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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
852/1206

852:おそく起きた朝は……

一区切りです。また明日から続きます。

 昨晩はお疲れでお楽しみでした。今は気持ちよさそうに惰眠を貪っている。反省はしていない。ちょっとだけ罪悪感があるがそれ以上の達成感的な何かを得られた気がする。


 散々楽しんだ後寝て起きて賢者モードか? と言われそうではあるが、そうなってしまっているのだから仕方ない。


 あの後は頑張った後三人でシャワーを浴び、綺麗な布団で寝た。生活魔法のおかげで綺麗なベッドで寝られたのはこれもダーククロウのおかげである。ありがとうダーククロウ。気持ちいい睡眠もありがとう。二人はまだ夢の中。三人で眠るには狭いセミダブルベッドだが、幸せそうにしているのでヨシとする。ダブルベッドに買い替える事も考えておいたほうが良いかもしれない。そうなると、ダブルベッド用の布団も必要になる。また茂君に足しげく通う事になりそうだ。


 優しく揺すってもどっちも起きなかったのでそのまま頑張って布団から抜け出し、三人分の朝食を作りながらテレビをつける。朝のニュースでも、速報として熊本第二ダンジョン踏破、ダンジョン消滅か! という見出しでニュースをやっている。芸能人のゴシップネタで朝から騒ぐよりは有意義だな。


 我々が楽しんだ後寝ている間にマスコミでの調査は進み、緒方という人がリーダーのパーティーが今回熊本第二ダンジョンを攻略したメンバーだという事まで知れ渡っている。どうやら五人パーティーで、元々は熊本第一ダンジョンに通っていたが、Cランクの間にある時を境にして第二ダンジョンへ移籍。それからB+探索者になり今に至るらしい。何処から引っ張ってきたんだろうこんな情報。


 つまり、第一ダンジョンで鬼殺しになった後第二ダンジョンで鬼殺しになり、その後更に深くへ潜っていった、ということになるのか。ダンジョンマスターと会ったのは多分第二で、だな。そこからダンジョンマスターとの蜜月の日々、そしてエレベーターのこっそり使用。きっとダンジョンマスターと何かしらの取引があってのダンジョンコアの破壊に至ったのだと考えられる。


 ダンジョンマスターがダンジョン作りに飽きたので早くフリーになりたいのでダンジョン探索を急かした可能性もある。ダンジョンマスターも人っぽいものなので、早く自分の作ったダンジョンを攻略されて自由になりたいと思っていたのかもしれない。


 三人分の朝食を作り終わり、コーヒーを淹れだすと、コーヒーの香りに誘われ二人とも起きてきた。


「寝て起きたら芽生ちゃんと二人っきりだったわ」

「寝て起きたら結衣さんしかいませんでした」


 同じことを言っている。要するに先に起きるなということだろう。


「朝食出来てるからそれ食べて、それからゆっくり昨日の続きをしよう」

「え、まだやるんですか」


 芽生さんが若干期待するような声で驚く。


「そりゃ、これからが本番だし」

「え、昨日のが本番じゃなかったら本番って……え? 」

「んん? 」


 なんか話がずれてる気がする。


「ダンジョン消滅。瞬間見たいでしょ? 」

「あ……あぁ、あぁ、そうですよね。ダンジョン消える瞬間気になりますもんね」

「ははーん……」


 勘違いの内容を理解した結衣さんがものすごくニヤついた顔でトーストをかじる。芽生さんは恥ずかしそうに下を向いたままトーストを食べているが、粉がこぼれるので堂々と食べてほしい。


 朝食を食べ終えてスーツの確認。昨日の甘ったるいシャドウバタフライの匂いが抜けきっているのを確認すると、他の洗濯物を乾かしたり掃除したり、昼食について考えながら時間を待つ。今日はそろってオフなのでみんなで昼食の話をしつつ十時ごろになるまで待った。


