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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
844/1207

844:新階層へ 1/4

とりあえず思いつくだけの人物一覧と、現時点までのダンジョン各階層の登場モンスターと階層一覧を活動報告のほうに乗せてありますので興味がある方はどうぞ。


人物一覧 https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1947074/blogkey/3355274/

ダンジョン構成一覧 https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1947074/blogkey/3355259/

多分ここから行けると思います。

 気持ちのいい朝、しかし風が強い。春一番という奴がそろそろ吹き始めるのだろう。春分の日までに吹けばいいんだったか。今年はそれに比べるとやや早い気がするな。


 今日も気持ちのいい目覚めだ。昨日の疲れはない。そして今日は芽生さんと潜るので、新階層へチャレンジしようと思う。イベントも終わったし俺も芽生さんもそれなりに強くなったという実感が持てる程度には四十八層で戦い抜けるようになってきた。それらの成果を出してくれたのも、毎日疲れを余さず取り去ってくれる布団と枕のおかげだ。今日もありがとう。


 値段のついてないポーションや、もっと前に言えば謎の種のことも気にはなるが、それらは保管庫に入っているのでそうそう劣化せず、いざ査定に出せるとなった時にいつでも出せる場所にある。金になるように変化した時に出せるようにしてあるならば、それ以外は別に気にする必要はない。ならばやりたいようにやろうというのがパーティーの理念であり、ここまでそこそこの成績を残してこれた結果でもある。


 そして、今日から新マップ。やることはいつもと同じだ。苦労せずにできるだけ楽をして探索を楽しむ。このためにイベント中もその前も、四十八層で力と半分以上は持っていかれるお金を溜めこんできたのだ。今日からはまた新しい気分で探索を始めよう。


 そのためにまずは朝食を取って、昼食を作る。ゴキゲンな朝食の後で米を三合炊きにセットし、昼食の準備に取り掛かる。今日のメニューは……タンドリー何か。よし、慣れないマップで疲れるといけないので馬肉にしよう。タンドリーホース。


 前も一回作ったが、割とお気に入りのメニューだったと思う。野菜をババババッと刻んで肉の下敷きにと用意し、後はお肉と粉を混ぜて焼くだけ。馬肉は二パック使い、念のためにもう一パックボア肉のたれ焼きを作る。ちょっとたんぱく質多めの食事になるが、ご飯のあてにもちょうどいいし栄養バランスも取れる。悪くはないはずだ。


 ボア肉のたれ焼きのほうがちょっと時間がかかったが、無事に料理は完成、味見もした。味は割と濃いめになるので、軽くマヨで味付けしただけの野菜サラダがちょうどいいアクセントになると思う。それぞれ皿に盛るとそのまま保管庫へ収納。米が炊けるのを待ち、炊けたら容器に移して昼食の準備は完了だ。


 ミルコへささげるいつものお菓子は米が炊き終わるまでのちょっとした時間を利用して都合してきた。今日はポテトチップスが多めだ。春の新味がすでに登場していたのでそれを新しく。味見はしてないが、少なくとも不評ではないだろう。


 万能熊手二つ、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 柄、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、ヨシ!

 保管庫の中身、ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。新マップに新モンスター、今日は楽しみつつも慎重に進まなければいけないだろう。胃袋に気持ちを確かに持ちつつ家を出た。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 電車が遅延したのでバスに置いて行かれた。仕方がないので自転車置き場から自転車を取り出すふりをして保管庫から自転車を取り出し、ダンジョン方面へ向かう。途中で道を直しているのか交互通行になっている場所があり、そういえばそういう時期かという気持ちにさせる。同時に、確定申告期間が始まったので税理士さんとお話し合いしつつ書類を挟んで仕事をしてもらう必要があることも思い出す。今日ダンジョンから帰ったら早速お話のほうをさせていただくことにしよう。


 朝から良い汗をかいてギルドの駐輪場までたどり着いた。ここで自転車を停めて保管庫に収納。何時でも何処でも自転車が出せるって便利だな。スマホを取り出すと、いつもより十分遅れ。まあ許容範囲だな。と、芽生さんからレイン「一本遅いバス? 」とのこと。


 乗り遅れたバスに芽生さんも乗っていたらしい。電車の遅延が無ければ俺も乗れたのにな。「今自転車で着いた、電車が遅延してた」 返事をしておき、ギルドの建物へ。芽生さんは着替えも終了し準備万端の構えだ。


