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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
841/1206

841:休日 1/2

 今日は暖かい。例によって暖房は付けっぱなしだが、稼働している音が小さいので外もそれほど冷え込んでいる訳ではない、という事が耳から伝わる。このまま暖かくなってくれればいいんだが、そういう訳にもいかないだろうな。


 今日も寝起きの気持ちよさポエムを布団の山本のレインに送信すると、早速朝食。キッチンからは昨日の夕食のカレーの匂いがまだ漂ってきている。寒さに負けずに換気をしておくべきだったな。


 今日は探索は休みの日。スレの様子も気になるし、布団の山本へ納品もある。休みと言っても半休にしかならんか。まあ、何もすることなくボーっとするよりはいいな。


 昼食はなににするかな……パソコンで調べると、持ち帰り唐揚げの店が新たにオープンしていた。自分で作れる唐揚げだが店が作った唐揚げもまたいい。それとキャベツを自分で刻めばそれで十分だな。野菜ジュースでバランスもとれる。今日は省エネで行こう。炊飯器でお高い米を炊いておいて、メインのおかずは店任せにしよう。


 ダンジョン系ネットニュースを見ると、小西ダンジョンでモンスターの急激増加を確認、ついにあふれるか!? という見出しの記事が出てきた。もう遅いよ、そのイベントは終わったよ。


 曰く、小西ダンジョンでモンスターの異常リポップが確認されている。今のところ階層を跨いだ移動という現象は確認されていないが、もし階層を跨いだ移動が可能になっていればそのまま地上まであふれ出てダンジョンからモンスターが出てくるという史上初めての現象に遭遇することになる。現在小西ダンジョンの探索者が総力をもって各エレベーター停止階を中心に戦ってはいるが、この現象がいつまで続くのかは解らない。ギルドに問い合わせてみたが、ギルドのほうでも現象は確認されているものの何が原因で起こっているのかまでは不明。ダンジョン現地は人口密集地ではなく控えめな表現をすれば開けているので即座に影響が出るという可能性は他のダンジョンに比べたら小さいが地域社会に不安を投げかけるものであることは間違いなく、小西ダンジョンギルドは対応を迫られている。


 なるほど、外から見るとそういう感じに見えるのか。もしかしたらこの記事を書いた記者は実際にダンジョンに入るわけでもなく外観と聞こえてくる情報だけを基にして記事を書いているなんちゃって探索者なのかもな。


 湧いた階層にモンスターが固定されているのは検証スレの合宿のおかげである程度広まっているし、実際にそうなるかどうか試したければ一層、そうただ一層に行ってスライムをそっと優しく捕まえて、出入口に向かってビターンと投げつけるだけで判断できるのだからそうすればいいだけのことだ。


 そうしなかったということはよほどビビッていたのか、それとも探索者証を所持していないのだろう。もしかしたらスレだけ覗いて妄想で記事を書いているのかもしれない。実体験を伴えば、これが自分の実力にあった階層で好き放題モンスターを狩れる美味しい時間だったことが解っただろうに。


 終わったイベントのことをあれこれ言っても仕方がない。今日はダンジョンに入ってあれ、なんかいつも通りじゃね? って思った人らが飛び出してきてスレに書き込むか、二十層近辺が大渋滞を起こして大変なことになっているか、はてさて二十八層では等、色んな感想が既に思い浮かぶ。むふふ、楽しみだ。


 良い時間になったので布団の山本に連絡。十キロと二キロで良いかを確認、それでいいと言われるのでそのまま言われた分だけを用意して持っていく。


 到着するといつものやり取り、いつもの緑茶、いつもの羊羹。そしていつもの会談タイミング。


「そろそろ価格改定の時期ですね」


 こちらからお値段変わるぞと話を切り出す。


「早いもんですね。もう半年たちましたか。安村様には日ごろからお世話になっておりますのでそれなりの条件でお受けしたいと考えています。ダーククロウについてはそのままの値上げ幅で対応させていただきたいと考えていますがよろしいでしょうか? 」


 あらかじめ向こうから、値上げした分だけこっちも卸値を上げるよ、と通告をしてくれている。有り難い事だ。


「それはありがとうございます。それでスノーオウルの羽根のほうですが、おそらく値下がりすると思いますのでそちらも値下げ幅そのままで取引させていただけるとありがたいのですが」

