85:詰問
四百五十万PV越えました。ここまで見てくださりありがとうございます。
三層では主にゴブリンを探す。昨日カロリーバーを買いあさったから、今日は稼いでその分を取り戻す予定だ。
三層から四層への道を歩いていく。三分に一回エンカウントするぐらいの速さだ。一時間このまま狩りを続けたら、大体四十匹のゴブリンに出会う計算になる。ざっくり言って二万円ほどの収入が見込める。あくまで見込みであって確定ではないが。
これはスライムでは到底出せない時給だ。四層に降りてソードゴブリンと戦うのもありだが、今日は三層で狩りを続けようと思う。ソードゴブリンは固有のドロップであるゴブリンソードをドロップしてくれる。
保管庫の肥やし兼投擲武器としてとても優秀だが、ギルドでは査定に出しても買い取ってくれない言わばはずれドロップとして認識されている。
重量や容積の問題で持ち帰ってもあまり評価に値しないどころかただのお荷物だ。
しかし、保管庫を持つ俺にとっては重さ・容積のデメリットをゼロにできる上に攻撃手段が増えるという他には出せない利益を生み出してくれる。
なんせ、これをぶつけるだけで少なくとも五層まではモンスターを確殺できるとても便利なものなのだ。おそらく、六層以降でもこれは有効打になりうるだろう。
そんなわけで、儲けを無視すれば武器を手に入れるために四層に潜ってゴブリンソードを目的に狩りをするという手段もある。
四層ではゴブリンソードを供給してくれるソードゴブリンは一~五匹のゴブリンをお供にして出て来てくれるので、一斉攻撃さえされなければ比較的安全に狩りを続けることが出来る。
保管庫にあるパチンコ玉もそうだ。これを高速でぶつけることでゴブリンは倒せる。つまり、間近まで接近される前に数を減らして、その間に他のより少し強いソードゴブリンと戦うことが出来る。
三層が混んでいれば四層で狩りというプランを立てていたんだが、どうやら三層にはそれほど人は居ない。というか、小西ダンジョンで人の多さを気にしたことがない。
小西ダンジョンで恒常的にモンスター狩りに勤しむ人は俺が顔と名前が一致するだけで六名、名前を知らないけど探索者として顔を知っている人が三名ほどだ。
たまたま出会う機会が無い人が二倍ぐらいいるとしても、二十人居るか居ないか、という所である。そんな状態で狩場がかち合う、という事もなく、狩場争いでいさかいが起こるわけもなく。
一日にどれだけのリポップが発生するかの数が決まっている、という話は聞いたことがないので現状狩場で困ることはまずないのだ。
るんるん気分でグラディウスを振るっていく。慣れたものである。ゴブリンが攻撃モーションに入っている間に懐に潜りこみ一閃、腕を切り落としたそのままの流れでクルッと回って頭を斬り飛ばす。
この間およそ二秒。三層のゴブリンはあまり賢くない。こっちを見かけたら一直線に殴り掛かりに来るだけだ。動きは単調でそれほど早くない。グレイウルフにしてもそうだ。スライムに至っては、こちらから殴り掛からない限り何もしてこない。
もうちょっと賢くても悪くはないと思うんだがなぁ、と時々思う。ファンタジー小説に出てくるゴブリンはもっと小賢しく描かれることが多い。気が付いたら包囲されていたり、捕まえた人間を盾に使ったり、トラップを仕掛けたり、だ。
そういえばダンジョンでは今のところトラップを仕掛けられた跡を見たことがない。そこまで頭が悪い理由は何だろう。DHAがたりないんだろうか。
まぁ、相手の頭が悪くて困ることは少ない。ここは相手の頭の悪さに感謝しておこう。
等と考えている間に四層への階段へたどり着いた。少し休憩していると見覚えのある顔がこちらへやってきた。
「やっぱりここだった」
文月芽生。パーティーメンバーであり、保管庫スキルを持っているということを知る今のところ唯一の人物である。
ダイエットと奨学金の足しにするためにダンジョンに通う女子大生だ。尤も、奨学金のほうは先日ドロップした【火魔法】の売却代金でほとんどを返せる見込みがあるようだったが。
「あれ、レインの返事くれてた? 」
「既読着かなかったからもう中にいるかなって。なので追いかけてきた」
「まぁ、合流出来て良かった。もうちょっとでわき道に入る所だったよ」
「ギリギリセーフだね」
文月さんはほっとすると隣に座る。若干急いできたのだろう、少しだけ息が上がっている。
「じゃぁ、もうちょっと休んでから行くか」
「賛成。急いできたからちょっと疲れた。お水と食べ物ちょーだい」
「あいよ」
保管庫からミネラルウォーターとゼリー飲料を渡す。ついでにトランシーバーも渡す。簡単な説明だけして使い方を教える。これでこれからの連絡は取りやすいはずだ。
「そういえば知ってる? スライムのドロップ確定方法が見つかったって話」
「耳が早いな」
「で、特定のメーカーの特定の商品を食事中に倒すとドロップが二つとも確定する、と」