「今連絡受け取った。もっと早く教えてくれればいいのに」

「今連絡した。自転車のながらスマホはいけないことだからな」


 言い分はこちらの方が勝っているはずだ。保管庫の中にスマホも入れていたから電波が届かなかったという言い訳はしないでおこう。


 入場までの短い間にちょっとコンビニ。立ち寄っていつもの雑誌の最新号を購入。ついでに芽生さんの気になった本も購入。これは経費になるのかな? 試しにダンジョン関連本は別会計にしてレシートは取っておこう。


「お、経費扱いでダンジョン雑誌のご購入ですか? 意識が良い感じに向いてきましたね」

「少額でも経費で落ちるなら落としておこうと思って。それと、近いうちにまた税理士さんの所行かないとな。やる事とかあるかもしれないし御用伺いではないが、確定申告の用紙に実際に記入して体験してもらうまでが初年度のお仕事とも言ってたし、こちらから都合のいい日を聞いておいて向かうのが良いと思う」

「そうですね。そこは個々でやりましょう。あらかた費用は計算してくれてあるものですし、揃って向かわなくてもお互い空いた時間で訪れるという事で」


 コンビニを出てそのまま両手に袋をぶら下げたまま入ダン手続きに入るのもあれなので、誰も見てないスキをみて保管庫に入れる。さすがにここでやると危険度が非常に高いが、この時間にコンビニに立ち寄る人は入場待機列にそのまま並ぶ人が多いので、人口密度の割に死角は多い。前後左右を確認してシュッと入れてしまう。


 何事も無かったかのように入場待機列に並び自分たちの番を待つ。五分ほどで待機列は解消され、入ダン手続き。


「今日はちょっと奥まで行ってきます」

「お気をつけて、ご安全に」


 交わす言葉も短め。あんまり長ったらしくしゃべっていると後ろに迷惑だからな。短く済ませるときは短く。かといって今日はみっちりと探索をする予定はない。あくまで五十層のお目見え程度だ。どんな敵が出て、どんな攻撃をしてきて、どんな対応が必要で、そしてどんなドロップをくれるのか。ほぼ確認と確定の作業が大半を占めるだろう。そして今日のドロップはおそらくしばらく金にならない。


 モンスターの湧く量も落ち着いて比較的静かな道筋を時々スライムを雷撃爆破しながら進む。エレベーターにたどり着き、一緒に乗っていく人がいない事を確認して四十九層向けのボタンを押す。


 後はエレベーターが止まるまで相談と暇な時間だ。


「そういえば、エルダートレントの落とす魔結晶、値段決まったらしいよ。二百万だってさ」

「うーん、金額に見合った強さだったかどうかは微妙ですが、ボスらしい金額ではありますね」

「金額分の発電をしてくれるかどうかは解らないから、今後数を集めて発電所に持って行ってどれだけの出力が得られるか実験、ってところだろうな」

「そういえば、ヒュージスライムから出た魔結晶も同じ大きさでしたよね。まとめて出してエルダートレントの魔結晶として買い取ってもらうことは出来るんでしょうか」


 そういえばそうだったな、と保管庫から出して確認する。大きさは……同じ。カットの入った感じも同じだ。鑑定にかけたり保管庫に入れたりしない限りはバレないレベルでほぼ同じと言える。


「ちょっと相談してみるか。価格改定前のギリギリで提出する事にはなるが、倒した証拠は種があるし、数の分の種を用意しろと言われたら……その時は困るな」

「それに、タイミング的に三十層に潜ってないことを確認されるでしょうからチョイと面倒なことになりませんかね。他の探索者から俺たちエルダートレントと戦ってたはずなのに何でそっちが四つもドロップ持ってるの、という話になったら困ることになりますよ」

「これはギルマス案件だな。早速戻ったら相談に乗ってもらう事にしよう」


 念のためにギルマスに青魔結晶査定依頼……とメモしておく。


 先ほど購入した本をそれぞれ読み始める。今月の月刊探索ライフの特集は「探索者がしなくてはいけない確定申告」という嫌なタイトルになっている。嫌なタイトルだが、俺にはもうほぼ乗り越えたものとして考えられているため問題はない。それぞれ探索者に共通する項目について税理士からのアドバイスを添えて埋めなければいけない項目、必要な書類、経費のための領収書、それからどれが経費でどれが経費じゃないのか、というのを二十ページに渡って解説している。これ、探索者じゃなくても副収入や雑収入が多い人にも使える文面だな。


