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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
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861:奴の名はガンテツ

 今日は気持ちのいい朝だ。今日は暖房無しでも充分に温かい。ありがとうダーククロウ、スノーオウル。朝食のお高いパンをトーストするとお高いバターをぬりぬりして、表面をバターナイフが削るザリッザリッという音に心地よさを感じながらいつもの朝食を食べ終わる。程よく焼いて硬くなったトーストにバターを塗る音、いいよね。


 今日の昼食はお手軽サンドイッチ。ウルフ肉を軽く焼いてトーストしたコッペパンに挟み込むだけ。マヨネーズとトマトとレタス。シンプルイズベストでウルフ肉が腹にも溜まる。肉が多少多めだが、己が満足することが一番大事だ。


 今日はお手軽昼食なので家から出るまでの時間にも余裕がある、今の内に保管庫内のコーヒーも新しいものにしてしまおう。


 万能熊手二つ、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 柄、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ヨシ!

 魔よけ、ヨシ!

 保管庫の中身、ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。今日も一人行。茂君経由カニウマ行準快速の発車だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 到着した小西ダンジョン、今日もギルドは平和そのもの。研修も順調に進んでいるようで、入ダン退ダン受付の列も手早く進んでいる。この調子なら一人立ちも遠い日じゃないな。


「行ってらっしゃい、ご安全に」


 問題なく入ダン手続きをしてリヤカーを引いてそのままエレベーターまでずずいっと進んでいく。正直な話、リヤカー引くのも面倒になってきた。行きに保管庫に放り込んでおいて帰りはリヤカーを持ち出す。そういう気軽な探索がしたい。非常に贅沢な話なのは自覚しているが、そのぐらいこの何も背負わずにリヤカーを引くというだけの行為に若干飽き始めている。


 七層で茂君して帰ってくるといつも通り四十二層へ行く。エレベーターの暇な時間、雑誌を読みふける。ダンジョン出口調査というものがあり、各ランクでいくらぐらい稼いでいるかをざっくりと時給計算したページが出てきた。個人情報に引っかからない範囲でいくらぐらい稼いでいるかというのを暫定的に出したデータだそうだ。個人単位ではなく、パーティー単位でいくらぐらい稼げているか、というのを可視化して、探索者がこれぐらい儲けられるんだぞという実証実験のためだそうだ。


 この金額を見ると探索者がどんどん増えて稼げなくなっていくんじゃないか? という疑問もわくが、その分だけ探索者という職業の危険さとそれに見合った報酬を受け取っている、という探索者側からのいわばお誘いの文句だ。ついでにこれが公表されているとなれば雑誌の売り上げにも貢献するだろうという裏側も透けて見える。


 潜っていた時間、潜った人数、それからいくら稼いだかをかなりの人数にインタビューして回ったらしく、調査対象五百人に対して各ランク、目標階層に対しての時給換算での一覧表が作られ、自分たちの実力ならどこまで潜ることが出来るのか、どれだけ金を稼ぐことが出来るのか、をざっくりと提示している。


 他所のダンジョンなので混み具合やモンスターのそもそもの密度に差はあるだろうが、特定のダンジョンにおいてこのレベル帯ならこの金額は稼げますから頑張れば行けますよ、という後押しにはなっていそうだな。当然B+ランクの人たちは自分の稼ぎを公開することは無いようであった。


 情報もBランク帯までの情報に抑えられている。もしここでB+ランクで一日三千万稼げますよ! なんてことを発表してしまった日には、三十層がBランク探索者でごった返し、多少のペナルティを受けてでも無理に稼ごうと探索者証が黄色くなるのを構わずに奥へ無理やり進んでいく探索者の集団が見られることになるだろう。


 俺の稼ぎは人にはちょっとうっかり言えない金額になりつつあるので、知っているのはギルド職員と自分達だけ、という辺りで留めておいたほうが良さそうだ。また大梅田で暴動が発生する、なんて話にもなりかねんしな。


 到着した四十二層でリヤカーを解放。準備運動を終えたところでまずはひとっ走り二周、いつもの高機動戦闘を繰り広げる。今日も元気でドウラクが美味い!


