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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
842/1206

842:休日 2/2

 昼からはぼーっとしながらネットニュースを見る時間だ。他所のダンジョンの様子や最近の流行、需要が増えそうなダンジョンドロップ品の調査やその他面白そうなゴシップ記事を巡る。


 清州ダンジョンの様子も見てみるが、小西ダンジョンの湧きの多さから逃げてきたパーティーというのも見受けられた。逆に清州ダンジョンから小西ダンジョンへ来てモンスターの多さを楽しむ探索者も若干名。まぁ、そこはそこそこのモンスターを倒して地道に稼ぎたかったのかもしれないし、逆もまたしかり、というところだろう。


 東西大ダンジョンのスレッドは消費が早くてなかなか追いつけないが、Bランク探索者も多数潜ってる中で、スレ内で人員を募ってエルダートレント退治、というレイド募集みたいなのは割と頻繁に行われているらしい。どうやら、エルダートレント退治経験がB+ランクへの昇級基準の一つだという説が提唱されているのが理由らしい。


 複数回のレイドバトルが開催された結果、無事にエルダートレントを倒しきったパーティーもいくつか存在するらしい。何人がかりで挑んだかまでは解らないが、手間の割には収入は少なく、しかし充実した満足感を得る事が出来、そして疲労感はトレントの実で回復するという流れのようだ。


 どうやら、エルダートレント退治には本来小一時間ほどかかるらしい。まず全員で飛び出てきた蔓を迎撃しながらエルダートレントの表皮を削り、再生する前にスキルを打ち込み傷口を徐々に広げていく、その間にスキルの無いメンバーで蔓と寄ってくるトレントを迎撃、スキル持ちは削った表皮に向かって全力でスキル攻撃を打ち込み続け、力尽きそうになったらトレントの実を齧って無理やり回復させながら……という長丁場をひたすら繰り返すものだったらしい。


 レイドに参加したパーティー曰く、トレントに向いた属性魔法や斬り付けに特化した人材、それ等を支えるだけの物資があればなんとかなるとのこと。【雷魔法】持ちは三十層でエルダートレント退治に重宝されそうだな。


 そして、エルダートレントの魔結晶だが、二百万円の価値があるとしてギルドから判断されているらしい。安いと思うか高いと思うかはそれぞれだが、参加人数と手間に比べたら安いものだろう。だが満足感は大きいだろうし、前のボスであるゴブリンキングの魔結晶は重さ単位で十五万円だった。十七倍高く買い取ってくれるし、一緒にヒールポーションも落としたはずだ。怪我人が出ていてもそれである程度取り戻せただろう。


 問題は、レイドになった場合ボスを倒した証明であるエルダートレントの種、これをどう扱うかだ。ギルドも買い取りはしていないので、基本的にはダメージディーラーになりえた探索者かレイドを主導したパーティーに記念品として進呈されるらしい。そして、試しに庭に植えてみたが一向に芽が出る気配はないそうだ。


 ミルコは確か、魔素の濃い所でないと育たないと言っていたな。何百年か待てばその内発芽するかもしれないが、その時まで語り継いで行けるのかどうかは定かではない。


 ボス退治がB+ランクの算定基準になるかどうかだが、たしかにBランクは三十層までと言われたら目の前のそれを倒せたらもっと深く潜ってもいいよ、と許可を出しそうに見えるのは確かだ。そして倒した後も音沙汰無しと言うことは、まだまだギルド税の納付が足りないんじゃないか、という判断に走るわけだ。これはもう少し誤魔化す時間を長引かせることは可能そうだな。


 ダンジョンマスターとのつながりがB+ランク昇級基準というのはおそらく考えの範疇に無い理由だろうし、それならそれでダンジョンマスターを探す専門の探索者が居ても不思議はないが、ダンジョンマスターが居たら? という妄想スレはある。スレ番からみるに結構新しく建てられたスレッドのようだ。


 内容としては、ダンジョンマスターが居たとしたらそもそもどんな存在であるのか、という存在の立ち位置からの哲学的な内容になっており、宇宙人なのか別次元人なのか、それとも我々一般市民が位階を上げることで存在することが可能になったのか、等存在の根底から考えるスレッドになっている。


