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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
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850:ダンジョン消滅

 芽生さんが風呂に入ってる間に五十層へ向かったこと、出てきたモンスター、ドロップ品、と順番に説明していく。


 結衣さんはそれで鱗粉まみれになったという事と、生活魔法で洗浄しても匂いが残ってることと、まだまだスキルの鍛え不足かもしれないという話をする。


「そんな環境破壊みたいなモンスター出てくるのね。D部隊の人たちも災難だわ」

「おかげでミルコに保留にさせてもらってた貸しの使いどころを見つけたから災い転じてってところではあると思うよ」


 保管庫の中に入れてある保温ポットのコーヒーの中身を全部出し、コーヒーポットにも洗浄を試してみる。試した後匂いを嗅いだが、コーヒーの移り香はほとんどなかった。これは便利だな。もしかしたら陶器に付いてしまうようなコーヒーの色移りや紅茶渋なんかも取り去ってくれるのだろうか。だとしたらまさに生活に便利だな。後は掃除か。掃除にも応用させたいな。


「ちょっと思いついたのでやってみる」

「何するの? 」


 結衣さんの質問をいったん横においといて、客間の家具をすべて保管庫にしまい込むと、生活魔法のイメージで以て、柱や梁に着いたシミなんかを浄化する形の洗浄を試みる。一瞬だけ湿っぽい空気が発生したが、その後を見ると、ピカピカに磨かれたフローリング部分と日焼けが落ちた壁が現れた。


「うん、生活魔法便利だな」

「なるほど。これ、家具に向けてやってみても効果あるんじゃない? 日焼けとかしつこいシミ汚れなんかも落ちそう」

「やってみよう」


 結果、家の汚れと呼べるものは大抵のものが綺麗にできることが分かった。そして、流石に使いすぎたのか少し眩暈がする。


「ふぅ、ちょっとやりすぎたが、達成感はそれなりにあったな」

「今度私の部屋も掃除してもらおうかなー」


 部屋ってどっちのだろう。俺の家の結衣さんの部屋扱いになってる部屋か、それとも本居のほうか。女性の部屋に入るのは緊張するから困るな。


 ドライフルーツをかみ砕いて魔力を回復させた後、気が付くと夕食には少し遅い時間となってしまっている。


「お腹空いたな……何作ろう? 」

「たまにはピザとかでもよくない? 」

「そうだな、みんなでピザ頼むか。広告は……あった」

「私芽生ちゃんに何食べたいか聞いてくるね」


 結衣さんは風呂場へ。その間に何味のピザを頼むか、どれだけ頼むかを考える。とりあえずL二枚だな。色々味を楽しみたいか、それとも同じ味のを食べ続けるか。やはり前者か。四種類ぐらいミックスで頼める奴を二枚頼んでそれでいこう。


 腹づもりが決まったところでリクエストを聞いてきた結衣さんにいくつか質問してピザを注文、届くまでの間に自分の片付けと自分の風呂を済ませてしまう。芽生さんはその間に俺のパソコンを起動し、さっきのダンジョン消滅の生中継を見始めた。


「ダンジョンって消滅するものなのね」

「国内初観測ですから、話題にもなりますよねえ。そろそろ探索者も宿泊コースでなければ家に帰ってくるころでしょうから、視聴者も増えてくるはずです」


 風呂から上がると、テレビのほうでも現地の生中継に画面が切り替わるようになった。あまりダンジョンに詳しくなさそうなレポーターに、ダンジョン研究家という怪しすぎる職業の弦間という人がコメンテーターになってダンジョンについて解説をしている。


「つまり、国内に百ほどあるダンジョンも今後はこうやって消滅していくことが確認されることになります。世界でも公になっている範囲では二例目ですから、それも国内で見られるという事は貴重な経験になりますし、今後のダンジョン活動に関してもこのような現象を通じてダンジョンが消滅していくんだ、という事例として情報の共有が出来ます。また、ダンジョン庁からはおそらくですが、ダンジョンコアを破壊したパーティーにはAランクのライセンスが贈られることになると思われます」

