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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
837/1208

837:カニうま島大激戦

 改めて入ダン手続き。


「お話し合いは終わりましたか? 」

「えぇ、つつがなく。色々聞いてきましたよ」

「こうやって話す機会も少なくなるかもしれませんね」


 受付嬢には営業時間変更の話が当然通っているらしい。ということは全職員には既に通達されてるって事か。受付も二交代になれば、行きと帰りで違う受付嬢に話しかけることになる。朝と夕で違う顔。他のダンジョンでは当たり前のことだが少し寂しくなるな。


「そうですね。でも、どっちかでお会いすることには変わり有りませんからね。会えなくなる訳じゃないですし、あまり気にする必要も無いかもしれません」

「ふふっ、そうですね。ご安全に」

「ご安全に」


 受付も変わるし査定も変わるし支払いも変わるだろう。顔なじみの職員が朝夕どちらの勤務を希望するかは解らない。が、それも時の流れとして受け止めておこう。世の中は千変万化、永久不変なものなんてないのだ。小西ダンジョンだって変わる時が来た。そういうことだな。


 リヤカーを後ろに、相変わらず増えているスライムを焼きながらの行き道。ギルマスと話し合いしている間に朝の開場ラッシュの時間は過ぎたので同じ方向に向かう探索者も居ない。俺とスライムだけの平和な時間だ。


 ……久しぶりのスライムとの対話の時間。今日もカニうま祭りでダンジョンの底で過ごそうと思っていたが、スライムと仲良くするのも悪く無い気がしてきた。ちょっとだけ、そうちょっとだけ対話していくか。いつもの熊手を取り出すと、目の前を塞ぐようにしてぽよぽよしているスライムに熊手を振りかざす。


 グッ、プツッ、コロン、パン。


 懐かしいリズムだ。最近忘れていた様々な内容が頭に流れ込んでくるようだ。


 グッ、プツッ、コロン、パン。グッ、プツッ、コロン、パン。


 あぁ、このリズム。この感触。この足裏で核を踏み潰す音。忘れていた大事な何かを思い出させるかのような一層の空気。


 グッ、プツッ、コロン、パン。グッ、プツッ、コロン、パン。


 初心忘れるべからず。熱心にスライムを狩り始める俺。やはり、このリズムは何度刻んでも良い。


 グッ、プツッ、コロン、パン。グッ、プツッ、コロン、パン。

 グッ、プツッ、コロン、パン。グッ、プツッ、コロン、パン。


 目の前のスライムを片付けたところで、数秒目を閉じ、そして開く。頭がすっきりした気がする。やはり、最近スライム分が足りていなかったようだ。片手間で倒しているスライムも大事なスライムだが、こうして一匹一匹接していくスライムも大事だ。落ち着いたところで少し遅れ気味にエレベーターにたどり着き、四十二層へのボタンを押す。


 待ってる間に軽く精神統一。さっきのスライムの感触を思い出しながら、これから自分が行う狩りについて改めて考える。今日は遅れて入ってきたのもある、いつもよりペースを速めて行動しよう。時間はたっぷりあるが、あえて時間がないフリをして午前中だけでも普段より早い仕事を心がける。一人で四十三層で、どれだけの稼ぎを上げることが出来るか。久しぶりのリアルタイムアタックといこうじゃないか。


 相手はカニだけ、されどカニ。油断して鋏でやられるケースもあるかもしれない。あの鋏の強さを想像すると、おそらく腕は持っていかれるだろうし、スーツでも耐えられるとは思っていない。時間を区切って探索をしてメリハリをつける。最近自分たちに欠けている行動じゃないだろうか。


 九層あたりをうろついていたころを思い出す。あの頃はもっと貪欲に金を稼いで回っていたはずだ。金額が比べ物にならないぐらい上がったし、収入に困ってないとはいえ、ハングリー精神を忘れてはいけない。


 よし、今日の祭りは倍速とまでは行かなくてもそれに近い動きでザクザクと行こう。今日は自分の探索限界を調べる日だ。芽生さんが居たら出来ないだろうが、ドライフルーツを咥え込んで疲労を回復するぐらいのハードなトレーニングを心がけよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 いつもの倍以上の速さでカニに接近しながら雷撃。痺れたところをすぐさま雷切で掻っ捌き、黒い粒子に還すとそのまま次のカニへ。その次のカニはあらかじめ痺れさせておいたので一対一の邪魔にはならない。三匹一編成で来るカニに対して、一匹をスタン、近いほうの一匹を最速で処理してそのまま二匹目へ。その繰り返しだ。