 ダンジョンマスターという正解を知っている側からそのスレッドを考察すると、確かにダンジョンマスターの存在がどういう世界、秩序、次元からやってきているかでその目的も違ってくるだろうし、そもそも別世界の居住者なら宇宙探索を続けているのが馬鹿らしいぐらいの異邦人との接触という事になる。


 ことはダンジョンだけの話ではなく、世界の法則やなにやらまで書き換わってしまう事になる。いや、そもそも我々がスキルを扱えるようになった時点でそれはもう達せられているのではないか等、かなりざっくりとした、それでいて一言一言の含む内容が重い話になっている。


 身近過ぎて忘れそうになっているが、宇宙人と出会ったようなものなのだ。大騒ぎになるのは間違いないし、それを律義に守っている探索者達の口の重さにも頭が下がる思いである。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 検証スレッドではトレントの実の加工の方法とトレントの樹液の使い道について色んな研究がされている。とりあえずトレントの実は熱乾燥機でそのまま加工しても黒い粒子に拡散してしまって後に何も残らないことがカメラによる定点撮影によって確実になっている。つまり、熱を加えるのはダメ。自然乾燥にしても段々縮んでいってダメ。ならばダンジョン内で乾燥させるのはどうだ? という話になり、七層や二十一層の現地でトレントの実の加工を試してみたが、こっちはうまくいったという報告が上がっている。


 ダンジョン内でなら加工は容易、ダンジョン外だとほぼダメか、何かしらの対策を施さなければならないんじゃないか? という辺りまで話は進んでいる。その何かしらの対策についていろいろ意見が述べられているが、勿体ないけど魔結晶砕いて一緒に乾燥させたらどうなるんだ? という意見が祀り上げられている。


 ダンジョン内が黒い粒子に満たされてるなら乾燥機内部も黒い粒子に満たしてやれば、トレントの実から蒸散していく黒い粒子の量も下がっていくんじゃないか? という試みを今複数人数で試しているところらしいが、確かに遅延効果はあるようだ。その分トレントの実の加工品のコストが上がることになるが、小さく持ち運べて効果があるならば金に糸目をつけずにやってみて、どこかの会社に商品開発として提案してみるのが良いかもしれん、というスレッド内の会話が目立ちはじめる。


 俺達それなりに金有るんだし、共同出資でそのやり方で試してみて、成果物をみんなで共有し合うのはどうよ? という意見も出てきている。なんだっけ、クラウドファンディングだったっけ。そういう奴をやるなら一口噛んでも良いという探索者はいるようだ。


 ここは個人的な考えになるが、水分は通すけど魔素は通さない素材、みたいなものを開発して水分だけを蒸発させられる仕組みの乾燥機を使用すれば科学の力でもドライフルーツを作ることに問題はないような気がする、果たしてそんな便利な作用をしてくれる都合のいい物質があるかどうかまでは解らない。が、そういうものが開発されればトレントの実のドライフルーツは一気に一般的な物になっていくだろう。


 そういえばこの保管庫に溜まりに溜まったドライフルーツ、どう処理していこうねえ。最近使う機会も無くなってきたから死ぬまでに食べきれるかどうか怪しくなってきたな。また筋トレでも始めて疲れたら食べる、という作業に費やすのも悪くないか。


 トレントの樹液に関しては、食べたら腹を壊すというのはもう周知されているのだが、真っ先に食う事を考えるのは日本人の悪い習慣なのか、食べて腹壊してダンジョンに行けない、という報告がちょくちょく上がってくるのでこれはもう民族性なんだろう。


 海外のスレッドでもトレントの樹液を加工して壁材のニスにして塗ってみたりしているらしい。効果のほどは……読み解ける範囲では匂いもしないし壁の隙間を埋めてくれるし、元値がタダだからそう悪い素材という訳でもないらしい。


 樹液を有機溶剤に溶かすことによって塗布剤としての機能を持たせることはできている。後はそれがいったい何に使われるかどうか、というところだろう。トレントが近寄りやすくなるとか、逆に仲間だと信じてトレントを回避できる素材……いや、回避されてもあまりうれしい効果にはならないか。


