845:新階層へ 2/4
活動報告のデータ内容は指摘があり次第修正してます。あっちだとコメント返しが出来ないのでサイレント修正になりますがそこは御納得をお願いします。
リヤカーをエレベーターの前に放置すると、五十層の階段の方向へ歩き始める。紫の鍾乳洞、もしくは霧マップと呼ぶべきこの環境でどんなモンスターが待ち受けていてくれるのか。ワクワクしているが、それ以上に慎重にもなっている。この視界のあまり利かないマップ、頼れるのは【索敵】と目視。その目視距離が著しく短いため、遠距離から攻撃を加えるという手段を取り辛いのは明らかだ。
「近接戦闘がメインになってくるかな。ステータスブーストの段階を上げておいてよかったと考えるかどうかはこれから次第だな」
「そういえば、最近ソロでどこ巡ってるんです? そろそろカニも飽きたんじゃないですか? 」
芽生さんが俺のソロ活動について質問してくる。
「最近は視聴者からの反応がすこぶるいいらしくて、全力で走り抜けながらカニうまダッシュをしている。四層でやってたあれの四十三層版だな。ミルコに聞いたところだと、一人称視点でも観察できるらしくて、スピーディーに倒していくさまが中々に迫力があるらしいぞ」
「ということは今も誰かが一人称視点で見てるかもしれないって訳ですか。ほれほれ」
芽生さんがスーツの下から軽く胸を振る。ゆっさゆっさとまでは擬音が聞こえないが、それなりのボリュームを持つ芽生さんの胸が上下に揺れる。俺も思わず見る。ご馳走様です。
「そんなサービス必要かなあ? ダンジョンマスターだぞ」
「たまにはそういう事件があったほうが視聴者が張り付くんじゃないですか? 今頃、なんで先に教えてくれなかったんだ! みたいな反応をしてるダンジョンマスターの一人ぐらいは居るはずですよ」
「その発言が無かったら完璧だったと思うよ。それに視聴者数で報酬が出るわけでもないからな。たまたま見ててくれてた人へのご褒美ってことにして、ダンジョンに集中しようか」
「はーい」
五十層への階段にたどり着いた。さあ、勝負はここからだ。一体何が待ち受けてくれている事やら。
◇◆◇◆◇◆◇
階段を下りた五十層の視界は変わらず。どうやらセーフエリアだから霧が薄めであるとかではなく、四十九層と同等の視界を得られてはいる。これでもし、五十層から徐々に霧が濃くなっていくようなパターンだと非常に戦いづらいのだが、今のところは一つ懸念事項が減ったという事だろう。
「索敵に反応は今のところ無いが、索敵に反応が無いモンスターという可能性もある。充分注意していこう」
「視界最悪の上に索敵も利かないモンスターってそれはちょっと殺意が高すぎるんではないですか? 」
「そう思わんでもないが、可能性がある以上はここのモンスターをすべての種類見て回るまでは頭に入れておこう」
しばらく進むと、早速索敵に感。しかも動きが結構早い。するすると動き回っては徐々にこちらに近づいてくる。そして姿が見え始め……相手が姿を現した。相手はどうやら灰色に近い黒色をしているようだ。反射する紫の光をほとんど吸収している。黒い……いや、影色をした蛇ってところだな。仮称シャドウバイパーとしておこう。結構長いな。ぱっと見三メートルぐらいはありそうだ。太さも中々のものをお持ちだ。この太いからだで締め上げながら噛みついてくるのだろうな。
「相手、蛇。色は……影みたいな黒。こっちの索敵のほうが射程は長いみたいだ。毒は何となくだけど持ってそう。強さは不明」
「素早そうなのでスキルを当てづらいですね。でも近接攻撃確定にならなくてよかったところですね」
シャドウバイパーは四十メートルほどの距離まで来ると体を縮めて一気にこちらへ走り抜けてくる。蛇なんだ、毒の一つや二つ持っていても不思議はないだろう。まずはいつもの雷撃からだな。
一発全力雷撃を決めるとシャドウバイパーは怯むが、そこで一旦足を止めるとこちらへ一気に向かってきた。図体のわりに素早い。完全に近づかれる前にもう一発全力雷撃。シャドウバイパーがまた怯む。だがまだ動けるようだからもう一撃。全力雷撃の三射でようやくシャドウバイパーが足を止め横たわった。びろーんと伸びて、端っこから黒い粒子に還っていく。結構タフだなこいつ。後には緑の魔結晶が残った。
「全力で撃ちました? 今の」
