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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
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878:どうすんべこれ

 side:ダンジョン庁


 数日前に行われた月例会議において、各ダンジョンの現在までの探索進行ペースとエレベーターの有無、把握できている限りの最深層について報告が寄せられた。


 それまでに確認されていたエレベーターの場所は五カ所。有壁ダンジョン、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョン、清州ダンジョン、小西ダンジョン、大梅田ダンジョン。この五つのダンジョンについては一般にも公開、開放されており誰でも使えるエレベーターという仕組みで運用されていた。


 しかし、熊本第二ダンジョンの例を受けて各ダンジョンのB+ランク探索者とB+探索者見込み……これはダンジョンマスターとの出会いを経験したがB+ランクの指標であるギルド税納付とヒールポーションのランク3の一定個数の入手というタスクをまだこなしきっていない探索者が該当するが、彼らに対してヒアリングの機会を設けることになった。


 ダンジョンの現状について再調査指令を下したのがダンジョン踏破直後。ヒアリングの内容は、現在の自分たちの潜っている階層、エレベーターの使用履歴、エレベーターを使用の有無にかかわらず現在何階層まで潜りこむことに成功しているか。エレベーターを使用しているならばどこにエレベーターの出入口があるのか、使用する条件など、現在のダンジョンの進捗状況を包み隠さず報告せよ、という内容であった。


 探索者、ギルドマスターを含め今回に限り一切の罰則の免除をすることを条件に、エレベーターの隠匿や実は踏破直前まで潜りこんでいるが金を稼ぎたいので踏破を保留している、またはダンジョンマスターと談合の結果踏破をせずに足踏みしている、現在ダンジョンマスターがダンジョンコアの先、つまり最深層を作っている途中なので潜り込んでいない、それぞれの理由はあるだろうが隠していたことなど全てを吐き出させた。


 この聞き取り調査以降発覚した場合には厳しい処罰を受けることになることも言い含めておいたため、今まで細かく報告や調査をしてこなかったダンジョン庁の認識の甘さも含まれるので全員を処罰することが出来ないという事情も含まれていた。


 今後はきちんと探索者側もギルド側も現状を把握して、踏破できるなら踏破する前に報告、ダンジョン庁の確認を取ってから踏破すること等、それらの条件を飲ませた上で今後のダンジョン探索進行度を把握していこうといういわばダンジョン庁の自浄を図った大掃除である。


 最終責任者である真中が少し頭を抱えることになったのは、エレベーターが極秘に運用されていたケースが二十一件にものぼった事であった。エレベーターの設置という行為自体を報告することすら忘れられるほどにギルドと探索者のつながりが薄い場所もある。そもそも設置に際してギルドの許可が必要なのかどうかも含めて協議が必要な話ではあるが、ダンジョンはダンジョン、ギルドはただ外側から現状観察をするだけのドロップ品の代わりにお小遣いをくれる相手だとしか認識されていない地域もあったのは確かである。


 また、最深層にたどり着いたが自分の稼ぎが無くなることを嫌ってダンジョン最下層で足踏みをしているケースも五件発生していた。つまり、その気になればダンジョンを今すぐ五つ踏破してしまう事も可能だという事だ。


「これどうしようねえ。二十一件のエレベーター設置事案、それに加えて五件のダンジョン踏破事案。不問に付すと言った手前罰則を加えるつもりはないんだけどさ。これはダンジョンマスターがサボっているだけなのか、それとも日本の探索者が優秀なのか、エレベーターが凄いのか。結構問題になる話だよね」

「ついでに言えば少なくとも二十六パーティーはB+ランク探索者が、そして五パーティーAランク相当の探索者が存在することになるんですよね。それぞれに散ってくれていて、稼ぎが出ている範囲で言えば有り難い話ではあると思うんですが」

「土地の所有権で問題が上がっているところで踏破事案があるならまだしも、他にもそれなりに探索者がいる場所でエレベーターが使われている形跡も見つかったことだし、更に聞き取りの範囲を広めても同じ結果か。だとするとエレベーターの情報を公開するのが先になるのかな」


 多田野も秘書兼外付けCPUとしての役割を存分にこなしつつ、新しい書類を増やしては真中に押し付けていく。


「まずはエレベーターの情報公開によって混雑が認められる場所は丁寧にエレベーターの利用ガイドを作らせて配布、公開の手順で問題はないと思います。ダンジョン踏破せずにとどまっている階層については、ダンジョンマスターと協議してもっと深く作れないかどうかの相談をするのも有りでしょう。ですが現状解っているすべてのダンジョンについて交渉の場をダンジョン内で設けて……前に小西ダンジョンでやったようにするのはさすがに難しいところです。現状では判断する人間が足りません。もうすぐ新人も入ってきますし、長官が単身であちこち動き回れるようになるのは夏以降になると思います。それまでは現状維持をするなら現状維持で、もしダンジョンマスターが深くまでダンジョンを作成するつもりならその作成を待って新たな階層へ挑んでもらう、というのが軟着陸な姿勢で行ける所だと思いますが」

