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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
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857:五十二層ぶらり旅 2/3

 満腹になったミルコを追い返し、充分な休息を取ったので午後からの活動を再開する。目的地は五十一層、まだ階段が見当たらない紫色した鍾乳洞エリアだ。


 まずは五十層。道すがらモンスターを倒し続けて四十五分、道中のモンスターはもう慣れたもの。一対一で戦える都合上お互いに苦戦する部分は特にないし、連携しなければ倒せないというパターンも無い。鱗粉は相変わらず浴びるものの、適度なウォッシュで体が糖分まみれになることは回避できているし、毎回というほどではないにせよ慣れてきたので出来るだけ鱗粉を吸い込まずに戦う方法というのも心得てきた。


 しばらく進むと、バトルゴートの形をしたシャドウスライムが一匹で移動しているところを見つけた。


「そういえば、こいつにバニラバーは効果あるんだろうか」

「どうですかね。試してみますか、他が寄らないように警戒しておくんで、集中してても良いですよ」


 芽生さんに安全確認を任せてスライムに近寄る。スライムがこっちに近づく前に、足元へ丸ごと一本バニラバーを放り込む。すると、シャドウスライムが形態を変え、大きいもののほかのスライムと同じまるっとした形に変化し、バニラバーを咀嚼し始めた。これはチャンスと索敵を覗きながらスライムに近寄るが、赤くならない。どうやら食事中には周りが見えなくなる性質は相変わらず持っているようだ。


 バニラバーを溶かしきる前に核を突いてスライムを一気に破壊する。スライムは黒い粒子に還り、そしてポーションを二本と魔結晶を落とした。どうやらドロップを全部落とす、という作用はすべてのスライムに作用する可能性が高いな。


「危険な場所だからバニラバーするのは難しいが、中々の収入になる事だけは解った。バニラバーできる時はバニラバーしていこうかな」

「一匹の時なら問題なくできそうってところですね。二匹出てきて既に戦闘態勢の場合はどうなるか、また調査になりそうですが」

「体が大きいからか、半分だけ渡してもすぐ食べ終わってしまいそうだ。それでも、バニラバー百円でポーション二種類と魔結晶で八十万ちょい。一匹当たりで計算すればかなりの金額になるな」


 パターンと場所と数に限定されるが、出来るときはバニラバーしていくことになった。キュアポーションのランク2とランク3は本数がいくらあってもこの先困らないだろうし、何より自称スライム研究家として挙動は逐一考えていくことは気晴らしにもなる。ちょっとだけ空気の甘ったるさが薄らいだ気さえする。やはり、スライムは、良いな。


 シャドウスライムもそれなりに強いし向かってくるとは言えスライム。同じバグが内包された存在としてこいつだけが出てくる階層があればより美味しいモンスターとしての評価が高まるに違いない。この甘味まみれの階層の一服の清涼剤としての存在は俺の中で今後も幅を利かせていくことになるだろう。


 戦闘を合わせて四十五分かけて素直に階段に到着することが出来た。多少鱗粉にまみれてはいるが、階段を降りる前にキュアポーションのランク1を念のために胃袋に入れておいてここまでに体内に溜まった鱗粉の毒素の浄化を行う。キリのいい探索というのも大事になってきた。


 キュアポーションのランク1だが、Bランク帯が解放された後で出てくるゴキの毒のおかげで、市場在庫が一時的に減少し、Bランクが解放される前に比べて需要が高まっているままらしい。ダンジョンによっては、二十一層か七層でキュアポーションの直接買い取りを行っている探索者もいると聞く。毒耐性、やはり真面目に入手する方向で考えたほうが良さそうかな。この後も頻繁に出てくるようなら考えないでもないが、やはり耐性系のスキルは早めに取得しておくほうがいろんな健康にいいのかもしれない。


 階段を下りて五十一層に到着。以前宿泊で一晩潜った際に外壁に沿ってぐるりと一周したが、外壁側に階段が無かったことは既に確認済み。後はマップのまだ巡っていない所を目印を探しながら階段を見つけるという割と面倒くさい作業になってしまった。


「さて、マップを東西南北に東西水平方向から南側エリアと外周は探索が終わっている。残るは北側だな。これで上手く見つかってくれれば儲けもんだが、意外と近くにあった、という可能性もあるからな。見落としは無しで行こう」

