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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
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867:本気の研究者は時間を忘れる

 しばらく宴会は続き、午後一時。流石にそろそろ撤収の時間帯だろう。皆のお腹も落ち着き、昼食会はお開きにしようと思う。鍋や何やらを一通り生活魔法で洗った後保管庫にしまい込み、出たゴミの片づけをする。山本さんも遅れながらもしっかりと食べつくし、満腹のご様子。


 ダンジョンじゃなく自宅ならこれからダラダラと昼寝を始めて夕方にまたゆっくりと起きて夕食何を食べるか考えるという流れになるだろうが、今はダンジョンの中でしかも今日はまだ仕事をしていない。そろそろエンジンをかけて真面目に探索に励まないといけないだろう。


「じゃあ、ガンテツ達にはこれをまた渡しておくよ。燃料だと思って大事に使ってくれ。次回の補充の日にちは保証しないがそれまでの繋ぎとして飲んでおいてくれ」


 昨日も渡した普通のウィスキーのペットボトルをドンと置く。つまみも机に広げておくと、それとミルコにはコーラとお菓子も忘れず渡しておく。


「おう、研究が一段落したら楽しむことにしよう。今はこのやる気を維持してさっさと形に出来るようにするほうが大事だからな。その辺の区別はさすがにできる。酒飲みながら研究ってのも悪くはないが、集中したいときにはかえって邪魔だからな」


 どうやら飲みながら研究をするタイプでは無いらしい。一つ安心したところで、俺もカニうまダッシュに走るとしようかな。


「じゃあ山本さん、よろしく頼みます。成果は他の探索者の喜びとしていつか還元されると思うので、隊を抜けたり情報封鎖が解かれた時にでも本にして出版すると良いかもしれませんよ」

「技術的な部分について論文にして提出するのは有りかもしれませんね。何にせよ、まずはお互いの認識の統一と不要な機能、必要な機能の選定からでしょう。やることが色々あって楽しそうです」


 山本さんは相当乗り気らしい。頑張りすぎて倒れる……いや、D部隊員にそんな生半可な奴は居ないだろう。取る休憩はちゃんととるしメリハリは付けるだろうしとは思ってはいるが実際どうなるかは解らない。とりあえずカニうまダッシュ三本走ってきてから進捗のほどを確認してみるか。


「じゃあ一応、ちゃんと稼いで帰ってきたという成果を出すために俺はちょっと探索してきます。机やらなんやらは自由に使ってください。後何か必要なものはあったりしますか? 」

「今のところは。ああいや、念のためにノートとボールペンだけは残しておいてもらえますか。どれだけ使うか保証が出来ないので」

「解りました。自由に使ってください」


 ドサドサドサッと予備を置いておくと、四十三層へ向かう。俺から始まった通信研究を専門家に無事に外注することが出来た。本当は自分でやって探求心を満たしたいところだが、本職に出来る人が居るならそちらに任せた方が成果はより確実に出るはずだ。いつ出来上がるかどうかは解らないが実験には参加させてもらえるかもしれない、楽しみに待つことにしよう。


 四十三層に下りていつものカニうまダッシュを……と考えていたら、高橋さん達も下りてきた。


「今日は四十三層で腕試しにしようかと。おすすめのコースはありますか? 」


 真正面から質問されたので、地図を出しつつ案内に答える。


「そうですね、ひたすら海岸沿いに進んでドウラクだけを相手にする俺のいつものコースと、内側でリザードマンとだけ戦うコースの二種類があります。ただ金だけを稼ぎたいならドウラクのほうがお薦めですが、保管庫を持ってない分荷物になるので俺以外にはあまり向かないかと思います」

「なるほど、では我々はリザードマンと遊んで日々の訓練の成果を確認しようと思います。安村さんはいつも通りのコースをどうぞ」


 そう言うと、リザードマンと戦うために島の真ん中をグルグルと回るコースへ入り始めた。これならこの島のモンスターはほとんど狩り尽くされてしまうんじゃないか? ともかく、俺も今日はまだほとんど稼いでいない。ドロップされた魔結晶はノートを補充していく際に使い切ってしまったのでボア肉を少々査定にかけられるかどうかという所。しっかり三時間稼いで今日もまじめにやっていたんだというアリバイを証明しないとな。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 三時間、しっかりとドウラクを食いつくした。拾ったドウラクの身は八十ほどだが、今日の食事で減ってしまった分の補充と思って数個在庫に回すので実際には少し収入は下がることになるかな。


