻を追いかけては、逆に追いかけられるというピンポンダッシュを繰り返した。時々空を飛んでいるダーククロウから急降下爆撃と急降下くちばしを受けるが、バードショット弾で確実に仕留めていく。
ワイルドボアのお肉が十個ほど溜まった頃、それを見つけてしまった。
「文月さんや。あの良く茂った木が見えるかね」
「安村さんや、良く見えますよ。アレ全部ダーククロウだったりします? 」
「近寄ってみないとわかりませんがね、どうもそうらしいですよ」
「今日のメイン収入はあれですかねぇ」
「一体何羽いるんだ」
「二十は超えてるでしょうね」
「一気に決めるか」
そうっと木に近づいていく。ザワザワとわめきたてていたダーククロウだが、こちらの接近に気づいたのか一斉に声を上げるのをやめる。
「近づけるのはここまでかな」
複数のダーククロウに狙いを定めていく。二、三、五、七、九、十一、十三、十七……ここらが限界か。
十七の目標に対して二発ずつ、バードショット弾を射出する。
何発当たったかまでは解らないが、当たらなかったダーククロウが一斉に木から飛び立つ。
当たったダーククロウのドロップだろう、羽根がはらはらと舞い落ちる。
空中に逃げたダーククロウはこちらにターゲットを向け、徐々に迫りつつある。
迫ってくるダーククロウにもバードショット弾を二つずつ確実に決めていく。
やがて、一桁ぐらいまでダーククロウが減っていった。後はフンを避けながらドロップアイテムを回収しつつ、個別に対応していく。
ダーククロウの耐久力は低い。攻撃が当たりさえすれば倒せる。こっちを狙って降りてくるときなど、その直線状に武器を構えておいておけば勝手に自分から斬られにやってきてくれるようなものだ。
バードショット弾で頭上に居るダーククロウをすべて仕留めた。ダーククロウが止まっていた木にもう葉は無い。
後に残るのは地面に点々と残る魔結晶と、大量の羽根だ。
「さすがにこの量を保管庫に入れてたら一発でバレちゃうよなぁ」
「密度のあるものでもないですし、バッグに目いっぱい詰めてしまいましょう」
「エコバッグを持っていてよかった。帰り道は護衛よろしく」
バッグに入りきらない分は念のため用意していたエコバッグにも詰める。
「カサとしては大漁だな」
「後はおいくらになるかだけですね」
「しかし、六層で本格的に狩ろうと思うとやはり宿泊が必要か」
「お泊まりですか」
文月さんが若干期待するような感じで聞いてくる。
「お泊まりですね。一応二人分のキャンプお泊まりセットは買い終わっては居るんだが」
「その時は私もお付き合いすることになるんですかね? 」
「無理強いするつもりはないよ。お互いの都合もあるし」
ある日突然今日は泊りがけで行くぞ! と言われてバッチこい! と言うのは探索者以外でもまず無い話だと思う。
「……よかった」
「何が? 」
「私ちゃんと女の子扱いしてもらってたんですね」
「いつもレディ扱いしているつもりだが」
「たまに囮に使ったり」
「気も使ってるぞ、多分、きっと、メイビー」
気、ちゃんと使ってるよな?
「さぁ、十九時に間に合うように早めに撤収するか。これだけ獲れれば枕二個分ぐらいにはなるだろ」
「枕、作ります? 最近はマイ枕作るのがごく一部で流行ってたりしますが」
「試しに作ってみて、気に入らなかったらバラしてギルドに売却するか」
「それもいいですね。やってみましょうか」
文月さん用の枕もそのうち作れということか。
「どっちにしろ、最初に洗濯するところから始めないとな。カラスといっしょに帰りましょ~♪」
「一緒に帰るって、羽根しかいませんが」
「カラスには違いない。カラスと一緒に」
「それはもういいですから」
しかし、思った以上に飛び道具を使ったな。また来週あたりに鬼ころしへ行って弾を補充しよう。ネット通販で取り寄せるにしても、届いたときにダンジョンに居るんじゃ受け取りようもないからな。
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