「外壁に無いと言うことは、この階段があった場所みたいに比較的大きな逆さつららの根元にあると考えていいんですよね。問題はそこにたどり着くまでの行程、と」

「そうなる。虱潰しになるが、頑張って探していこう。この階層を抜けるためにも必要だ」


 早速、真っ直ぐ北方向に足を進める。行って戻って左右に何もないかどうかを確認し、大きなつららの影が見えたところで移動時間と方角、主な目印を確認しながら続きを描いていくという作業になる。これも面倒だが必要な作業だ。


 索敵に三つ、感あり。この動きの速さはシャドウバイパーだな。見えたところで極太雷撃でまとめて処理してしまおう。同時に三匹出て来てくれたので範囲内に入れやすい。これは一番楽ちんちんなパターンである。三匹まとめて巻き込めるだけの密度のまま向かってくるなら、巻き込んで極太雷撃で処理してしまうのが一番効率的だからだ。


 数秒焼いたところで焼け具合を確認。よし、綺麗に焼けたな。焼け跡から魔結晶と牙を拾い上げると次へ進む。今のところだが、スキルでモンスターを焼き過ぎてドロップ品が回収できなかったということはない。そこは細かい所は気にしなくていいとシャドウバイパーで再確認したところだ。よくあるケースだと、高火力過ぎて報酬ごと灰になる、ってケースは見られるが今のところその心配は無いらしい。


「やはり三匹まとめて寄ってきてくれると楽でいいな。至近距離で毒とのやり取りをしないで済む」

「【毒耐性】、純也さんに渡さずに自分で取っておけばよかったとか思ってませんか」

「今となっては致し方なし、だ。欲しければここで取ろう。なんかこの階層のモンスター、スライムは置いといて両方ともくれそうだし、五十、五十一、五十二と三層分のモンスターが居るってことは六回のスキルオーブドロップに期待できるって事になる。確率は一様とはいえ一個ぐらいは取れそうな雰囲気だぞ」

「それまではキュアポーション頼りなのが悩みどころですけどねっと、次きますよ」

「あいよ、まだまだ魔力に余裕はある。ここは地図作りに集中するためにも出し惜しみは無しで行こう」


 シャドウバタフライはここでは三匹一セットで出てくることが多い。シャドウバイパーほどの耐久は無いにせよ、鱗粉による体内蓄積でマヒ効果を付与してくるのはちょっと困りもの。体が動きづらくなってきたかな? と思ったところでキュアポーションを飲むことにしているので、そのたびに一旦休憩してカロリーバーと飲み物を補充することで対応している。


 ドライフルーツの消費はそれほど無いものの、荷物の消費は確実に表れている。【毒耐性】と【生活魔法】と……やはりここまで深い階層になると複数のスキルを組み合わせつつ進むようになってきたのは深い階層まで潜ってきたな、という感じが出てきていかにも探索っぽい雰囲気を醸し出してくれる。


 これ、上層から順番に下りてきた探索者にとっては道中でスキルオーブを拾えない分戦力が低い状態で潜り込むことになるだろうから、三十層までで取れるスキルオーブを地道に集めていくか、しっかり金を溜めてスキルオーブを購入していくしかないんだろう。


 その点、こちらはしばらく余裕がある。とにかくいっぱい倒してスキルオーブガチャを回していこう。


 北方向へ真っ直ぐ行ってみたが道中いくつかのチェックポイントになるようなオブジェクトを見つけては描きこみ、段々地図が出来上がっていく。後は北西方向と北東方向か。どちらへ行くかな。


「うむ……芽生さんや、どっちへ行くか方向をきめてくれたまえ。こういう時は芽生さんの勘のほうが当たる気がする」

「じゃあ……北東方向に行きましょう。五十層が南東方向に階段があったので、同じく戻る方向で北西方向へ向かうのはダンジョンの作りとして甘いと感じます。これは勘ですが、論理的に考えて階段から北東方向へ向かうほうが可能性としては高いと睨みます」

「そういう人間臭いところを逆読みするって事か。じゃあそれで向かってみよう」


 途中で目印を基準に天井と床を見比べながら北東方向の探索を始める。小さい石筍も逃さず地図に描き込んでいき、見逃すことなく進んでいく。もちろんその間に何度も戦いを挟むが、シャドウバイパーが三匹若干距離が離れたところからシュルシュルと音をたてながら近づいてくる。