 戻ってくると、研究はまだ白熱していた。これは声をかけずにそっとしておいたほうが良いな。そのまま気づかれないようにエレベーターへ向かい、リヤカーを拾う。ダンジョン内では昼も夜も変化が無い。きっと体力を使い切るまで全力で研究し合い、そして……ダンジョンマスターが眠るかどうかは解らないが、泥のように眠るのだろう。俺の中にある研究者はそんなイメージだ。


 エレベーターに乗り、今日の戦果をそれぞれ仕分けする……が、やはりいつもより少ないな。いつもはもう三時間ほど仕事してるから成果は半分ってところだろう。でもまあ少ない金額ではない。他の探索者からしたら天上と言っていい収入だ、それは自覚しておこう。


 七層でいつもの荷物の目隠しをして茂君。帰ってきて再び一層。とりあえず手持ちで一回分の納品はできるな。スノーオウルも次回は納品予定にしておこう。スノーオウルの羽根の在庫はまだしばらく分の余裕はある。枕のほうで活躍してくれていることを祈ろう。


 戻って退ダン手続き。今日も問題なく退ダンできた。ここ数日で大分手が早くなってきた気がする。この調子なら四月までには問題なく二交代で仕事が出来るようになりそうで安心だ。


 査定カウンターのほうも今日は一人だったが、独り言はいつもより少なくなった。他の探索者から自分の稼ぎを人に聞かれるのはあまり好きじゃない、とでも苦情が入ったのかもしれないな。


 手作業も早くなったのか、今日の荷物が少ないからか。いつもより少し手早く作業が終わったらしい。


「分割はされますか? 」

「今日は一括でお願いします」


 本日の賃金、三千六百十二万三千三百円。色々と午前中回った分少ないがまあいいだろう。そのまま支払いカウンターで振り込みをお願いすると、こっちも手早く済ませてくれた。徐々にいい流れになり始めている。この調子でギルド運営が滞りなく進んでくれるとありがたい。


 さて、後は真中長官に話を通しておくべき、だな。時間に余裕はある。ギルマスはまだ居るだろう。真中長官の手が空いているかどうかはともかくとして、一度経過報告として伝えておくべきことは早めに済ませるのがいいだろうな。


 二階へ行き、ギルマスルームへの扉をノック三回、入っていく。ギルマスはまだ帰る準備はせず、書類の整理とパソコンへの打ち込みを続けていた。


「やあ安村さん。何か用? 緊急事態ならその限りではないけど今はちょっと忙しいかな」

「ちょっと報告、ですかね。今個人的にやっている事を伝えておいたほうが良いと思いまして」


 パソコンから目を離さずに仕事をしながらギルマスが答える。仕事モードを切り替えるつもりは今のところは無いらしい。真面目にやってるならそれはそれでいい。一方的に伝えてしまう事にしようか。


「それは私の耳に入り切る事かな? それとも長官の耳まで借りても入りきらないかもしれないことかな? 」

「どうでしょう。ギルマスがこれ以上無理って考えたらその時は長官まで話を投げたらよろしいかと」

「それはまた……で、今回は何? 」

「長官には間接的に伝えてありますが、熊本第二ダンジョンの元ダンジョンマスターと誼を通じる事が出来ました。それで、なんですが……新しいダンジョンが発生する可能性があります」

「可能性、ということはまだ決定事項ではない訳だね。その辺も含めての相談かな? 今度は何処にダンジョンが現れるんだい」


 ギルマスの手が止まる。緊急案件だと判断したのかもしれない。


「どこに、というわけでもいつ、というわけでもありません。ただ、以前お伝えした通り新しくダンジョンが出来上がるとしたら、今までのダンジョンとは構造も階層もモンスターもドロップ品も様変わりしているかもしれませんね」

「その情報の一端を掴んできたから、今こうしてここに居るんじゃないのかい? 」


 流石にそこは気づくか。伊達にギルマスやってないな。


「今、その元ダンジョンマスターにスマホを持たせてみました。もしかしたらですが、新しいダンジョンが生まれる際には内部でも通信が出来るようになるかもしれませんよ」

「通信か……そうすれば中からのヘルプも出せるし、ダンジョンの内容をより詳細により広く、よりリアルタイムで中の状況を確認できるようになるかもしれないね。それは確かに大きな変更点だ。それ以外はどうなんだい? 」

