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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
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838:ご褒美は馬肉盛り

 支払いカウンターで振り込みを済ませ、ギルマスがまだ居るか確認。本日二度目のギルマスへの訪問を行う。


 ギルマスは帰り支度だけ先に済ませておいて、最後の仕事を済ませて即帰宅、という段階だったようだ。間に合って良かった。


「おや、何か情報かい? 今朝に引き続きご苦労さんだね」

「とりあえず……ふぅ。今日は己の限界を試してきましたよ。まだまだいけそうだということが解りました」


 ソファに座りコーヒーを一口。バスの時間までは少し余裕があるので落ち着いて話をする余裕はある。


「ミルコに確認してきましたが、後二、三日でイベントは終了する予定だそうです。あんまり長いとうんざりするかもしれない、というのと、他のダンジョンマスターとの兼ね合いもあるとかで」

「ほう、ということはミルコ君が他のダンジョンマスターと話し合いをする機会があったんだね。それ以外に何か情報は得られたかい? 」


 ギルマスは仕事の手をいったん止め、こちらへ来た。話のほうが大事だと判断したらしい。


「まず一点目。ミルコは最近他のダンジョンマスターと頻繁に連絡をするようになった、ということが挙げられます。以前は他のダンジョンマスターと交流はあまりない、と言っていたミルコですが、今日の口ぶりでは他のダンジョンマスター同士のやり取りが増えた可能性が非常に高いです。多分、俺が他のダンジョンマスターから見えているという点と、今回限定イベントでダンジョン内のモンスターが増えた現象に対する反響を見て他のダンジョンマスターから今ダンジョンで何をやってるんだ? という問い合わせが増えたのだと推察されます」

「そんな報告は受けていたな。なるほど、直接そういうやり取りを見た訳ではないがミルコ君の口ぶりと言葉の端々からそう感じた、ということかね」


 またカリカリとコーヒーカップの縁を指でこすり始めた。お仕事モードに完全に入ったらしい。


「そうです。また、他のダンジョンマスターから難易度を上げ過ぎではないかと注意されたという言葉からも、ダンジョンマスターは他のダンジョンに直接干渉することはできないが苦情を申し付けるぐらいのことが出来ることも解りました。これは、明らかに意思疎通が出来ている証拠だと言えます。つまり彼らは独立しているようである一方向については同じ使命と目的を共有している」

「それは魔素の効率的排出、という点だね。ただ、難易度が高すぎるという苦情が来るという事は、彼らの中であるルールがあってそのルールを逸脱しない範囲で自由にやっている……つまりルールの裁定者が居る可能性があるってことかな? 」


 ギルマスが頭をフル回転させている。裁定者か、それは思いつかなかったな。


「そこまでのことは解りません。ただ、内輪のルールで有ることも確かなので、それについてミルコからはかなり曲解された内容ではありますが、オンラインゲームでよくある限定イベントというものについて説明されたものだと考えます。ルールに逸脱する場合は直ちに停止ということになるんでしょうがそうはならず、もしかしたら他のダンジョンでも似たような現象が起き始めるかもしれないとは言っていましたので、期間限定イベントというものが周知されていくのかもしれませんね」

「なるほどね。つまり私は次回のギルマス会議で、今小西ダンジョンで起こっているリポップ高速化現象は他のダンジョンでも起きる可能性があるという事を説明しておくほうがいいというわけか」

「お手間でしょうけど、何も報告することが無いよりは楽しい会議にはなると思います」


 カリカリとした指を止め、開いてる紙の裏側に落書きを始めた。どうやら報告書……というより当日話す内容に付け加える形で今の話を付け加えるための走り書きを始めたらしい。


「他には何かあるのかい? 」

「もう一つ、現存のダンジョンの中では小西ダンジョンよりも深い階層まで作成されているダンジョンがあるという話をミルコから聞きました。ただ、そこまで潜りこんでいる訳ではないという話ですので、どのダンジョンについてかまでははっきりとは言えません。ただ、ダンジョンづくりに熱心なダンジョンマスターが居る、というのは間違いないようですね」

「なるほど。で、小西ダンジョンの最深層は今いくつなんだい? 」

「その流れでうっかり聞いてしまったんですが、少なくとも五十六層までは出来てるよ、とミルコは言ってました。その先はまだ頑張って作っているんでしょう。作るペースが遅れているのを誤魔化すためにイベントを始めたのかそこまでは判断が付きませんが、このリポップ騒ぎのおかげで全員足止めを食っているのは確かなのでそういう意味ではミルコにとっては良い時間稼ぎだったかもしれませんね」