「そうらしいねぇ」
「これ、前に中華屋で言ってた話だよね」
「そうだねぇ」
わざととぼけてみる。もう答えは解ってるんだぞと言う感じで文月さんは問い詰める。
「なんでばらしちゃったの? 」
「聞かれたら違う、と答えるつもりでいる」
「すごい発見なのに? 」
「それほどすごい発見でもないんだよなぁ。むしろわかっちゃったデメリットのほうが大きい」
「デメリットなんてあるの? 」
そこまでは考えていなかったらしい。咳ばらいを一つすると、文月さんに説明を始める。
「保管庫なしで活動することを前提にしようか。まず、カロリーバーの在庫を抱えたまま狩りに入ることになる。これは相当な重さになる」
「ふんふん」
「そして、一時間に六十匹ずつ倒すと仮定しよう。八時間作業して二百四十本、これは十キログラムの重さを背負ったままダンジョンまで来ることになる」
「厳しくない? 」
十キロだからな。大きい米の袋一つ分だ。
「とても厳しい。そして帰り道には四百八十個の魔結晶と四百八十個のスライムゼリーを背負って帰ることになる」
「まぁそうなりますね」
「そうだな……たとえば十人小西ダンジョンにスライム狩りに来たとする。そうなると、職員の負荷がどのくらい上がると思う? 」
想像してみてほしい。バッグ一杯のドロップ品が人数分だけ置かれる状況を。そして小西ダンジョンの職員の少なさを。
「……地獄ですね」
「でしょ? ギルドを敵に回す行為に等しいでしょ? 」
「じゃぁ、なんで公開したんです? 黙ってれば自分の利益としてしばらく美味しい思いができたでしょ」
「いつか誰かが見つけ出す法則、というのは早いか遅いかだけの問題だろ? なら早いうちにバレてしまったほうが」
「早く公開しちゃったほうが対処も早くできるし対応されるようになっていくと」
文月さんは落ち着くと、五百ミリリットルの水を飲み干した。
「ちなみに、この後どうなると思います? 」
「スライムゼリーとスライムの魔結晶が重さで価値判断されるようになる、がベターなラインだと思う。最悪、スライムドロップの買い取りが停止される」
「査定カウンターがパンクしますもんね」
多分買い取りを停止すると探索者からブーイングしか飛ばない気がするから、買い取り停止なんてことは出来ないとは思うんだが。
「小西ダンジョンでそれが起きてみ、俺が元凶だとばれたら二度と小西ダンジョンへ来るなと言われかねんよ」
「その時は清州に行くとか」
「それも一つの理由なんだよね」
「清州が何で理由に? 」
俺は清州で体験してきたことを話すことにした。
「清州へ行ってみて思ったんだけど、人が多すぎてモンスターが湧かないか、常に倒され続けていて、全然出会えないんだよ」
「まぁ、あそこは過密すぎますからね。交通の便も良いし」
「そんな中でやっとであったスライム倒して何も出なかったときの言い知れない苦労って、すごいストレスなんだよね。だからそんな環境が少しでも改善するなら自分の食い扶持を公開するのも良いと思ってさ」
「一応考えてるんですねぇ」
「後何よりも……」
「何よりも?」
俺は言葉を精一杯溜めてから答える。
「熊手片手に潮干狩り始める人が増えたら面白いなって」
「それが一番の理由なんですか」
「一番の理由なんですよ」
「楽しんでません? 周りの慌て具合を」
「ちょっとだけ楽しんでる。外野の振りして眺めるのも中々オツなものかもしれない」
ホホホ……と越後屋が笑うようなしぐさをしてみる。
「じゃぁ、しばらくはわざわざ潮干狩りはしない、という方針で? 」
「適度にはする。小西ダンジョンに人が増えるようならしない方向性になるだろうけど」
「今日は三層? それとも四層? 」
「五層でもいいよ。ボア肉美味しかったし、ダーククロウ向けの格安武器も補充したし」
選択肢がいくつもあることは良い事だな。どれをとっても魅力のあるドロップをくれる。
「じゃぁいつも通り、四層で剣一本手に入れてから五層へ行きますか? 」
「付き合ってくれるなら有り難い。まだ二本しかないからな。できれば十本ぐらいほしい」
「そんなに集めてどうするんです?」
両手を胸から前へ突き出すポーズをとる。
「一斉発射したい。ズバーンと」
「それは派手ですなぁ」
「六層ではワイルドボアが一杯こっちへ向かってくるそうだから、一斉に処理してみたい」
「まぁ、私は楽が出来るからそれもいいかなぁ」
「とりあえず、休憩はこのぐらいにして四層へ行くか」
「行きましょー。でもその前に」
文月さんが行く前にチクリと釘を刺してくる。
「何本買い占めました? 」
「各三箱プラスバニラ風味をありったけ」
「やっぱりやる気だったんじゃないですか」
「だってバニラ風味美味しいから、売り切れると困るから」
「はいはい」
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