「ダンジョン庁管轄外のダンジョンについては? 」

「修行場ですか……あそこはまあ、放置で良いんじゃないでしょうか。独立独歩で行くみたいですし、踏破したら踏破したで彼らの収入が減ることにつながるわけですし、彼らの中でエレベーターに関しては情報共有がされているようなのでそのまま放っておいても損も無ければ得もないと思います」


 ダンジョン庁が管理しきれなかったダンジョンというのが国内には存在する。離島の小島すぎてギルドを設置するのが困難だった場所や、私有地のど真ん中で歴史が古すぎてダンジョン庁による介入を阻止された場所、宗教施設の真ん中に出来たため該当する宗教法人が管理運営している場所、理由は様々だがいくつか存在するそのダンジョンを利用する探索者……この場合探索者ではない探索者も存在することになるが、そちらからもいくつか意見を聞くことが出来たが、その中にエレベーターが存在するダンジョンもあった。


 その場合も同様の措置で聞き取り調査を行ったので確実に報告会では上がってこない報告ではあったが、こちらのお願いを真摯に受け止め説明してくれたことには違いはない。なら初めからギルドを運営に参加させてくれ、という意見をグッと心の中にとどめたまま。


「それじゃあエレベーターのあった各ギルドの場所と広さを考えて、スペースや交通機関に問題が起きそうにない所は順次エレベーターを公開していく、という話で進めていこう。今まで美味しい思いをしていた探索者には悪いが、出来るだけ多くの人に多くの実りを、で行かせてもらう。黙っていた人たちもバレるまでに稼ぎ切ろうと考えていただろうし、公開は既定路線ということでいいかな」

「秘境に近い地域にあるダンジョンについてはどうしますか。秘境は秘境のままで居てもらう事も可能だとは思いますが。ただ、そういうダンジョンはギルドの規模も小さいのでいきなり増えた探索者に対してギルドの仕事量がキャパシティをオーバーしてしまう可能性があります」

「そっちは第二次開放ってことにしようかな。秘境だから探索者の受け入れ態勢の構築に時間がかかってしまった、と言い訳をすることもできるし、わざわざそんな所まで行きつく探索者もそうそう多くはないだろうとは思っている。それにキャパが溢れたらその時に臨時で雇い入れるなりして人員確保に努めるという心構えさえ先にしておけば何とかなるだろう」


 有壁ダンジョンの場合、北関東から東北地方までの探索者が珍しいもの見たさで一時的に人とモノの流れが加速したため、ギルド職員のキャパをあふれさせてしまい査定待ちの列が出来ることになったが、同じことを他のダンジョンでも行われる可能性というのは十分考えられる。


「しかし、エレベーターの話が出来てからもう半年になるがそれまでに探索者が個人で調査を行ったのも含めて隠し通せたのはある意味で中々の隠蔽力とも言えるな。そこまでして利益を独占したいのかねえ」

「えっと……ありました。探索者同士で口伝で伝え合って、ギルド職員の前ではエレベーターのエの字も告げないよう徹底した情報隠匿の痕跡が見えていますね。混み合っている二十一層でもエレベーターについて大きく触れられなかったのもそのせいみたいですね」

「きっと自分達だけこっそり使うために物陰に隠したり……そういえば小西ダンジョンも一層と十五層はやたら使い所の悪い所に設置を指示していたな。これもあれかな、安村さんは最初は自分だけこっそり使うつもりだったと考えていいのかな」

「おそらくは。ですが早々とギルドに話して公開に踏み切った辺りを考えますと、ギルマスを当初は信用してなかったのか、それとも自分だけ握っている情報というものに怖くなったのかもしれませんね。いざバレた時に大目玉を喰らうのは嫌だったんでしょう」


 となると、安村のエレベーターについて設置した行為こそ褒められはすれども、今考えたら隠蔽しておこうと試みた形跡があるのだから手放しに誉めて良かった話でも無かったんだな、と真中は気づく。が、ここまでの彼の貢献を考えればそれはもうチャラにしてしまってもいいんじゃないかなと思い、それ以上の追及はしないことにした。


「もしかしたら、安村さんはダンジョンマスターの情報が一般公開されたタイミングで一層と十五層のエレベーターの位置を変更しに回るかもしれないね。それこそ、ミルコ君への貸しを一個使ってでも」