 ◇◆◇◆◇◆◇


 きっちり二周してきて時刻はお昼。二千四百万ぐらいは稼いだかな? 午前でこれだけ稼げれば十分だろう。さぁ昼飯食って午後からもいっちょ頑張るか。


 いつも通り椅子と机を出してサンドイッチを優雅に堪能していると、目の前に突然転移してくる者が一人。


「おいっす」

「……」

「おーい、聞こえてるかー? 見えてるかー? おいっす! 」

「聞こえてます。見えてます。で、どちら様ですか」


 聞かなくても誰か何となく想像がつくが、一応聞いておく。ダンジョン内で転移を使えるのはダンジョンマスターだけ。そしてミルコが言っていた通りなら、ダンジョンマスターは基本的にダンジョンから離れられない。


 ここまで情報を絞り込んで、転移でここまで飛んでこれるダンジョンマスターの該当者は三人。ミルコ、海外の攻略されたダンジョンのダンジョンマスター、そして熊本第二ダンジョンのダンジョンマスターである。さぁ、海外か国内か、どっちのダンジョンマスターを引いたのかな。


「そう他人行儀にせんでもいいぞ。ミルコにはちゃんと許可は取って接触してるからな。今のところ一番深くまで潜ってる探索者って奴の顔を直接見に来たんだ。暇だしな。ワシはガンテツ。つい最近攻略されたダンジョンのダンジョンマスターをしておった」


 ガンテツという名前らしい。名前の由来は解らない。が、見た目はタンクトップに腹巻といったコテコテのオッサンデフォルメされたダンジョンマスターが目の前にいる。これの相手を今からしなきゃいけないのか。今日の収入はこれ以上見込めそうにないな。酒は……飲みそうな見た目をしている。さっさと追い出す方向性で行くのか、それともじっくり話し込むのか、まだ決めるには早すぎる、もう少し様子を見よう。


「あんたのことはよく見させてもらっているよ。なんたって近所で今のところ数人しかいない希少スキルの持ち主で、ダンジョンによく来てるメンツの中では一番仕事に向き合ってる御仁だしな」


 地球を広く見た場合、熊本は近所に該当するらしい。まあ海外に比べたらよほど近所であることは確かか。近所だからフラッときた、というなら、海外で踏破されたダンジョンマスターも同じように近所だからと断ったうえで希少スキルの所持者に会いに来たりしているんだろうか。


「俺たちの中でもあんたの戦い方は結構人気があってな。ダッシュしながら次々にモンスターを倒していったり、意外な方法でボスを倒したり。次はどんな搦め手で攻略していくのか楽しみにしてるダンジョンマスターも多い。ファンも多いぞ」


 ダンジョンマスター間でも俺のファンはいるらしい。サインを求められたりしたときのためにサインを考えておくべきだろうか。でもメルカリに流されたら困るからな。そういうのは無しにしてほしい。


「で、今日は本当に顔を見に来ただけなんですか? 何か話があったりするとか」

「そうだなあ……今日は顔見せだけだな、こんな奴もいる、という事を伝えておくのが良いと思ったんでな。菓子を頻繁にねだるし、ミルコの顔ばかり見ていると飽きるだろう? 」


 ミルコの顔が飽きる、ということはない。元がいいのかミルコの造形はかなり中性的でかわいいとも言えるしかっこいいとも言える。同世代の男女両方から好まれやすい見た目をしていると言える。ガンテツのほうは……俺にとっては見慣れた感じだ。ブタ〇リラの父親っぽい何とも人懐っこさすら感じる所がある。


「一つ聞いていいかな」

「なんだ、俺に答えられる範囲でダンジョンマスターの規範に外れない範囲なら何でも答えるぞ」

「熊本第二ダンジョン……と呼んでいるあんたが担当してたダンジョン、なぜ踏破させたんだ? 続きを作っていって踏破させないことも出来たんじゃないか? 」


 ガンテツは眉間にしわを寄せると、そのしわの中心をポリポリと掻きながら考えている。その間に食事を進める。しばらく考えて、考えがまとまったのか両目を開いて語りだした。


「大きく理由は二つ。ちゃんとダンジョンの破壊機能が作用しているかどうかの再チェック。もう一つは、ダンジョンに飽きが来始めているってことだな」

「それはどこを覗いても同じ、だからか? 」

「そうだ。画一的なダンジョンのおかげで製作コストを安くあげられたのは良いことだが、何処のダンジョンを覗いても同じマップで同じモンスター、戦い方に差異はあれど見てる風景は基本的に同じ。三年もすると流石に飽きて来てな。何か新しいことを考えつくことも必要なんじゃないかと思い始めてな。だからまず動くなら俺から動こうと思ってな」


