866:越権行為?
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「あくまで仮定に仮定を重ねた話ですから。もしかしたら彼らがこのままこの星での魔素放出を諦めて他の世界へ旅立つという選択肢もありますからその事情に合わせて動く、という事は無いと考えています。ただ、出来るならお互い得をするところで妥協点を見つけたい、と思うのはだめでしょうか」
「それは解りますが、それを安村さん個人がそう誘導して確定させてしまう、というプロセスに問題があると思います。お気づきになっているかどうかはともかく、安村さんにはそれを決定事項にさせてしまうだけの政治力があるんです。そこをまず自覚されるべきかと思います」
「それは……」
高橋さんに諭されてしまった。だが、言っていることは真っ当な話であり、それ以上の言葉に詰まってしまった。
「安村さんは表面に出ていない所でも表面に出ているところでも、どちらにせよ権力者ではありませんが間接的外交官ではあるんです。このスマホ改造の話は止めるつもりはありませんが、ダンジョンに変化をもたらせるなら一度長官と深く相談した方が良いと思います」
長官と相談か……少なくとも新しいダンジョンが出来るかもしれない、新しいダンジョンについては既存のダンジョンとは違う法則や特徴が出てくる可能性がある、という情報は逐次流しておいたほうが良いということだろう。いつどこにどのようにどうやって、とまではハッキリ言えないことだが、ガンテツの性格を考えるともう二人三人と増えたところで実行してしまいそうなところがあるのは疑うしかない。俺は口を出し過ぎ……確かに留意しないといけないかもな。
「……」
「差し出がましいことを申し上げましたね。でも、安村さんが懸念していることは何となくわかります。このままダンジョンのモグラ叩きになるよりは何処かに固定したダンジョンがいくつか存在することと、不定期にダンジョンが現れる、という現象で留めておけるならそうしたい、という考えで合ってますか」
「大体合ってますね」
「となれば、まずは技術的解析を進めつつ、同時に他のダンジョンの情報……これは多分今ダンジョン庁が必死に集めている途中でしょうからそれを総合して、あとどのくらいの期間でどのくらいのダンジョンが攻略されるのか見極めをつけて、その後新しいダンジョンが出来るかどうかを予測しておく、というのが大事だと思いますよ」
なるほど。今焦る必要はないって事か。
「後、そもそも論で申し上げるのですが、安村さん、新しいダンジョンが出来たからってそっちにかかりきりになる気、無いですよね? 」
……あ。
「今のところ、ないですね」
「え、安村来ないの!? 」
ガンテツが残念そうに驚いている。
「うーん。ここのダンジョンに通いっきりだからな。いろんなダンジョンに通って楽しんで、という探索者も少数は居るんだろうけど、現状の探索者の傾向としては新しいダンジョンが出来たから早速試しに行こう、とアトラクションみたいにホイホイと探索者が根付いてくれるかどうかはまた別の話になりそうかな」
「そうなのか……道理でいつもダンジョンでは同じ顔ばかり見かけると思ったが、そういうことだったんだな」
「どこのダンジョンに潜っても構造が同じだからな。それに場所によっては距離的に通えないダンジョンもあるだろうし、この小西ダンジョンみたいに後天的に人口が増えてダンジョンが栄える、という形にならない限りは大体見た顔だらけになると思うんだけど……その辺はミルコ、どうなんだい? 」
ミルコにヘルプを出す。出入りを管理しているのは受付嬢とミルコぐらいのものだ。受付嬢も全員の顔を覚えている訳では無さそうだし、ここではミルコに聞くのが一番確かだろう。
「安村の言うとおりだね。顔触れが変わり始めたのもエレベーターが出来てみんなが利用するようになってからだ。最初は出入りする探索者も同じ顔ぶればかりだったんだけど……君らで言う一ヶ月ぐらい後からかな? 人が変わり始めたのは。比較的深い階層に潜る探索者が増えてきたと感じたね。外で何か変化があったんだろう」