「全力も全力。まさかきっちり二発まで耐えるとは思わんかったな。やはり事前準備に鍛えておいて正解だった」
とりあえず方角を確認。ここは逆さつららが唯一方向と距離を決める基準になりうる。次の逆さつららを探すまでは方位磁石と自分の歩数が頼りだ。次が上手く見つかってくれるといいが。
しばらく歩くとまた索敵に感。この動き方はさっきと同じだな。今度は芽生さんに任せよう。
「さっきのと多分反応は同じだな……と、やっぱり蛇か。仮称シャドウバイパーとする」
「了解。今度は私がやってみますね」
芽生さんが射程ギリギリからウォーターカッターを三枚撃ち出す。三枚ともシャドウバイパーを切り裂き、切り裂いた先から黒い粒子が漏れ出しているのが紫色の反射光に彩られて若干綺麗に見える。だが、それでは止めにはならない様子で、切られてもなおこちらへ近寄ってくる。芽生さんはもう三枚ウォーターカッターを射出。二枚がヒットし更に傷をつけるがまだシャドウバイパーの闘志は揺らいでいないらしい。
「そう来たら、今度はこう! 」
芽生さんはそうつぶやくと、水の塊を出現させ、それを無理やり圧縮して頭の上に落とす。新技かな。頭の上に着弾した水はそのまま薄く広がり、シャドウバイパーの表皮と頭の皮を剥いでいく。新技だな。
芽生さんの新技を喰らったシャドウバイパーはそのまま二枚におろされ、黒い粒子に還っていく。今回もドロップ魔結晶。
「命名、スプラッシュハンマー。当てた後、着弾したところからウォーターカッターが飛び散ります。当たり所がうまく行けばこう、さっきみたいにずるっといけるはずです」
「着弾点からウォーターカッターが広がる、というのがコツか」
「自分からの発射だと背中を狙えなかったり、垂直に上から打ち下ろしたりできないですからね。普段頭の中でイメージしてる水の圧縮を外注してみました。いかがなもんでしょう」
「よくできてると思う。これ、自分に向かってきたりはしないよね? フレンドリーファイア起こしたりしない? 」
「……ああ、えーと」
どうやらそこまではまだ考えてないようだ。今後に期待しよう。少なくとも自分のスキルで自分が傷つく事は無いのだから、ソロならある程度合理的な使い方ではあると思う。
「とりあえずスプラッシュ無しで頭に打ち込むだけでも打撃効果はあるんだし、そこからうまく派生させていこうか」
「もう少しですね。出来るだけ洋一さんに当てないように頑張ります」
シャドウバイパーが落とした魔結晶を拾い、あらかじめ索敵で周辺にモンスターが居ないことを確認すると、保管庫にあったカニの魔結晶と見比べる。およそ倍ってところかな。六万から七万円の価値、という所だろう。ホウセンカの魔結晶はもうちょっと小さかったと思うので、六万円以下になる事は無いと考えられる。
続いて探索。今度はさっきよりもゆっくりと移動しているモンスターが現れた。二匹セットだ。近づいてみると、こっちの視界に入る前に赤くなった。確実に敵である。
「視界外から敵反応、数二」
「多分違うモンスターでしょうね」
出てきたのは……蛾? いや蝶か? 分類上は大差ないんだったな。見た目は悪くないので蝶ということにしておこう。とりあえず遠距離から全力雷撃、着弾。まだフラフラと飛んではいるが、こっちはそれほど耐久力は無いらしい。もう一度全力雷撃を加えると、攻撃らしい攻撃をしてくる前に黒い粒子に還った。
芽生さんのほうもさっきのスプラッシュハンマーを喰らわせる前にウォーターカッターだけで羽根を切り裂き、地面に落ちたところで水の塊を上から降らせてぺしゃんこにさせている。どちらも魔結晶だけ残して去って行った。色は緑。大きさは……シャドウバイパーよりは小さいな。……ん? なんか、空気が、甘い。
「なんだこれ、空気が甘いぞこの辺」
「さっきのモンスターの鱗粉みたいなものですかね。髪がべとべとしそう~」
芽生さんは本気で嫌がっているようだ。なんだか甘味料を山ほど無理やり口に含まされたような味わいを感じる。結構目にも来る。この鱗粉みたいなものが攻撃手段、ということだろうか。モンスターの一部なら黒い粒子に還る時に一緒に何処かへ行ってくれるはずなので、攻撃した後の状態がこれ、という事になる。
