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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
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859:新人研修その2

 五十層で階段まで復路を歩き終えた後、解る範囲であたりをうろうろしながらモンスターを倒していく。五十一層ほどの戦闘強度は無いが、手ごろな相手で無難に戦っていくというクールダウンとしてはちょうどいい感じである。


 ドロップ品にしても、シャドウバイパーの牙とシャドウバタフライの鱗粉について使用用途がある程度見極めが出来ている現在、換金商品としての価値はマリモが落とす謎の種と完全危険物であるホウセンカの種に比べて現金化の道に近い。あつめるならこっちのほうがまだ貯金への近道であると言える。


「マリモの種っていつになったら金になると思う? 」

「見当もつきませんね。そもそも育成日記を公開してもらってるわけでも無いですし、やっぱり自分で育成して実を納品してこんなものが出来上がります、と自力で見せてあげたほうがもしかすると早いのかもしれません」

「他人任せではダメって事か。でもそこまでやると本業の植物学者とかそっちの人たちの仕事を奪う事にもなるような気がするんだよなあ」


 餅は餅屋。植物に関しては植物学者に任せるのが一番だとは思うんだが。


「農作物に限らず植物の研究なんかは時間がかかるものですからね。大人しく結果が出るのを待つしかないですよ。もしくは、【木魔法】所持者が少なすぎて研究に寄与できていないのかもしれませんしね。仮に研究目的で【木魔法】を覚えた研究者が居たと仮定してもですよ。スキルの使用は地上では制限がかかりますから、手慣れた探索者を専門家として囲い込む必要が出てくると思います」

「年単位で塩漬けにするドロップ品か……是非高い値段でやり取りされることを願うしかないが、そこまで高いものになるんだろうか。例えばポーションの代替品になるとか」

「それだと、今度はポーションの値下がりが始まって財布を直撃しますけどいいんですか? 」

「それも困るな。よし、種関係は塩漬け。必要になったらまた提出するって事でいいだろう。今のところアレを採取できるのは限られてるんだ。こっちに引き合いが来ないと言うことは他に引き合いが来てる可能性もあるわけだ。周りの進捗に任せよう」


 シャドウスライムが一匹現れたのでバニラバーの儀式をする。キュアポーションのランク2とランク3を両方くれるのは財布にとてもやさしいが、キュアポーションはこの階層で使う可能性もあるのでそのまま査定に流す、ということは難しい。今のところはランク2のほうを一日一本ずつ飲んでいくことでシャドウバタフライの蓄積した鱗粉の毒素をデトックスしていく。


 ランク1でも効果はあるようだが、ランク1をわざわざ取りに行くのは効率が悪いとさっきハッキリ言われてしまったので今後はランク2を飲むようにする。ケチって体調を崩して探索が出来なくなることを考えると、たとえ七万余分に出費してでもその分以上に稼げることが解ってる以上、飲んで活躍するほうが経済的だと言える。


 よし、特に用事もないのに下層をぶらぶらする癖は直していこう。今俺に必要なのは六層と三十八層と四十三層。この三点だけ抑えておけば十分だろう。


 時間ギリギリまで五十層を堪能した後四十九層に戻り、ウォッシュとキュアポーションでデトックス。ドロップ品……と言っても魔結晶とポーションが二種類だけなのでそんなに多いという感じはしないが、魔結晶はどっさりと持ち帰ることが出来ているので、品数が少ない分だけ査定の負荷は小さいはずだ。せめてポーションも袋を分けて対応してしまおう。


 エレベーターに乗って一層までのボタンをポチ。早速荷物を仕分け出す。


「さて、今日の収入はいかほどですかね」

「四十八層を全力で回るのとあまり変わらないかな。五十二層のあのダラダラした戦闘をずっと続けてたら中々の収入になったとは思うけど、そこまでの収入にはならないってイメージかな。それでも二人で一億ぐらいってところだね」

「次のマップぐらいまで行かないと大きく変化はないってところですか」

「ここまでの経験で言うと、次のマップ、鍾乳洞を抜けた先だとポーションのドロップ率が倍になるって傾向がある。モンスター数が同じならば収入は単純に二倍になるって事だ。懐が温まりすぎて発火しそうだ」


 さて、今月号の探索・オブ・ザ・イヤーは……と。【生活魔法】は少し価格が下がって四千万円。代わりに【毒耐性】が値上がり傾向。【索敵】は相変わらずのストップ高。ほかの魔法もそれぞれ値動きはしているが、見るべきところは毒耐性ぐらいのものか。金で買ってそろえてしまう……という事も出来なくはない。【魔法矢】の希少性から少しばかりの値上がりが見られるが、これはスケルトンアーチャーからしか出ないからだろうか。