「おや、てっきり利幅が無いのでそのままの値段で、と交渉されるかと思って覚悟を決めておりましたが、よろしいのですか? 」


 山本店長はあっさりこっちが引き下がるのが意外だったようだ。


「そもそもこの羽根、今までギルドの査定価格そのままでお渡ししてたんですよ。で、ギルドを通すと一割ギルド税で取られますので、現状の状態でも羽根の価格に対して一割分こちらが得をする取引だったんです。単価も高いですし、枕のほうを安く作ってまずは需要を呼び起こす方が大事かと思いますので、ひとまずギルドの査定価格そのままでの取引を続けさせてもらおうかと思ったのですが」

「なるほど……解りました、そちらの条件に甘えさせていただきたいと思います。とりあえず次回ですか。その時価格が決まってそれから改めて値段確定という事に致しましょう」

「解りました。とりあえず予想価格ですが、最安値だと百グラム四万円というのが慣例通りの価格になりますので、そのあたりを想像しておいていただけると助かります」


 基本的に上下幅の最大値は二割。前回はダーククロウの羽根という例外もあったものの、おおよそこの幅で価格は推移している。スノーオウルも大きく目立った動きはなく、需要もそれほどない……というより研究している場所が少ないため、ギルドへの引き合いも少ないだろうと考えているし、現状の値段は高すぎると俺自身も思っているので値段は固定か値下がりの二択だろう。値下がりする可能性のほうが高いと見ていい。


 二キログラム百万円が八十万円ほどに減るだろうか。俺にとっては微々たる差だ。カニ六匹分、時間で言えば三分ほどの稼ぎでしかない。この熱いお茶を飲んでいる間にそれだけ稼げるんだから、今更細かい事を言って値上げをするよりも、世の中の流れに従って値段交渉をしたほうがよりスムーズに物事を進められる気がする。


「そうそう、毎日の快眠報告、参考にさせていただいています。寝る前に多少疲れていても翌朝には問題なく体が快調であるとか。枕を使っている方がそんなに居られないので貴重な意見として扱わせていただきます」

「今度枕を送った相手にも、体調とか使った感想を聞いておくことにしますよ」

「それは有り難いですね。内容の転送の形で結構ですのでよろしくお願いします」


 会話が切れたところで、山本店長が奥から呼ばれてちょっと席を外す。ちょっと失礼しますね、と一人ぼっちにされたところで、真中長官にレイン「私宛で良いので、枕届いて使ったら感想をください。作成企業さんが感想を聞いてみたいとの事です」と送っておく。これでよし。


 暇つぶしに店内を物色する。オーダーメイド枕の価格表と中身の種類があった。粒綿、そば殻、プラスチックのストローを短く切ったような奴、羽毛が数種類、そしてダーククロウの羽根とスノーオウルの羽根がある。この二つだけ時価と注意書きがされているのが面白い。生ものでもないのに時価。


 布団のコーナーに行くと、羽毛、綿、そしてダーククロウの布団。そしてやはり布団にも書いてある時価、要相談の文字。


 おそらく、普通の……普通と言っても羽毛には色々種類があるのだが、それとの混ぜ物の割合を相談するために時価とされているんだろう。やはりそのせいで一段階敷居の高いものになってしまっているのは仕方ないんだろうな。


 店長が戻ってくる。椅子に戻り商談と称した雑談の続きを始める。


「お待たせして申し訳ありません。ちょっと相談ごとが出来てしまいまして。あと、こちらが今回の書類になります。振り込みは前回と同じくこちらに都合の良いタイミングで、という事でよろしいでしょうか」

「それで構いません。ついでに店内を色々見回らせてもらいましたが、やはり布団価格は要相談ですか」

「お高い買い物になってしまいますからね。販売当初は値段をハッキリと出していたんですが、やはり要相談としたほうが多少なりとも気がかりにしてくださるお客様が増えることと、相談がしやすいので思ったよりも安く買えた、という話で決心してくださる方もいますので、時価表示は案外悪くないんですよ」