「とりあえず……シャドウバタフライという名前にしておこう。仮称だし安直な名前でヨシ。問題はどっちもドロップ品をまだくれてないのと、攻撃手段を見せてくれてないということだな。特にシャドウバイパーは近接されて噛みつかれてその後どうなるかがまだよく解ってない」
「なんか毒持ってそうなイメージだけはありますね。噛まれるタイプか、それとも噴射してくるタイプか、どっちでしょう? 」
「噴射してきて顔にかかるのだけは避けたいな。出来れば噛みつきのほうが……いやでも噛みつかれると多分スーツごと持っていかれるから出費が痛いし……悩みどころだな」
どっちにしても毒は厄介だな。先日のイベント中にカウ肉を集めるついでに予備用としていくらかキュアポーションのランク2を常備してはいるが、これがランク3が必要、という話になると自力で集めに行く必要がある。
「とりあえず、今日の給料がゼロ円になる事だけは避けられたな。今のところまだ緑の魔結晶だ」
「まだ緑ですねー。青になったら買い取り価格どうなるんでしょう? 」
「その辺は……まだどうにも言えないな」
保管庫からまたエルダートレントの魔結晶を取り出す。サイズはこの緑の魔結晶よりも大きい。魔結晶の色は魔素の密度で変わっていくのかな? というところだ。もしかしたら青の後は紫になって、最終的に白い魔結晶になるような気がする。
「ご祝儀価格も加味されているんですかね」
「今のところはそういうところじゃないかなと。多分実際にいくら分の燃料になるか計算が出る前にエルダートレントのレイド討伐が達成されてて、報酬分ける際にどうするか悩んだうえでの決定なんじゃないかなーと思ってはいる」
「じゃあ実際はもっと安いもんだという見方ですか、今のところは」
「そうだな。それを確認するためには……最良でも後三階層掘り下げてやらないと結果が見えないところだな。まだこのマップでは出ない! と決めつけるわけではないが……あ、次のモンスターだ。今回もまた動きが違うな」
その場でとどまって相談していると、索敵センサーに感知する一体のモンスター。動きからしてシャドウバイパーではないことは確かだし、シャドウバタフライならもうちょっとフラフラと泳ぐようにして歩いているはずだ。これは三種類目のモンスターだな。
「次、また新しい奴。見るまではどんなのかわから……な……」
目前に現れたのは黒く半透明のレッドカウ。レッドカウの新種だろうか。今までにないパターンだが……なぜ半透明? つい最近レッドカウと戦ったので動きは覚えている。あいつはもっと速い。
「なんか変なの出てきたぞ。雰囲気も動きも違う。ちょっと注意しながら見ていこう」
試しに全力雷撃をするが、あまり効果が無いといった印象だ。こいつは魔法耐性でも持っているのか? しかしこのレッドカウ、なぜ半透明なんだ。半透明と言えばスライムだが……スライムレッドカウ?
「近接、仕掛けてみる。ちょっと疑問点が出来た」
「雷撃みた感じスキルは効かないみたいですし、どうなってるんでしょう? 」
「解らんが殴って見れば答えになるかもしれん」
近寄って薄黒いレッドカウを頭からバッサリ雷切で斬って見せる。どうやら切断は問題なく効果があるようだ……が、切った先から元に戻った。軟体動物……いや、どっちかというとアメーバとかそんな、いやこの際もっと踏み込んでみてもいいだろう。
「もしかしたら、こいつスライムかも」
「スライムですか? レッドカウの形の? 」
「多分擬態してるんだと思う。だったら何処かに核があるはずだが……さて」
緩やかに攻撃してくる薄黒いレッドカウの攻撃を避けつつ、核の位置を探る。やはり光っている目かな? ざっと全身を見るが他に核らしきものは無い。とりあえず試してみるか。
雷切を目に差し込み、核を焼こうと試みる。雷切はスキルではあるものの魔法耐性があるらしい体にも関わらずすんなりと差し込まれていき、目を割られた薄黒いレッドカウはそのままパシャッと水になるように溶けると、その場に崩れ落ちて黒い粒子に還った。どうやら目が核だったらしい。後には小さな緑の魔結晶が残った。ダンジョンウィーゼルがくれた奴よりかなり小さい。最小サイズというイメージがぴったりだな。後は……何か見覚えのあるポーションが落ちている。保管庫に入れてみると、キュアポーションのランク2だった。なんでだろう。
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