表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
876/1207

876:進捗どうですか 2/2

 希望が持てたところで、こっちがすることというのは具体的にどんなことなんだろう。山本さんのほうを見ると、枕を片手にこちらに今にも話しかけようとしていた。


「安村さん、この枕凄いですね。ちょっと横になるだけで眠気が吹き飛ぶぐらいの威力ですよ。まるで数時間眠ったような気持ちになれました。一体どこのメーカーの品物なんですか」


 早速枕を使ってみたらしい山本さんからかなり高い評価を受ける。やはり研究職向けにはあのスノーオウル百%枕は評判がいいらしい。


「あまり大きな声では言えませんが、原価だけで四十万かかってますからね。効果のほどは折り紙付きです。ただ、体の不調が見られた場合は使うのはやめてくださいね。あくまであれは睡眠欲を解消させるためだけの劇薬ですから」

「四十万……」


 材料費だけで四十万という言葉でそれを使わせてもらっていいのかという顔になる山本さん。


「いいんですか? そんな高い枕をホイホイと他人に渡して」

「それも研究用で試しに作ったサンプルなんです。多分国内には一つか二つしかない貴重な枕なんで使い終わったらちゃんと返してくださいね。流石にさしあげることはできませんし、それが原因で山本さんの体調や精神面になにか変な作用が起きたとなったら私も心苦しい事になります」

「解りました。近々結果を出すことが出来たら必ずお返ししますが、それまではしばらくこの枕のお世話になります」


 山本さんもこっちの世界ではおそらく初めてになるであろう、あっちの世界の魔法学、魔力学の生徒として活躍してくれるのだろう。もしかしたらスキル無しで魔法を行使できるようになる最初のサンプルにすらなるかもしれない。もしかして、割と洒落にならない事態を引き起こそうとしているのかもしれない。


「さて、じゃあ私はリザードマンダッシュ大会に参加してきます」

「今日はカニじゃないんですね。行ってらっしゃい」

「そっちも研究頑張ってください。後、ガンテツが途中で酒盛りを始めないかきっちり見張っててやってください」

「それは心配するな。集中したいときに酒は飲まん主義だと前もいったろうに」


 机と椅子を片付けると研究班と別れを告げ、再びリザードマンダッシュ大会へ向かう。しっかり休憩を取って雑談をしたので、今日はいつもほどの収入は見込めないし、朝の茂君も戦果は振るわなかった。せめて今からでも頑張ってしっかり稼いで行こう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 一時間のダッシュを四本、ひたすらリザードマンにアイアンクローをかけて全力雷撃で爆散させる遊びを楽しんだ。一時間おきに休憩を入れることで体力と魔力の回復、そしてモンスターリポップをさせる時間を含める。大体一時間でリザードマンが八十匹ほど倒せることが分かった。もうちょっとペースを上げれば九十匹行けるかどうか。本気で回りだすとリポップが追いつかずにモンスターが枯渇する恐れもあるので、ダッシュを続けられる時間のほうを大事にした結果こういう形に落ち着いた。


 ドウラクでもリザードマンでもどっちでもダッシュが出来ると判断出来た以上、例えば俺が全力でドウラクにダッシュを決めてる間に芽生さんが中央でリザードマンとダッシュを決めて、二人合わせて金額を、みたいな事だってできるようになった。これはこれで稼ぎ方として悪くないのではないかな。お互いにトレーニングとしてもダイエットとしても中々のものになるんじゃないかと思う。


 時刻は三時半。もう一ダッシュ決めてから帰るか。トライデントも査定には出してないものの、こいつ一本でご祝儀価格五十万円という話が出ている。実際にそれだけの価値があるかは微妙な所ではあるし、これを上まで運ぶのはエレベーターが有ってもそれなりの苦労がある。このまま保管庫の中の肥やしとなるか、射出武器となるかははっきり言えないが、俺の武装の中の一つであることは確かだ。もうちょっと溜めていこう。


 四十二層に戻ると机の所では話し合いの真っ最中。邪魔するのは悪いのでそのまま通り過ぎてリヤカーを拾って七層へ。今日の帰りの分ぐらいは茂君が残っていてくれるとありがたいが。エレベーターで待つ間に今日拾ったドロップ品をリヤカーに詰め替えていく。魔結晶とキュアポーションだけなので分別も気楽なものだ。重さをある程度ずつに分けて、ポーションはまとめて一袋に。この気遣いで数分査定時間が変わるなら喜ばしい事である。