 トレントの枝は各種香料メーカーが競って求め合い、大手の香料会社が早速お線香方面から開拓を始めている。また、アロマオイルとしての加工も順調にいっており、樹液からも香りが取り出せることが解っているらしい。企業機密になりそうなギリギリの情報もいくつか飛び交っているが、枝と実については明らかな使い道や需要が見込めるために、今度の価格改定では需要をより高めるためにあえて値下げするのではないか? という推測も行われている。


 探索者的には値上がってほしいというが本音だろうが、高くて社会に出回らないでは意味がないからな。ギルドのほうにも儲かってもらわなくてはならない。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 小西ダンジョンスレッドでは、朝一帰還の探索者からのリポップ異常現象の終息の報告がなされた。一晩中起きていた探索者が居たわけではないが、ちょうどその時間帯に戦ってた探索者曰く「テンポよく戦ってる途中に急激にモンスターが湧かなくなった。発生し始めた原因も解らないけど終息した原因も解らない。他に違う階層で戦ってた奴はどうだったんだ? 」みたいな話を始めた。


 次々に退ダンしてきた探索者からの報告がされていく。時間制限だったのか、ダンジョンのリポップ限界がたまたまその時間に来たのかは解らないが、時間を確認した探索者曰く、0時ぐらいから湧きが収まりはじめたという供述を始める。モンスターが消えたわけではなく、片っ端から倒していったらさっきまではわんさか視界内でもリポップしたのに、視界内では湧かず倒したばかりの所でもリポップしなくなったという。ちゃんとタイマーは作動したってことだな。


 二十層、九層、二十九層、三十層、十六層と順番に報告がなされて、おそらくこの騒ぎは収まったんじゃないかという話になった。検証スレ民でもある小西ダンジョン探索者が一層でスライムを外へ投げつけたが跳ね返ってきたので、おそらくダンジョンあふれと今回の出来事は関係がない、じゃあ一体何だったんだ? という方向で議論が行われている最中だ。


 こういう時は面白半分でネタを放り込むのが礼儀というもの。ダンジョンが風邪でも引いたんじゃね? と書き込みしておこう。


 しばらくするとじゃあ何か、リポップが頻繁に起きてたのは咳とかくしゃみか? と続いてくれる人が居た。じゃあドロップ品は鼻水だな。俺らも風邪ひいてないかどうかチェックしておこうぜ、とネタに走っていく。全体の意識の三割ぐらいはネタのほうに走ってくれたな。これでよし、と。


 小西ダンジョン通い勢からすると、普段の倍から三倍ぐらい稼げたので良い時間帯だったなという意見もあれば、これでようやくボス部屋まで行けるようになると安心する意見もある。Cランクとはいえ全員が鬼殺しになっているわけではない。早く鬼殺しになりたいと願う人にとっては邪魔なイベントだったかもしれないが、鬼殺しになるためのボス戦対策として今回のモンスター増加現象はいい経験になったんじゃないかとも思う。要は活かすかどうかだ。


 ゴブリンキング戦ではとにかく数をこなすことを要求されるからな。十層やリポップの増えた九層で密度の濃い狩りを行うことは戦闘持久力という意味でもなかなかいい体験になったんじゃないだろうか。


 この辺りまで調べたところで良い時間になった。夕食はまたコンビニ飯かな。今日はどうも飯を作るという気にならない。パックジュースとコンビニ飯、出来るだけ栄養バランスよく食べるためにサラダチキンと……後はプロテインバーでもかじってれば大丈夫だろう、それだけを買いに行くと家で食事。ホワイトソースのペンネを温めたサラダチキンとプロテインバーを同時に口に入れながら食事を終えて、俺の休日はおしまい。明日からはまたダンジョン通いだ。しっかり稼いで楽しんでいこう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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トレントの乾燥話で何となく思い出したんだが……遥か昔にゴブ剣とか溶かしたら魔力抜けるって話あったよね? あれもダンジョンで作業したら魔力抜けなくなりそうな気がするんだが? つか、炉内に魔結晶配置して高…
ダンジョンが風邪かあ 真面目にダンジョン生物説とか考察してる人が目にしたら面白い反応してくれそうやw
>水分は通すけど魔素は通さない素材 トレントの樹液を混ぜるとできたりしないですかね。 樹液を混ぜた素材で囲うのを想像しました。
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