862:酒を飲まない人は人生の半分を、飲む人は大半を無駄にしている
ブタ〇リラの父ちゃんで解らないときは少年ア〇ベの父ちゃんを思い出してください。大体あんな感じです。それでもわからないときは……バカボンの〇パかな。どれにしてもイメージできる年代が固定されてしまうので、もしかしたら読者の年齢層によっては通じないかもしれない等と思ったり。
「とりあえず、通信できるようになったとしても既存のダンジョンで適用するのは現状やめてほしいかなって。新しいダンジョンで通信が使えるとかなら話は変わってくるだろうけど既存のダンジョンでとなると、ダンジョン庁としても説明がつかなくなると思うんだよね。社会に余計な混乱を巻き起こしたくないという気持ちが一番にある」
「わかった、それについては約束しよう。その約束は今のところ、でいいんだよな? 」
「今のところ、でいい。ダンジョンマスターという存在は社会的に隠匿されている。公然の秘密ではなく、純粋な秘密のほうだ。B+ランク以上の探索者とギルド関係者でも上位の人ぐらいにしか知らされていない」
「ミルコが相談会みたいなものを開いていた時のあのお偉いさんが上位の人ってわけか。とにかく知ってる人は少ない。つまりこの通信が云々の話は、その上位の人も知らない俺達だけの秘密ってことになるな」
ガンテツは少し納得しない顔でうんうんと頷いてはいる。ミルコはいつも通りコーラを片手にお菓子を満喫して、気になることがあれば質問していくというスタイルになるようだ。
「で、安村。お前さんは何かしら重職についてたりはしないのか? そのダンジョン庁という組織の中でも発言力が大きかったり重要人物だったりはしないのか」
「重要人物かそうでないかで言えば、重要人物に当たるだろう自覚はしている。なにせ確認済みのダンジョンの中で深くまで潜っているという証拠のあるダンジョンは今のところここが最深だ。今後の魔素の搬出も含めてだけど、持ち出した魔素の形にどれだけの魅力があってどれだけの価値があってどれだけの需要があるのか、それを確かめるためにもまずはサンプルを持ち出す必要があるだろ? その最初の一歩を俺がやっている、というのが現状だな」
「もう一組同じぐらいの深さで潜ってる連中がいるよな。そいつらはどうなってるんだ? 」
「彼らはダンジョン庁そのもの……と言っても出向だから軍人扱いになるのかな? とにかく属する組織が違うんだ。そっちのほうはサッパリだよ。多分聞いても機密だから教えられないで終わってしまうと思う。彼らは彼らでやることがあるわけだし、協力できるところは協力しあう関係ではあるけどね」
D部隊が持ち帰ったダンジョン資源に関してはどういう扱いを受けているのか、ちょっと興味が湧いてきたな。ダンジョン庁経由でまとめて換金しているのか、それとももっと別な何かなのかまではちょっと判断できない。
「ま、とりあえずそっちで用意してくれるってなら俺は大人しく他のダンジョンにフラフラと行ったりせずにここのダンジョンの様子を見せてもらおうかな。ミルコ、その間ぐらいは良いよな? 」
「いいけど、お菓子は渡さないぞ。これは僕の物だからな」
「安村、なんか、ないか。貢物をよこせって訳じゃないが、俺の好きそうなもの、手持ちにあれば何か試しに食わせてみて気に入ったものがあれば大いに安村に便宜を図るぞ」
ガンテツは袖の下に弱いらしい。早速魔よけの成果を試す時が来たようだ。
「とりあえず三種類だそう。気に入ったやつを持って行ってくれ」
スピリタス、全ての酒への冒涜、普通のウィスキーの三種類をそれぞれコップに次ぐ。スピリタスは危険なので量は少なめだ。
まず、全ての酒への冒涜から渡してみる。ガンテツはいきなり飲むことはせず、まず匂いを嗅ぐ。
「酒か。ちょうどいいな。俺も酒は大好きだ」
そういってグイッと一口で飲み切る。
「これはだめだな。薬の味がする、酒としてはとても評価できる代物じゃない。まだ塩だけ舐めてるほうがマシな味だ」
