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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
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856:五十二層ぶらり旅 1/3

 暖房はそろそろいらないかなと思って切って起きたら外は雪。どうなってるんだ一体。昨日の天気予報を見忘れた自分も悪いが、三寒四温にも限度があるだろう。


 寒い寒い……と言いながら暖房をつけ、その勢いで布団からも飛び上がって起きてしまうことにした。でもとりあえず一枚羽織ってそのまま台所へGO。寒い日に冷たいものは食べたくないので、今日の朝のキャベツはレンチンして温かいしなしなキャベツにした。歯触りのざっくり感が下がるが体は温まる。ついでにカップスープもつけよう。朝が寒いおかげで朝食がちょっと豪華に。こういう日もある。


 朝食を食べ終わったところで、昨日の内に仕込んでおいたカレーを再び沸騰するまで温め、その後弱火にしてトロトロと煮込んでいく。レンジでチンを言わなくなってきた御時世、各御家庭のコンロが全てIHになった時代には弱火強火という言い方もその内消えていくんだろうな。レンジでチン、オーブンでブン、コンロで……コン?


 新しく炊き上げたご飯を二人分別の容器で詰め込んで、シャキシャキのきゅうりとキャベツとトマトのサラダを添えて保管庫に入れる。そして良い感じに温まったグツグツカレーもそのままイン。これで昼食の用意は出来た。


 今日も五十一層探索だ。五十一層は広いわけではないが迷いやすい構造をしており、五十層で比較的安易に五十一層への道が開けたのと逆に難航している。今日こそは何かしらの目印を基準にして階段を見つけて、この糖分満点の階層から早くおさらばしてしまいたい。


 その為にも腹を満たすのは重要。そして探索をする以上財布を満たすのも重要。つまり、午前中は四十八層で金貯め。早めに切り上げて昼食を取り、その後で堅実に地図作りと五十二層への地図を完成させる。今日はそういう予定だ。


 食事が終わったところで干したワイシャツ……くんくん。よし、甘い匂いはしない。ウォッシュはちゃんと機能している。これをアイロンかけしてぴっちりにすると、保管庫に放り込んで明日のワイシャツの準備をヨシとする。さて……


 万能熊手二つ、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 柄、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ヨシ!

 保管庫の中身、ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。今日も準備は絶好調。さぁいっちょでかけっぞ、目指せ五十二層だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 芽生さんとバスで合流。途中のバス停で止まってる間にバスの窓の外を見ると、結衣さんの車がバスを追い越していくのが見えた。


「今結衣さんが追い越していったな」

「どれどれ……ああ、あれはそうかもしれませんね。流石に自家用車は早いですね」

「今更だけど、車を停める余裕が有ったら車で通うつもりは? 」

「もう慣れちゃったんで電車バス通勤で良い感じですね。仮に専用駐車場を作ってもらっても持て余すだけかもしれません」

「お互い荷物抱えて毎日大移動って訳でもないからな。手荷物の少なさがそのまま今のままでもまぁ問題ないやにつながってる可能性がある」


 バスを降りてダンジョン前。入ダン手続きは今日も順調に行われている。二人で担当する分少しだけ早くなっている。するすると列は進み自分の番。


「調子良さそうですね。流石に二人作業だと早いですか」

「そうですね、新人も慣れてきてくれましたので。ご安全に」


 そのまま会話を続けて後ろを詰まらせるつもりはないのでシンプルに頑張れとお互い伝え合って、リヤカーを引いて中に入っていく。


「思ったんだが、保管庫があるからこそお互い荷物も少なく出来てるところはあると思う。駐車場代がまるっと浮くのは大きい。後、何より自分で運転できないほど疲れてても勝手に移動してくれる公共交通機関が生きているというのも大きい。そう言う意味では小西ダンジョンは恵まれてるほうかもしれないな」

「今の状況を見れば、人口が一日二桁届くかどうか怪しいぐらいの過疎だったのが割と不思議だった、という評価をされそうですね」

「誰のせいなんだろうな、全く」

「ほんとですね。一大経済圏とまではいかないものの、経済を立派に回してしまっていますね」


 エレベーターに乗り、四十九層に着くまでに今日のレクチャー。今日は四十八層で昼までお茶を濁すことと、早めに昼食を取って長めに五十一層へ潜れるようにすること。その二点をメインの探索とする。