 スレのほうは深夜でまだまだ時間もあるという事で一旦落ち着いたが、時間が近づくにつれてまたスレッドの速度も伸び始め、追いつきにくくなってきた。


 そして、十時になり、テレビの内容も特番の時間となった。


「昨晩から引き続き現場の村上です。午前十時までは何事も無いのではないかということで、わたくし仮眠を取っておりました。昨夜から更に人が集まってきています。関係者や地元の住民や探索者であふれかえり、ちょっとした人の山が出来ております」


 テレビカメラの後ろには人だかり。せっかくだから映って帰ろうという人や、何事があったのかと今更事態を知る近所の人、それから中に居た探索者で今日暇な人達。


「昨夜の情報を総合しますと、ダンジョン内に残っている人は現時点で確認出来る限り居ない、とのことで、存在した場合不法入場者である可能性が高いとの事です。後は時間を待つだけですが、果たしてどのようにダンジョンは消えていくのでしょうか。我々もカメラが回っていない間に海外で同じダンジョン消滅が発生したケースの動画を確認していましたが、目の前で同じことが起きるのでしょうか、それとももっと別の消滅の仕方をするんでしょうか、今のところ定かではありません。ただ、何度も言います通り中に今人はいない、無人状態であるというのは確認されております」


 現場の村上さんはよく喋るなあ。そういえば坂野ギルマス達もまだギルド内に居て画面を見続けているんだろうか。ご苦労な事だ。


「海外と同じ消え方をするなら、スッと消えるらしい、スッと」

「ダンジョンというものの割には静かな消え方なんですねえ」

「瞬きする間に消えないようにしないとね」

「うっかりスタジオに画面を回してる間に消えたりしたらいい放送事故だな」

「昨日の自称専門家が居ないからそれは大丈夫なんじゃない? もし彼が居たらピチピチチャパチャパ喋り倒してる間にダンジョンが消えて私やっちゃいましたかねパターンに入るかもしれないけど」


 じっと見守るカメラ。静かになる会場。そして、その瞬間は唐突に訪れた。


 スッと音もなく消えていくダンジョン。後には何も残らなかった。ただ、軽い光と共にダンジョンの出入口が消え去った。文字通り、スッとだ。


 全員が息をのんだ後、一斉に騒ぎ出す。


「見ましたか皆さん。今ダンジョンが消えました! 熊本第二ダンジョン、ただいまの時刻をもって踏破、消滅となりました! これがめでたい事なのかどうなのかは賛否両論あるとは思いますが、現実としてここに今、日本第一号のダンジョン踏破が成し遂げられたことになります!! 」


 村上さん大興奮。世界でおそらく二番目、日本で最初の瞬間に立ち会えたことに感動しているんだろう。ネットの配信は二十万人を超えている。どうやら海外からの接続も増えているようで、チャットのほうは多言語での展開が行われていて、複数言語を解する事の出来る配信者がそれぞれの言葉を日本語に直して読み上げている。多芸だなこの人、なんでネット配信者やろうと思ったんだろう。


「小西ダンジョンもいずれこうなる、ってことですかね」

「そうさせない、という選択を取ることもできる。ダンジョンコアのある階層まで下りても破壊しないという選択肢があるからな。破壊しない間にその更に下の階層を作ってもらって、出来次第そこにつなげてもらう、というような形になると思う」

「それは自分ならミルコ君と協議してそうするかも、って未来の事よね。もし私たちや、先を行ってるD部隊の人たちがダンジョンコアを割る決定を下されたらどうするのよ」

「その時はまた清州ダンジョンにお世話になることになるな。まずはまたゴブリンキングの退治からだ。今まで潜った階層の記憶は継承されるから途中から参加できることになるけど、清州ダンジョンでも同じ階層まで潜っているわけではないだろうし、誰も訪れてない階層にはエレベーターはないだろうからそこまで歩いてたどり着く必要があるし完全に潜りなおしってことにならないだけマシか」


