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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
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847:新階層へ 4/4

 昼食休みをきっちり取り終わり、万全の態勢とも言える状態まで持って来た。モンスターの事はまだ完全にわかっている訳ではないが、今の状態なら苦戦するほど強い、というほどのものでもないことも確認できた。相手の攻撃パターンを全て知りつくす所までは来ていないが、少なくとも最善手で確実に勝てる見込みは立っている。


 ここまでもってきて、ようやく地図を作ろうというところ。我ながら面倒なことは承知しているが、安全第一は探索者のモットーである。安全率は充分に取れたと言える。しいて言うならもうちょっと楽にシャドウバイパーを倒す策が見つかるとよりベターなのだが、最深層にそこまでのマージンを取るのは難しい。ここは大人しく最大威力を存分に発揮しながら進むことにしよう。


「さて、地図を作り始めるのは良いんだが……まずドローンを使っても周りが霧だらけじゃ全く参考にならん。ここは足で探索するしかない。地味だが、確実な探索を心がけよう」

「持久力がどのくらい持つかも大事ですね。久々にドライフルーツの出番かもしれません。在庫はありますか? 」


 芽生さんがドライフルーツの在庫の確認を始める。そこに気が付くのはさすがというものか。最大火力で撃ち出す必要がある都合上、持久力が必要であることを見越してくれている。これを大量確保しているだけでも既にチートの域に足を踏み入れていることを自覚する。


「正直な話、いつになったら無くなるのか、と思う程度にはある。多分毎日限界まで使うとしても半年分ぐらいはあるから在庫は気にしなくていい。こういう事態に備えてあらかじめ溜めておいた……というより、経過時間を個別に変更できるようになってからひたすら二十九層に通ってトレントの実を集めた分があるからな。残弾は気にしなくていい」

「じゃあ……十五枚。仮に使い始めたとして十五枚使ったところで帰還しましょう。そのぐらいの余裕をもって探索していくぐらいのほうが安全なはずです」


 たしか三十枚が限界許容量だったはずだからな。良い判断だとは思う。


「じゃあそういう事で行こう。時間で区切るなら、午後四時。五十層で午後四時になったら帰り始めるという事で良いかな? 今日中に何かを探す、というよりもマップの雰囲気をサラッと流していく感じで。ウォッシュは気分が悪くならない程度の頻度でかけていくから必要になったら言ってね」


 シャドウバタフライとの連戦になれば鱗粉を浴びる回数も増える。いくら甘いと言えども酔ったら気分が悪くなるに違いないし、それがモンスターの狙いかもしれない。鱗粉で気分が悪くなったところをシャドウバイパーがガブリ、という可能性もあるのだ。出来るだけ体調も服装も万全な体制で挑みたい。


「解りました。じゃあ行きましょう、今度はどっち行きます? 」

「そうだな。さっきは北西に行ったから今度は南東に向かってみよう。こう視界が悪いとどっちへいっても同じに見えるから、出来るだけ逆さつららが見えるのを基準にして行動するのと、逆さつららをみかけたら階段の有無を確認すること。壁にたどり着いたら……どうしようかな。そのままぐるっと一周するのも悪くないけどこの視界じゃかえって迷いそうでもあるし悩ましいな」

「そこはたどり着いてから考えましょう。何はなくとも目印です。モンスター退治でお金を稼ぐことも大事ですが、今は全体地図を作って動きやすいようにするのが先、ですよね」


 そこまで解っているなら結構、と頷く。そして再び五十層へ潜る。視界の悪さは相変わらずだ。念のため試しにとドローンを飛ばしてみるが、やはり周囲に逆さつららのようなものは見えない。見えるのは北西方向に最初に出会った逆さつららがかろうじて見えているだけ。


「やはり使い物にはならんか。戦闘もあるし、戦闘が終わるたびに周りを確認するために使う、ぐらいの頻度で行こう」

「この小さい逆さつらら……というよりたけのこみたいな大きさでも目印になりますかね? 」

「無いよりはマシだな。順番に探していこう」


 地面からぽつっと出ている逆さつららこと石筍。つららから落ちてくるしたたりの石灰分が堆積してできている……とこの間調べたな。と言うことは頭の上にもつららがあるのは不思議ではないんだが、どうやらつららとセットで存在するという訳では無いらしい。そこまで自然現象を模倣したわけではないという事が、このダンジョンが人工的な物であるという事を証明している。