「実は……D部隊の高橋さんに怒られてしまいましてね。それを俺から告げることでその内容が確定事項になってしまうのではないかと。もしもこのままダンジョンマスターとダンジョン庁のつなぎ役みたいな形で探索者を続けるなら、逐次報告して双方の意見を交換してすり合わせしていくことでお互いの希望を伝えたうえで納得のできるダンジョン運営が出来るようにしたほうがいい、私は……少々出過ぎているんじゃないかと」


 ギルマスは腕を組み少し考えた後、パソコンにカタカタっと文字を入力してッツッターンする。


「ダンジョンを踏破しても新しいダンジョンを作らずにそのまま数を減らしていく、というのは難しいと考えているんだね? 」

「彼ら……いや、彼の意向を見る限りその可能性は低いと考えます。彼らの目的は魔素の持ち出しですから、その搬出口が少なくなることは純粋に効率の悪化と考えるでしょう。なのでこちらとしては、画一的なダンジョンではなく、ダンジョンそれぞれに変化や多様性を持った個性あるダンジョンを作ってみてはどうだろう、と話したところですね」

「なるほど。しかし、ダンジョンがいつどこに出来るか予測できればそれもこちらとしては知っておきたいところだね」


 ギルマスは完全にこちらの話を聞くモードに入ったらしい。自分の机から戻ってこちらのソファに腰かけ、コーヒーを両手に持って寄ってきた。片方は俺の分、つまり長い話になるかもしれない、と予想をつけたのだろう。


「それも話しましたが、ダンジョンが作りやすい所は少なくとも近所……つまり国内ですね、そこには人通りの多い所はほぼ占拠されていて明け渡しは難しいことと、あまり辺境に作っても人が訪れなければ結局意味がないこと、それから……えっとなんだっけな。ダンジョンも同じ構造ばかりなのでダンジョンに来るほうも飽きる、という話をしましたね。何処に潜っても同じ構造ならダンジョンに入ってくるメンツは同じになるので真新しさを供給することは難しいという、ダンジョン探索を見物してる側からのメッセージを受け取りました」

「それで新しいダンジョンは構造や何やらが違う……という流れになったということかな? 」

「割と近いと思います」


 コーヒーを飲んで一息つく。出がらしだった。時間的に仕方がないとはいえ、ここまで出し切ったのをよく平気で飲めるなこの人。


「これは長官の意見が必要だな。新しくダンジョンを開く場所が指定できるなら指定しておきたいし、可能なら安村さんもちょっと顔出し程度には通ってみるんだろう? 」

「それは解らない、とは答えておきました。探索者は地元に居着く人がほとんどですから」

「確かにね。ここみたいに近所の空き物件を探してそこに住み込んででもそれ以上の恩恵が受けられる……というエレベーターができた当初の触れ込みはうまく行ったようだし、今でもちょっとずつだが入場者数は増えている。清州や大梅田、高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンみたいに後からできて大混雑、という形にならなかった分だけ自由に上下に動き回れるスペースもあるし、そこまで広くはないが人が多すぎて稼ぎにならない、という話もそうそう出ていない。今後これ以上人が増えるならまた違う話になりそうだが現状ではうまく回っている。ここは成功例とハッキリ言い切ってしまってもいいだろう。後は他のダンジョンのエレベーターについての情報が揃うのが明日の会議だ。そこで情報が整理されて、順次公開という流れになっていくんじゃないかなとは思っている。で、なんだがその話、明日の会議で話していい内容かどうか悩む所なんだがね? 」

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
会議が近すぎるw もうちょい考える時間欲しかっただろうなあギルマス
> 研究が一段落したら」 意外と自制心のあった酒カスオッサン > 体力を使い切るまで」 休憩してもろて 今日のギルマスはいつもと比べて四割増しで仕事できそう感ある
表に出ている世界の最先端ダンジョンかもしれないし 発言権が増してたりするのかなー レア探索者とレアギミック(エレベーター)を備えたとこだし とりあえず、ダンジョンは消えても新しくできるってのは、失職…
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