「ダンジョンの踏破でAランク到達なんですね? 」


 聞き役に徹するほうが自分の負荷が減ると考えたんだろう、スタジオの解説者が質問をぶつける。


「まず、ダンジョンのランク制度はつい最近変更になりまして、Bランクの上にB+というランクが設けられることになりました。これはおそらく、ダンジョンを踏破してダンジョンコアを破壊した実績という名目上の強さというより名誉職に当たるものだとは思いますが、そういう意味でのAランクという事になります。他のダンジョンではもっと深く潜っているB+探索者も存在するのでAランク探索者のほうがB+探索者よりも能力が上だとは言い切れないのが実情でしょうが、少なくともB+ランクで下層まで潜るだけの実力があるという指標にはなりえます。Aランクになったからと言って特権が何かしら付与されるという話も聞いたことがありませんので単純にダンジョンコアを破壊したかどうかだけの目安、という立ち位置にはなると思います」

「では、今回ダンジョンが踏破された熊本第二ダンジョンより更に深くにダンジョンコアが存在するダンジョンもあるという事でしょうか? 」

「現在私の手元にある情報で言いますと、他のダンジョンでは四十二層周辺までは確実に探索は行われています。もしかしたら今頃四十九層まで手が届いている人も居るかもしれませんが、四十二層周辺のモンスターのドロップ品がギルドで査定にかけられており、そこまで潜っているのは間違いないと思われます。潜った経験がないのにドロップ品の査定額までハッキリ確定するという可能性はありませんので、四十二層に潜ってドロップ品を持ってきて、それがいくらぐらいの価値を持っているのかをダンジョン庁が精査して、その上での査定開始という手順を踏んでいるはずですので、四十二層まであるダンジョンが複数存在する、というのは間違いないと思います」

「なるほど。今回は三十九層でのダンジョン踏破、これは海外ですでに起きたダンジョン踏破の時は三十八層でしたが、この一層の違いについて何かわかることはありますか? 」

「おそらく、ダンジョンが発生してからの経過日数であるとか、そういうものであると思われますが、詳細はまだ不明です。ダンジョンの発生した日時が完全に世界で同時に起きたもの、と確認が取れる物でも無いですので今のところ確たる証拠としてこういう条件なら何層まで、という風な言い方をする事は出来ません」


 怪しい職業のわりにちゃんとしてるところはちゃんとしてるんだな。自分の解らないことを解らないと言える専門家は専門家としての格が一つ上がる。この専門家は良い専門家なんだろう。情報量や知識量については本業ほどではないだろうし、おそらく彼の探索者ランクはあってもBだろうからな。


「今四十二層まで潜っている探索者にとって、それより浅い階層でのダンジョン踏破に対する印象、というものはどのような形になると推測されますか? 」

「多分ですが、当人はあ、そう。ぐらいの気持ちなんじゃないでしょうか。あちこちのダンジョンを飛び回って浅そうなところを探しては潜って踏破していく、というスタイルの探索者は希少で、ほとんどの探索者は、むしろほぼ全てと言っていいほどにですが、自分の居住地周辺から動かない探索者がほとんどなんです。例外があったとすれば小西ダンジョンのように、エレベーターが設置されて階層ごとの移動が楽になり、より儲かる土地であると確定した段階で移住を決意してそのまま居座ってるというタイプですが、これも結局は小西ダンジョンに移住した、という形になりますのでやはり探索者は土地に根付くものだと思います。そういう探索者からすれば、よそはよそ、うちはうち。自分の潜っているダンジョンが消えるかどうかの心配のほうが増えるのではないかと思います」


 実際は五十層まで潜って、証拠品を今日提出してきたところだ。流石に昨日の今日でそこまでの情報を仕入れられる探索者は当事者以外居ないだろう。


「……で、二人は今日何層まで潜ってきたんだっけ? 」


 結衣さんが改めて聞きなおす。


「五十層。その気になれば五十一層までは行けたかな」

「おかげで甘い匂いまみれになって帰ってきた訳ですが。生活魔法、購入するタイミングがあれば手に入れておいたほうが良いですよ。絶対大変なことになりますから」

「先行探索者が居ると後からついていく方は楽になるからいいわね。今度ギルドのオークションで探してみるとするわ。お金は……要相談になるけど。流石に一人で支払い切るにはちょっと時期的にも厳しいし」