 後は【木魔法】【隠蔽】のスキルオーブの相場が新しく載ることになったらしい。【木魔法】については蔓を伸ばす以外に植物の生育促進効果がある、とだけ今のところ解っている話。それ以外にまだ何かありそうな気はするんだが、それは持ってる奴にしか解らない。一応値段としては三千万の値段が付いているが、値段だけの効力が体感できない、または扱い切ることが出来ないなら価格は下がっていくし、もしかしたら他のジャンルで使い所があると判断された場合は価格は上がるだろう。


 例えばBランクほどの強さになった探索者が引退して農業試験場で働く……なんてことになった場合、大いに活躍することは出来そうではある。今思いついたのが農業試験場だけだが、他にも個人や企業で品種改良なんかを行っている場所では、促成栽培を繰り返すことで短時間でより確実に成果を出すための手段として用いられる可能性があるな。ミルコがそう言ってたし、そういう使い方も想定されているんだろう。


【隠蔽】 については、モンスターが探知する距離を短くすることと、【索敵】の探知に引っかかりにくくなる効果があることが提示されている。具体的な数値として出されている訳じゃないが、半分ぐらいの探知距離になったのは間違いない。おかげで五十層でも……そうだな、そのおかげで五十二層でも比較的楽に動けた、というところはあるかもしれない。これで二人とも【隠蔽】が無かったらもっと厳しい戦いだった可能性はある。ありがとうスノーオウル。君は羽根以外でも活躍してくれたよ。


 エレベーターが一層に着き、出入口まで芽生さんの護衛付きでリヤカーを引く。今日はいつもより軽く感じるのは品数が少ないおかげだろう。それでも魔結晶はどっさりと持ち帰っている。横を抜けていく探索者がスゲーとか言いながら俺の先へ行く。ついでにスライム処理をしてくれているので楽ちんだ。


 退ダン手続きをする。今日はいつもより三十分ほど早い。どうやら交代で休憩を取っているらしく、新人ちゃんが一人で奮闘していた。


「すいません、まだ慣れてないので何時ごろ入られたか教えていただけると助かるのですが」

「午前九時から九時半の間ですね」

「確認します……ありました。今日もお疲れ様です」

「そちらも、研修頑張ってね」

「ありがとうございます。早く慣れるよう頑張ります」


 査定カウンターも今は空いている。早く帰るとたまには良いことがあるな。が、査定カウンターも一人で対応していた。どうやら全体的に新人研修の一人で出来るもん時間を設けているらしい。さて、ちゃんと仕事をしてくれるかどうかみてやろうじゃないか。


「査定お願いします」

「は、はい、承ります」


 荷物を順次渡すと、荷物を確認。まずはポーションを二種類渡す。それぞれ袋の中身を確認して、袋ごとに種類分けされていることに気づいた様子だ。後はポーションの鑑定だが……


「えっと、この色はキュアポーションのランク4と……最上位ポーション? こんな高いのをこんなに持って来たのこの人たち」


 前に注意したが、独り言がまだ漏れている。他に探索者が居ないので聞こえても問題がないが、他に査定待ちが居たら問題になる可能性がある。もうしばらく様子を見てまだ続くようなら再度注意したほうが良いだろうな。


「後は魔結晶の緑が……重、でも分けてくれてあるのは査定のこと考えてくれてるからかな」


 独り言はまだ続く。ちゃんと想定に近い金額を出せれば今回は目をつぶろうと思う。


「えっと……出来ました。二分割、でよろしいですか? お連れ様がお一人居らっしゃるようなので」

「はい、それでお願いします」

「解りました……でました! これで合ってますでしょうか」


 そこは合ってる、と胸を張って言わないといけない所だと思うぞ。間違いございますと返したらどうなるか考えると少し面白い事態になってくれるだろうが、流石にそれは意地悪が過ぎるだろう。


 本日の査定価格、四千八百二十二万千百円。大きく違ってはいない。予想通りの価格ではあるし、ポーションの数え間違えで出て来る差異も無い。査定はちゃんとできたと言えるだろう。


「合ってると思うよ。後、合ってますでしょうか? って聞き返すのはまずいと思うから注意したほうが良いと思うよ。胸を張って金額はこうです、とハッキリ言えるように頑張って」

「はい、ご指導ありがとうございます」


 意見には素直に従う子らしい。内面でどう思ってるかは解らないが、そこで素直に頷けるだけ素質はあるな。今後に期待しよう。


「何ですか今のやり取り、カスハラですか? 」


 軽口気味に芽生さんが失礼なことを言う。


「いくらか解らないけど持って来たってなら別だが、いくらか計算し終わってから来る探索者もいる。どっちか解らない相手にこれで合ってますでしょうか? って受け取った側が確認を取るのはおかしいだろ? 今回の査定金額はこれだけです! って胸を張って言えるようにならないと査定業務は務まらないじゃない。だからそう伝えたつもりだったんだけど」