 坂野ギルマスはコーヒーを一口飲むと、少し目を閉じてこめかみをグリグリして、その後言葉をこう切り出した。


「とりあえず最深層が五十六層付近にある、というのはここだけの情報にしておこう。目で見て確認できている訳じゃないんだから、不確定情報を公開するわけにもいかないからね」

「確かにそうですね。しっかり自分の足でたどり着いてから報告するようにしますよ。今回解った、というか話せそうな内容は以上ですね」

「ありがとう。おかげで会議のネタが出来たよ」


 丁度自分のダンジョンで異常リポップが検出されていることについてハッキリとしたことが言えるようになるかどうかは気になる所だったんだろう。他のダンジョンでも起きるかもしれないがあふれ出て来るような危険なイベントではない、という事を周知徹底させられるだけでも情報を握っているし情報を取り出せるんだというマウントは取れるだろう。今はそれだけあれば充分かな。


 ギルマスからすれば、もう少しで帰れるところだったのに忘れないうちに書類に改めないといけないから余分な話だったかもしれないな。申し訳ないがこれも仕事なので諦めてほしい。


「じゃ、俺は帰りますので。お疲れ様でした」

「君のおかげで私は少しだけ残業だな。見ての通り帰る準備は万端だったのに惜しい事をしてくれたな」

「がんばれ~まけ~るな~」


 茶化してギルマスルームを後にする。さて、ちょうどいい時間になったし帰ろう。腹も減ってきたところで夕食を何にするか考えるか。ローテーション通りだと……カレーだな。流石に今からカレーを作っているほど俺の胃袋の我慢強さは無い。もっと手軽な奴にしよう。カレーは明日以降だ。


 バスから電車に乗り換えて家まで到着。家近くのコンビニでコーラだけ補給しておく。自分で飲む用をミルコに提供してしまったからな、残弾は確保しておかないと。夕食の後で箱で買いに行くことにしよう。


 まず着替えて、料理の匂いがスーツに付かないように普段着に着替えた後ウォッシュ。ワイシャツは洗う。日課は忘れずに続けているぞ。おかげで少し社会人らしくなってきたような気もする。


 今日はしっかり動いて肉体的にも精神的にも魔力的にもお疲れだからな。ここは疲れが取れる馬肉をドサッと取りたいところだ。ご飯炊いて、山盛りの馬刺しと表面をカリッカリに焼いた奴をショウガ醤油とにんにく醤油を両方用意して……あぁ、いいな。腹がますます減ってきた。花が咲くように丼に盛って見た目も忘れないようにする。


 メニューが決まれば早速調理開始だ。まず米を炊く。時間がかかるのでこれを真っ先に用意だ。お高いコメを……一合半。食い切るかどうかはともかくとして、一合で足りない場合を考えて一合半あえて炊くことにする。余ったら冷凍して他の日に回す。


 炊飯ボタンを押したら他の調理にかかる。馬肉を塊のまま先にニンニク醤油をかけて、味を少し馴染ませておく。油はあまり使わず、あえて焦がす方面に努める。この焦げがニンニクの香りと混ざってより美味しいハーモニーを奏でるはずだ。


 漬けこんでいる間に馬刺しを作る。こっちは薄めに切るだけで良いので手間はかからない。慎重に一枚一枚切り取ると、バラの花を飾るイメージでもって盛り付け。後は菊の花があれば完璧だがさすがにそれはないので、チューブのショウガを花の中央あたりにチョンと乗せておく。


 馬刺しを作っている間にしみこんだニンニク醤油漬けの馬肉をフライパンで焼いていく。漬けこんだニンニク醤油も一緒に焼くことで香ばしい香りが更に広がる。ジュワーっと肉の焼ける音もそれにつられるかのように食欲を更に増進させる。はあ、早く食いたいな。


 焦げ目がつくぐらいでひっくり返し、他の面も焼く。全面焼いたら終わりだ。後は……何か青野菜でも添えておくか。


 一旦料理を全て保管庫に入れて、その間に洗い物を済ませておく。どんぶりと箸、それと調味料。それ以外のフライパンやらを全部処理し終えると、米が炊けるのを待つ時間となる。腹は痛みに近いような悲鳴をあげ始めている。もうちょっと、もうちょっとだ。それまで我慢しいや。