 試しに蹴ってみたがさすがダンジョンオブジェクト、小さくても逆に足にダメージを与えてくる。破壊されて無くなることはないと確認が出来たうえで、地図に小さな点として残しておく。


 しばらく南東へ歩くと索敵に二つ感。このふよふよ感はシャドウバタフライだな。鱗粉で周りが甘さだらけになる前に処理してしまおう。最大雷撃で二発、ザクッと叩き落すとドロップを遠距離から拾い、次へ向かう。出来るだけあいつが居た周辺には近寄らないように避けて通る。モンスターが死んでも甘さが残るので、その周辺には甘ったるい粒子が浮遊し続けているという事だ。シャドウスライムならこの甘ったるい粒子も栄養分として補充するのだろうか?


 シャドウスライムとシャドウバタフライが同時に出現するタイミングが有ったらそれを確かめるのも悪くないかもしれないな、とよそ事を考える程度には余裕のある探索だ、この調子で地図を作っていこう。


 そのまま南東にまっすぐ進む。途中に出てきたシャドウバイパーとシャドウバタフライは全力で焼き切ることで解決。芽生さんも本人命名スプラッシュハンマーを効率的に使い、こちらにダメージが拡散しないような扱い方がだんだんわかってきたらしい。問題なく処理できている。


 シャドウバタフライの落とす魔結晶は鱗粉にまみれているが、範囲収納を使えば鱗粉を取り除いて魔結晶だけを拾う事が出来た。そして鱗粉を単品で収納しようとしたが、多分俺の中の無意識では、これは空気を拾うという動作と同じことになっていて、空気中の鱗粉を収納する事は出来なかった。部屋の掃除をする時に家具は収納できてもホコリは収納されないのと同じ原理かな。ともかく綺麗なままで収納できるのは有り難いのでシャドウバタフライのドロップを拾う際は範囲収納を心がけよう。


 しばらく南東に歩くと大きめの逆さつららをみつけたので、おおよその距離と歩いた時間を書き込んで、そこから次の目標物を見定める。すると天井側に大きなつららが見えたのでそこを目標に歩くことにした。霧で見えないと言っても、かなり大きなものは透けて見えるらしく、紫色がそこだけ遮られるように黒く光を吸収している。


「なんか天井に大きいのありそうですね」

「ああいうのがあると解りやすくていいんだけどな。見落としてるだけで実は北西側にもあったかもしれん。次回北西側を回る時は参考にしよう」


 大きいつららがありそうな方へ足を進めていく。道中にはシャドウシリーズがぽつぽつとではあるがかなりの数居た。途中のシャドウスライムがゴキに擬態していて一瞬芽生さんがひるんだ後、全力でぶち殺したのがハイライト。全力でぶち殺されたせいかどうかは解らないが、キュアポーションのランク3をくれた。


 どうやらシャドウスライムは高めの確率でランク2の、低めの確率でランク3のキュアポーションをくれるらしい。毒対策しなくても良かったな。最悪【毒耐性】を買い集めるところまでしなきゃいけないのかと覚悟もしたが、そこまでは必要ないらしい。


 そして、シャドウバタフライから例のポーション、ヒールポーションランク5ではないかと目されている奴も出た。これもまだ金にはならないので保管庫の肥やしだ。しっかり育って後で美味しいポーションになってもらおう。シャドウバタフライから出たという事は、シャドウバイパーからも出るだろう。シャドウスライム、こいつは解らん。こいつからも出たら美味しいが、なんとなくこいつはその分キュアポーションのランク3を落としてくれている、そんな設計になっている気がする。


 シャドウバイパーに噛みつかれたとしてもランク2とランク3が両方あるなら2を試してダメなら3、という風に段階をつけてポーションで治療する事も出来る。まずは噛まれてみないことにはその区別はつかないが、そう考えていると芽生さんに小突かれたので、どうやら顔に出ていたらしい。


 またしばらくシャドウたちと戯れながら進むと、大きなつららが肉眼で見える位置まで来た。足元にはこれまた大きな石筍と三匹のシャドウバタフライがふらついているので真っ先に処理して調査しても問題ないように対応する。シャドウバタフライは三匹出てくることもあるんだな。これは階層を跨ぐと四匹五匹と増えてきそうで対応が難しくなってくるな。


