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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十五章:ダンジョン踏破は他人の手で
853/1209

853:雑感報告

今日から新章です、対戦よろしくお願いします。

 二月末、気候は安定してきた。暖かいを通り越し暑い日も訪れて来ており、地球温暖化を感じさせるようになってきた。大げさだとは思うが、要因の一つであることは間違いないだろう。


 ダンジョン情勢も気候のように安定してほしい所なのだが、今のところごちゃごちゃしている。


 一つは、熊本第二ダンジョンが突然踏破されたことにより、B+探索者とD部隊全員に対する聞き取り調査が行われた。勿論俺達も対象者だ。


 内容はいたってシンプルな内容で、現在潜っている階層と潜っている手段について問われることになった。エレベーターを使用しているならば使用しているダンジョンの名前、もしエレベーターが非公開扱いとなっている場合一般開放はともかくとして、ダンジョン庁に対しては必ず公開せよ、というのが徹底されることになった。もし後日バレた際にはCランクへの降級とBランクへの昇級が半永久的に制限される、という厳しい罰も待っている。


 今後また新しく抜け駆けの形でダンジョンを踏破し、ダンジョン庁の把握や了解の無いままダンジョンコアの破壊や最深層への到達が行われないようにとの考えらしい。自分たちにとっては至って当たり前の行動であるが、ダンジョンマスターとの共謀やギルドに黙ってこっそりエレベーターを使用していた、という状況を面白くないと考えたのだろう。ダンジョン庁としてはすべての探索者の行動は可能な限り手元に置いておきたいという考えが透けて見えた。


 エレベーターについて早めにばらしてしまっておいてよかった、と思うところである。聞き取り調査に対して素直に応じ、元々エレベーターを使って四十九層まで潜り切った後五十一階層まで到達しているというのを伝えているし、その証拠品としてドロップ品の鑑定をお願いしたりと色々報告は怠っていないため、聞き取り調査は表面的なもので終わった。お互いにニコニコ笑顔でやり取りを続けられたのは日ごろの努力のたまものという奴だろう。


 結衣さん達もちゃんと調査を受け、表向き一般探索者として潜っているD部隊も先日聞き取り調査を受けたらしく、ギルドの建物の二階から降りて来るところに遭遇した。


 聞き取りですか? と質問してそうです、と短くやり取りをしただけだが、お互い情報はある程度共有しているためそれ以上の会話は無かった。そういえば、一般探索者扱いで潜ってるんだから探索者証も正規に発行されたB+ランクの物を持ってるはずだな。D部隊用の探索者証も見せてもらいたいな。何処がどう違っているか気になる。ネットで情報を探してみたが探索者証を写真で上げているようなものが無かったため、現物は本人に頼まないと多分見られないんだろう。


 そういえばD部隊内において彼らの立ち位置というのはどういうものになっているんだろうな。D部隊でも屈指の深さまで潜っている高橋さん達なんだ、何かしらの形で報奨を受け取ったりしていてもおかしくはない。その辺の評価は誰が行っているんだろうと不思議にはなっている。ちょくちょくダンジョンからいなくなり何処かへ数日出掛けている節もあるので、そのたびに上司に当たる人に報告しているのだろうか。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 二つ目はAランク探索者への世間の風当たりというかヒーロー扱いというか。世界で確認二例目になる踏破パーティーという理由で色んなテレビ番組やラジオ、書籍、ネット記事などあちこちで顔を見るようになった。


 緒方というパーティーリーダーが主に前面に立って取材一切を引き受けるような形になっているため、他のメンバーの顔はどうしても薄くなる。これは俺が面倒ごとを色々と引き受けて芽生さんが楽をしているパターンと同じなのかな。だからと言って取材の申し込みがある、とかそういう話を聞いたことは今のところ無い。


 彼らが派手に立ち回ってくれているおかげでこっちは地味だがこれといった干渉もなく行動できているのは確かだ。彼らが夜会で見事なダンスを踊っているうちにこっちはこっちでやることがあるのでそれに向けて頑張ろうという形になっている。


 価格改定以降に二度ほど布団の山本へ納品に行き、世間の受け止め方みたいなものを山本店長から直で教えてもらうことになったが、そのジャンルで成功している人が、離れた地域で同じように成功者とみなされるかどうかは別の話で、頻繁に品物を卸してくれる俺のほうが助かる、という話に終始していた。