「シャドウバイパー三匹にはどう対応しますかねえ」

「やはり一匹は俺が雷切で対応するのが現状一番無難だと思われる。これで五十二層に下りて四匹出てきたら……その時はどうしようね」

「五十二層の事は後で考えましょう。その前に階段見つけないとどうにもならないですし」

「うーん、そうだな。五十一層での戦いには慣れてきたし、階段をとっとと見つけるか」

「早くこのべたつく世界をなんとか抜け出したいところです。ここは今までで一番精神的に滞在したくない階層です。早く次の階層へ行きたいですねえ」

「今のところ、ウォッシュの鍛え方が上手くなったことが利益かな。でもポーションも中々の収入だしな。収入と進捗を両方上手く回せてるのはいいことだ。高橋さん達も先に潜ってるだろうしゆっくり追いついていけばいいさ」


 四十九層にたどり着いて、まずミルコへの供え物から。コーラ二リットル一本と五百ミリリットルが二本。それといつものタブレット菓子とお菓子を数点。お供えして手を二拍、パンパン。


 シュッと消える菓子。今日のところは何も連絡事項無し、と。何もない事は元気の証。ダンジョンに問題が起こったら何かしら反応があるはずだからな。もしかしたら昼飯のカレーをねだりに来るかもしれないが、その時はその時で俺のご飯を分けてあげよう。


 まず、四十八層で一時間半ほどウォーミングアップを兼ねた体慣らしを行う。こっちではそれほど魔力を消費しない物理戦闘がメインだ。咲き乱れる草花……花は無かったか。咲き乱れる草……草は咲くって言わないな。蔓延る草たちを相手に戦っていく。


 マリモはもう敵ではない。伸ばしてきた蔓を逆に引っ張って近づけてから攻撃するスタイルが確立したために倒すだけで必ず魔結晶をくれる、もう見た目からしてお前魔結晶だな、魔結晶落とせオラ、という感じの物体に変わった。種は今のところオマケだが、相当な数溜まっているので査定されるときに一体いくらになるのかだけが気になる可愛い転がる植物と化した。


 ホウセンカの爆発も、スーツが破れないことを確認できたので、頭部に爆発を受けなければただの衝撃、というところまで我々が強くなった。これもダッシュこそするものの、安全なモンスターとなった。種は……これの処分については爆発物であり危険物であるため、処理のしようがないという事で俺の保管庫に相当数溜まっている。もしこれを安全かつ社会に役立つ形で提供できるならいくらでも提供するところだが、今のところ使い道がない。一般探索者認識で言うゴブリンソードみたいなポジションに収まっている。


 ハエトリグサは葉の正面をクルッと避けて裏側から切り落とすことで無害化に成功している。近接ならそうだが、遠距離なら雷撃もしくは芽生さんの水魔法で対処できるようになった。芽生さんの自称スプラッシュハンマーは本体に着弾した後ウォーターカッターで切断に入るため、ハエトリグサがいくつか持つ葉を同時に切断するようになった。こっちは芽生さんにとっては楽に対処できる相手となった。


 そんなわけで、散々通い詰めて色々手数を増やした結果、一人では厳しくても二人なら余裕で狩りが出来るエリアになった四十八層はウォーミングアップという表現に適した地帯になった。


 余談だが、この花の迷宮マップのモンスターについては学名から名前を取るか一般名称から名前を取るかで名づけについて議論が激しいらしく、まだ正式名称は決まっていないらしい。初めてお目見えしてダンジョン界隈にこういうモンスターが居ますよ、という説明がされてから二ヶ月ほど経つはずなのだが未だに決定していない所を見ると、やはり名づけというのは大事なのだなということを思い知る。


 マリモ、ホウセンカ、ハエトリグサと適当に名前を付けているおかげで保管庫にもそのままの名前が使われているが、いずれもっと長ったらしい、それっぽく取り繕ったような正式名称が公布されるようになれば保管庫の中身も文字数が増えて視認性を悪くしてくれる事だろう。


 一時間半かけてゆっくり体を慣らした後、四十九層に戻って昼食にする。今日の昼食のお肉はボア肉だ。しかも一晩寝かせてじっくり味を染み込ませたため、味わいのほうもかなり美味しい出来になっていると俺の中でも評判だ。


「ふー、やっぱり四十八層は楽でいいですね。自分の汗以外で体が汚れないのが何よりも素敵です。ずっと四十八層で戦い続けていたいですねえ」

「俺達じゃなければそれも有りなんだろうな。自分達にはこの辺が限界だろうからその階層でひたすら探索してドロップ品を持ち帰る。金も稼げるしダンジョン的には魔素の持ち出しも出来るしで得ができるラインを引けるのは重要かもしれない。というか田中君みたいに自分で最初から一線を画して自分の居場所を設定して、その範囲で儲けられるだけ儲ける。うん、探索者として悪い話ではないな」