 七層へ戻りいつも通りリヤカーを目隠しして茂君へ。帰りの茂君はちゃんと茂っていた。安心して回収し、戻ってきてエレベーターで一層、出入口へ向かう。


 熱心なスライムスレイヤーがいたのか、それとも暇つぶしに潰していった探索者がいるのか、俺が心配になるほどスライムは湧いていなかった。きっと先に戻っていった探索者がスライムを処理して行ってくれたのだろう。おかげで安心してリヤカーを引いて行ける。誰だか知らないがありがとう。


 退ダン手続きをしてリヤカーを査定カウンターに持っていく。査定待ちは一人。もしかしたらこの人がスライムを綺麗にしていってくれた人かもしれない。違うかもしれないがとりあえずこの人に感謝しておこう。ありがとう。


 査定の順番が来てドロップ品を渡す。今日は魔結晶とキュアポーション一種類だけなので判別も簡単、計量も簡単。さっさと終わって一人分で査定金額が出てきた。


 今日のお給料、六千六百九十六万円。非常にキリのいい、心地よい数値だ。仮に三で割っても端数が出ない所もポイントが高い。


 支払いカウンターで振り込みを済ませると、支払い嬢にギルドのスキルオーブ取引について詳細な説明を願い出る。


「スキルオーブの買い付けですか。基本的には連絡先と落札予定価格を知らせていただいて、その価格で折り合いがついた瞬間に連絡をこちらからお伝えする、という流れになるのですがそこまでは大丈夫ですか? 」

「はい、何度か売却のほうはしてますので。購入のほうの流れを知りたかったのです」

「なるほど。ご購入の際はスキルオーブが売却にかけられた場所によって変わるのですが、基本的には売却したところまで探索者様ご自身でお出かけになっていただいてそこで取引、という形になります。ただ、小西ダンジョンの場合取引に使う部屋があまり存在しないので坂野課長の部屋の前の応接室での取引か、ここから一番近くて応接室も何部屋か用意されている清州ダンジョンでの取引となることが多いですね。地方の小さいダンジョンだと交通の便が良いところまでお互いが移動して取引、という形になるケースのほうが多いですね。なので、落札者様には落札費用に加えて移動費用と移動時間が加算される、ということになりますが、それもよろしいですか? 」


 ふむ……そこまでは問題ないな。


「ダンジョン内に居る等の理由で連絡が付かなかった場合はいくら高額でも次の探索者に回される、であってますよね? 」

「はい、おっしゃる通りです。なので矛盾するような話になるのですが、探索を楽にするためにスキルオーブをお求めになられる場合は地上に出てもらっていてその間順番を待っていただく、という形になります。それでもよろしければ予約のほうを承りますがどうされますか? 」

「お願いします。ちょっと買い求めてでも手に入れておきたいスキルがあるもので」

「……安村さんが欲しいスキル、と言うことはこの先みんなが持っている方が有利になれるスキル、というイメージであってるんでしょうかね」


 急に小声になってひそひそと話し出す支払い嬢。


「まあ、そういう感じになりますね。とりあえず登録をするということで、実際に手に入るかどうかは別ですが一つお願いします」

「安村さんの稼ぎからすれば購入のオファーを入れてでも優先的に引き取りたいスキルがあってもおかしくは無いですね。はい。解りました。承ります。必要とされるスキルと価格を提示願います」


 探索・オブ・ザ・イヤーの最新号のスキルオーブ価格のページを開く。欲しいとしているのは【毒耐性】だ。三千百万となっている。他をチラッと見ると属性魔法スキルのほうは少し値上がりしている。どうやら雷魔法がケルピーに効果ありという謳い文句が効いているようだ。


「【毒耐性】を三千五百万円でお願いします」

「はい。それでは……登録いたしました。後はもしオークションの順番になってタイミングが合えば連絡がそちらに行くと思いますのでそれをお待ちください。もし途中で金額の変更をされたり取り消したい、という申し出がおありの際はまたこちらで手続きいたしますのでお気軽にどうぞ」

「解りました。よろしくお願いします」


 これで無事にスキルオーブ売買の掲示板に名を連ねることになった。毒耐性は結局より高額で買い取る、という結果になってしまったが、当時はまだ若く、お金が必要でした。


 今は金もあるし時間も作ろうと思えば作れる。芽生さんと潜る日以外は何もしない日としてボーっと時間を待つことが……待つことができるのか? 俺に?