 さて、いつまでも余韻に浸ってるわけにもいかない。


「じゃあ、探索者として一つ面白いものを見れたという事で今日付けで価格改定が行われているはずだ。何が値上がって何が値下がったのか。それを確認しに行かないとな」


 ダンジョン庁のホームページに行くと、Bランクまでの範囲についての価格改定表が書かれていた。一つ一つ確認するのは手間だし普段いかない階層については省略するが、ダーククロウの羽根はまた値上がった。千五百円から千八百円に、上限いっぱいの値上げ幅を記録した。レッドカウの肉は一割値下げで一万三千五百円。後はカメレオンダンジョンリザードの革も限度額いっぱい引き下がって二万四千円。馬肉……ケルピーの肉は一割下がって三千六百円になった。この辺はいろんな調整があったんだろうなと苦労を察するところである。


「ちなみに価格表には書かれていないが、緑の魔結晶は重さあたりの査定価格が値下がったと長官から直接言われた。多分限度額目いっぱい、二割減だと思う。後ワイバーン素材とスノーオウルの羽根もかな。我々の懐には寂しい所だが値段が下がった分は数で稼いで行こうと思う」

「これからB+ランクになる人には少々懐が寂しいところにもなりませんか? 」


 芽生さんが遠慮がちに質問する。


「今の収入の割合から考えると七%から八%ぐらいの収入減にはなると思う。これはメインの稼ぎがポーションだからこの数字に収まってくれている、ともいえる。そしてポーションまで値崩れしだすようなことは今のところ無いと思う。ポーションと同じ効能をもつ素材が発見されたわけでもないし、人工的に製造することも難しいからこその現状価格だ。そっちに期待をしていこう」

「あのー、五十層以降で狩りをする都合上、我々の懐にはほぼ二割直撃だと思うんですけど」

「その分今までに稼がせてもらったからまあ良しとしとこう。その分社会貢献できてると思えばこそだ。値下がりの原因はおそらく電力に変換する時のコスト上の数字として出てきた金額だろうからな」

「なるほど……そう言われると納得してしまいそうな自分が居ます。それに、価格が下がったからと言ってエレベーターの運賃まで実質値上げになるわけではなさそうですし」

「ううん……これ私たちも収入減ってことよね。ちょうどワイバーンの居る階層で戦ってる事だし、一番ダメージを受けてるポジションだわ」


 三十六層のモンスター分布を思い出し、一時間でどれだけのモンスターと戦えるかシミュレーションをしてみる。一時間戦闘するとダンジョンウィーゼル六十体とワイバーン八匹ぐらいは出会えるから、フルに戦ったとして、ドロップ率を勘案して均等にドロップしたと考える。


 暗算した結果と、メモ帳に書いてある時給勘案表を見比べて計算した答えは……


「結衣さん達が三十六層で戦った場合、およそ時給税込み六百万ってとこだね。一日六時間戦うとして三千六百万。五人で割って税抜きにして……一日六百五十万程度になるのではないだろうか」

「そこまできっちり計算してくる安村さんの計算能力もすごいけど、ほぼその通りに稼げてる私たちも中々のものって事で良いのかしら? 」


 なるほど、大体あってたらしい。俺の暗算能力もまだ衰えてないな。


「ただし経費はかかっていないものとする、なのでポーション使ったりその他の物を考えない前提だけど、まあこんなところかな」

「それでも危険を冒してるだけの十分な収入、ってことになるし、強くもなれるし。別に価格が安くなったからモンスターも弱くなったりするわけでもないし。今まで通り続けても問題はないわよね」