 これは極太雷撃では処理できないな。全力雷撃で三発入れて確実に一匹を落とすと、後ろから更に近寄ってくるシャドウバイパーに短時間の極太雷撃。流石に極太雷撃の火力は充分だったようで、シャドウバイパーの動きは鈍る。鈍っているうちに全力で近寄り、シャドウバイパーの頭を雷切で斬り落とす。流石に頭を切り落とされたらそれで終わりらしく、顎から一気に二枚おろしにする形で対処すると、そのまま黒い粒子に還っていく。口の中は弱点とみていいだろう。


 その間に芽生さんが一匹を処理し、今回は問題なく倒すことが出来た。しかし、この階層でこの探索強度を必要になるという事は次の階層はもっと厄介なことになりそうだな。


 石筍、逆さつらら小、石筍……と小さなものをみっちりと書き込み、移動時間を描き込む。この辺は細かい目印が多いな。これだけ多いと迷うことが少なそうで有り難い。何も見当たらない所をうろついていた北側に比べるとなんと便利なことか。


 モンスターも五十層より密度が高く、シャドウバイパー三匹だけが今のところ要注意モンスターとして考えている。シャドウバタフライ三匹の場合近寄ってこられる前に迎撃できるし、もし近接されたとしても雷切でスパッと切り刻めるのでそれほど問題にはならない。問題になるとしたら鱗粉まみれになることだけだ。これが一番精神的にダメージがでかいという意味ではこっちのほうが厄介とも言えるが、ウォッシュで綺麗にできるのは同じなので楽ではある。


 シャドウスライムは基本二匹編成になった。一匹ずつバラバラに出て来る時は一匹を倒した後もう一匹をバニラバーするなどして精神的な回復をしながら戦っているので、危険度としては低いほうになる。


 が、シャドウスライムもそれなりに重い打撃を打ち込んでくるうえに、攻撃モーションに入り始めたシャドウスライムにはバニラバーの儀式が通用しないことも判明した。どうやら、索敵が赤から黄色になるという形にはならないらしい。グレイウルフに骨を投げ込んで意識をそっちに向かせる時のような意識の逸らせ方は出来ないのがもどかしい。もしそう出来れば財布はより潤っただろうに。


 バニラバーの儀式をするためにはこっちに気づかない、または相手が向かってきている間に仕掛ける必要があるらしい。バニラバーにもタイミングと限界があることが分かった。また一つスライムについて知見が増えた。


 今のところ迷いそうなポイントは出て来ていない。方角と距離はバッチリ記録されている。ここから突然逆向きに戻ったとしても問題なく階段まで帰る事ができる。北西側はまだ巡っていないので解らないがこっちも似たような感じで有ってくれると、もし当てが外れた場合により探索しやすいマップであってくれるだろうと願っている。


「そろそろ北東側も半分は巡ったかな」


 しばらく移動していると上部に大きな影が見えてきた。大きなつららがある証拠だ。影を指さして方向を指示する。


「あれ、あっちに行ってみよう。階段があるかもしれない」

「あの大きさなら足元に大きな逆さつららがあるかもしれませんね。今度こそ階段があるといいですが」


 頭の上に浮かぶ大きなつらら。五十層でもそういう形だった。これは期待大だが、肩透かしを食らう可能性だってある。慎重に地図を作りながら影に向かって近づいていく。


 やがて影の本体が見え始め、巨大なつららが姿を現した。足元にはシャドウスライムが三匹。バニラバーを二本、地面から滑り込ませるように放り投げて三匹中二匹の意識を逸らせると、一匹をすぐに片付けてバニラバーを溶かしきる前に残りの二匹を俺と芽生さんで処理する。ギリギリタイミングが間に合ったらしく、二匹分のバニラバーの結果が出た。やっぱりこれ美味しいな。


 そして、つららの裏側に回ったところで階段を見つけた。まだ時間は随分余裕がある。五十二層をちらっと見てから帰ろう。もしシャドウバイパーが四匹出てくるようなら、本格的に毒対処が必要だ。【毒耐性】が出るまでこの階層でスキルオーブとにらめっこする必要があるからな。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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人類再現不可能のポーションをバニラバーで確定はなにげにヤバいな
> ポーションを二本」 ランク!ランクは? > バニラバーする」 動名詞バニラバー > 二種類」 誤字かな > 八十万ちょい」 ランク低い?階層単価が… > キュアポーションのランク2とランク…
こんな深い所でバニラバーの儀式やる人、安村さんくらいしかおらんやろなあww
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