『いやいや洋一さんよ、いくらワーカーホリックだと言っても、待つのも仕事の内だろう? それを我慢できずにダンジョンへ突入して、その間に電話がかかってきていて落胆するようなことが無いとは言い切れないんだ。それを考えたら数日休んで英気を養っている間にスキルオーブも手に入れられて経費でも落とせる。一石二鳥ってもんだろう? 』

『落ち着けよ相棒。数日休むって事は数日分数千万、つまり億単位の収入が見込めなくなるという事でもあるんだぜ。それはそれで悲しいだろう? それに、ダンジョンから外に出ている間に電話がかかってくる方が可能性としては時間の使い方の都合上高いんだ。ほんの数時間だけダンジョンに入っていてその後は外に出てるんだぜ? 問題ないだろ。いつも通り探索をしてスキルオーブが産出されるのを待とうぜ』


 俺の中で悪魔と悪魔が喧嘩を始める。その場で頭を抱えているのを支払い嬢が不思議そうに見つめている。とりあえず、今日は帰ろう。帰って飯食って風呂に入って、それからスキルオーブのオファーの事を考えるんだ。その方が健康に良いのは確かだ。今日のところはクールに去ろう。


 立ち直るとバスの時刻を確認。少し時間があるのでコンビニで時間つぶしをする。コンビニの雑誌欄には女性向け情報誌の「夏に向けて痩せる方法」という見出しが堂々と出されている。これが「細く見えるコーデ」に変わったら夏になったという季節の見極めが出来る便利な見出しだ。それを横目にちょっとした自分へのご褒美スイーツを買うと、ホットスナック片手にコンビニから出てその場で立ち食い。買い食いの楽しさはやはり大人になってからだな。


 食べ終えた後バス停に戻ると、遠くにバスが見える。ちょうどいい時間つぶしになったな。そのままバスと電車に乗り家に帰ると、夕食のシュクメルリ丼とご褒美スイーツの二段構えで今日の仕事の楽しさを思い出しながら、胃袋を満たしていく。


 こうやって俺がゆっくりと夕飯を食べている間にも他の探索者は何処かの階層で活動をして、二十四時間営業のダンジョンならばスキルオーブを見つけては自分たちで使うかそれともギルドに渡して高額で引き取ってもらえるように話をつけているのか。普段拝むことは決してないその光景が目に浮かぶようである。


 ということは、飯を食ってる以外でも風呂に入っているときや寝ているとき、朝ゴキゲンな朝食を食べたり昼食の準備をしている間にも電話がかかってくる可能性があるという事か。寝ている間にかかってきたなら公共交通機関も使えない。朝一でそっちへ出かけるための準備を整えなければならないという事になる。これは待ってるほうも結構メンタルを削られるのではないか? いつかかってくるか解らない電話を待つということにもなる。


 うーん……ギルド取引も良し悪しはあるってことだな。次使うかどうかは解らないが、とりあえず取引の流れと取引に関する手続きは理解した。次回以降御縁があるかどうかは解らないが慎重に考えてから行動に移しても問題はないだろう。欲しいスキルを欲しいだけ手に入れるにはそれなりに辛抱というものが必要だということが解っただけでもこれは収穫というものだな。


 その後、風呂に入っている間もピリピリしながら電話を待ったがさすがに昨日の今日で都合よくスキルオーブが手に入るという事も無く、寝てる間も多少の期待をしながらの就寝になった。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
天使不在で草
> モンスターリポップをさせる」 リザードマン枯れちゃった > もう一ダッシュ決めて」 キメて > 三千五百万円でお願いします」 戸惑いも現実感も無くなっちゃったおじさん 指値端数の例(三千五百万…
時間制限があるから自分で受け取るしかないってのもきついのよなぁw まぁ休んでろとしかw何か趣味でも作るとかさゲームでもええで
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