 ふむ……ちゃんとその気になって相談すれば思ったよりも高くない、ということにできるわけか。混ぜ物の相談もできるし、いざとなったら打ち直しという手も取れる。なるほど。


「布団のほうは通常の羽毛との混合で効果のほうはちゃんと感じられるんですかね。私は最初からダーククロウ百%なのでよく解らなかったりするんですが」

「効果はあるみたいですよ。初日から明らかに効果があるとまではいかないらしいですが、徐々に効果が表れる形で体が快調になっていくようです。お客様の話ですから実感ではないのではっきりそう言い切れるわけではありませんが、今のところ効果が無いという理由で返品を迫られたことはありませんので、どのお客様も効果のほうは確かに感じていただいているかと思います」

「それは何よりですね。今後はスノーオウルの枕のほうも率先して販売していくことになるんでしょうか」

「おかげさまで色々と蓄積もされてきましたし、スノーオウルの羽根で五十%を超える配合を行うと睡眠バランスが崩れ始める可能性があることも解ってきました。それ以下なら問題ないようですので、今後はそういう形で販売していくことになると思います。なので先日お渡しした枕二つ、ダーククロウとスノーオウル五十%ずつの枕が現状後遺症の心配なくお渡しできるぎりぎり最上級の品という形になると思います」


 あれが最高級品か。最高級品で二十万の枕。それで二十万以上稼ぐだけのポテンシャルを持っている人になら安い買い物だろうな。探索者がパーティーで仮眠する時に使いまわしてもなんら問題ない価格とも言える。


「さて、そろそろ失礼します。長々と居てもお邪魔でしょうし、何か納品割合についてご相談がある場合はレインのほうで連絡をお願いします。たとえばスノーオウルの羽根が緊急で必要になったとか、そういう場合ですね。その時はスノーオウルのほうも多く納品できるように努力しますので必要な際はお声がけください」

「解りました。頼りにさせていただきます。現状安村様以外からスノーオウルの羽根を入手する手段がありませんのでこちらとしては一方的にお願いするしかありません。どうか無理はされない程度によろしくお願いいたします」


 送り出されて店を出る。これでしばらくの納品はいいかな。また枚数溜めて持ってこよう。枕の販売が好調になればスノーオウルの羽根の需要も増えていくに違いない。そうなったらダーククロウの羽根よりもスノーオウルの羽根のほうが供給源が俺しかいない分だけ重要さが増すな。


 さて、新しく出来た唐揚げの店に立ち寄ってから家で飯にしよう。店にたどり着くと、新しくオープンしたからかどうかは解らないが、駐車場にはそこそこの車が止まっている。中の様子と店の外にスピーカーがあるところを見ると、車の中で番号が呼ばれるのを待つスタイルの店のようだ。


 店の中に行き、食いたいだけ注文するとレシートと共に番号札が渡された。その番号が呼び出されるまで待ってろという事らしい。十五分ほど車の中で待機していると番号を呼ばれたので取りに行くと、揚げたてのいい香りが漂ってくる。車に戻って早速保管庫に入れ、家に帰るまで揚げたてを維持したままにしておく。


 家にたどり着いてキャベツを千切りにしてさっきの唐揚げを大皿にあけると、ご飯をよそい昼食にした。唐揚げの味のほうは……美味い! と手放しでほめるほどでは無かった。が、自分で作る手間を考えると、後は待ち時間を許容できるかどうかになるな。


 いかんな、なんだか自分の時間を効率で考えるようになってきた。今日は休みなんだから細かいことは考えなくていいんだ。時間効率を考えるのはカニうまダッシュの時だけにしておこう。時間効率で言えば茂君もスノーオウルの羽根も既に効率の悪い所へ足を突っ込み切っている。趣味は趣味、そう捉えておこう。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
そういえば初期にあったスライム大発生の原因は分かったのだろうか? (ゼリー飲料が原因と予想)
> 控えめな表現をすれば」 急にカントリー感がアップ > そっと優しく捕まえて、出入口に向かってビターン」 優しさとは > むふふ」 年号を超えてきた感動詞 > カニ六匹分、時間で言えば三分」 …
さいしんわにやっとおいついた~ なかなか読みごたえありますなw これからもたのしみです
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