 テレビに向きなおしてまた中継を見る。現場からの生の声がリポートされている。


「村上さん、現場の状況はどうなっているでしょうか。まだ探索者の皆さんは全員の確認が取れていないんでしょうか? 」

「現場の村上です。現在、残り三十四名ほどがダンジョン内でまだ取り残されている模様です。ダンジョン庁からの情報によりますと、ダンジョンコアは破壊され次第二十四時間でダンジョンそのものが消滅する、というお話ですので、残り十数時間まだ時間的猶予はあるんですけれども……あぁ、またお二方出ていらっしゃいました。どうやら中ではモンスターの出現が無くなり、徐々に最下層からダンジョンが消滅しているんではないかという事です。また、他のダンジョンに存在するようなエレベーターの確認が取れていないとの事で、エレベーターが確認できた場合エレベーターで、エレベーターの存在を知らない探索者さんは徒歩で地上まで戻ってくるのを余儀なくされている状態だとの事です。……今情報が入りました。熊本第二ダンジョンにエレベーターは存在するそうですが、知っているのはごく一部の探索者さんのみで、知っている探索者さんはみんな外に出ている模様です。現在中に居るのはエレベーターの通じてない階層からの徒歩での脱出者のみ、ということになるそうです」

「解りました。また何かわかりましたら報告お願いします。現場の村上さんでした。さて、エレベーターについて引き続きお話を聞いていこうと思います。弦間さん、エレベーターとはそもそも我々の知っているエレベーターなのでしょうか」

「そもそもエレベーターという名前ではありますが、仕組みも移動方法も異なるものです。通常エレベーターとは……」


 現場は楽しそうだな。同時中継で他の探索者が生配信しているところをネットで見ている。ネットではダンジョンに詳しい動画配信者が海外のダンジョンでの出来事をベースにしてコメントに答えたりしている。こっちのほうが情報については正確のようだ。


「熊本第二ダンジョンにエレベーターはついてるのかついてないのか、早速黙ってたギルド側への文句が多くなってきたわね」

「ネットのほうは言いたい放題ですからね。そんな美味しい施設が付いてるのに使わせてもらえなかったって現地の探索者の話もあるし、これはひと悶着起きそうだな。どうまとめるのやら」


 玄関の呼び鈴が鳴る。どうやらピザが届いたようだ、みんなで食べよう。ピザをそれぞれ食べながら、ネットの中継を見る。やはりネット上では熊本第二ダンジョンがエレベーターの事を隠していたことに非難が集中している。ふと思い立ち熊本第二ダンジョンのスレッドを見ているが、こちらも中々の速さで進行している。これは朝までずっと張り付いてる奴が居そうだな。こっちがそれに付き合う必要はないわけだが、いつまでこれ見ていようかな。眠くなるまででいいか。


「これ、朝まで見続ける必要ある? 」


 結衣さんは早速飽きたらしい。


「ない。いつもの時間まで寝て起きて、それからご飯食べてから消滅の瞬間だけ眺める、って方が効率的だと思う」

「じゃーそうしましょうか。ちょっと早いですけど今日は色々と疲れました。そういえば、スーツの匂い落ちてますかね……」


 芽生さんは自分のスーツの残り香が気になったようで、吊るしてあるスーツの匂いを嗅いでは、ヨシ、と確認をしていた。どうやら匂いの元はスーツではなかったらしい。


「うーん、やっぱり髪の毛の隙間とかだったのかな。毛根一本一本までイメージしてウォッシュしなきゃいけないとなると相当な集中力と精密さが必要だな」


 芽生さんはフラフラっとスーツを片手に自称自室に戻っていった。今夜はどうするんだろう。疲れるんだろうか。それともそれぞれで寝るんだろうか。


 と、しばらくすると戻ってきて俺の部屋に入っていった。なんだ、今日は疲れる日か。結衣さんもお風呂を上がったらそのまま俺の部屋へ入っていったので、風呂の掃除をしてから部屋に戻る。


 ベッドの上では二人が半裸で待ち構えていた。ここが桃源郷か。


「そういえば三人で、ってなかったわね」

「他人がダンジョン消滅で大騒ぎしてる裏で、最先端を行く探索者がこんなただれたことをしていていいんでしょうかねえ」

「よそはよそ、うちはうち」


 保管庫からピッとタンスのアレを箱で出す。準備は万端。息子も万端。さあ今夜も頑張るぞ。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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ダンジョン消滅にミルコがあんまり反応示してないあたり、魔素放出に悪影響無いのかもね
> 洗濯を試してみる」 洗濯と書いてウォッシュと読む > これは便利だな」 風呂、トイレ掃除が一瞬に > 流石に使いすぎたのか少し眩暈がする」 大丈夫?ドライフルーツ食べる? > 自分の負荷が減…
ダンジョンを消滅させる=踏破でAランク認定ねぇ…。ミルコ達ダンジョンマスターからすればダンジョンが減るのは余り嬉しくない事態でしょうし、Aランクになりたいからって他人の都合も考えずにダンジョンを消滅さ…
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