「本人はそこまで考えているんでしょうか。貸し一つ溜めておくにしても、探索で奥へ行くタイミングで必要になりそうなスキルや情報について問いただすために使いそうなもんですが」

「その安村さん本人が今は足を止めて地力を溜めるのに時間を使いたいと申し出ていてくれてるんだし、可能性としては充分有りえるかな。ダンジョンマスターが居る! ダンジョンマスターがエレベーターも設置した! とでも発表しない限り、エレベーターの場所が知らない内に変更されているなんて事態は説明がつかないからね。尤も今ギルドにそれを問い合わされても答えられない訳なんだけど」

「海外でも事例が増え始めている都合上、国際ダンジョン機構への問い合わせも増えているようですよ。反探索者団体から何故エレベーターなる現代技術の結晶がダンジョンに設置されているのか。ダンジョンは国際的に建設されたものであり、国際ダンジョン機構はなにか隠し事をしているのではないか? と」


 真中としてはその反探索者団体が何について反対しているのかは解らないが、良いぞその調子だもっとやれ、と内心は思っている。今の日本においてはダンジョンマスターの存在について向こうから大っぴらに公開してくれる方が負担が少なくて済むうえ、国際ダンジョン機構が認めたのでこちらも情報開示を行う。実はエレベーターはダンジョンマスターが設置しましたと声を大きくしてぶちあげることが出来るようになるのだ。


「出来れば全然関係ない所でその話題が膨れ上がってほしいよね。どっかのお偉いさんが寝ぼけてダンジョンマスターについてうっかり発言してしまって、そこから燃え上がって世界が大騒ぎになるみたいな、そういう楽しい暴露大会が始まってくれると助かるんだけど」

「その場合次回の会合は紛糾するでしょうね。その馬鹿に情報を漏らしたのは一体誰なんだと」

「ま、今のところは時の流れに身を任せかな。他人より自分の火の心配を先にしないと」

「お、珍しくやる気ですね。何か良い事でも思いついたんですか」


 多田野が敏感に真中のやる気を感じ取る。


「例えばこの五件の足踏みしてるダンジョン。攻略すればダンジョンマスターが五人暇になる。今攻略済みのダンジョンマスターを含めれば六人だ。三人集まれば文殊の知恵なんだから、そこに六人も集まったら新しいダンジョンの一つや二つぐらいは出来上がるんじゃないかと思ってね。そうなった場合、先に熊本第二の元ダンジョンマスターを確保してくれている安村さんに鼻薬を嗅がすようにお願いしておけば、もしかすると無くなった先から新しいダンジョンが元あった場所に同じく作られる可能性だってあるじゃない。そうなってくれれば用地買収の新しい相談もしなくて済むし、そこのダンジョンに根付いてくれていた探索者も戻ってくるんじゃないかと思うんだけど、そういう方向性になってくれたら面白いなって。それに新しいダンジョンなんだから新しい仕組み……今研究中らしい外部との通信、これが出来るようになればダンジョン生配信とかできるようになるし、私も他の探索者の手を借りてエレベーターが使える階層まで潜れるようになるかもしれない。色々と面白いネタが降って湧いてくる。楽しみだなあ」

「では、ダンジョンに住んでるダンジョン庁長官とかも発生する可能性があるわけですか。仕事を遠隔で処理してくれるならそれも有りかもしれませんね」

「さて、エレベーターのあるダンジョンは公開すると混むことが予測される順番に並べて、後は不足しそうな人材の質と量を工面するところから始めようか。まずは……」


 それなりに真面目な話としても通じるし、冗談半分であるともとらえられる、真中のこの発言は確かにダンジョンに真新しさを求める探索者にはいい刺激になるかもしれない。そう考えたが口に出すのはやめておく多田野だった。そのまま仕事モードに入った真中の邪魔をしてはいけない。また脱線してよそ事を考え出す前に、真中の指示しそうなダンジョンの情報を並べて提示していく。


 安村の届けた枕のおかげで充分な睡眠がとれている二人は、今日も帰りは遅かった。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
そもそも個人的な報酬であるエレベーターを内緒で使っていて処分という話になるのが意味わからん。そんなん報告義務も他人に使わせる義務もないだろ。小西はあくまで主人公の好意で公開されているということを理解す…
これ自分だった。安村さんなんでこんなに義理立てするのか不思議だった。 〉ギルドはただ外側から現状観察をするだけのドロップ品の代わりにお小遣いをくれる相手だとしか認識されていない
日本でこれなら海外もいっぱい未報告だったり踏破目前がありそうだなあ
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