 いつもとやっていることは変わらないが、動作のスピードをわざと速くしている。いつもならカニが近づいてくるまで待ってから戦いを開始しているが今日は違う。こちらから突撃していって一方的に殴りつけて黒い粒子に還す。


 ふーっ、やっぱり全力で体を動かすと気持ちいいな。だんだん気持ちよくなってきた。アラームが鳴るまでは休みなく続けてみる。四層大爆破にも似たここカニうま島の光景。四層の次が四十三層になるとはかなり飛んだが、ここも四層みたいにこちらから近づいて一方的に倒してすぐ次へ、とテンポよく動かすことが出来ている。湧きも早いからモンスターが欠乏する可能性も無い。これは遠慮なく戦っていられる。


 がははーっと笑いながらカニグループに近づいていき、二十秒かからず処理すると次へ。次のカニを見つけたら即座に近づいて雷切、雷撃、雷切とテンポよく切り刻んでいき、ドロップを拾ったらさらに次へ。

 カニ、次、カニ、次、カニ、次。やはり全力で戦っていると楽しいな。一方的な虐殺を繰り広げられるこのカニうま島でカニしか出てこないこの四十三層の環境、いい、とてもいい。


 リザードマンの横やりが入ることなくただひたすらにカニを狩り続けていると、あっという間に一時間のアラームが鳴り響く。あのペースで一時間戦い続けるだけの体力と魔力が育ってきていたんだという確かな満足を得られた。カニを倒した数、一時間で百十八匹。ドロップ品は一時間に換算すると……千五百万円ほどか。このマップでも四十八層並の収入が一時的とはいえ得られることがわかった。


 今日は一日こんな感じで自分の限界にチャレンジしつつ稼ぐぞ……っとその前にはやめの昼食だな。牛カツサンドを口にして少し休憩したらまた始めよう。今日でどれだけ稼げるか、自分の限界にチャレンジしてみよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 昼食から五時間、午前中に一時間、合計六時間のカニうまRTAを済ませた。流石に肉体的持久力のほうで息切れを起こしたので道中少しペースが落ちた。その時は素直に歩いて息が整うまでカニを追いかけ続け、息が戻ってきたら再び走ってカニを追いかける。その間もスキルはほぼぶっ続けで使い続けることが出来た。極太雷撃を使わない限りは戦い続けても問題ないという魔力的持久力を確認できた。これは今後深く潜っていくときに目安としておける。


 今日はしっかり稼いだ、という成果のほどが保管庫に示されている。これは今数えずに上へ戻って査定を受けるときまでいくらになるかは計算せずにおこう。俺も存分にイベントを楽しめたという事だろう。


 今日は朝から色々あったため、お供えが後になったがミルコに今からでも渡しておこう。机と椅子とコーラを備えて手を二拍。するとミルコごと転移してきた。


「やあ、イベントを楽しんでくれているようだね」


 早速コーラを開けて飲み始める。今日は五百ミリリットルを二本、二リットルを二本持って来たが、もう一本目を飲み始めている。そんなペースで大丈夫か?


「限定イベントっていつまで続くんだ? それによっては色々と予定を組み立てなおす必要があるんだが」

「そうだねえ。後三日ってところかな。十分楽しんでもらえてるようだし、名残惜しいといえばそうなんだが、これに慣れてしまうと他のダンジョンから甘やかしすぎ、もしくは難易度上げ過ぎと苦情が来るかもしれないし、ほどほどのところで切り上げようと思うよ」


 コーラを半分ほどのみ、ビスケットにチョコレートをまとわりつかせた棒状のお菓子を一本ずつ摘まみながらミルコが解説を始める。


「魔素の搬出目的としては良いイベントだったんじゃないかな。俺も今日はしっかり稼がせてもらったしな」

「他のダンジョンマスターからはたまにはそういうイベントも有りか、という声も聞こえて来てね。もしかしたら他のダンジョンでも同じ現象が起きるかもしれないね」


 モンスターリポップタイミングが増加する現象、としてダンジョンの不思議に一つランクインさせておくのも悪くないな。今聞いたことは黙っておこう。小西ダンジョンだけで起きる現象じゃないということになってさえすれば、ダンジョンマスターの気まぐれとしてギルマス間で共有してもらうのは必要だろう。でも、原因が俺の植え付けた誤った情報、というのは出来れば共有してほしくないな。