 あまり人の前で同業者をほめる行為はよろしくないという意味も含んでいるのだろうが、そういえばAランク探索者出ましたね、おめでとうございます。遠くとはいえダンジョンもちゃんと消滅させられるんですね。で、今回のお金の話ですが……と非常にあっさりとした受け答えだった。


 彼らと比べてそちらはどうですか? とすら問われなかったのでこっちも答えなかったが、マイペースでやっているということは日々伝えているので、あまり周囲のそう言った内容については気にしない人であると認識されているのかもしれないな。


 まだまだ探索者という職業の認知度は低い、とみるべきなのか。そういえば、探索者育成学校の話ってどうなったんだろうなとネットで調べると、四月開校予定らしい。年齢性別国籍問わず、法に基づいて正しい活動をしていれば誰でもウェルカムという姿勢らしいが、流石に就労ビザの有無は確認するらしい。入塾イコール探索者として稼ぐという形になるので、就労とみなされるんだろう。


 就労とみなされるという事は労働者、つまり個人事業主と認められることにもなるんではないか? というかなり判断の際どい所を突くような話だが、これも今年中にはっきりさせておきたいという真中長官の過去の話にもあったし、今年からは個人事業主として正式に活動を認めるという形になるんだろう。


 そうなると、更に個人事業税を払わなければいけなくなるな。また何もしていないのに収入が減っていくという事態になる。ダンジョン探索者の稼ぎ頭と自称しても良いぐらい稼いでいるのだから、このままのらりくらりと雑所得で逃げていきたいのが本音ではあるが、そうはならないんだろうな。


 試しにネットのサイトで、個人事業主とした場合、法人化した場合のそれぞれについて色々と調べてみた。結果から言うと何もわからん。ただ、雑所得から個人事業主になることで去年換算で言えば七千六百万円ほど余分に税金がかかるという簡易計算の結果になった。ここからまだ引かれるのか。


 とりあえず先の事ばかり考えても仕方ない、個人事業主扱いになるならそれはそうなったで佐藤会計事務所に引き続きお願いする形で行こう。向こうもそのあたりのやり取りには手慣れているだろうし、本業は本業にお任せする、これでいいんじゃないかな。だから探索のことは俺に任せてくれ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 熊本第二ダンジョンが無くなって二週間たち、熊本第二ダンジョンに通っていた探索者は第一か第三に移住して探索を行う人たちと、熊本という場所を後にして他の地域の他のダンジョンに行く人たちと、引退する人の三種類に分かれた。


 引退する人は非常に少ない人数だが、元々地元だから通っていたにすぎないし、経験を活かして他業種でも肉体労働をしていくことは可能だろうという思い切りの良さのある人たちだった。ダンジョン関連スレッドには引退者の集いというスレッドがあり、そこが熊本第二ダンジョンスレが無くなった後で少しだけ賑やかになった。


 人によってはそろそろ先に進むのも厳しくなってきていたし、人が増えて自分が満足するだけの収入が得られなくなったことを理由に引退する人や、元々転職の合間に探索者やってただけで本業にする気はない……これは潜り始めた当初の俺と同じ理由だな、そんな人がぽつぽつと現れ始めた。


 探索者をする前に所属していた業界に戻っていく人や、探索で稼いできた金を基にして何らかの商売を始める人、探索者を直接雇ってギルドにドロップ品を卸させて、報酬をピンハネする代わりに探索者に社会保険と厚生年金を付与する形で会社を経営していく人など、それぞれの目標を掲げての旅立ちの場であった。


 会社を立ち上げてピンハネするだけで自分はひたすら会社の事務作業に徹することで全員の給料と保険と年金を守る……そういうやり方もあるんだなと感心こそしたが、実際にその口に乗ってくれる探索者が居るかどうかは今後次第だな。またスレッドに現れてくれるようになったら経過報告が欲しい所だ。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 自分の探索のほうはうまく行っているかと言われると少々言葉にしづらい点が出始めた。まず、五十一層からシャドウバイパーが予想通り三匹連れで出てくるようになったことが大きな戦術変更点だろう。


 全力雷撃三発で無理やり落としていたシャドウバイパーだが、流石に六連撃を入れるには俺もまだ鍛え方が足りない。雷切で仕留めようとしたが仕留めきれずに体を一時期その太めの胴体で締めあげられ、もうちょっとで骨が折れるギリギリのところまで追いつめられるようなケースもあった。