 載っていることはこの間税理士さんと打ち合わせた内容にほぼ近い。探索者特別経費についても詳細が記されており、あくまで今年まで暫定的に使われてきた制度なので来年には変わる可能性が高い。来年は来年にならないと解らないが、という前置きの元で、経費の最大額面と必要な書類等が画像付きで詳細に記されている。これなら税理士の手間を取らせなくても自分でなんとかできたんじゃないか、と誤解させるような内容にもなっている。


 でも俺の場合金額が金額だからな。細かいところまで叩かれるとホコリが出てもおかしくはない。そのホコリをできるだけ叩き落してもらって、正しい金額納めます、と太鼓判を押してもらうために税理士さんの仕事は必要不可欠だ。それに、今年に入ってから現在までで既に去年並みに稼いでしまっている。カニうまダッシュはそれだけ旨味を俺に与えてくれている証拠だ。しかも経費として計上されているのは今のところボロくなって買いなおした、納品用の羽根が一キログラムずつ綺麗に入るエコバッグとこの雑誌、そして交通費だけだ。去年ほど派手な買い物はしない予定ではあるし、する予定として考えられるのはスーツの耐久力が落ちて買い替えの必要が出てくることぐらいだ。


 このペースで稼いでいれば今年は数十億は稼げそうだな。羽根を卸したりしなければその金額はさらに膨れ上がるだろうと予想は付く。でもダンジョンで生活するにしても息抜きの時間は必要だからな。


「で、だ。今日から新しい階層に挑もうと思う」

「お、ようやくですか。待ちわびていましたよ。何が出てくるんですかねえ」


 雑誌から目を外し、こちらを渇望のまなざしで見てくる。


「それも含めて新規階層だからな。このワクワク感は何回味わっても楽しいものだ」

「また変な耐久力調査始めていきなり躓かないでくださいね。いきなり初回戦闘で倒れてやり直しとかはゴメンですよ」


 いつもの諸注意が芽生さんからなされる。解ってるってば。


「最初は全力で行く。何処まで全力を出せば倒せるかを確認して、調査はその後だな。ドロップ品もまだ解らないし金にはならない。もしかするとドロップするものすべてが金に変わらないかもしれない。そこまで織り込み済みで探索していこう」

「高橋さん達は先に進んだんですかねえ」

「イベント終了以来会ってないからな。それも解らん。解らんことだらけだが、それを解るようにしていくのが今回の目的だ」

「じゃーいつも通り地図作りつつ、ひとまずモンスターの味見ですね。何が出てくるんでしょう? 四十九層のマップから読み取れるなにかはありませんかね? 」


 四十九層の雰囲気から読み取れる感覚か……


「見づらそう」

「もうちょっとこう、なんかないですか。見づらそうなのは解りますけど、絶景に映えるモンスターとかなんかないんですか」

「そうだなあ……マップに相応しくないモンスターは出ないだろうから、お互いに視認しづらそうなモンスターとか出るかもしれない。もしくは、ゲーミングカラーに光るけばけばしいモンスターが出て来るか。まあ、楽しみに取っておこうや」


 なんやかんやと話し合いをしているうちにエレベーターは四十九層にたどり着き、雑誌をしまうとそろそろとエレベーターから降りる。


 エレベーター前のノートを確認。最後にかかれたのは……三日前か。「お先に」とだけ書かれたその内容は、高橋さん達が五十層へ先に向かったことを示していた。


「やっぱり先に潜っていったみたい。ここに居なければ一時的にダンジョンから出てるか、もしくは奥に潜り込んでるかだな。中で出会う事はあるかもしれないけど、戦い合いにならないことだけ注意しておけばいいかな」


 ノートに「今から」と日付と時間だけ書き込んでおく。これでこちらも攻略を開始したことが相手に伝わるだろう。ちゃんとノートを見ていれば、だが。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
大量に稼いだ金で貯金分終わったらなんか盛大な遊びとか安村さんならやらかしてくれそう
イベント終わっても日常は続く。何てことのないいつもの安村さんと芽生さんとダンジョンが好きです。 自転車ひさびさ!
数十億かあ ペアで稼ぐ額じゃあないですがペース的には余裕だろうしなあ 何月の時点でそこまで行ってしまうのやら
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