 石筍の周りのシャドウたちをすべて排除し、シャドウバタフライの鱗粉を我慢しながら調査すると、今回は何とも簡単に階段が見つかってしまった。道で言うと、南東に十五分歩いた後さらに南に三十分、というところだろう。帰り方向は北北西だが、目印がまだできていないので迷子になる可能性のほうが高い。大人しく来た道すがらに戻るほうが安全だろう。


「あっさり見つかるのは珍しいですね」

「ほんとにね。あまり苦せずに労が報われたのはいつ以来だろう。とりあえず、一旦階段に戻ってそれからもう一度考え直そう」


 どうせ往復するなら階段から階段にかけてなのだから、直線でもう一往復半して目印と共に最短ルートを探したいというのが本音だ。その為に迷子になるのは本末転倒なので、まずはここまで来た後ちゃんと戻れるのかどうかを確認しなければならない。


 しかし、なんともあっさりした探索になってしまった。まだドライフルーツの一枚すら噛み締めてはいない。もう少しこう、噛み応えがあっても良かったのではないだろうかと逆に不安になるぐらいだ。試しに一枚ドライフルーツを齧っておこう。気を引き締める意味でも一つファイヤーしておいたほうがいいかもしれん。


「もう息切れですか? 」

「いや、順調すぎて不安になってきた。精神疲労を取り除くための一枚……よし、落ち着いた。さあ、まずはちゃんと帰れるかどうか確かめながら行こう」

「洋一さん、時々メンタル不安定になりますよね。私が居るんですから安心してください」


 芽生さんから背中をトントンと叩かれ、ちょっと安心感が増した。外付け安全装置は働いてくれたらしい。


 来た道をそのまま戻るので、行きほどのモンスターの湧き具合は無い。無事に目標の逆さつららに到着し、そこから北西にたどることで無事に階段にはたどり着けた。問題は最短距離で行けるかどうかだな。


「もう一回向こうへ行くとき、斜めに行ってたどり着けるかな? 」

「比較的大きいつららの足元ですし、方向を間違えなければ大丈夫じゃないですかねえ。結構遠距離からでも見えてましたし」

「そっかぁ。じゃあまだ時間もあるし、いっちょ行ってみるか」

「それで行って戻って今日は解散ですかね。ちょっと水分休憩してから行きましょう」


 シャドウバタフライの鱗粉を潜り抜ける都合上、口の中が甘くなるので定期的に水分で洗い流してはいるが、この鱗粉は生物濃縮起こして何か変化が起きたりはしないだろうか。蓄積する毒みたいなそういうものであった場合何処かのタイミングでデトックスする必要が出て来るな。


 今度は真っ直ぐ南南東に向けて進路を取る。その内大きなつららの影が見えてくるはずなので、それまでは真っ直ぐ進む。十五分ほど進んだところで大きさ五十センチメートルほどの石筍が有ったのでそれも目印に追加しておく。これで更に信頼度が上がった。


 更に南南東へ進むこと十五分。進む方向に大きなつららの影が見えてきた。これでこのルートは使えるな。目印もある、最短の五十一層へのルートだ。ちゃんと階段までたどり着けるか足元まで確認して、ルート固定完了としておこう。


「ここまでくれば後は同じですよね」

「そうだな、でも時間もあるし、階段周りの掃除をしてから帰ろう。ちゃんと到着できたという自己満足を得られる」

「大事ですね自己満足。気分よくダンジョンを離れるためにも満足感を得られたかどうかは進捗のほどはさておき、メンタルに良いですから」


 一時間半ぶりに訪れた階段周りにはやはりシャドウバタフライ。離れていても漂ってくる甘い香りのせいで綿あめの屋台でも開いてるのかと勘違いしそうになるが、ここはモンスターはびこる小西ダンジョン五十層。ちゃんと残り香ごと撤収してもらいたいところだ。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
> ドローンを使っても」 霧は嫌がらせ程度のドローン対策の可能性 > 三十枚が限界許容量」 トレントの実3個分 > さっきは北西に行ったから今度は南東に向かってみよう」 じゃあ南西で > 足にダ…
十五枚も使う気で挑んだらえらくあっさりと見つかって拍子抜けですねえ 面倒な階層だから早く済んで良かったのはそうですが
(´・ω・`)
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