 また、シャドウバイパーに噛みつかれた場合その歯はワイルドボアの革で出来た手袋を易々と貫通し、手に穴が開いたと思うほどの顎の強さだった。ついでに毒も受け、ヒールポーションとキュアポーションのランク2を同時に飲み、毒による負傷を避けたが、その後襲い来る空腹感は相当な物であった。シャドウバイパーにいまいち近接戦闘を挑めない理由がこのトラウマにある。それ以後はシャドウバイパーが三匹で現れた場合、盛大に極太雷撃を使って一気に焼き切る方針でなんとかこなしている。


 また、シャドウバタフライの鱗粉にはわずかだがマヒ効果が存在し、体内に蓄積していくことが新たに解った。これは、シャドウバタフライとシャドウバイパーの連戦の最中に体の動きが鈍くなったことが原因だった。シャドウバイパーに噛みつかれたわけでもないのにこれはおかしいぞ? と行動を思い返していった結果、あのひたすらに甘い鱗粉には体をマヒさせる効果が少量含まれているのではないかという結論に達した。


 短時間で複数回戦闘することで発症しやすくなり、キュアポーションを飲むことでデトックス出来ることも解った。これが【毒耐性】を持っていれば完全に防げるかどうかまでは不明だが、【毒耐性】が出るまで粘るのも一つの手だと、今頑張って五十一層あたりで戦っている途中である。


 五十一層では体に着いた鱗粉を落とすために生活魔法を頻繁にかけるようになり、一発で鱗粉のあの甘い香りを取り去ることが出来るぐらいには成長した。俺、頑張った。


 そしてドロップ品の魅力のほうだが、シャドウバイパーの牙は極めて硬く高密度な分子構造をしており、そのまま使ってもヨシ、加工して色んな金属に混ぜ込むことにより鋭さと硬さを保たせる材料としても効果があることまでは解ったらしい。ただ肝心の価格のほうはまだ決まっていない。おそらくは簡単に加工する方法を見つけ出して、それに対する社会的評価や効率性等を割り出してから価格が付くことになりそうだ。


 シャドウバタフライの粉は鱗粉とは違い、体内に蓄積する毒性は無く、砂糖の五百万倍甘い構造をしていることが解ったらしい。五百万倍と言われてもよく解らないが、そのまま舐めると味覚が破壊される可能性が高いので絶対に舐めないように、と分析先から注意書きが下りてきたぐらいには危険な物質でもあるらしい。


 そういえば数年前、大手の飲料会社が新しい甘味料を発見したら一億あげるよ! というキャンペーンを行っていたような覚えがあるが、今からでも参加できるんだろうか。これがもしそれに該当する場合、量は少なくても薄めて砂糖の甘味になるならば密度が濃ければ濃いほど甘味に使えるコストは安くなることになる。


 これで糖尿病患者でも安心して飲めるソーダ飲料が開発できるとか、そういう方向性で売りに出されるのなら食品業界には大きな転換点が訪れることになるのだろうか。また世界を変えてしまう発見がダンジョンから、ということになれば競って探索者を雇ってでも送り込んでくるようになるのだろう。


 後、ヒールポーションのランク5じゃないかと目されている謎のポーションだが、無事に千九百四十四万円での引き合いが取れた。五十層でも取れるポーションなので他のドロップ品が価格が決まるまでの間に早めに値段が決められたのは悪くないことだと思っている。おそらく効果はその値段では勝ち取れないほど大きな肉体的損失を埋めてくれるものなのだろう。詳細まではまだ公開されていないが、値段以上の効果はあると認められたことだけは確かだな。おかげでまた口座の中身の一番高い所の数字が一つ増えた。


 そして、今になっても謎の種の続報は入ってこない。既に八百個近く在庫のある謎の種、邪魔にはならないとしても近いうちに何処かでまとめて引き取ってくれないものかとも思っているが、その折り合いすらつけに来ないことを考えると順調に生育が進んでいて、結果が出る所まで来ているのだろうか。その結果が出た後で改めて価格を決める、ということになりそうだ。収入不安定はもう少し続きそうである。早く値段決まらないかな、種。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
やっぱ蓄積系だったか自衛隊の人の言い訳の正当性が増したな!w 味覚破壊粉こわいw
う~む、やはり50階層以降になると敵の絡め手も面倒さが増して来ますね。安村さん達みたく対処出来ない人は迂闊に足を踏み入れたらダメですが…熊本でやらかしたバカみたい奴等がいつかそのうち痛い目を見そうです…
> 勿論俺達も対象者だ」 お役所的総当たり対策 > Bランクへの昇級が半永久的に制限」 後付けの厳罰 > 表向き一般探索者」 ギルドで査定にかける(事があるなら)振込先が同じ… > 年齢性別国籍…
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