「多分余計なお世話だったと思いますねえ。四十一で老害の仲間入りしないように気を付けたほうがいいと思いますよ」


 老害……なるほど、そう受け取られることもあるということか。


「そう感じると言うことは他の人にとってもそうなんだろうな。今後は控えるようにするよ」

「細かいことを気にし始めるのは大事だとは思いますが、一言伝える前にぐっとこらえるのがコツです、ぐっと」


 グッとか。よし、俺覚えた。今後は気になることがあってもグッと我慢して一言多いと言われない男になろう。今日から俺は理解力のある男くんにもう一歩進むんだ。


 支払いカウンターでも同じく新しい支払い嬢が一人で支払業務を暇そうに待っていた。


「振り込みでお願いします」

「はい、承ります。振込先はどちらになりますか」

「この口座へお願いします」


 ギルドに登録されている振込先一覧から、データベースと照合するために通帳が必要になったらしい。通帳はいつも保管庫で持ち歩いているためいつでも出せる。いつもの支払い嬢なら顔パスだが、この顔を覚えといてくれよな、なんてことを言いだすとまた俺の中の厄介おじさんが顔をのぞかせてしまう。言われたことは素直に応じて何も言わない。それが一番社会が上手く回る。たった今それを実感したのだから言われたとおりにやるのが一番だ。


 通帳とデータベースを照合し、既に登録された振込先であることを確認すると支払い嬢は通帳をこちらへ返してくれた。


「はい、振り込み作業完了です、お疲れ様でした」

「ありがとう」


 芽生さんは……どうやら先に着替えに行ったらしい。多分通帳もレンタルロッカーの中に放り込んであるんだろう。


 待合室でいつもの冷たい水にちょっと熱湯を足してぬるい水を飲む。おいし……まだ甘いな。鼻の奥にまだ鱗粉の甘さが残っているらしい。これにも慣れないとな。五十六層にたどり着くまでは我慢だ。


 しばらく待つと芽生さんが着替えて戻ってきて同じく支払いを要求する。ここで全額現金で、と言い出したらどうなるだろうか。金額が金額だし面白いことになるかもしれないな。


「終わりましたー。今振り込みじゃなくて現金でくれって言ったらちゃんと出てくるんですかね? 」

「同じことを考えてたが、そういういたずらはやめとこう。なにより現金を持ち帰る手間が増える」

「そうですね。新人いびりはやめておきましょう」


 帰りのバスを待ちながら五十二層の感想戦に入る。


「五十二層は大分戦いにくいですね。三十一層の橋でケルピーと延々戦っていた時間を思い出します」

「アレも長期戦だったな。あっちのほうがやることは簡単だったが、こっちはそれなりに考えながら戦わないといけない。やはり【毒耐性】取りに行くか? 」

「五十層巡ってればそのうち出そうな気もしますが、出たらどっちが先に覚えますかね。近接戦の可能性が高い分だけ洋一さんに先に覚えてもらいますか」


 普段なら芽生さんが先に……というところだが、そのほうが合理的なのは間違いないな。


「それでいいなら。だとすると二個目も早めに拾いたいものだな」

「五十三層からどんなマップが出てくるのかもちょっと気になりますね」

「五十二層もまだまともに歩けてないのに随分先のことをお考えで。なにか思い入れでも? 」

「正直なことを申しますと早く砂糖濡れから脱出したいです。家に帰ってもまだ甘い匂いが漂っている気がして落ち着かないんですよね」

「次回は五十二層で長く活動できるかチャレンジだな。地図もまだ全くできてないし、あそこの戦闘スタイルに慣れていくのが先だ」

「じゃあ午前中四十八層で肩慣らししてカレー食べて五十二層ですかね。真っ直ぐ行き帰りで三時間かかりますから、五十二層で活動できるのは二時間半ぐらいになりますね」


 二時間半か……ぐるっと一周回って壁際に階段があるかどうかを確認して終わりになるかな。戦闘が長く続けばその分だけ余分な時間がかかることになるが次回の懸念事項として上げておこう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
 え? これカスハラ? 普通に査定結果はこちらになりますって断言してもらえない方が不安でしょうがないでしょう普通。信頼して渡してるのに信頼出来ないは困る。  もし本当に金額が合ってないとなったらギルド…
一回潜れば1人当たり5000万近いなら買えばよくね? そんなに溜め込んで何するのって思っちゃう
「これで合ってますでしょうか」 じゃなくって、 「こちらでよろしいでしょうか?」 と聞き返すのであれば、良かったんじゃないですかね。 最終的に同意を求める、というルーチンになっているから、という事であ…
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