味覚は悪くないらしい。やはりその全ての酒への冒涜は異世界人にも評価されない不味さらしい。
「次のは……おぉ、なんか爽やかな甘い香りがするな。これは楽しめそうだぞ」
もう一つのウィスキーに手を出す。間に口を漱がなくてもそのまま味わっていけるクチらしい。こいつは中々強敵かもしれないな。
「うん、美味い。まろやかでサラッと飲み込める。これは結構値段がする奴じゃないのか? かなり美味い酒だぞ」
「そうでもない、この魔結晶でこいつが五本は買えるぐらいの値段だ」
ドウラクの魔結晶と四リットルの容器を見比べさせて価格の安さをアピールしておく。
「そうか、それは中々だな。ちなみに最初の奴も同じ値段か? 」
「こっちは七本ぐらい買えるな。だが、味覚を破壊されるとごく一部の間では人気が高い。お薦めはしないな」
「なら何で飲ませたんだよ」
「これで満足するなら安いダンジョンマスターだと思ってな。一応ウマいマズいの選択肢の幅があるって事を理解しておいて欲しかっただけだ」
「なるほどな。納得しておこう。最後のだが……量が少なすぎないか? 一口で無くなってしまいそうだぞ」
スピリタスのコップの中身を眺めながら寂しそうにつぶやく。そんな悲しい顔をしてくれるなよ。
「見た目より味と中身だ。相当キツイから覚悟して口にするといい」
「そうか? じゃあ遠慮なく……おおおおおおおお」
どうやら喉が焼けている真っ最中らしい。アルコール度数九十八%は相当に効くだろう。ほとんどアルコールだ。飲めない俺なんかがうっかり口にすると急性アルコール中毒で倒れてもおかしくない劇物。さて、評価のほうはどうだろうか。
「こいつは効くな。効くがただきついだけじゃない。ほのかな苦みもする。こいつは中々に楽しい酒だ。気に入った。三本の中では一番酒を飲んだ気にさせてくれるな」
「なら三本とも持っていくといい。次からはまた別の酒を用意してきてやる」
このダンジョンマスターは使える。うまく行けば新しいダンジョンを開くとともに通信関係がクリアされて新しいダンジョンへみんなが目移りしてくれるかもしれない。そしてその間にこちらはより深くでより美味しい思いが出来るようになる。もしダンジョンマスターが絡んできた時のための試金石として用意した酒だが、魔よけにはならなかったものの良いものは寄ってきてくれたようだ。
「ふー……さっきのきつい奴、こいつはまた持ってきてくれ、サービスするからよ」
「ガンテツ、袖の下で探索者を優遇するのは協定違反だぞ」
「お前さんもお菓子を散々要求してるだろうに。それにこいつはれっきとした異次元間外交行為だ。外交を潤滑にするためのオイルはケチるべきじゃないだろう? なあ? 」
酔っているのかどうかは解らないがかなり緩い雰囲気に持っていこうとしているのはわかる。ここはあまり口に出さず、成り行きを見守ることにしよう。
「ミルコも一杯飲んでみろって。この良さはみんなに伝えるべきだ。何なら俺が今からみんなのダンジョンに立ち寄って一杯ずつ配って歩いてもいい」
「僕はお酒はあまり好きじゃないんだ。甘いもののほうが良い」
「じゃあミルコには今度甘い奴をまた見繕ってくるよ。ガンテツの迷惑料も含めて」
「おや、そうかい? 悪いなあ催促したみたいで」
ちょろい。よし、今の雰囲気ならうまい事切り抜けられそうだ。ガンテツはよほど気に入ったのか、スピリタスの小さい瓶をちびりちびりとやってはそのたびに叫んでいる。多少やかましいが、環境音としてはそう悪い気分じゃない。飲み屋で隣の客の騒ぎを聞きながらウーロン茶で飯を食っている気分に浸れる。
「他には……そういえば前のダンジョンで探索者にビールを奢ってもらったことがあったな。見た目的に好きそうだからと言って、あんまり冷えてなかったがあれも美味かった。アレを飲んだ後じゃ、前の世界で飲んでた酒は牛の小便だな」