「安村は……今日はえらく頑張ってたけど何か心境の変化かい? 」

「次への準備運動ってところかな。きつめのトレーニングをやったという自覚しかないが、これで五十層以降も戦えるようになっているかどうかは怪しいが、必要なものは順次取り揃えていこうと思ってる」

「うーん……あ、そうだね。楽しみを奪っちゃ悪いから僕が口を挟むのはやめておくよ。ただ、次のセーフエリアまではダンジョンは出来上がってるからそこだけは心配せずに突き進んでくれていいとだけ覚えておいてくれれば充分さ」


 どうやら五十六層までは確実に作ってあるらしい。やっぱりここ、世界で一番深いダンジョンなんじゃないだろうか。


「ちなみに、僕より深くダンジョンを作ってる変わり者のダンジョンマスターは居るからね。実に勤勉で良い事だとは思うけど、君らがそれについてこれてないというのが実情らしいよ。なぜこんなに自分のダンジョンは人気が無いのかってぼやいてたよ」


 もっと深いダンジョンもあるのか……っていうかミルコ、他所のダンジョンのことをよく知っているな。以前ミルコはダンジョンマスター間のやり取りはあまりないと言っていた。その割に他のダンジョンの様子について話せるという事は、やり取りや話し合いの機会が増えたって事でいいんだろうか。


 それとも、ミルコが持ち込むお菓子をみんなで食べてそのついでに話題を拾ったりしているのだろうか。後者なら、もうちょっと多めにお菓子を持ち込むようになっても悪い気はしないな。


「とりあえずもうすぐで終わるって情報に感謝かな。正直いつまでやるんだって話を聞くためだけに呼び出すのもちょっと戸惑っていた所なんだ。それが終わったらまた深く潜りだすことにするよ」

「それまでは是非イベントを自分なりに楽しんでほしいね。今日の動きを見た感じ楽しんでいたようだからよかったけれども」

「じゃ、早速もうすぐ終わるという話を通しておかないといけないからな。俺は地上に戻るよ」

「うん、じゃあまたお菓子よろしく」


 そういうと器用に指の間に二リットルコーラを挟んだあと、両手いっぱいにお菓子を抱えて転移していった。あいつ結構力あるな。


 さて、良い情報も手に入れたところで俺も帰ろう。エレベーターの中で荷物の整理をする。日帰りなのに今日は荷物が多い。ちょっと頑張りすぎたか? ドウラクの身だけで二百近くある。保管庫が無かったらこんな無茶な戦い方も出来ないだろう。そこは保管庫に感謝だな。普通ならカニうま島を一周するたびに自分のベースキャンプへ戻って荷物を置いて、再度もう一周という一手間も二手間もかかる作業が一回で済むし、戦闘中も重さを感じずに済む。今更ながら改めて保管庫のありがたみに感謝する。


 一層に戻り出入口まで重いリヤカーを引きながら進む。ここでスライムにドロップ品を食われでもしたら悲惨なことになるからな。時々後ろを振り返りつつ、スライムがリヤカーに飛び乗っていたりしないかをチェックしながらなので動きはさらに遅くなる。


 結局四十分ほどかかってダンジョンを脱出して退ダン手続き。


「大荷物ですね。今日は一人だったはずでは? 」

「一人で頑張ってきました。ちょっと自分の限界にチャレンジしてきた感じです」


 もうちょっとでたどり着ける。これリヤカー無かったら何往復必要だったんだろうな。もしかしたら査定を諦めてカニうま島にそのまま放置すらしてきたかもしれん。リヤカーのありがたみを感じながら査定カウンターへ向かう。


「おー、大漁ですねー。でも種類は少ないようなのですぐやりますよー」


 重さだけがネックで種類は四種類、魔結晶、身、ミソ、ポーションだけだ。質量の割りに数え終わるまでにそれほど時間はかからなかった。


 今日の報酬、九千八十三万三千四百円。カニうま島をしゃぶりつくしてきた感がでてきたな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
嗚呼やはり潮干狩りはいい… 安村さんの潮干狩りハイは癖になる… それはそれとして、ミルコ力持ちですね笑
(´・ω・`)
ひとりでダンジョン産のカニの需要めっちゃ満たしてそうだなあ これまでに何食分くらい卸したんだろう
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