「まあそうだな。住宅が作られてダンジョンまで来る手段が整備されて。ダンジョンを豊かにさせるには周りも豊かになる必要がある。今このダンジョンは地上との共生関係にあるとも言えるな。だからここのダンジョンは稼げるダンジョンだと示すためにも、俺がここを離れる可能性は非常に低いと思う。後は単純に、ここに来るのに慣れてしまった、習慣づいてしまったってところだろうな」
「なるほどなあ。次のダンジョンを作る場所も大事だってことか。参考になるぜ」
ガンテツは納得しているが、ダンジョンが出来た場所に住んでいる人は確実にワリを食ってしまう訳で、それについてはどうなるかは解らない。該当した人や小西さんには申し訳なく思う。
「後はそうだな、同じ場所にダンジョンを作り続けるというのも一つの手だぞ。消えても消えても出現するけど毎回ダンジョンの構造が違うとかドロップ品が違うとか、出てくるモンスターが変わるとか。そういう楽しみもあっていいんじゃないか? 」
「それは場所に悩まなくて済むな。ダンジョン作って階層更新して、最下層まで作ってる間に次のネタを考えるって事か。中々に楽しみがいがあっていいな」
頭を切り替えるのが早いのか、ガンテツはまたガハハッと笑ってビールをあおる。その間にかにしゃぶは食べつくされてしまった。また新しいのを出すか。
「実際のところ、この国では……ですが、交通の往来のしやすい所に作るダンジョン、というとあまり選択肢は多くないと思います。こちらからこの辺に作ったらどうだろうと提案するのもおかしな話ですが、できるだけ騒がれない、例えば住宅地のど真ん中であるとか、工業団地の中であるとか、政府系建物のすぐそばであるとか、公共交通機関の中であるとか。そう言ったケースは外して考えてくれると助かりますね。色々と」
高橋さんがそうつぶやく。移動のしやすさはダンジョンへの行きやすさでもあるが、同時にそんな場所はとうに他の誰かの手が入っていて地価が高かったりその周辺への移動が困難になったりとそういう混乱はダンジョンが出来た当初はあったと記憶している。混乱しなかったのは大梅田ダンジョンぐらいのものでは無かったか。
「誰も所有者の無い荒野とか平原とかそういうものはないのか? 」
「この狭い国にとっては魅力的な土地ですね。あるなら是非こちらが紹介して貰いたいぐらいでしょう。それに自由にできる土地というのはそれだけ周辺に住む人も少ないですから、ダンジョンにわざわざ潜りに来る探索者が居るのかどうか怪しむ所から始める必要があるでしょうね」
「世の中うまいこといかねえな」
ガンテツは若干寂しそうにビールを飲み干す。絵になるな。
「そういえばこれが入ってる金属も中々面白いな。柔らかくてもそれなりに丈夫だ。こっちでは見つけられなかった素材だな。どうやって精錬するのやら」
アルミの精錬には至っていない技術レベルという事か。魔法を使えば何とかなりそうな気はするんだが空想上で言う所の錬金術というものはあまり発展してない様子だな。
「そういう話もおいおいってところか。だが、仮にダンジョンからドロップするようになるなら貴金属の類でないと運搬に対する対価としてはあまり効率のいいものにはならないと思うぞ」
「そういう俗物的な、例えば純粋に金や銀がドロップするようになるとしてもよほどの階層か特殊な状態じゃない限りは出さないと思うぞ。魔素の持ち出しとは関係なくなっちまうからな」
「だろうな。だからあまり期待してないよ」
「仮に、なんだが新しいダンジョンを作ったとして面白いドロップ品は何かないのか? 」
ガンテツがさっきまでの会話を忘れたように俺に質問をしてくる。さっきのやり取りは何だったのだろう。
「そうだな……階層の浅いダンジョンなら行き帰りも楽だろうから、そこまで日持ちのしないような食糧でも良いかもしれないな。肉だけじゃない、野菜とかキノコとかそういうものだ。そういう産地直送野菜ダンジョンみたいなものは面白いかもしれない。ギルドのその場で新鮮な野菜がいくらでも買える。そんな市場を開くような形のダンジョンなんかも面白いかもしれないぞ」
「ふむ、でそれなりの大きさの商会なり商店なり一般人なりが直接野菜を買いに来る、と。だとしたら利便性が大事だな。誰でも買いに来るような……あぁ、なるほど。探索者もそれだけ行き来しやすい環境が必要になってくる。そこにもつながってくるわけか」