でた、牛の小便発言! やはり異世界人は自分の世界の薄いエールを牛の小便というらしい。これは真中長官にぜひとも共有しておかないと。
「熊本第二のダンジョンマスターが自分の世界のエールを牛の小便と発言した!! 」
スマホで自動送信でピッピッと入力しておく。これで送り忘れる事は無いだろう。
「ふむ……なるほど、それが電波か。うーん……なるほどな、光の波長ほどではないが一定の周波を持った音の波に情報を載せることで可能にしている、という所かな。後は異次元間でも通じるように更に改造を加えて、階層間に抜け穴を作っておけばそこを通じてその電波って奴が届くように改造する、ということで良さそうだ。通信の実際の仕組みについてはよく解らねえが、こいつを同じように送受信できるようにすればいいんだろうな」
スマホを外から見てるだけでそこまで解るらしい。凄い解析能力だ。
「その美味い牛の小便、俺なら冷えてキリッとした奴を用意できるとしたらどうする? 」
「そいつは楽しみだ。是非それも頼む。量は多くなくていい。安村は多少酒には詳しそうにみえるからそれもきっと美味いはずだ。お礼は必ず形あるもので返そう」
一本二本ぐらいでいいってことか。家で冷やしておいてコーラのついでに保冷庫に放り込めばそれでいいだろう。
ガンテツが全ての酒への冒涜を淡々と飲んでいる。よくそのままで飲めるな。
「他の飲み物で割って飲まないのか? そいつをストレートで飲むのは美味しくないだろう」
「今のところ割って飲むものが水ぐらいしかないからな。水で薄めて誤魔化すぐらいならそのまま飲んで酔ってしまった方がまだ建設的だ。続きには期待できることだし、な」
もうすでに俺から酒をまきあげることが決定しているようだ。出費が多くなるな。今日は早めに切り上げて中古ショップへ立ち寄って機械本体をいくつか見繕って充電した状態で渡しておけば何らかの成果は上がってくるだろう。
腹も落ち着いた。そろそろ午後のダッシュ大会の時間だ。二時間を二回。椅子から立ち上がるとぐっと伸びをする。
「なんだ、もう行くのか? 一緒に飲まんのか? それはそれで寂しいんだが」
「俺は酒が飲めない体質なんだ。それに今日は早めに上がる予定が出来たからな。このスマホの予備、壊していい奴を二台と正常に動く奴を一台、それぞれ用意して持ってくるのと、お望みの酒の準備と、やることが増えた。また明日来るからその時にでも渡せるようにしておくよ」
「仕事が早くていいな。そう言う奴は俺は好きだぜ」
ニヤッと笑うガンテツ。向こうも仕事は早そうだし、ダンジョンについても色々と話を聞いておけばダンジョンマスターへのつながりが純粋に倍になる。何より、ミルコよりもダンジョン設計に詳しそうだ。新しいダンジョンを作るにしても作らないにしても、情報を仕入れる先が二つに増えるのは悪いことじゃない。仕入れる場所は一つだが、俺がダンジョンに来たかどうかはガンテツ側から認識できるはずなので情報のやり取りもスムーズに行えるはずだ。
「じゃ、机と椅子は出しっぱなしにしておくから適当に楽しんでいてくれ」
「おう、またな。今日はサンキューな」
「じゃあ僕はダンジョンの監視に戻るよ。ガンテツはほどほどに楽しんだらちゃんと荷物片づけて帰るんだぞ」
「解ってるよ。今はこれが最後の一杯だ。次はつまみがあると尚いいな」
買い物リストがまた増えた。メモっておこうか。スマホ中古で三台、酒、つまみ、コーラ、ビール一ケース……また昨日と同じ場所に買い出しだな。あそこには中古ショップが併設されていたはずだ。そこでスマホでまだ通信可能な奴を見繕っておこう。
酔っぱらってゴキゲンなガンテツを捨て置いて四十三層の周回運動に戻る。しっかり話し込んだおかげで体のほうも緩んでしまった。全身をパンパンと引き締めるつもりで叩く。
さて、いっちょ稼ぎに行くか。
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