 米が炊ける音と共に米をザクザクと切るように混ぜると、どんぶりに盛り付け、一番上にカイワレを乗せる。そして追いニンニク醤油。これで馬肉のタタキ丼、そして馬刺し。今日は馬肉尽くしだ。自分らしくなく珍しく飾り付けにこだわってみたので、スマホで写真を撮って芽生さんと結衣さんのグループチャットにこれを今から食べるのだ、羨ましいだろうグヘヘヘ……という一枚を送っておく。


 返事は期待してないのでそのまま食事とする……と、その前に風呂を沸かしておくか。飯を食って一休みして程よい所で風呂に入れるのはきっと幸せを感じるに違いない。


 さぁ、胃袋に散々悲鳴を叫ばせた後の食事だ。最高のスパイスをかけてやることにより比較的簡素な飯でも存分に美味しく食える。空腹で五割、ニンニクで二割ぐらい美味しさが増す、と言ったところか。


 さあ、早速実食だ。まずはカリッと焼いたタタキから。初めに舌の上に広がる焦げた香りに遅れてやってくるニンニクの少しピリッとした味わい。そして醤油の香りと米の甘さが後にやってくると、口の中で咀嚼しそれらを一度に味わう。


 若干甘い方向に口の中がシフトしているので、焼いた表面の焦げ付きは充分アクセントになる。そしてこの焦げ具合と中の生の食感の差が舌を楽しませてくれる。もうちょっと何かアクセントが欲しいなと、ごま油を一たらし。これでまた新しい香りが広がった。更に食は進み、半分あっという間に平らげてしまった。


 いかんな、ご飯とおかずのバランスが悪い。しばらく馬刺しを楽しんでいよう。熱めの緑茶で胃に流し込みつつ、この馬刺しをショウガ醤油でモリモリと平らげる。心なしか疲れも取れてきた。これらをすべて体に詰め込み、一晩寝ればきっと疲れは取れるだろう。


 お、着信だ。レインを見ると、俺より一段階色鮮やかな食事の写真が映し出されていた。結衣さんからだった。カロリーよりも栄養素と見栄え重視、という感じだ。あっちも美味しそう。思わぬところで夕飯合戦になってしまった。さあ、最後の出番となった芽生さんは一体どんな料理を見せてくれるのか、期待が高まる。


 さて、続きを食べよう。しかし、さっきの写真のおかげで本当に今日のメニューで良かったのか疑問が生じてしまった。野菜ジュースも追加しておくか。ちょっとでもバランスよくしておくか。追加画像送信っと。


「味気ない」

「取ってつけたビタミン感」


 散々に言われているが良いのだ。今日の俺はこれで満足なのだ。ザクザクと背中を切り裂きに来る感想を余所目に飯を平らげた。腹は八分だが満足感は充分だ。空の器を撮影して「ごちそうさま」と付け足しておく。


「ご飯ちゃんと一粒残らず食べててえらい」


 褒められた。満足したところで食事の後片付けを終えると一旦お出かけ。コーラを箱で買いに行き、こまごまとした補充も終えてしまう。ここのところはダンジョンの進捗が止まっているのでセーフエリア周りの買い物をしていない。次の五十六層にたどり着くのはいつの話になるかは解らないが、それまでに買い物を終えてしまえばいいだろう。焦る事は無い。


 買い物を終えて家に着いたので風呂に入る。早速入り全身を丁寧に洗い、湯船でしっかり温まる。風呂場から出る前に全身の水分をきっちり拭いておけば、気化熱で冷たさを味わう事も無いので夏でも冬でも水分はキッチリ拭き取ってから出るように心がけている。


 風呂から出ると、さっきの画像の続きが更新されていた。芽生さんの夕食は……麻婆茄子にご飯、炒め物、それから箸休めの漬物。スタンダードな日本の中華という感じだ。


「ちゃんと料理しててえらい」

「おいしそう」


 芽生さんが料理している姿は……メンチカツを一緒に作った時ぐらいしか目にしていないので料理のほうはあまり期待していなかったんだが、ちゃんとしてるようで何より。俺と食べる昼食だけがまともな食事、みたいなことになっていなくて安心した。安心したところで自然な眠気が来たのでそのまま寝ることにする。


 明日は……明日もまた己の限界を目指して戦ってみるか。ちゃんとダーククロウの羽根を回収してもあれだけ稼げるなら問題は無いだろう。今日はダーククロウの羽根集めをやらなかったが明日はやる。それだけ決めるとさっさと心地よい布団の中に潜り込むのだった。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
小須田部長?
米は一合 炊き上がりに、冷凍のむき枝豆(解凍後)をまぜまぜ。
3人それぞれ料理作れるんなら一緒に生活始めたりしたら当番制とかになったりするんだろうか
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