「な、場所は大事だろ? それに、完全に新規のダンジョンで作るんだから階段じゃなくてもスロープ、斜めにゆっくり下りていく形式のダンジョンなら手押し車と一緒に潜り込むのも難しい話にはならないはずだ。そういう構造にも手を付ける余地が出てくる。頑張って考えてみてくれ」
「一緒に考えてはくれないのか? 」
ガンテツはまた寂しそうな顔をする。このダンジョンマスターは寂しそうな顔が結構似合っているな。一人で飲み屋の隅っこで酒を飲んでいる疲れ切ったサラリーマンのような哀愁を漂わせている。
「そこはそれ、さっき高橋さんと言い合った内容通りの話だ。俺が一々横から口出ししてたらそれが決定事項になってしまう可能性は高くなってしまう。それに俺はこの小西ダンジョンから離れるという理由はないんだ。それにもし新しいダンジョンが俺の言ったとおりに出来てしまったとしたら、そこには口を出した分そのダンジョンがちゃんと運営管理されていくのかを見守っていく義務も生じてしまう。そういう重たい責任は背負いたくないんだよ」
「冷たいねえ。一緒に酒を飲んだ仲じゃないか」
ガンテツが俺の肩を掴みガックンガックンと揺らしてくる。
「俺は一滴も飲んでないぞ」
「そこはそれ、同じ場所でどっちかが酒を飲んだらそれはもうそういう仲ってことなんだよ」
「言いたいことは解るが、俺も一人で潜ってるわけじゃないこと、ガンテツだって知っているだろう? 相棒の本業が忙しいんだ、そっちに合わせてダンジョンに潜るのも俺のダンジョン活動……ダン活には必要不可欠なんだよ」
新しいダンジョンが出来たから旅行に行こうというのは問題ないだろうが、複数日にまたがって芽生さんを連れ回すのは難しいだろう。本人は公務員試験を受ける気満々のようだし、その結果によってはダンジョン庁の専属探索者になる道や一般企業に就職する道、それから探索者専門になる道、それ以外にも本人が選びたい仕事があるならそれに沿うような形にしたいというのが本音だ。
「まあ、新しいダンジョンが出来たって騒ぎなら混じって一緒に騒ぐのも悪くはない、とは思っている。一日二日三日で出来上がって早速お披露目って話じゃないんだろう? しっかり練り込んで面白い奴にしてくれ。出来のほうに期待してるよ」
「おうよ、まかせとけ。その為にはまず目の前の課題だな。高橋って言ったっけ。しばらくこの山本を借りてもいいか? とっとと解析して実証実験して、使えるようになるかどうか試しておきたいんだ。上手く出来たらそっちにも悪い話にはならないだろう? 」
「うーん……私一人で決めていい問題でもないし、かといって上司に相談するにしてもどう説得するか、悩みどころですね。スマホで通信できるようになるか試したいんで一人休む形になっても良いですか……いや、そういうわけにも……どうしたもんかな」
「じゃあしばらく三人で潜る、という形にしてみてはいかがですか。D部隊としてもあっちの世界の情報の一端を掴むという情報収集の一環としておけば体面は保てると思います。その間に他のみんなと実力が離れるかもしれませんが……その、個人的にも興味が湧いてしまって。どうやって外部と通信をつなげていくのか、魔力とはそもそも何なのか。魔素の電波通信に対する阻害とか、色々学ぶべきところはありますし、それらの情報を手に入れられるなら間違いなく世界最先端の情報となりえるでしょう。それを掴むチャンスだと言えます」
山本さんのほうも未知の技術相手にやる気の火が入ってしまったらしい。高橋さんに対して説得を試みようとしているようだ。
「……解った。この件に関しては報告を上げないことにしておこう。我々は何も関知していない。山本は発熱による負傷により数日戦線を離脱している。そういうことにしておこう」
「ありがとうございます。成果物として提出できるものはもしかしたら何もないかもしれませんが、どこかで国益にかなう形にはなると思います。出来るだけ早く意思疎通と通信インフラの生成、試してみます」
山本さんがメインとなってダンジョン外部との通信が魔力とダンジョンマスターの技術力でどうにかならないか、という試みがここに始まった。四十二層なう、とかできるようになるのは面白いだろうし、新しいダンジョンで通信機器が十全に使えるとなれば探索者も探索以外での収入増加に躍起になってくれるだろうことを祈る。
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