 ダンジョン見るのに飽きた。それが大きな理由らしい。たしかに、次々と新しい階層を用意しても一部の探索者しか潜ってこれないなら見る相手も同じ、戦う種類も同じ。これでは飽きてもしょうがない、のかもしれないな。それに耐えて自分のダンジョンを維持し続けるというのは性格によっては辛抱たまらないものなのかもしれない。


「ということは、新しいダンジョンを作る用意がある、と? 」

「おう、俺はそうしたいと思ってる。だからいろんな意見を聞くにあたって、ダンジョンマスターだけでなく探索者視点でどういうダンジョンがあると嬉しいか、楽しいか。そう言うものも取り入れられたらいいと思ってよ。その点どうだろう? 何かおもしれえネタとか持ってねえか? 」


 面白いネタか……もしくはダンジョン探索をしたくなるようなネタ、便利になるようなネタ、それらを提供されるのが目的という事か。


「そうだな……しいて言うなら通信かなあ」

「通信、ってことは会話のやり取りを遠距離でしたいってことか」

「こっちの世界の人間はこういう機械で遠距離でも……ダンジョンの中では使えないが、この星の中でなら基本的に文章や声のやり取りが出来るようになってる。これがダンジョン内で使えるようになると、ダンジョン内のリアルレポート……つまりダンジョンマスターが俺を見てるような光景を、人間同士でも楽しむことが出来るようになる。いわゆる生中継配信ってのが楽しめるようになるから、我々にとっても楽しみや見せびらかすための楽しみが一つ増えるようになる。しいて一番に挙げるならそれかな」


 スマホを見せながらガンテツに説明する。すると、興味を持ったのかミルコまで転移して来た。とりあえずいつも通り菓子を出しておく。


「ようミルコ。来ないと思ってたぜ」

「なにやら面白い話をし始めたからね。その通信の話については僕も興味がある……ってこら、頭をなでるな」

「いいじゃねーか久しぶりにこうやって他のダンジョンマスターと触れ合える機会が出来たんだ。スキンシップは大事だぞ? 」


 ガンテツがミルコの頭をなでなでしている。オッサンと息子、ってとこだろうか。


「年上には敬意を払うべきだと思うよ、ガンテツ」


 え、ミルコのほうが年上なの?


「解ってはいるけどよ、見た目は逆だからな。それにこういう話は俺の方が詳しい。適材適所になるだろ? 」

「それはそうなんだけどね。で、通信がどうだって話だけど安村、その機械貸してくれるかな。分解して中身を見たい。魔術的に置き換えが出来る部品があるならその通信に関する情報を魔法陣化して新しくダンジョンに埋め込む巨大な回路として再現できるかもしれない」

「さすがにこれを分解されるのは俺の日常に影響が出るから勘弁してほしいな。今度同じ規格を使う、俺のじゃない同じような機械を持ってくるから、それを渡す。それなら好き放題分析してもらっても構わない。それに個人情報も入ってるからな。会いに行くのに一苦労する相手もいるし、自由に壊していいものを用意するからそれまで待っててほしいな」


 さすがに俺の手持ちを壊されるのは問題だ。白SIM入れたスマホを用意するまで待っていて欲しい。それでもし通信環境が作れるなら大ニュースになるだろうし、既存のダンジョンでも行えるようになればまた話は変わってくるだろうが……


「どうせ暇なんだろう? 早ければ次に潜ってくるときにでも調達してきてその時はミルコ経由で呼び出して渡すから、その時は好きに弄ってくれればいい」

「解った、楽しみにしておるぞ。そういう機械いじりとか仕組みいじりは大好物でな。出来るだけ早く解析して、その電波通信とやらが使えるようにしてやるわい」

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
ザ・ドワーフって感じ?
 たぶんだけど普通は命懸けの戦いをする場所なら意見を求められたら強さが欲しいってなるから、エレベーターに始まって次は通信って便利さを求める安村さんはやっぱ変わり種なんよなぁ。
おっとぉこれは生配信な方向にいくのかしら
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