「そりゃ、査定価格どうのこうのはダンジョンの外の都合だからな。ダンジョンの中はいつも通り、今まで通りだよ」

「三十七層に行く前に三十六層で何かしらのオーブドロップを見繕ってから進もうと思ってるんだけど、それでもいいわよね? 」


 結衣さんが自分たちの進捗について確認を取ってくる。


「身内感覚とは言え他のパーティーに無理強いをするつもりはないよ。早く四十二層まで行きたいから手伝ってってなら話は別だけど」

「なら、頑張って追いつけるようにしてみるわ」


 結衣さん達が四十二層に来る頃には五十六層まで進捗が進んでいそうかと言われると難しいラインだが、四十九層までたどり着くまでに、と言われたら多分進んでそうな気がする。今のところ二エレベーター分の差があるのを個人的にはキープしておきたいところだが、肩を並べて探索をしてみたいという気持ちもある。なかなか難しいものだな。


「さて、ダンジョン消滅イベントも終わった事だし、それぞれの仕事に戻ろうか。芽生さんは午後から講義。俺は税理士さんのところに連絡して、確定申告の話について聞きに行く予定。予定が合わなかったら後日になるからその時は昼からダンジョン潜ろうかな。結衣さんは? 」

「私は個人的なことをちょこちょことやろうかなと。部屋の掃除とか家賃の先払いとか、出来ることを全部やっちゃって身綺麗にしてからダンジョンに挑むほうが集中できるしね」

「じゃあ、ここでお開きにしますか。早めの昼食を食べて私は帰りまーす。講義の用意自宅にあるので取りに行かないと」


 さっき相談していた昼食のカニしゃぶとレッドカウのしゃぶしゃぶを堪能した後、芽生さんが一足先に家から出る。結衣さんは自分の家事を終わらせに戻った。そう言えば掃除の件、結局どっちを掃除していつにするんだろう。またレインで聞いておくか。


 俺は早速佐藤会計事務所に連絡。確定申告について午後から時間を取れないか確認する。佐藤さん曰く、後は書類に記入するところだけ見てくれればいいので、それの付き合いなら十五分もあれば終わるのでいつでもいいですよとのこと。初めての確定申告だが、意外と拍子抜けな感じで終わりそうだ。


 そう言えば夕べのピザの代金は経費で落ちるんだろうか。レシートを今年の経費クリアファイルに放り込んでおこう。一応探索者同士の会合と言えなくもないし情報交換も行ったし()()もした。交際費としてはアリになるかもしれん。交際してるのだから交際費だろ、というおやじギャグはさておき、どこまで飲食を交際費に出来るかはついでに聞いてこようと思う。


 連絡も入れた事だし、早速出かけるとするか。ダンジョン外でやることもちょっとだけ増えた。ちゃんと体に馴染んでいくかは解らないが、少しずつ人生の幅を広げていこう。せっかく稼いだんだからもっと身に着いた金に応じた中身のある人生にしていかないとな。


 もうすぐ春が来る。春が来れば俺も二年目の探索者としての生活になる。一年で激変した俺の人生と生活。次の一年はどんな変化があるのか、何が変化しないのか。そして今年は一体いくら稼ぐのか。一生分はもう稼いだ。仮にどちらかと結婚して家庭を持って子供が出来ても何ら問題ないだけの資金もあるし稼ぐこともできる。人生今からリタイヤする事も出来るし、続けることもできる。ある意味で、今が一番自由なのかもしれない。


 自由か……自由があるうちに潮干狩りでもするか。今日ぐらいは一層だけを巡ってひたすら潮干狩りして、スライムと対話しながら今後のダンジョン庁の対応や探索者の動きなんかに思いを巡らせるのも良いかもしれないな。


 まずは確定申告だ。パパっと済ませてその後で家に戻ってもう一度ダンジョンへ出かけよう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
今話は良い俺達の人生はこれからだエンドだった。
> 緒方という人」 個人情報が > ある時を境に」 ギルマスが暗躍しちゃったタイミング > ダンジョンマスターと何かしらの取引」 お主も悪よのうの経路 ギルマス→攻略PT→ダンマス > 芽生さん…
本格的に金の亡者キャラで 相変わらずなヒロイン(若い方)ですね
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