「でも田中君も最近は二十一層あたりを結構うろついてるって話ですよね。やっぱりそこまで行ける実力を持っているからもあるでしょうけど、十五層まで他の探索者を先導していく、みたいな仕事も出来るわけじゃないですか。その点どうなんでしょう? 」

「今度また会った時に聞いてみるよ。最近は七層と二十一層両方に出没するという話だし、どうやら二十一層を根城にしてるいくつかのパーティーと懇意なようだよ。田中君もレッドカウ肉が納品できて会社にも利益はあるだろうし、それぞれ役割分担している、という形なんだろうね。Bランクも狙えれば狙う、みたいな話もしていたし、個人探索者としてはかなり特殊な立場にあると言えばそうかもね。その内、エレベーターだけ使いたいんで連れて行ってもらえませんかとか言われそうではあるが」

「その時は是非手伝いましょう。彼も馬肉を持ち帰ったり食べたりする権利はあるはずですから」


 最近は紡績会社や繊維取り扱い業種からも専属探索者を雇って特定のドロップ品を集めるという流れも出来ているようで、やはりバトルゴートの毛やダンジョンスパイダーの糸を目的としてギルドを通さずにかき集めているらしい。その成果の一端が今着ているスーツやワイシャツになっているわけだから専属探索者については生き方の一つとしては有りなんだろう。


 俺も見方を変えれば布団の山本の専属探索者と見えなくもないのだから、あまり人のことは言えないか。とりあえずこのホロホロに煮込まれたボア肉の美味さに今は酔いしれよう。


「また美味しそうなカレーを食べているね」


 ミルコが昼食中に現れる。やはりカレーを目ざとく見つけて寄ってきたか。


「食べるか? ご飯はもうほとんど食べつくしてしまったが、カレー部分だけなら余裕はあるぞ」

「いただこうかな」


 ミルコにカレーをよそうとスプーンと共に渡す。まだ温かいそれを受け取って一口食べて、相変わらず美味しいねえカレーは、と若干年寄りくさい感想を漏らす。


「そういえば例の国内で踏破されたダンジョンだけど、ダンジョンマスターが暇でしょうがないらしくてね。仕事から解放されたのは良いけど今度はやることが無さすぎて困ってるらしいんだ」

「まあ、そうだろうな。まだ出会った事も無いからどんな人柄なのかは解らないが、彼? 彼女? は何をして暇つぶしをしてるんだろうか」

「ダンジョンを持たないダンジョンマスターはダンジョン間なら移動可能なんだ。だからもしかするとその内こっちにも来るかもしれないね。出会った時は……まぁ、若干失礼な奴かもしれないけどもし寄ってきたら僕を呼んでくれれば対応はするから」


 暇になったダンジョンマスターはダンジョン間を移動することが出来る。つまり、これから複数ダンジョンを攻略していけばダンジョンマスターの寄り合い所みたいなダンジョンが何処かに出来てしまう可能性もあるって事か。


「それは良い事を聞いたな。ちなみにそのダンジョンマスターの好きなものは何なんだい? 」

「どうやらアルコールが好きらしいね。僕は酔うという感覚があまり好きではないので身体機能からはオミットしてるんだけど、彼にとっては生きているという感触を忘れないためには大事な機能らしいんだ。もし酒をねだる様なら僕から注意しておくから気をつけておくれ」


 酒好きのダンジョンマスターか。寄ってきても撃退できるようにお守り代わりにスピリタスでも仕入れておくとするか。あれならどんな酒好きでも撃退できるだろう。


「そういえば、お酒のいい飲み方を教えてもらうって話、まだ未達成でしたね」


 芽生さんが思い出したように言う。


「そんな話もしてたな。何かのお祝いの席か食事の時にでもやろうか。結衣さんが居れば最悪介抱はしてもらえるし」

「お酒は飲めないんじゃありませんでしたっけ」

「飲めない。ただ、いい飲み方は心得ているつもりだ」

「じゃ、楽しみにしてます」

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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ウォッシュでちょっと思ったんだが、蛾や蝶にウォッシュしたら鱗粉無くならないのかな。鱗粉まみれの対策にならないか気になりました。あわよくば特殊討伐のフラグが・・・
> レンジでチン」 レンジでレン > 糖分満点の階層から早くおさらば」 だが当分の最深層安地の四九層は鍾乳洞であり、ほのかに甘い匂いが漂ってくる気がする(錯覚と消臭もれ) > くんくん。よし、甘い…
>頭部に爆発を受けなければ そういえば頭部はまだヘルメットですもんね。スーツは新調しましたし出来るだけ早めに頭部も……見た目がミスマッチになりますが、バルビュータみたく視界がそこまで遮られない兜みたい…
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